銀魂の世界に蓬莱のお姫様が迷い込んだ話   作:芋けんび

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月のお姫様はマイペース

 

湯呑みから上がる白い湯気をボォーと眺めつつ、これからどうすべきかを考える。まさか、大昔前に貰った刀に触れただけでこんな奇妙な体験をすることになんて…。人生何が起こるか、本当にわからない。

 

どういった理由で博麗大結界から弾き出されたのかは不明だけど、今頃、永遠亭は大パニックになっているに違いない。せめて、伝言の1つでも伝えられる方法があれば…。

 

「(…はぁ、難しいことは考えてもわからないわね。そもそも、そういうのは永琳の専門だし。今は何もかも忘れてのんびりと江戸を巡るとしましょうかねぇ。江戸のお土産って何処で買えるのかしら?)」

 

奈良、平安、鎌倉、南北朝、室町、戦国、安土桃山、そして…江戸。

 

時代の流れは時と共に変遷していく。歴史の一つ一つは人々の手で作られていき、記憶や記録になり文書になる。

 

では、かぐや姫はどうだろうか?

 

竹取物語で有名なかぐや姫は、月から来た使者と共に月に帰ったことになっている。然し、それはあくまでも“竹取物語”ではの話。私は月には戻っていない。「犯した罪の期限が過ぎた」からと、私を連れ戻しに月の使者が来た所までは同じだが、私は月の使者を殺害して地上に留まった。

 

地上で世話になったあの時の老夫婦のように、地上には優しい者だっている、そんな地上の魅力に気付いてしまった以上、今更になって月に戻る気にはなれなかった。

 

それに、私は“蓬莱の薬”を飲んだ大罪人として地上に流刑された身だ。

 

蓬莱の薬とは、飲めば「不老不死になる」と言われる禁忌の薬のこと。これを飲んだ者は、穢れが発生して月の都では暮らせなくなる。これを知っていた私は、敢えてその薬を飲むことで、元々興味のあった地上に行くことを決めた。仮に、蓬莱の薬がなくとも、何らかの手段で行くつもりではあったが…。

 

「(不老不死で思い出したけど、大昔前に出会ったあの少年は今どうしているのかしらね。あの子も不老不死だから死ぬことはないんでしょうけど…)」

 

「あなたは、血に濡れた長い人生の中で見つけた微かな希望。僕と同じ“繰り返される永遠の時”を生きる人に会えたのが嬉しい。だから、僕に名前を付けてください」とせがまれて、私は彼に“うつろ”と名付けた。

 

発想が怖い時もあったけど、犬みたいにやたらと私に懐いててあれはあれで可愛かった、と昔を懐かしんでクスリと笑う。

 

「万事屋さんって何でも屋なのでしょう?なら、私のお願いを聞いて下さらないかしら?」

 

「構わねーが…何だ?」

 

江戸を案内して欲しいの(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「江戸にこんな素敵な場所があったなんて…。やっぱり外の世界って楽しいわね」

 

「いきなり真剣な顔で「お願いがある」なんて言うもんだから、何を言われるのかと思ったら、まさか「江戸を案内して欲しい」とはよォ」

 

頭を乱暴に片手で掻きながら、自分の目の前で楽しそうにキョロキョロと辺りを見渡すお姫様を眺める銀時。

 

昼過ぎということもあってか、かぶき町は沢山の人で賑わっていた。

 

「いいか、おめーら。これは遊びじゃねー。お姫様の警護はしっかりとやれよ。何かあってからじゃ遅いんだからな。怪しいと思った輩は徹底的に追い払っていけ」

 

「隊長!前方にグラサンを掛けたマダオっぽい不審者を発見したであります!やっちまいますか!」

 

「なに!?それは不味いぞ!決してそばに近付けさせるな!至急交戦の準備を!」

 

「いや、あれは長谷川さんですよ!?大体、マダオっぽい不審者ってなんですか!?」

 

「あれ、万事屋じゃん。こんな所で皆揃って何してんの?ん?隣の超絶べっぴんなねーちゃんは誰だ?銀さんの知り合い?」

 

「ご機嫌よう。随分とお洒落な物をしているわね。とっても素敵よ」

 

自身の目元を指差してジェスチャーをする。

 

「ひょっとして、このグラサンのことか?いや〜。そう言われたのは初めてだから何だか照れるぜ…へへへ」

 

「何顔を赤くして気持ちわりぃ笑み浮かべてんだ長谷川さん。出てった嫁さんが今頃泣いてんぞ」

 

「うっ…。そ、それより、このねーちゃんは誰なんだ?」

 

露骨に話題をすり替える長谷川に「見え見えの話の逸らし方をするんじゃねーよ」と神楽から辛辣な言葉が飛んでくる。

 

「あー、それが、まぁ…なんだ。事情が事情だからあんま公には話せねーんだわ」

 

銀時がいい淀みながら答える。“第三者に依頼主のプライバシーを話す訳にはいかない”。普段だらしないが、ちゃんと締めるべき所は締める───それが坂田 銀時という男だ。

 

「ぎ、銀ちゃんが珍しくまともアル…」

 

「何か悪いものでも食べたんですか銀さん?」

 

「流石にそれは酷くない?銀さん泣くよ?」

 

目尻に浮かぶ涙を拭う銀時。思い当たる節がない訳ではない。自分の普段のだらしなさがこういう結果を招いてるのは銀時自身も自覚している。自覚はしているが、それを改善する気は一切ない、それだけなのだ。

 

「私は蓬莱山 輝夜。江戸の人間達がどんな暮らしをしているのか、それに興味があるただのお姫様よ」

 

「お姫様ねぇ…へ?お姫様ァ!?ちょ、な、えぇ!?」

 

何で自分から正体バラしてんのォォォォォォ!?

 

「ぐーやん流石にそれは無いアルよ…」

 

「…?何がいけなかったのかしら?」

 

「いやいや!?常識的に考えても自分から「お姫様です」なんてカミングアウトする人間がどこにいるんですか!」

 

あっさりと自分の正体を話す輝夜。余りに危機感が無さ過ぎると、万事屋全員の開いた口が塞がらなくなる。自分のプライバシーを他人に明かすということは、リスクも伴うということだ。身分が高ければ、それだけ危険と隣り合わせにもなる。

 

「あら、そう?でも大丈夫よ。私だって確信がなきゃこんなことは言わないもの」

 

着物の袖で口元を隠しながら上品に笑う。

 

「(おいおい、冗談じゃねーよ!?こっちはお前がお姫様って言うから細心の注意を払ってるっつーのに…!よりによって自分でバラすやつがあるぅぅ!?てか、俺が今まで出会ったことのねェタイプのキャラだから接し方がわかんねーよ!ツッコミなの?ボケなの?両刀使いなの?誰でもいいから俺を助けてくれぇぇぇ!)」

 

危険をも楽しむ大物なのか、単純に世間知らずのお姫様なのか、銀時にはわからなかった。

 

「常識に囚われてたら、今を楽しめないじゃない。千年でも万年でも、今の一瞬に敵う物は無いの」

 

「何を訳わかんないこと言ってるんですか!?」

 

意味深な言葉を残して再び歩き始める。輝夜と知り合ってからというもの、万事屋は彼女のマイペースっぷりに、見事に翻弄されていた。

 

取り残された長谷川は「どうしたんだ一体…ああ!?グラサン!俺のグラサン返してぇぇぇぇぇぇぇ!!」 と自分のグラサンが、未だに輝夜の手にあることを思い出して遅れて後を追う。

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

 

鼻歌交じりにかぶき町を歩く。

こうして自由気ままに散歩するのは一体何年ぶりだろうか。

 

幻想郷に来てからは殆ど永遠亭で過ごしていたし、暇つぶしに里に出掛けることはあったけど、ここまで大勢の人で賑わってはいなかった。

 

「…?さっきから凄い視線を感じるわね」

 

すれ違った人々が振り返って輝夜を見ていた。──心当たりがない訳ではない。自分が人目を惹く容姿なのは輝夜もよく理解しているからだ。

 

かつて、奈良の世では数多の男たちが彼女に求婚し、更に選ばれし5人の貴族が彼女の無理難題に挑戦した。また時の帝をも魅了し、帝に至っては「かぐや姫がいないこの世で不老不死になっても何の意味も無い」と言う理由で授けられた不老不死の薬を富士山に廃棄してしまった程。

 

そんな絶世の美女が一人でフラフラ歩いていれば誰だって気になるだろう。

 

「この服可愛いわね。あ、あっちのもいいかも…」

 

商店街に立ち並ぶ店をしきりに眺めては、また次の店に歩いて行く…この行為を延々と繰り返している。そんな時、

 

「止まれって言ってんだろうが!」

 

「クソ!しつけーんだよ幕府の犬が!」

 

「?」

 

言い争うような声が背後から聞こえて振り返る。人混みと悲鳴の波を払い除けて、髭面の男が焦った表情で逃げていた。その後ろを黒服の男達が必死に追い掛けているが、逃走中の男は逃げ足が速いのか、中々捕まえられずにいた。

 

「役人かしら?いつの時代も役人は大変ねぇ…って、あら?」

 

興味など微塵も篭ってない声色で呟く。このまま無視を決め込もうと思っていた矢先、輝夜が今いる呉服店の前で男が立ち止まり、あろう事か輝夜を人質に取り始めた。

 

「俺に近付くんじゃねぇ!それ以上1歩でも前に踏み出してみろ。この女をぶっ殺すぞ!」

 

「往生際の悪ぃ奴だ。いい加減諦めて大人しく捕まったらどうだ」

 

「土方さーん。女が邪魔でバズーカを発射できやせんぜ」

 

「いや、何当たり前のように撃とうとしてんのお前?撃つなよ。ぜってぇ撃つなよ?」

 

「フリですかい?」

 

「ンなわけねーだろ!!…にしても、面倒なことになったなこりゃ。人質がいたんじゃ動くに動けねー」

 

感情的になっている犯人。人質の首元に突き付けられたナイフ。今すぐにでも犯人をとっ捕まえたい気持ちに駆られるが、焦りは禁物。あの手の輩は下手に刺激すれば人質だろうと容赦なく殺しかねない。今は様子見をしつつ、突撃するタイミングを伺うが吉、と考える土方。

 

一方、運悪く犯人の人質となってしまった輝夜はと言えば、

 

「ねぇ、淀んだ目の殿方」

 

「うるせぇ。黙ってろ!」

 

人を殺した経験はあるかしら(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ああ?」

 

「手元が震えているから気になってしまって。それで…どうなの?」

 

「あろうがなかろうが、てめぇには関係ねぇだろ。今すぐ口を閉じやがらねーと…」

 

ナイフを持つ手に力が入る。お喋りな人質に苛立っているのもあるが、それ以上に言い様のない不安と恐怖が頭をよぎったからだ。

 

──おかしい。

 

人質の身であるにも関わらず、何故この女はこんなにも落ち着いている?

 

「な、何してやがんだてめぇ!?」

 

「もっと刃を首の付け根に押し込まないと血は出ないわ。ほら…」

 

ナイフを持ってる男の右手首に両手を添えると、ゆっくり横に動かしていく。激しい痛みや出血を顧みない異常過ぎる行動に、男は目に見えて動揺し出す。

 

「……!」

 

「いってぇぇ!?」

 

そんな一瞬の隙をついて、輝夜は男の左足を思いっきり踏みつけた。男が叫び声を上げてよろけた瞬間に、男の元から脱出するが、

 

「この…!ふざけやがって!」

 

ナイフを振り上げて襲い掛かる。このまま黙ってれば殺されずに済んだのに、と女が血だらけで倒れ込む未来が男には容易に想像できた。

 

───然し、

 

「……は?」

 

気付けば男は間抜けな表情のまま“宙を舞っていた”。理解が追い付かない。自分は今、何をされた?

 

「がはっ!?」

 

背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に抜ける。

 

「…やっぱり加減って難しいわ。痛みを与えてしまってごめんなさいね」

 

仰向けで倒れ込んでいる男の傍でしゃがみ込むと、悲痛な面持ちで呟く。男は頭を強く打ち付けた衝撃で気絶している為、返事は返ってこなかった。

 

「確保!確保ー!」

 

「おい!大丈夫か!?今すぐ治療を…」

 

慌ただしい足音が幾つも聞こえて来たかと思えば、黒い服の男達が何人も店に入ってくる。

 

「大丈夫よ、怪我には慣れっこなの。それじゃ、私は急いでいるからこれでお暇するわ」

 

「は?いや、ちょっとまっ…」

 

輝夜は自身の怪我はさして重要ではないのか、「万事屋さん達はどこに行ったのかしら」と言いながら店を足早に出て行った。




ショタ虚「(こんなにボクと対等の人に会ったのは初めだ。この人こそ、ボクずっと探し求めてた希望かも知れない…」)

輝夜「(犬みたいに懐いてて可愛いわね。名前もっと可愛い方が良かったかしら?ポチとか)」


【追記】
お気に入り、評価、感想、本当にありがとうございます。
次話については現在進行形で執筆中なので、今暫くお待ちくださいませ。


輝夜の戦闘描写はあった方がいい?

  • できればあった方が良い
  • 無くてもいい
  • 作者に任せる
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