音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第120話

天倉町での合宿を引き続き行っているチームスピカ、盆地故の暑さもあるがそれに負けないように頑張るメンバーたち。近くには川もあるのでそこに泳ぎに行ったりもしている。そんなある日の事だった、早朝に共に走りにいったチェイスの姿が見えなくなっていた。それに気付いたバジンは辺りを見合し、沖野にその事を尋ねた。

 

「……トレーナー、チェイスは?」

「んっそこらにいねぇの?」

「居ない」

「えっチェイスさん居ないんですか?」

 

と、ションボリと尻尾が下がるオルフェーヴル。がそんな時に沖野はある事を思い出した。

 

「そう言えば、クリムさんから今日はチェイスを休ませてほしいって言われてたな」

「えっ何かあったんですか?」

「墓参りだそうだ」

 

 

山の中に作られた長い長い階段、それをまるで平地のように駆けあがっていくウマ娘、チェイスの姿がそこにあった。テンポよく、しかし極めて速いペースで登り切ったチェイスは息一つ乱す事も無くそのまま奥へと進んでいく。山にある神社、そこに参拝を行うと直ぐに傍にある山道を進んでいく。少し進んでいくそこにあったのは墓地……

 

「此処に来るのも久しぶりですね」

 

そんな言葉を漏らしつつもチェイスは持ってきたバックからタオルを取り出してそれを水で濡らすと一つ一つの墓石を丁寧に拭いて行く。墓参りをする時にはともに他の墓石も拭くようにしている、というのも此処に眠っているのは天倉町にいる人達、つまり自分を可愛がってくれた人たちのご家族もいる。何か都合があって来られない場合などは代わりにやってあげていた事もあるからか、もう習慣に近い。

 

「フゥッ……さてと」

 

全ての墓石を拭き終わると今度は線香に火を灯す、そして共にグラハムが作ったお米を供えて行く。一つ一つに手を合わせ続けて行く中、最後に向かうのは―――泊家の墓と刻まれている墓石、そう父と母の墓。

 

「遅くなって申し訳ありません。色々、変化もありましたので……」

 

彼女の口調は普段のそれよりもずっと柔らかくなっていた、それが本当の彼女……いや、泊 進之介と泊 霧子の娘としての彼女なのだろう。そう言いながらも父と母の好物だったお酒を置いておく。

 

「本当ならひとやすミルクを備えてあげるべきなのかもしれませんが……其方は自宅の方で供えておりますのでご勘弁してくださいね、それと私、トゥインクルシリーズで今走っている事を改めてご報告させて頂きますね」

 

前に帰省した時は自宅の神棚での話はしたけど、此方には顔を出せなかった、それだけが心残りだった。身体を休めることが主目的だったので致し方ないという所もあるのだが……

 

「三冠ウマ娘にもなりました、一応今も無敗を貫いています。と言っても私はこのままドリームシリーズとやらに進むつもりはないんですけどね、やっぱり警察官になりたいという夢を諦めるつもりは毛頭ありません、取り敢えず今年のシニアは走り切るつもりですが……その先は、如何しましょうかね」

 

何処か困ったような笑みを浮かべているチェイス、出来る事ならばこの言葉に応えて欲しいと思ってしまっているがそれは無理な話だという事は分かっている。それでもやはり聞いてしまうのだ。

 

「走る事は楽しいです、ハリケーンやゴルドと競い合うのは血が滾ります。ですけどそれはそれ、これはこれという奴ですね。ああそうそう、今年のジャパンカップというレースにトライドロンという凄いウマ娘が出るんです、アメリカ最強ウマ娘の妹さんらしいです。態々私と戦いたいとまで言ってきた方です」

 

様々な事を、この場で言う。クリムにも話した事でもあるが、やはり父と母に話すのとは違うと思ってしまっている自分が居る。そして一頻り話し終えると……瞳を揺らすのであった。

 

「夢を背負うって本当に大変ですね……お父さんとお母さんもこんな事を思っていたんでしょうか?」

 

自分に夢を抱き、目標として走ってくれているウマ娘がいる。そんな彼女らに為に自分は何かをするべきなのではないか、残すべきなのかがあるのではないだろうかと思ってならない。自分はまだまだ走れる、伝えられる事があるのでは……

 

「考えすぎかもしれませんが……夢を見せた者としての責務があるのではと思っています、きっと何かが……」

 

時折夢に見るのだ。バジンやオルちゃんと共にレースをする姿を、それはG1の舞台であり真剣勝負の場だった。予知夢なのかは分からないが、きっとそういう場面は来るのだという予感はある。少なくとも、この年の有記念でバジンと走る場面は回って来る。その次は……オルちゃんと走れる。

 

「ともかく、今年の有を考えるより先に天皇賞秋ですかね。見ていてください、私頑張ります―――応援、してくれますよね?」

 

何処か不安げな言葉を掛けてしまった自分に情けない差を感じつつも、荷物を纏め始める。そろそろ帰らないといけない……最後に頭を深々と下げると一旦神社に戻ろうとした時、後ろから肩を押されるような感覚に襲われる。

 

「うわっ……今のって……?」

 

まるで誰かに押されたかのような感覚だった。だが後ろには誰もいない、あるのは墓標だけ……まさかね……と思いながらも改めて帰路へと着くのであった。だが不思議とのその足取りは極めて軽く、今まで以上に速く走れている自分が居たのである。

 

「ただいま帰りました」

「あれ、墓参りは終わったのか?」

「ええもう大丈夫です―――さて、今日は御馳走にでもしますか」

「えっご馳走ですか!?」

 

ご馳走という言葉に反応するスペに思わず溜息を漏らす沖野、だがチェイスは一段と気分がいいように見えた。墓参りをする事でメンタルが切り替わったのだろうか……それともと思う中、チェイスは沖野に向けて言った。

 

「トレーナー、天皇賞秋に向けてのメニューお願いしますね」

「言われるまでも無いけどな」

 

様々な意味で万全な状態にさせてやると誓う沖野。それに満足気に笑いながらもチェイスは着替えを始めるのであった。




漸くこのSSのラストの構想が出来ました。

ラストは―――有馬に決めました。やっぱりラストと言えば有馬ですよね。
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