される側だって、大変ですから。
なかなか難しいものです。
でもま、なるようになります。
それが若さです。

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アオい揺らめき

 参ったなあ、と独り言ちりながらベッドに横たわったまま天井を仰ぐ。だいぶ見慣れては来たけれど、ここは借り物の部屋。春から居候させて貰っている、猪股家の一室。家のように気を抜くのはまだ心苦しいけど、そのうち馴れるんだろう。そのうち。

 ……もしかしたら、ここが私にとって「家」になるかもしれないのだから。

 

 今はインターハイが終わって、ウインターカップの準備に入るまでの空白期間。特に目的を定めない、鍛練の時間。そんな中で私は大喜くんに、告白された。

 真っ赤な顔で、その瞳には涙を浮かべて。好きです、と真っ向から気持ちをぶつけてきたのだ。

 それがほんの小一時間前、ついさっきの事。どう返事をしていいか分からず、明日まで待ってと執行猶予をつけて私は今こうしている。

 明日。夜が明ければ、それが明日だ。当たり前だけど、避けようがない。そして大喜くんは、隣の部屋にいるのだ。逃げ場は無い。それにもし大喜くんがトチ狂ったなら、私はそのままオトナの階段を登らされかねない。それはちょっと、……うーん。出来ればもっと夢のある形にしてほしい。愛がなければ大したこと無い、と渚も言ってたし。

 さて、どうしたものか。

 こんなワンパクでたくましい子相手に、どうしてそんな気持ちになれるんだろう。蓼食う虫、って事か。しかし大喜くんは、蝶野さんと付き合い出した筈だ。それがどうして、私なんかを?

「……ふむ」

 その前提が間違っているとしたら、どうだろう。前に「大喜くんは蝶野さんが好きなんだと思った」と言った時否定したのは、照れ隠しでもなんでもなく額面通りだったとして。蝶野さんがどう思っているかはともかく、大喜くんの気持ちは私に向いているとすれば、辻褄は合うかもしれない。

 それに私としても、それは吝かではない。大喜くんは良い子だし、競技は違えど部活への熱心さも好感が持てる。何より可愛い。色恋とは無縁の人生を送ってきた私だけど、色々思うところはある。ここで承諾して、彼氏彼女の関係になってみるのも面白いかも知れない。そのままズルズルとなし崩しでお嫁に行ってしまうのも、一つの手か。進路を悩まずに済むし。

 冗談はさておいて、だ。私はバスケの為に居候させて貰っている身なんだし、そういう事を考えて良い状態ではない。

 そうなると断るのか、でもそれも……うん。それだと大喜くん絶対泣くし、これからの居候生活が気まずくなる。

 大喜くんの真剣さは、あの瞳だけでも分かる。一体いつから、私を思ってくれていたんだろうか。今日打ち明けるまで、どれだけ苦しんだか。その時間を、その熱意を、無下に否定することは出来ない。

 本当に、どうしよう。

 夜は更けていくのに、頭がちっとも纏まらない。

 

 もう何度目かの参ったなあを吐き出しながら、壁の方へと視線を向けてみる。大喜くんは今頃覚めてか寝てか、思い出してか忘れてか。向こうも向こうで悩んでいるんだろうか。

 私としては、本音を言えば断りたくはない。あの真っ直ぐな気持ちを受け止めたい、いやむしろ歓迎しているくらいだ。立場さえこうでなければ。

 考えてみれば、私もずっと大喜くんを好きだったのかもしれない。自覚していなかっただけで。

 そうでないなら、私はどうして大喜くんを気にかけていたのか。笠原くんに頼まれて水族館に行ったとき、私には謝りたい気持ちがあった。でもその一方で、二人きりの……デートを楽しんでいたじゃないか。うっかり足を滑らせて大喜くんを押し倒した時、胸が高鳴ったんじゃなかったか。今までに無かったその感情を処理しきれなかったから、一旦距離を取ったりもしたけれど。

 そうか、私は大喜くんが好きなのか。あのモヤモヤは、そのせいか。

 なるほど、これは興味深い。

 しかしどうにも色恋なんて良く分からないから、手探りでいくしかない。とりあえず現状では両思いと言うことで、問題になるのは猪股家の面々への対応かな。それさえなんとかなれば、どうにかなるだろう。

 いや、いやいや。いやいやいやいや。それが一番の難題じゃないか。

 結局は振り出しに戻り、話は纏まらない。まったく、本当に……どうしたものか。

 

 悩んでも祈っても、日は昇る。朝の光がカーテン越しに差し込んで、弱った頭を灼いていく。

 さて、と。起きなければいけない時間だ、寝てないけど。まあ教室で寝るから良いか。丁度一限は現国だし、よく眠れそうだ。

「あぁ千夏ちゃん、おはよう」

「あ、おはよう……ございます」

 夕べからあれこれ考え続けているせいか、由紀子さんの笑顔が気まずい。大喜くんが部屋を出た気配もするし、このままだともっと気まずくなるんだけど。まあそれは仕方がない。さて、どうにかしないと。

 とは言え無い頭を絞って一晩考えて、それでもロクな事は思い付かなかったんだ。こんな短時間でそうそう良い手なんかある筈もない。

 食卓に着いて、そして。息を整えて、向かい合う。

 黙ったままでもいられない。とにかくどうにか、しよう。なんでも良いから、状況を変えよう。

「由紀子さん、息子さんを私にください」

 ……口から出ていった言葉に、まず私が驚いた。

 そうじゃない、そうだけどそうじゃない。拗れすぎだ。と言うかせめて大喜くんに向けて何か言え私、告白されて返事する筈だったんだから。

 由紀子さんだって困惑するだけだろう、と思っていたらば。

「うんまあ、こんなので良かったら熨斗付けてあげちゃうわよ。不束な愚息ですけど、どうぞお納めください」

 事も無げに、承諾されてしまった。そんな、まるで御中元みたいに。

 さぁ、どうしたものか。

 箸を取り落としてフリーズしている大喜くんを横目に、また新しい問題を抱えてしまった。

 これは本当に、参ったなあ。

「んー……まあ、良いか」

 とりあえず朝御飯を食べて、学校に行こう。いつも通りに。好きになってもなられても、日々は続いていくから。

 大喜くんは私が好きで、私は大喜くんが好き。それが確かなら、もう結論は出ているわけだし。

「昨日はごめんね、でもありがとう。私も好きだよ」

 そう、これで良かったんだ。長々とバカみたいに悩む必要はなかった。オッカムの剃刀だな、一番シンプルな形で良いんだ。

 さてと、そうなると考えるべきは()()()かな。しかしどうしようか、蝶野さんにもあれこれ言わないと。

 これは忙しくなるな、でもまあ後で良い。教室で一眠りして、それからゆっくり考えよう。

「先行くね大喜くん、じゃ行ってきます由紀子さん」

 まだ固まっている大喜くんをそのままにして、私は猪股家を出る。

 よし、やろうじゃないか。大体のことは、どうにかなるさ。女は度胸だ。


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