銀魂の世界に蓬莱のお姫様が迷い込んだ話   作:芋けんび

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奇題「地上と地下」

 

「新八、神楽。それと輝夜。お前らは先に戻ってジジィの介護に行ってろ」

 

「ここまで来て僕達だけ引き返せって言うんですか!?」

 

「何でヨ!銀ちゃん!私達も一緒に狸ジジィにお灸を据えてやるネ!」

 

銀時の言葉に反論する二人だったが、彼の目は真剣だった。

 

「こっから先は大人の桃源郷会場だ。未成年のガキは18禁に首突っ込むんじゃねーよ。ヅラ、こいつらの護衛よろしく頼むわ」

 

「ヅラじゃない、桂だ。お前はまた何を無責任な事を言っているんだ…」

 

「うるせー。吉原No.1太夫、鈴蘭太夫が今から汚ぇケツのジジィの相手すんだから、そこにガキがいたら邪魔でプレイなんかできねーだろ」

 

「単にこやつらの身を案じてそのような事を言っているだけであろう。全く、もっと素直になれば良いものを…」

 

桂が呆れたように溜息をつくと、銀時はバツが悪そうにそっぽを向いてしまった。

そんな彼を見て、神楽と新八は何も言えなくなってしまう。しかし、それでも二人は諦めきれなかったのか、 銀時に背を向けたまま口を開く。その声色には悔しさが滲んでいた。

 

「銀さん…。色々言いたい事はありますけど…。絶対に生きて戻って来てくださいね。僕達は銀さんを信じてますから。約束ですよ?それに、給料だってずっとまだ未払いなんですから…」

 

「銀ちゃんが私達の事を気遣って先に戻ってろって言ってる意味は理解してるアル…。本当は私も新八も一緒に戦いたいネ!でも、それは私の我儘ヨ。だから、ぐっと我慢するアル。未払いの給料、全部払い終えるまで死ぬなんて許さないネ!」

 

「お前ら後半給料の心配しかしてねーじゃねーか!前半の感動的な部分は何処に消え失せたんだよ!?せっかく良い話だったのに!最後のせいで全部台無しだよ!」

 

二人の発言に思わずツッコミを入れる銀時だったが、すぐにフッと笑みを浮かべると、ポンと優しく神楽と新八の頭の上に手を置いた。

 

そして、そのまま撫でながら彼は言う。

とても穏やかな声で。

 

まるで自分の大切な何かを慈しむかのように。万事屋という家族に向けるような眼差しと共に。この上なく優しい口調で、銀時は言ったのだ。

 

―――安心しろ。俺ァ死なねェよ。

 

「感動のワンシーンに水を差すようで悪いけれど、私の心配はしなくていいわ。自分の身は自分で守るもの」

 

輝夜が空気を読んだのか読まないのかよく分からない発言をする。

 

「自分の身は自分で守るとは言っても、お主は身を守れるものは持っているようには見えぬが…」

 

月詠が不思議そうな顔をしながら輝夜に尋ねる。確かに彼女は手ぶらで武器らしき物は一切持っていなかった。それどころか、着ている服も着物のような和装であり、戦闘に適しているとは言い難い服装だ。すると、輝夜はクスリと微笑んで答えた。

不敵な笑顔と共に。自信満々な態度で。当然の事のように。

 

「大丈夫よ。私は怪我はしないの。そういう体質(・・)だから」

 

「輝夜さんが言う怪我をしないって、一体どういう意味──」

 

「いたぞ!こっちだ!!」

 

将軍家直参の役人達の声が聞こえたかと思うと、前方から複数の足音が響いてきた。どうやらもう時間はないらしい。桂と信女は既に抜刀しており、戦う準備を整えていた。

 

「おい!本当におめーは俺達と一緒に来るつもりなのか!?姫さんのボディガードする余裕なんて俺達にはねーぞ!」

 

「ええ、それで大丈夫よ」

 

「逆賊共め!覚悟せよ!」

 

役人達がこちらに向かって走って来たと同時に、桂と信女の二人も同時に走り出した。

 

まず最初に仕掛けたのは信女だった。

 

「……!」

 

「があ…!?」

 

彼女は役人が振るった刃を難無く躱すと、すれ違いざまに刃を峰の方に向け、一人の役人の首筋に一太刀浴びせる。その一撃だけで相手は気絶してしまったらしく、地面に倒れ伏した。

 

「幕府転覆の機会を今か今かと待っていたが、遂に待ち望んだ瞬間が訪れたようだな!」

 

「ヅラァ!くれぐれも本気で殺すんじゃねーぞ!後で面倒事を被んのは俺達なんだからよ!」

 

「今更何を言っている!面倒事ならとっくに起こってるだろうが!ふんっ!!」

 

「な、なんだと!?は、はや…!」

 

「どこに行きおった!?姿が消え…ぬあ!?」

 

続いて、桂の方にも数人の役人が向かって行ったのだが、その時には既に彼の姿は無くなっていた。一瞬にして敵の懐に入り込んだ桂が、次々と敵を斬り捨てていく。その動きには無駄がなく、まさに達人と呼ぶに相応しい剣捌きであった。

 

「怯むなッ!ガトリング砲で蜂の巣にしてやれ!」

 

リーダー格と思われる男が指示を出すと、役人達は回転式の巨大な銃器を銀時達に目掛けて一斉に発砲し始めた。

 

「はっはっはっ!遅い!遅すぎるぞ!」

 

「喧しい。静かに戦えないの?」

 

しかし、その銃弾は全て桂と信女によって弾かれてしまう。二人とも飛んでくる銃弾を全て切り落としてしまったのだ。

その光景を目の当たりにした者達の中には動揺している者もいたが、それでも彼らは攻撃の手を止めようとはしなかった。

 

全ては将軍の為に。自分達の正義の為に。

 

「そこの無防備な者を狙え!奴は武器を持っておらぬぞ!」

 

「私?」

 

指揮官の指示に従い、数人が輝夜に狙いを定めて砲口を向ける。だが、輝夜は慌てる素振りを見せなかった。

 

そして、彼女は小さく息を吐くと、そのまま目を瞑り、ただ一言だけ呟いた。

 

――卍解。

 

その言葉を口にした直後、大筒から轟音と共に砲弾が発射された。この場にいる誰もが輝夜は無事では済まないと思ったに違いない。しかし、そんな彼らの予想は大きく覆されることになる。

 

「何してやがんだてめー!早くその場から逃げろ!」

 

銀時はすぐに輝夜の元に向かおうとした。しかし、発射された砲弾は攻撃対象に当たることは無く、軌道を変えて砲弾を放った役人達の方へと向かっていく。

 

「な、何故放った砲弾が我らに向かってくるのだ!?全員退避!退避だァァァァァ!!」

 

それは、まるで逆再生されている映像を見ているかのような光景だった。誰もがこれは夢だと、幻だと、自分の目を疑った。奇術(手品)でも使わない限り、撃った弾が戻ってくるなど到底有り得ないのだから。

 

そして、次の瞬間。

 

砲弾は先程まで輝夜を狙っていた大筒へと直撃して爆発を起こし、更に勢いを増して跳ね返ってきた砲弾により、他の大筒をまでもが次々と破壊されていった。

 

「なんだァ!?一体何がどうなってやがんだ!?」

 

「ちょっとした手品(・・)を披露しただけよ。驚かせてごめんなさいね」

 

呆気に取られている銀時に、輝夜は何食わぬ顔で答える。今の砲撃で全ての大砲を破壊し終えたのか、辺りは静寂に包まれた。

 

「銀時!今のうちに城内へ行くのじゃ!」

 

「言われんでもわかってらァ!」

 

月詠に促され、銀時は輝夜と信女と共に城内へ通じる門を目指して駆け出す。

 

「おいおい、門開きっぱなしとか不用心にも程があるだろ。あのエロジジィ。そんなに待ちきれねーくらい鈴蘭太夫からのデリバリーが楽しみなのかァ?」

 

「気を付けろ銀時。何かの罠やも知れぬ。ここまで儂らが騒ぎ立てているにも関わらず、江戸城に通じる門を閉めぬのはおかしいぞ」

 

月詠の言う通り、辺りを警戒しながら進む一行だったが、特にこれといった事はなく城内まで辿り着く事が出来た。

 

「城内ってやっぱり広いのねぇ。迷ってしまいそうだわ。何だかお城の見学みたいでワクワクするわね」

 

「一人、遠足感覚のヤツいるけど?」

 

「確かぐーやん…じゃったか?神楽にそう呼ばれとったな。お主のさっきの『アレ』は一体なんなのだ?」

 

「大筒の砲弾が直撃する前に返した話?あれは弾の運動エネルギーに少し細工をして、物質の流れを変えただけよ。奇術でも何でもないわ」

 

「登場する漫画間違えてんだよ。実はジ〇ジョの世界の住人なんじゃねーのかお前」

 

「人間にそんなことはできない。SFやファンタジーじゃないのだから。やはり貴女の存在は異質そのもの」

 

信女の言う通り、普通なら人間の力で物体の運動量を変えることは不可能である。しかし、輝夜はそれをいとも簡単にやって見せた。しかも、それを大勢の前で堂々と見せつけたのだ。信女の言葉の意味はそういうことである。

 

輝夜は、その信女の発言に対して特に反論することも無く、「説明しても理解は得られないと思うわ」と、ただ微笑を浮かべるだけだった。

 

「天に仇なす国賊がァァ!歴史を紐解いても、ここまで徳川紋に泥を塗った者共は貴様ら以外にはおらぬぞ!舞蔵をどこにやりおった!?」

 

「ジジィの身柄ならとっくにこっちで預かってんだよ。ンなことより吉原No.1の鈴蘭太夫がデリバリーに参上仕りましたよー。汚ぇケツは洗いやがったか?エロジジィよォ」

 

徳川定定と思しき人物の前に立つなり、銀時は挑発的な口調で話を始める。すると、定定は怒りを露にした表情で声を荒らげた。

 

「大罪を犯したのは貴方の方。これまでの所業は全て、この見廻組副長である今井信女が知るところ。徳川定定、幕臣暗殺教唆の容疑で逮捕します」 

 

「一橋の生き残りの犬が何をほざく!この国を統べる私は法そのもの。貴様らが幾ら騒ぎ立てたところで、天の前では全て無意味だ!」

 

「地上の法で足らぬなら、地下の法を用意しよう。貴様が為に流した女の涙、男の血。例え天が許そうと、吉原が法、死神太夫が許さぬ」

 

「殿、急いでお逃げください。風向きが変わりました。烏達が此方にやってきますゆえ」

 

「?何を言っておるのだ朧?」

 

「真選組と見廻組。江戸の二大警察が手を結んだようで」

 

「馬鹿な…!?奴らは犬猿の仲と聞いているぞ。それが何故…」

 

「恐らく何者かが仲立ちをしたと思われます。帳簿を睨む毎日を送る役人達ではとても抑えられるものではありません。それに、城は既に崩壊寸前…。もうじき虚様の乗る船が到着しますゆえ、急いでご避難を」

 

編笠を深く被った僧のような出立ちをした男は、いつの間にか定定の傍にいた。彼は将軍を守るようにして前に出ると、錫杖を手にして臨戦態勢に入る。

 

すると、どこからともなく同じ様に編笠を深く被った者達が複数現れ、銀時達を取り囲むように展開した。

 

「歓迎会かしら?」

 

「こんな殺気ムンムンの歓迎会があってたまるかよ。どいつもコイツも、血の気が多すぎだっつーの」

 

「な、何故貴様がここに居る!?貴様は確かに短刀で自分の腹を刺して死んだ(・・・・・・・・・・・)筈!」

 

輝夜の姿を見て動揺を隠せない様子の定定。

 

「え?なに?姫様死んだのか?」

 

「おかしなことを言わないで頂戴。本当に死んだらなら貴方達と一緒にいる訳がないでしょう。幽霊や不老不死じゃないのだから」

 

「それもそうだよな…。んじゃあのエロジジィがボケてるだけか」

 

「呑気にお喋りしてる場合?朧と天照院奈落が来たとなれば、さっきの犬共(役人)のようにはいかない。死ぬ気で戦わなければ殺られるのはこっち」

 

「大丈夫だって。こっちには謎の力を使える万能姫がいるんだ。どんな奴が相手でもさっきみてぇな奇術でズババーン!って蹴散らしてくれんだろ。さぁ、姫さん!やってしまいなさい!」

 

「他力本願にも程があるじゃろ!それでも侍か!?」

 

銀時の無茶振りに対して、輝夜は静かに首を横に振る。そして、彼女は真剣な眼差しでこう言った。

 

「先程の能力のことかしら?…悪いけれど、一回発動したら次使えるようになるまで時間が掛かるみたいなのよね」

 

その言葉の意味を理解した瞬間、銀時の顔色が一気に青ざめていく

 

「は…?え、いやマジ…?姫さん、もう卍解できねーの?」

 

「外の世界に来てからどうも能力に制限が掛かっているみたい。今まではそんなことは一切なかったんだけど…。困ったわね」

 

つまり、今の輝夜は普通の人間と何ら変わりないということ。そんな彼女の力を借りたところで状況に変化はない。

 

「でも、殺傷能力の低い弾幕は撃てるから安心して頂戴」

 

「弾幕…?そんな色が付いた玉の木の枝で何ができるの?さっきも言ったはず。本気で殺らなきゃ死ぬのはこっちだと」

 

「私が今住んでいる土地の管理人が決めた規則で、外での人殺し(・・・)は厳禁なのよ。それが例え、正当防衛であってもね。私もあそこの住人である以上、ルールには従わなければならないわ」

 

信女の言葉に、輝夜は毅然とした態度でそう答える。だが、それは信女にとって到底納得できる答えではなかった。

 

今は非常時だ。厳禁や決まりなどと言っている場合ではない。

 

「殺し合いの場でルールを主張するなんて、冗談でも笑えない。強いのに弱いのね、貴女」

 

「辛辣ねぇ。別に貴女の気持ちを否定するつもりはないし、言い分も尤もだと理解してるわ。でも、私はそういう立場にいるの。仕方の無い事よ」

 

しかし、そんな信女の冷たい視線を受けて尚、輝夜は笑顔を崩すことなく、余裕のある表情を見せている。




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