ここは幻想郷。忘れ去られた者達が集う、夢の桃源郷。
外の世界と幻想郷では流れる時間軸が違う。例えば、外の世界の一週間は幻想郷では1日しか経っておらず。一年は幻想郷ではたった一ヶ月しか経過していない。
「今日もいい天気ねぇ…。絶好のお昼寝日和だわ」
縁側でお茶を飲みながら今日の夕御飯の献立をどうしようかと、 内心で考えてる脇の出た独創的な巫女服姿の少女の名は『博麗 霊夢』
ここ博麗神社の巫女であり、妖怪退治も請け負っている。喜怒哀楽が激しく、単純で裏表の無い、人間・妖怪を問わず惹き付ける不思議な雰囲気の持ち主。
幻想郷の住人からは、『腋巫女』『貧乏巫女』『守銭奴』『血も涙もない鬼』と言いたい放題言われているが、本人は一切気にした様子はない。
「買い出しに行かなきゃって思ってるのに、体が思うように動かないわ。きっと日頃の疲れが溜まってるに違いないわ」
「動くのが面倒なだけだろ。何言ってんだ」
「…煩いわね。何しに来たのよ」
上空から降り注ぐ辛辣な言葉に霊夢が露骨に眉を顰める。さっきまでのだらけた表情からは打って変わって一気に不機嫌顔に変わる。
「おいおい、そんな釣れないこと言うなよ。せっかく魔理沙様が遊びに来てやったってのに。よっと…」
魔理沙と名乗った金髪で片側だけおさげにして前に垂らした少女は、詫びる様子もなく快活に笑った後、跨っていた竹箒から降りた。
リボンのついたつばの広い黒い三角帽、そして竹箒に黒系の服に白いエプロン、と如何にも魔法使い然とした身なりをしている。
「誰も遊びに来てなんて頼んでないけど?人の憩いの時間を邪魔しないでちょうだい。こっちはいい迷惑なのよ」
「相変わらずお前は冷たい奴だよなー。そんな眉間にシワを寄せてばっかだと将来老け顔になるぞ?」
「余計なお世話よ。いいからとっとと帰れ!」
「やなこった。あっ、そういや知ってるか?永遠亭のお姫様が今行方不明なんだってよ」
「あっそ」
ただ一言、煎餅を齧りながら素っ気なく返す。心底どうでもいい、そんな態度が霊夢からはヒシヒシと感じられる。
「あっそって…それだけかよ。霊夢は気にならないのか?」
「全く、これっぽっちも気にならないわね。今日のお夕飯の献立よりも興味がないわ。どうせ散歩でもしてるんでしょ。ほっといたら勝手にフラっと帰ってくるわよ」
「輝夜は猫か何かか?」
「貴女達、姫さまを猫扱いするなんて無礼にも程があるわよ」
「ん?誰かと思えば永琳か。お前がここに来るなんて珍しいな。何かあんのか?」
会話に割り込むもう一人の人物。如何にも「私怒ってます」とでも言いたげに腕組みをして立っている銀髪の女性がいた。
「ええ。重要な用でお邪魔させてもらったわ。本来なら先程の姫さまへの暴言についてはキツく咎めている所だけど、緊急だから不問にするわ」
八意 永琳。
元教え子であり、現主である蓬莱山輝夜を厳しく甘やかしながらも常に第一に考える忠実な従者。
「勝手に押しかけておいて随分と上から目線でものを言ってくれるじゃない。邪魔する気なら早く帰りなさいよ。それともなに?私とやろうっての?」
「おいおい、落ち着けよ霊夢。何急にやる気になってるんだ。お前もだぞ、永琳。いつも冷静沈着なお前はらしくないぜ」
「…それもそうね。ごめんなさい、私ったら姫さまが急に行方知れずになってピリピリしてたみたい」
「いつ頃から行方知れずなわけ?」
「昨日からかしら。姫様が中庭で猫を可愛がっている姿を目撃したのが最後ね。フラっと散歩に出掛ける事はこれまでもあったけど、1日経っても戻ってこないのは流石におかしいわ」
「あんたの考えすぎじゃないの?お姫様だってたまには1人になりたい時だってあるでしょ」
あくまでも霊夢はどうせすぐ戻ってくるだろうから変に心配し過ぎるなと永琳の言葉をバッサリ切った。
一方、隣で煎餅を頬張りながら真剣に話を聞いていた魔理沙は、
「でも、丸一日も帰ってきてないんだぜ霊夢。いくらなんでもおかしくないか?」
「知らないわよそんなの」
「どんな情報でも構わないから、もし姫様に関する事がわかったら直ぐに私か、永遠亭の者に知らせてちょうだい」
「邪魔したわ」と伝えるだけ伝えて足早に立ち去っていくところを見ると、かなり余裕がないのだろう。普段から仏頂面しか見たことがない霊夢と魔理沙はお互い顔を見合わせる。
「月のお姫様が行方不明か。ひょっとして異変じゃないのか霊夢」
「どうでもいい。あいつだって実力者なんだから余計な心配しなくても平気でしょ」
そもそも不老不死なんだし、と言葉を付け足す。博麗の巫女は他者に興味がない。それ故に誰に対しても深く関わろうとしない。
例え相手が妖怪であろうと人間だろうと、例外はない。
「まぁ、確かにそうだよな。ところで今日の昼食は何を作るつもりなんだ?」
「考えてなかった。適当に作るわ」
「おいおい……」
「何?文句でもあるの?」
「いや、別に…。ただ、相変わらず無計画だよなぁ、お前」
「うっさい!ほっときなさいよ!」
「痛てぇ!?殴るなよ!」
不機嫌顔の霊夢は、空になったお茶菓子の皿と湯飲みを持つと、縁側から立ち上がって、台所の奥へと引っ込んでいく。
魔理沙はその後ろ姿を呆れ顔で眺めていた。
◆◆◆◆◆◆◆
徳川茂茂。
江戸幕府第14代征夷大将軍。
通称・将ちゃん。
将軍という身分でありながらも威圧感は微塵もなく、寧ろ親しみやすい雰囲気を持っている。傀儡政権には勿体ない民思いの名君で、もっさりブリーフ派。
そんな彼は、苦しそうな面持ちで江戸城を眺めていた。事の一切を存じていなかったとはいえ、爺やには申し訳ないことしてしまった。
「許可なく上様の御前に立つ御無礼、どうか、お許しくださいませ」
「そなたは…?」
そんな彼の目の前に、この世のものとは思えない浮世離れした人物が立っていた。顔の中心に縦線が入った真っ白な仮面をつけており、素顔が見えない。だが、その声音から女性だと推測できる。
「上様にお届けものが御座いまして…」
「届けもの?…なっ!?爺や!!」
彼女にお姫様抱っこされたまま、目を閉じている老人を見て茂茂は声を上げた。
「眠っているだけですので、ご心配なく」
「…ひょっとして、そなたが爺やを助け出してくれたのか?」
「勝手な真似をしてしまい申し訳ございません。ですが、お爺様が私の育ての親と似ていて、居ても立っても居られなかったもので…」
そう言いながら、腕の中で眠る老人を慈愛に満ち溢れた眼差しで見つめる。その光景を目の当たりにした茂茂の心は大きく揺さぶられた。
「(余にはわかるぞ…。怪しげな仮面を顔に付けてはいるが、きっと心優しい女子なのだろうな…。なんだ、この胸の高鳴りは…)」
これが世に言う一目惚れというものだろうか。恋愛、恋。そういったものがわからない茂茂だったが、生まれて初めて異性に対して強い興味を持った瞬間であった。
「兄様?大きな声を出されて一体どうし──爺や!?」
茂茂の妹、そよ姫が慌ただしく駆け寄ってきた。
「そよ、彼女が爺やを助けてくれたのだ」
「貴女が?本当にありがとうございます。なんてお礼を申し上げればよいのか……」
「お気になさらず。それよりも早く医者に診てもらった方が良いかと思います。きっと、極度の緊張が原因でしょうから」
そう言って、彼女は爺やを茂茂に預けると颯爽と去っていった。彼女の姿が消えた後も暫くの間、そよ姫と茂茂はその場から動けずにいた。
「不思議な方でしたね、兄様」
「ああ…」
…そういえば彼女は一体どうやって自分に会いに来たのだろうか?自分の傍には護衛の者達が多勢いたはずなのに。何の知らせもないという事は、誰も彼女の姿を目撃していないということ以外に他ならない。
…誰にも見つからずここまで辿り着いた?そんな馬鹿な。いくら何でも不可能だ。だが、実際にこうして対面できたわけだし…。考えれば考える程、謎が深まるばかりである。
「(また…あの者に会えるだろうか…)」
茂茂の頭の中にそんな想いが過った。だが、すぐに首を横に振る。今はそんな事を考えている場合ではない。一刻も早く爺やを医者に診せなければ。
時は過ぎて、再び江戸城内。
「久しぶりね、神楽ちゃん」
再会できた喜びからか、満面の笑みで輝夜に抱き着く神楽。
「ぐーやん!あれ?でも、何で此処にいるアルか?それにそのヘンテコなお面はどうしたネ?」
「顔に張り付いちゃって取りたくても取れないの。視界が狭くて仕方ないのよねぇ。でも、何かだんだん慣れてきたから、もうこのまま付けた状態でもいい気がしてきたわ。どう思う?新八くん」
取りたいのに取れないなどと言いつつも、さほど焦った様子もなければ、解決策を考えない辺り、かなりマイペースだ。
「いや、どう思うって…。そんな重要な事を『慣れた』の一言で片付けないでくださいよ…」
「んなことよりよォ、何でお姫さんが江戸城にいんだよ。んな容易に入れる場所じゃねーだろ。それとも何か、お姫さんともなりゃ、顔パス一つで簡単に通れたりするのか?」
「顔パス、が何のことなのかわからないけれど、私もちゃんと正門から堂々と入ったわよ?」
浮世離れかつ天然気味な言動が目立つ輝夜が堂々と正面から?それって手品でも使わなきゃ無理じゃないの、と銀時の眉毛が困惑気味にピクリと動く。
すると、銀時の真横にいた桂が輝夜に声をかける。
「タイガーマスク殿。まさか、このような場所でお目にかかれるとは…俺は大変嬉しく思います!どうか、この色紙にサインを…」
「タ、タイガー…マ、スク?それは一体なにかしら?」
聞き覚えのない単語が聞こえたので、思わず訊き返す輝夜。そんな彼女の疑問を察してか、桂の隣で黙っていたエリザベスがプラカードを掲げる。
そこには達筆でこう書かれていた。
《ウルトラタイガー・ドロップ 》
「誰もタイガーマスクの必殺技を教えろなんて一言もいってねーだろ!何聞いてやがったんだお前!?」
堪らずツッコミを入れる銀時。それを聞いていた、桂が銀時に声をかける。
「何を言うんだ銀時。タイガーマスクはプロレス界の救世主だぞ。タイガーマスクがいなければ、今の日本のプロスポーツ界はなかった。彼は紛れもなく俺達のヒーローであり、永遠に語り継がれる伝説なのだ。タイガーマスクの技はどれも見応えのあるーー」
「タイガーマスクの話はもういいって言ってんだろ!どんだけ引っ張るつもりだテメー!」
延々と続くタイガーマスク談義に痺れを切らし、遂に我慢の限界に達した銀時は桂の胸倉を掴んで激しく揺さぶる。
だが、そんな二人のやり取りを見ていた新八は、呆れた表情を浮かべていた。
「貴女は…なに…?」
「そんな険しい顔して一体どうしたネ、ノブたす。ウンコでも漏れそうアルか?」
神楽が心配そうな顔つきで、自分の顔を覗き込んでいることに気付くと、信女は真顔で顔を取り繕う。先程から目の前の女から漂う妙な違和感。それが何なのか、信女にははっきりとはわからない。
ただ、似たような気配を過去にも感じたことはある。"あの男"にそっくりな、異質の存在と相対したときの感覚だ。しかしあそこまで禍々しい殺気や狂気はない。
それにこの女からは、血の匂いすら漂ってこないのだ。信女の勘が告げている。目の前にいるこの女は危険だと。
だが同時に思う。もし仮にコイツが敵だったとして、何故自分はこんなにも落ち着かない気持ちになっているのか。
考えれば考えるほど、思考回路がこんがらがりそうになる。まるで頭の中で絡まった糸くずのようだ。
「なに、と言われても困っちゃうわね。私は何処にでもいる普通のお姫様よ。
「…?何で私の名前を知ってるの…?」
「さぁ、何でかしらねぇ」
「ムカつく…」
含み笑いをする輝夜の態度が気に入らず、信女の口から不満の言葉が零れる。その声色は普段の彼女からは想像できないくらい、感情的であった。
「お姫様は普通何処にでもいねーんだよ。バーゲンセールみたいなノリでとんでもねーこと言うなっつの」
「それよりも銀時よ。早くここを離れねば追っ手が来るぞ」
「っと、そうだったよ!やべぇやべぇ。急いで爺さんを助けねーと!」
「お爺様なら
「は?」
城へと走り出していた銀時が驚きのあまりにずっこける。今サラッととんでもない発言を聞いた気がするんだけど…。
「悪ぃが、もう1回言ってくれねェか」
「お爺様なら、将軍様の元に、送り届けたわ」
すると、輝夜は再び口を開く。
今度は、しっかりとした口調で、 真剣な眼差しで、 凛とした声音で、 はっきりと告げた。
「聞き間違いじゃなかったァ!?なにデリバリー感覚でジジィを将軍の元に届けてんの!?てか、こんな状況でどうやって助け出したんだよ」
「お、送り届けたって本当なんですか?輝夜さん」
「マジでか!?ぐーやんいつの間にじーやを助けたアル!?」
予想外の出来事に、驚愕の色に染まる万事屋一同。
しかし、輝夜は平然と答える。それもまた、自信に満ち溢れた笑顔で。満月のように美しく輝く瞳で、皆を見つめながら。迷いのない真っ直ぐな声で。堂々と言い放った。
「お爺様を助けたい気持ちは私も皆と同じだもの。私は私に出来ることをしただけよ」
「前話と会話の内容違ぇじゃねーかよ!こっちは話の内容全部忘れてんだよ!ふざけんなや!」と思う方々。
怒らないから手ぇ上げて♡
はーい(挙手)
本当にすまぬ…。謝罪会見開くから許して…。
輝夜の戦闘描写はあった方がいい?
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できればあった方が良い
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無くてもいい
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作者に任せる