ダドリーが優秀な魔法使いだった世界線。

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息抜きがてらの読み切りです。ジャンルとか全然違うのでチャレンジも兼ねて書きました。


大魔法使いダドリー坊や

生き残った男の子と選ばれし男の子

 

 

 

闇の帝王の支配が魔法界全土に恐怖を齎していた頃、恐るべき殺戮がイギリス全土で繰り広げられた。

 

そして、その犠牲者の中には名もなき一人の予言者が含まれていた。

 

名前を言ってはいけないあの人の配下により命を奪われる間際、最後の灯火を振り絞り予言者は最期の予言を遺した。

 

その予言は誰にも拾われることなく、ただひっそりと果たされることを待ち続けることとなる。

 

「……栄光を約束された…選ばれし男の子が…生まれるだろう…」

 

 

 

 

 

何の変哲もないダーズリー一家、家長バーノン、妻ペチュニア、一人息子のダドリー坊や、そして我らがハリー・ポッター。

 

変わったところなんて一つもない彼らの最大の楽しみは何と言っても両親が溺愛して止まない可愛い可愛いダドリー坊やの誕生日である。

 

クリスマス、ハロウィン、それに何かの商談の成功…どれも素晴らしいが、何よりも盛大に祝われるという点ではダドリー坊やの誕生日には及ぶまい。

 

そして、今日という日はダドリー坊やと我らがポッター少年の記念すべき11回目の誕生日であった。

 

 

ハリーside

 

「ふ〜ん♪ふふ〜ん♪ふふ!ふふ〜ん♪」

 

朝食を作るのは僕の仕事だ。居候なのだから当たり前のこと、庭の手入れや家の中の掃除も勿論。

 

そう言われ続けてかれこれ5年以上経っている。

 

朝食の用意のためにコンロでフライパンを温めているとバーノンおじさんが鼻歌を歌いながら2階から降りてきた。

 

顔には気味が悪くなるほど人の良さげな笑みを浮かべている。…僕も、この日ばかりはいつもの居候の仕事も真剣にやろうと思えるから、おじさんの喜びようもわからなくもないけれど、ここまであからさまだと引いてしまいそうだ。

 

「おはよう!ハリー!今日はとびきりいい日だな!」

 

「おはようございます。バーノンおじさん。」

 

「あぁ!何てったって今日はダドリーの誕生日だからな!」

 

相変わらず会話が成立しない。いつものことだけれど、毎回驚かされてしまう。

 

おじさんは重そうな体をいつもより3割り増しキビキビと動かしていて少し面白かった。僕は我慢できずに「…ふふ…」とつい笑ってしまった。怒られると思ったけど、振り返ったおじさんの満面の笑みは変わでていなかった。

 

「そうだそうだ!ハリーも11歳の誕生日だったなぁ!おめでとう!」

 

「……!?あ、有難うございます!」

 

「うんうん!よく育ったもんだ!これも、ダドリーのおかげだな!ふふ〜ん♪ふふん!ふふ〜ん♪」

 

数秒間、何が起こったのか理解できなかった。僕にはお礼すら言った事のないおじさんが、僕の誕生日を初めて祝ってくれたみたいだ。ダーズリー家には、ダドリーと出会えたことに感謝しているけど、正直あまりいい思い出がなかった。…今日はとってもいい日になりそうだと僕は思った。

 

バーノンおじさんはのしのしとダイニングテーブルの席に着くと一足先に僕の淹れた熱々のコーヒーを飲みながら新聞を読みはじめた。

 

「らんらら〜ん♪ららん!らら〜ん♪あら、おはようハリー!」

 

「おはようございます。ペチュニアおばさん。」

 

「えぇ、おはよう!朝ごはんの支度、ありがとう!さぁ!ダドリーちゃんもそろそろ来るから座って待ってましょう!」

 

「………!?!?は、はい!」

 

「ら〜ら〜♪ららん〜♪あぁ!ハリーもお誕生日おめでとう!」

 

「…あ、ありがとうございます……。」

 

僕はメガネがずり落ちそうだった。信じられない…あのペチュニアおばさんが僕にお礼を言ってくれるなんて…。しかも、バーノンおじさんと同じように誕生日を祝ってくれるなんて…。僕は目の前の二人が偽物なんじゃないかと本気で疑うも、どう見てもあの二人にしか見えなかった。

 

考えれば考えるほど信じられない…いつものバーノンおじさんなら僕の顔を見ると「ろくでなしのジェームズとそっくりだ!ハリー!何を見てるんだ!ノロマめ!」と息継ぎなしに捲し立ててくる。見たくもない顔に息がかかるほど顔を近づけて、顔を真っ赤にして怒るんだ。ペチュニアおばさんは僕が何もしてないと見ると直ぐに耳を引っ張ってきて「全く!ハリー!居候させて貰ってる自覚ってもんが無いのかい!?アンタはあのへんちくりんな狂った姉ににたのかね!えぇ?」と、こっちも息継ぎなしで捲し立てるんだ。

 

二人とも僕の顔なんか見たくないだろうに朝食に何を食べたか口臭で判別がつくくらい顔を近づけて怒るんだ。なのに、今日といったらこれでもかってくらい機嫌良さげな猫撫で声で今日の予定を僕にも伝えてくる。おじさんとおばさんの話によれば、今日は動物園に行った後に家でパーティーらしい。「プレゼントはサプライズだからダドリーには内緒だゾ♪」なんて片目を瞑って指を立てて静かにしてね♪のジェスチャーをおばさんだけじゃなく僕にまでしてくるなんて…おじさんの茶目っ気をこの目で見る日が来るとは思わなかった。

 

…今日は何が起こるんだろう…。僕は少し警戒心を強めた。

 

ギシ…ギシ…ギシ…

 

…おじさんとおばさんが話し込んでいるうちに今日の主役が登場するようだ。

 

ギシ…キシ…ギシ…

 

いつも階段を降りるときは必ず僕の寝床がある階段下の部屋の真上を通るときだけ忍足にしてくれる彼の足音を僕が間違えるはずもない。

 

「おはようございます。お父さん。お母さん。ハリー。そしてハリー、誕生日おめでとう!」

 

「ダァドリぃぃ!!お誕生日おめでとう!父さんは嬉しいぞ!今日はとびっきりいい日にしよう!!」

 

「キャァァァ!!ダドリーちゃん!おはよう!お誕生日おめでとぉ〜!!ママはダドリーちゃんが元気に育ってくれただけで満足よ!!」

 

「…えへへ、おはよう!ダドリー!」

 

「ありがとうお父さん、お母さん!おはよう、ハリー!」

 

ドアを開けて入ってきたのは黒髪がよく似合う貴公子のような青年ダドリーだ。僕にとってはダーズリー家で唯一の心の拠り所で、同い年の11歳。でも、実の所はとても自分と同い年だとは思えないくらいに彼は素敵だ。

 

僕がダーズリー家に引き取られてから初めてできた友達が彼だった。近所の子供とも遊ばずにおじさんとおばさんから"しつけ"を受ける僕を庇うためにいつも一緒にいてくれた。学校に通うようになってからは常に一緒にいられなくなったことを謝ってくれたし、代わりに色んなことを教えてくれた。家にいる間は階段下の部屋から出られないし、家の仕事が終われば食事の時間以外は何もするなと言われて部屋に閉じこもるしかなかったから、暇な時は彼の部屋を使っていいよと言われた時は驚いたし、とっても嬉しかった。

 

「ハリー、隣に座っていい?」

 

「うんっ。もちろん。」

 

「今日も朝ごはんを作ってくれてありがとう!僕は君が作ってくれるご飯が大好きなんだ!…睡眠時間は取れてるのかい?」

 

「……うぅ、今日は少し頑張ったんだ!」

 

「…いつもみたいに起こしてくれれば僕も手伝うのに…」

 

「…ありがとう。でも、今日は君の誕生日だから。僕にも何か君にしてあげたかったんだ…」

 

「……ありがとう!ハリー!君はいいやつだ!」

 

ダドリーが座るとすぐに食事が始まった。おじさんとおばさんは今日をダドリーのためにどれだけいい日にするかの計画の真っ最中みたいで僕たちの会話は聞こえてないみたいだ。優しく僕に囁いてくれるダドリーの身長は僕よりもかなり高い、元々ぽっちゃりとした体型だった彼は学校に入ってから趣味で始めたスポーツに才能を発揮してあっという間に誰もが羨む強靭でしなやかな肉体美を手に入れたんだ。同性の僕でさえ羨むような肉体美を有していて、さらには本当に人格的にも優れている。

 

僕は彼に時々嫉妬や劣等感を覚えそうになるけど、そんな時は彼が見計らったように気晴らしに連れてってくれる。辛いことがあれば彼の前だと誰にも言えないようなことも打ち明けられるし、同い年なのに彼は包容力に満ちていて、まるで実の兄のように僕の頭を撫でてくれることもある。暗いモヤモヤで一杯だった心の奥が、まるで漂白したみたいに幸福な気持ちに変わって、彼への温かい気持ちで満ち溢れるんだ。

同性の僕でさえ、気づくと前よりも彼の人柄に魅了されてしまっているのだから、ダドリーの魅力は女性には効きすぎてしまう気がする。

 

彼の今の囁いてくれたことだって、朝昼晩の食事は元々夕食以外は僕が全部作ることになってたんだけど、3年前くらいからダドリーが手伝ってくれるようになったことを言ってるんだ。

 

朝早く起きて庭の手入れや掃除に料理、やらなきゃ行けないことが多いからたしかに大変だった。けど、ダドリーは僕が居候の仕事に慣れるより早く僕を手伝ってくれるようになったんだ。ダドリーにも、慣れてないことも多かったと思うけど、一緒に朝食の支度をしたりするのは楽しかった。早く仕事を終えるとダドリーから部屋に招待されて学校に行くまで遊ぶこともあった。

 

僕なりに彼に恩返ししたいけれど僕にできることは限られているから、今日は少し遅く起きて欲しいって昨日のうちに頼んでおいて正解だった。

 

朝食を食べ終わるとバーノンおじさんとペチュニアおばさんが僕とダドリーに「着替えたら動物園に出発だ!」と宣言して2階に上がって行った。ペチュニアおばさんは珍しく食器洗いをしてから着替えるようで、僕とダドリーに外出用の服に着替えてきなさいと言ってくれた。

 

僕には外出用の一張羅なんてないからいつもの服装になりそうだけど、階段下の部屋に戻ろうとした僕の肩にダドリーが手を置いた。

 

「…ハリー、俺の部屋においでよ。一緒に何を着て行くか決めようぜ。」

 

「…いいの?」

 

「当たり前だ!…何たって俺たちは兄弟みたいなもんだろ?」

 

「うんっ!」

 

「よし!決まりだな!」

 

ダドリーは僕の手を引くと2階にある自分の部屋に迎え入れてくれた。ダドリーの部屋は僕の階段下の部屋と違って広くて、本が多い。普通は嫉妬や惨めさを感じるところだけど僕は感じなかった。いつでも入っていいと合鍵を渡されているし、こっそり僕の欲しい本やオモチャを聞き出して用意すると、本棚に紛れ込ませたり、ベッド下の段ボール箱に入れておいてくれる彼はやはり最高だ。

 

ダドリーの部屋の姿見で各々好きな服を見繕って着替えると部屋はかなり散らかってしまった。

 

下の階からバーノンおじさんの見た目に似合わない猫撫で声が聞こえる。そろそろ出発するみたいだ。「片付けが間に合わないね」と僕が呟くと彼は眩しいくらいに素敵なその顔を悪戯っぽく微笑ませて「内緒だぞ」と前置きしてから左手を突き出して右に動かした。

 

すると、命が吹き込まれたみたいに散らばっていた服が一人でに元のクローゼットに戻ってしまった。まるで映画を逆再生しているみたいな不思議な現象に驚きで口が開いてしまった。

 

…驚きのあまり目の前の出来事が何なのかよくわからなかった。僕は間抜けな表情のまま彼に何が起きたのか聞いた。彼はしてやったりと嬉しそうに茶目っ気たっぷりに舌を出しながら「魔法…みたいな?」と僕に笑いかけた。

 

ダドリーはやっぱりすごい!たとえ本当に魔法を使えるようになったとしてもこの最高の青年なら不思議じゃない。僕は素直にそう思ってしまった。

 

驚きつつも少し納得した僕を見計らって、ダドリーはバーノンおじさんに「今行くよ」と返してから僕を連れ立って階段を降り車に乗った。

 

助手席にペチュニアおばさん、運転席にバーノンおじさん、僕とダドリーが後部座席に並んで座った。

 

「よーし!!それじゃぁダドリーのお誕生日おめでとうツアーの始まりだ!!」

 

景気づけにおじさんはそう言って車のエンジンを掛けた。

 

僕の隣に座るダドリーがおじさんの掛け声の後にこっそり「ハリーの11歳の誕生日おめでとうツアーでもあるけどね」と補足してくれた。

 

ダドリー、君が祝ってくれるなら僕は満足だよ。

 

 

 

ハリー・ポッターの11回目の誕生日はこうして素晴らしいスタートを切った。

 




読み切りなので続きはありません。アイデア自体は面白いなと自画自賛してました(笑顔)よければご自由にお使い下さい。


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