『あなたのやり方、嫌いだわ』
…だったらお前のやり方って何だったんだよ。
『もっと人の気持ち、考えてよ!』
…お前は俺の気持ちを考えてくれたのかよ。
『お兄ちゃん、雪ノ下さん達に謝って!』
…小町はあの二人の事は信じられても俺の事は信じられないんだな。
「またこの夢か」
最悪な夢見で目覚め、起き上がると其処にあるのは未だに見慣れない部屋。
此処は千葉の自宅では無く山梨にある爺ちゃんの家。
本栖高校への入学を数日後に控え、俺は馴染み始めたキャンプ道具に目をやる。
ー◇◆◇ー
あの出来事以来、俺は人の告白を邪魔するクソ野郎と詰られたりしたが、それに関しては戸部が「俺とヒキタニ君の事っしょ!お前らには関係ねーべ!」と庇ってくれたので暴力沙汰には発展しなかったが、それでもやはり異物扱いは変わらなかった。
戸塚や材木座に川崎は変わらずに接してくれるが俺の方が引いている為に何処かぎこちない、あいつらまで巻き込みたくないからな。
そして奉仕部には寄り付かなくなった俺に由比ヶ浜は突っかかって来るが、さらに腐った目で睨み返すと一旦は引き下がる。
まあ、それを何度か繰り返すと近づいて来さえしなくなったが。
雪ノ下も態々会いに来る訳も無く、結局俺達の関係はあの日に壊れたままだった。
小町とは一緒の家に住んでいるからか多少の歩み寄りはあるものの、やはり元通りとはいかずにいたある日母親に、『八幡、あなた山梨に行きなさい』と言われた。
「言っておくけど別にあなたを追い出すっていう訳じゃないからね。このまま総武の高等部に進んでも事態が変わる訳でもないんでしょう?」
「そりゃあ…まぁ」
「だったら別の土地に行って一旦、頭の中入れ替えなさい。このままじゃあなた、どこかが壊れちゃうわよ」
「…もう、壊れてるかもな」
そう、あいつらとの関係と一緒に”何か”が壊れてしまっているのだろう。
彼女達となら掴めると思っていた本物と一緒に……
「だったら尚更よ、その壊れてしまった物を補える”何か”を探しなさい。そしてそれは此処では無理なんでしょう」
「でも、何で山梨に?」
「中谷のお爺さん、覚えているでしょう」
「ああ、お袋の父親だよな。爺ちゃんがどうしたんだ?」
「今度兄さん夫婦と暮らす事になったのよ。ほら、お母さんが亡くなって三年経つしお父さんも体が弱くなっていたしね」
母方の祖父で、名前は中谷奏八。
子供の頃は休みには爺ちゃんが住んでいる山梨に良く遊びに行っていた。
行く度に爺ちゃん達は俺と小町をキャンプに連れて行ってくれそれがとても楽しかった事を覚えている。
「でもそれじゃお父さんの家が空き家になっちゃうからね、八幡が管理してくれる代わりに住んでも良いって」
「あの家か」
お袋の実家である爺ちゃんの家は平屋で結構古いが爺ちゃん達の管理が上手かったのか今でも無理なく住めるらしい。
「まあ、此処にいても状況が良くなる訳でもないしな。分かったよ」
「後の事だけど父さんは…、反対はしないか。小町とはお互いに少し離れた方が良いかもね」
「俺もそう思う」
やっぱり妹だからな、あの二人とは違い小町の事は拒絶出来ない。
だが、今のままでは元通りになる事は無いだろう。
ならばお袋の言う通りに一旦離れてお互いがいない場所で考え直す時間が必要だ。
「じゃあ、山梨に行くって事でいいのね?」
「ああ」
「だったら」
そう言いお袋は数冊の参考書を俺の前に置く。
「入学試験の準備ね」
「にゅうがく…しけん?」
「エスカレーター式だから高等部にはそのまま進学出来たけど、別の学校に行くなら試験は必要よ。まあ、八幡なら大丈夫でしょう、数学以外なら」
数学?すうがく?数の学問で数学?
よくわからない式、むずかしい数式、記号だらけ、一年生の時に習ったやつ
うっ、頭が…
「ちょっと、本当に大丈夫?」
ギリギリ何とかなりました。
ー◇◆◇ー
そして、中等部を卒業すると同時に俺は一人山梨へと引っ越した。
最後まで小町とは会話らしい会話は出来なかったが今は仕方が無い。
爺ちゃんの家に着き、預かっていた鍵で家の中に入ると家具や家電などは一式揃っていた。
お袋が持って行くのは自分の細かな荷物だけでいいと言っていたのはこうい事かと、部屋の中を見回していると爺ちゃんから電話がかかって来た。
『八幡。どうじゃ、着いたか』
「爺ちゃん、丁度着いた所だよ。でもいいのかな?家具とか家電とかも丸々貰っちゃって」
『かまわんよ。家ってのは管理しとかないと直ぐに駄目になってしまうし、家具なども婆さんとの思い出が詰まっとるが持って行っても邪魔になってしまうだけじゃからな、八幡が使ってくれたほうがええ。ああ、それとキャンプの道具やカブも使ってやってくれ』
「キャンプ?でも俺、一人じゃやった事ないし」
『まずはデイキャン、近場で日帰りキャンプから始めるとええ。何、魅力に取り付かれれば止められんようになる。ワシがそうじゃったからな』
「そうだな。爺ちゃん達とのキャンプは楽しかったし、試しに今度やってみるよ」
『おう、そうしろそうしろ』
その後、爺ちゃんとの電話を終えた俺は倉庫に行き、キャンプ道具を確認する。
子供の頃に一緒に使った大きなテントもあれば婆ちゃんと使ったであろう普通サイズのテントもあった。
スーパーカブはまだ免許が取れないので乗れないが、自転車があるのは助かった。
「さてと、試しに今度の休日にデイキャン?とかいうのをやってみるか」
そして、やって見たはいいものの、折り畳んでいた形が似ていた為にテーブルを忘れ焚き火台を二つ持って来た八幡、それとは反対にテーブルを二つ持って来た志摩。
お互いの道具を貸し借りした事から「ぼちキャン」と「ソロキャン」、二人の交流は始まったのである。
(`・ω・)いろはすと魔王様はこの物語には出て来ません。
八幡達は高一ですから中学生のいろはすを出すとなると色々と無理があるし、魔王様は魔王様で色々とその…、ねぇ。