デビルKと出会ったライスシャワー 作:明日未来
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:クロスオーバー ケータイ捜査官7 ゼロワン ライスシャワー デビルK 人類の救世主ミホノブルボン 機械の天敵ミホノブルボン
これが、明日のリアル。
出会ったら不幸になる、小さな黒い人影のウワサ――
ある日を境にトレセン学園内で突如として流行したそれは、幾年前に東京都内の何処かでも一瞬流行った都市伝説とほぼ同じ内容だった。
トレーナーが担当のウマ娘に雑談で話したか、あるいは噂好きの誰かがネットの海から偶然その都市伝説を拾ったのかも知れない。
何はともあれあっという間に広まった噂。
何の根拠もない平凡な日常へのアクセント。
何か不思議な事でも起こらないかなという期待が生む話題の一つ。
誰も本気で気にする必要はないと、誰もが適当に思っていた。
だがここに一人、本気で気にするウマ娘はいたのだ。
「ライスのせいで……みんなが不幸になっちゃう……」
食堂から持ち出せるパンだけを持ってこそこそと校舎裏へと逃げ出したライスシャワーは、ちらっと聞いた噂の断片を整理して悲観的になっていた。
その理由は単純明快。例の噂を自分の事だと思っているらしい。
「小さくて黒くて、会っただけでもみんなを不幸にしちゃう……ぜったいライスのことだ……」
黒い。確かに髪の毛は黒いし伸ばしているし、勝負服も合わせれば全体的に黒々としてる。
小さい。確かに小柄だ。言われなければ高等部だと通じない程。
不幸にする……のかは分からないが、連勝を阻んでしまったりヒール扱いされたりはしていた。
大体あってそうで否定もしきれず、なのでライスシャワーは人目を避ける。
自分と出会ったらみんなを不幸にすると、そう噂される程に自分はダメなんだと。
確かに噂の内容をマイナスに捉えて総括するとそうもなるだろう。
しかし、今現在流行している噂は一つ重要な情報が抜けていた。
それは都市伝説の通称。
今流行っているこの噂の名前が“デビルK”と分かっていれば、こう悩む必要もなかっただろう。
なんせライスシャワーという名前に、Kなんて一つも含まれていないのだから。
「うう、ライス……どうしたらいいのかな……」
だが情報もなければ自分自身の事だと決めつけてしまっている現在では、気が付く事はない。
誰かが新しい噂でも、それこそデビルKの呪いを解く対の都市伝説でもあれば――
「――あ、ライスちゃんだ!」
「ひゃぁああっ!」
その時、突然ライスシャワーは声を掛けられた。
ネットの海にいる都市伝説によって思考の海に沈んでいた所を急に声を掛けられたのだから、驚いて悲鳴も上げてしまう。
「こんな所で何してるの?」
「う、ウララちゃん、だ、だめ……!」
現れたウマ娘の名前はハルウララ。
天真爛漫という言葉の良く似合う、ライスシャワーとは対のような明るさの少女。
「あれ、なんで隠れちゃうの?」
「ライスのこと見たら、不幸になっちゃう……!」
「そうなの?」
必死に低木に体を押し付けて隠れようとするライスシャワーの背中にハルウララが迫る。
友達を守りたい、嫌われたくない、不幸にしたく無い。
そんな必死の思いなのだが伝わらず、一歩一歩確実に事情を知らないハルウララはどんどん近づく。
最初からそれほど離れていなかったのもあり、あっという間にすぐ後ろまで来てしまった。
――誰か、ウララちゃんの気を逸らして。
ライスシャワーはその間、ずっと祈っていた。
ハルウララの性格なら色々と察して去ってくれるという筈がないのはライスシャワーも承知だ。
この抵抗だって意味もない。
だからこそ、奇跡的に誰かが声を掛けるとか、あるいは蝶々が飛んでいくとか、何か起きないかと祈るしかない。
「ライスちゃ――」
いっそ、走って逃げてしまおうか。
最終手段として緊急離脱を計ろうとした瞬間、真後ろに迫っていたハルウララの声と動きが止まった。
「あれなに!? ねぇねぇライスちゃん! あれ見て!」
気が逸れたのは良い。
けど、そっちに行って欲しいのであって……。
ハルウララがあまりにも見て見てと言い続けるので顔を上げ、指差す先を見る。
視線の先、木の上にいたのは……。
『……』
開いた黒い二つ折りの携帯電話に、人間のように生えた手足。
モニターには目のような図形が表示されており、2人を見下ろしている。
「あれってみんなが言ってたエンジェルケーかな!? ね、ライスちゃん!」
「え、エンジェルケー……?」
「うーんと、うーんとね、見たら不幸になるっていうのを、打ち消す神様の使いってフクちゃんがね!」
『……くだらん』
「しゃべった!」
エンジェル、と言うには黒いし声も低く天使の名には似合ってないが、ハルウララの言葉はライスシャワーの心を打った。
自分の姿を見た人達の不幸を、何とかする方法があったんだと。
――対となる噂が存在しているというのは知れたようだが、この2人は一つ大きな勘違いをしていた。
ライスシャワーがそもそもデビルKではないのはさておき、この黒い歩く携帯電話もエンジェルKではない。
この黒い携帯電話こそデビルKであり、不幸をばらまく――と噂されてしまった被害者である。
『ライスチャン……と言ったか』
「は、はひ!」
黒い携帯電話が喋りかける。
『お前のバディは生きているか?』
「……え……」
バディ? トレーナーのこと?
一瞬にしてライスシャワーの顔から血の気が失せる。
今日はまだ、トレーナーと会っていない。連絡も取っていない。
生きているか、と聞かれて瞬時に生きていると返せるほどの自信が今のライスシャワーには無かった。
「さっきライスちゃんのトレーナーさんに、ライスちゃんどこーって聞かれたよ?」
代わりに、ハルウララが明るく返す。
その報告にライスシャワーは安堵した。
『なら、お前は不幸を呼ぶ存在ではないな……』
次に出た言葉は、否定。
短い言葉ではあったが、勘違いしているとはいえエンジェルKと思わしき存在に不幸を否定されたのは嬉しい事である。
思わず後ろを振り向いて、ハルウララと顔を合わせて笑い合ってしまった。
ライスはダメな子じゃないんだ――
言葉には出さず、心の内に留めて、ハルウララにありがとうとだけ告げ、再び黒い携帯電話に向き直り。
もうその時には木の上に誰も、何もいなかった。
「あれ? どこに行っちゃったんだろ?」
ハルウララが首を傾げ、風が吹く。
その風に乗って低い『ルルル……』という歌声が聞こえてきた気がした。
♯
『ルル……』
塀の上から練習場を見下ろして、遠くにライスシャワーの姿が見えた事に黒い携帯電話――ゼロワンは内心安堵していた。
過去の自分の噂が今になって復活するとは思わなかったが、これで尻拭いくらいはできただろうと。
『……』
今は誰しもがスマートフォンを持ち、気軽にインターネットへ接続できる時代。
そんな時代だからこそ、サイバー犯罪の気軽さが増した現代においてゼロワンのようなフォンブレイバーの存在やゼロワンらの所属するアンダーアンカーは再びその姿を現せたのだ。
その結果、活動中の姿を見られてしまいデビルKやエンジェルKの噂まで復活するとは誰も思わなかったが。
『……ん? セブンか』
そろそろ引き上げようかとゼロワンが歩くと同時に、同じく活動中のフォンブレイバー・セブンから連絡が入る。
セブンの方で何か収穫があったようだ。
『どうした?』
『我々の目的とする人物を絞り込めた。やはりこのトレセン学園に所属するウマ娘、ミホノブルボンで間違いない』
『そうか。で、写真は?』
『今シーカーに追わせている。だがノイズが酷く鮮明な画像が中々出来上がらないのだ』
『だろうな』
ゼロワンは言って鼻で笑うようにわざとらしく声を漏らす。
『そいつは偶然
『私を心配してくれているのか?』
『黙れ』
ゼロワンやセブン、サードを含めたフォンブレイバー達。当時生きていた人々……。
間明の弁をすれば、進化したジーンは人類の最適化として人類の抹殺を図る事すらしていたかも知れないという。
当然それは、最悪の事態だ。
立ち向かうゼロワンやセブン、サードを含めたフォンブレイバーやアンダーアンカーのエージェント達だけでなく、全ての人々にとって最悪の事態。
だがそんな野望もジーンも、ひとりのウマ娘によってあっさりと阻止されてしまっている。
それはミホノブルボン。
そのウマ娘によってジーンは破壊され、勝ちを確信しぺらぺらと白状していた間明は滑稽にもそのまま逮捕される運びになったという、人類の救世主。
『人類の救世主、か……』
ゼロワンは再びわざとらしく鼻を鳴らす。
それほど興味は無いようだ。
それよりもゼロワンが気に掛けるのは、先ほどの黒い少女。
自身を不幸の存在だと言い、悲観していたウマ娘。
『お前はバディ殺しになんか、なるんじゃないぞ』
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