よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート   作:月島さん

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字数少し多め。
分割するか迷った。



番外編1 2週目堀北鈴音の奮闘記3

 入学2日目。

 

 

 そこには、まだ入学2日目であり授業開始1日目にも関わらず、授業を真面目に受けない生徒の姿が多々見られた。

 

 

 記憶通りの光景であり、1日目に彼らの事を実際に見たことによってこうなる事が確実だと思われた光景である。

 

 

 私は特にここで彼らを注意したりはしなかった。

 

 

 理由はいくつかあるが、まずは1つ。

 指摘するにもタイミングというものがある。

 

 

 今ここで私が彼らの授業態度を注意しても意味はないだろう。 

 特にこのクラスにおいては、その忠告を一切聞かないと思われる具体的な人物が簡単に思い浮かぶ。

 その人物とは勿論、須藤君である。

 

 彼が私の話を聞かずに授業態度を改めない場合、それは他クラスメイトにも波及する。

 

 須藤君が授業を真面目に受けないなら自分も真面目になどやってられない、あるいは自分は真面目に授業を受けているのに何故須藤君は、のような考えを抱くのは至極妥当なのだから。

 

 

 昨日は初動が大事だと言ったし、実際それは間違いない事なのだが、全てがそうだとは限らない。

 通り一辺倒ではなく、状況次第で対応は柔軟に変えていくべきなのだ。

 

 

 特に、彼女が昨日既に大きく動いているという事実を知った以上、慢心など出来るはずがない。

 記憶を活用し、全てに全力を尽くす必要がある……いや、それでもまだ届かない可能性すらあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、部活動説明会があった。

 そこでは記憶通り、最後に生徒会の、つまりは兄さんからの説明があった。

 

 

「──我が校の生徒会には規律を変えるだけの権利と使命が学園側に認められ、期待されている。その事を理解できる者のみ歓迎しよう──」

 

 

 ……入学式の時同様、思う所は勿論多々ある。

 だが、今優先すべき事は他の事だ。

 

 

 私は想いを胸に秘め、決意を再確認した。

 

 

 すると、一緒に来ていた松下さんが

 

 

「ねえ、堀北さん。今の生徒会長って……」

 

「私の兄さんよ」

 

 

 かつての私ならば詮索するな等の拒絶する趣旨の言葉を発していただろう。

 しかし今の私からすれば、仮に聞かれたとしてもこのように普通に答えれば良いだけの話でしかない。

 隠す必要など何もない、何の変哲もないただの事実でしかないのだから。

 

 

「あ、やっぱりそうなんだ。なんか似てるなーと思って」

 

「そうだな、オレもそう思った」

 

 

 松下さんの言葉に綾小路君も賛同の意を示す。

 

 

 ……似ている? 私と兄さんが? 

 中学生までで、そして記憶の中でも私にはそんな事を言われた覚えは無かった。

 

 

「……そう。初めて言われたけれど、あなたたち二人が言うならそうなのかもしれないわね」

 

「何というか、強烈なカリスマ性ってやつ? やっぱり兄妹なんだなーって思ったよ」

 

「ああ。オレもそう思う。堀北はやっぱり生徒会に入るのか?」

 

 

 二人が私にそんな事を言う。

 

 

 ……これが3年間この学校で過ごした経験による成果、という物なのだろうか。

 私は、兄さんに……

 

 

 思う所はやはり多々あるが、今は質問に答えなければ。

 

 

「いずれは生徒会に入るかもしれないけれど、今はまだその気は無いわ。まだこの学校のシステムを把握し切れてもいないのだし」

 

「そうか。昨日言ってたように、とりあえずは5月まで様子見ってことか?」

 

「まあ、そんなところね」

 

 

 その後も、私は様々な事を考えながら綾小路君と松下さんと雑談を交わし、体育館を去った。

 

 去り際にこちらを見ていた兄さんと目が合った気がしたが、私はそれに反応を示す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、入学3日目。

 

 

「綾小路君、少しいいかしら」

 

「どうした?」

 

 

 私は例によって1人ぼっちでいる綾小路君に声をかける。

 

 まだ3日目とはいえ、彼はあれから私と松下さん以外に話す人間を一人も作れていないらしい。

 その私たちも別に常時彼と話すなんて訳はなく、朝に軽くやり取りしたくらいだ。

 

 ……友達が欲しいのならば少しくらいは自分で動くべきだと思うのだが……まあ、いい。

 

 

「放課後、学校の施設を見て回ろうと思っているのだけれど」

 

「それで?」

 

 

 ……この男、わざとやっているのだろうか? 

 

 

「……察しが悪いわね。一緒に行かないか聞いているの」

 

「え、良いのか?」

 

 

 ………………

 

 

「……やっぱり面倒だから1人で行こうかしら」

 

「是非一緒に行こう」

 

 

 最初からそう言えばいいというのに。

 本当に面倒臭い男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、私は綾小路君と共に教室を出る。

 

 

「回る前に寮に戻って荷物を置いてこないか? 荷物持って歩き回るのも疲れるだろ」

 

 

 校舎を出た途端、綾小路君がそう提案してきた。

 それ自体は特に変わった事のない妥当な提案だ。

 

 とはいえ私が誘っておいてあれだが、彼は随分と探索に乗り気なように思える。

 記憶において、綾小路君はそういうタイプでは無かったような気がするのだが……まあ、いい。

 

 

「そう。なら、その前にスーパーに寄ってもいいかしら?」

 

「ああ、オレは問題ない」

 

 

 ……? 

 一緒に施設を回ろうとは言ったが、スーパーにまで一緒に行く必要は無いのだが。

 

 

「別に付き合わなくていいのよ。後で合流すれば良いのだから」

 

「いいさ。特にやる事があるわけでも無いからな」

 

 

 まあ、私としては綾小路君がスーパーについて来ようが来まいがどちらでも構わないから別にいいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー……結構種類あるんだな」

 

「……スーパー、来た事無いの?」

 

 

 何やらやたらと物珍しげにキョロキョロする綾小路君に私は尋ねる。あまり人の目を気にしない方である私といえど、見ていて少し恥ずかしさを覚えるくらいである。

 

 

「ああ、こういう大きいところはな」

 

「…………」

 

 

 前から思って居たが、やはり綾小路君は世間ずれをしている。

 

 このくらいのスーパーならば別にどこにでもあるし、1度も来た事が無いというのはあまりにも不自然。

 

 私は彼とまだそれを詮索出来る程の関係を築いてはいないから、今質問したりはしないが……彼と交友を深めるならばいずれ、明らかにする必要があるのかもしれない。

 

 

「あれ、無料配布の食品じゃないか? 無料でも結構色々あるもんだな」

 

「……そうね」

 

 

 綾小路君の過去は兎も角。

 これも、施設の確認と同様に私が見ておきたかった物の一つだ。

 自炊を問題無く出来る分の食品が無料配布されている事を確認しておきたかった。

 

 

 そうして、私は必要な分だけ食料を籠に入れていく。

 

 

「このくらいかしらね」

 

「いいのか? まだ貰えるっぽいけど」

 

「いいのよ、1日で食べられる量で。無料だからといって無駄にはできないわ」

 

 

 どうやら綾小路君には自炊に関する知識は無いらしい。

 私が食品を選ぶ中、綾小路君は一切それらに手をつけて居なかった事だし。

 

 それを踏まえてふと考えてみると、私が記憶している限り綾小路君が自炊したという話は聞いた事が無かった。

 

 こうして無料で配布されている以上、健康的にもポイント的にも自炊をした方が遥かに良いだろうに。

 

 

「あなたは何も貰わなくて良かったの?」

 

「ああ。別に貰っても料理しないからな」

 

「面倒と言ってないで作ってみたら? 食堂で1人で食べなくて済むわよ」

 

「あー……考えとく」

 

 

 言外に、自炊をすれば私や松下さんと一緒に昼食を取れるのだという意味を込めて言ってみる。

 しかし、綾小路君はそれに気付いたか気付かないかはわからないにせよ、兎に角自炊にあまり乗り気ではないらしい。

 

 ただ、彼は多数の食材の中でも特に保存の利く食品を眺めているような気はした。

 まあ、別にどうでもいい事ではあるのだが。

 

 

「……じゃあ、10分後ここで」

 

 

 

 

 

 

 

 一時解散し、自室に戻る。

 私が私服に着替えてから下に向かうと、綾小路君は制服のままそこに居た。

 

 

「待たせたわね」

 

「着替えたのか」

 

「ええ。……何かしら」

 

 

 何やら綾小路君が私をやたらとジロジロ見てくるのを感じ、それを指摘する。

 

 ……さっきから一体何なのだろうか。

 

 昨日も思ったが、やはり記憶の綾小路君と今の綾小路君の間には随分と差異を感じる。

 いや、実際には1年生の最初の頃の綾小路君はこのような感じだったような気もするのだが、2年間もの間彼とやり合った私としてはどうしても違和感が拭えないのだ。

 

 

「いや、何でもない。じゃあ行くか」

 

 

 しかし綾小路君はそんな私の問いに顔を逸らして答える。

 

 

 ……まあ、いい。

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り、私たちは施設をひとしきり回った。

 記憶のそれと変わらず、この学校の敷地内には随分と豊富な施設が完備されている。

 ひとまず、それを確認する事が出来て良かった。

 

 

 他者と、特に彼女と比べて私が持つアドバンテージは、この学校に3年間通って生徒会長も務めた経験と、何よりも記憶による知識である。

 

 だが、経験は兎も角として、以前言ったように記憶による知識にはこれからの出来事との差異があるのかもしれない。

 だから、まずは私の持つアドバンテージを確たるものとするためにそれを1つ1つ潰して行く必要がある。そして、当然それは早ければ早いほど効果的。

 そのため、入学3日目にして私は施設の探索を行ったのだ。

 

 

 それはさておき。

 施設をひとしきり回った後、私は同行人の綾小路君と会話していた。

 

 

「特に変わったものは無かったな」

 

「ショッピングモールから娯楽施設まで学校の敷地にあるのは十分変わってると思うのだけれど」

 

 

 再度の事になるが、やはり綾小路君は世間知らずだと思う。

 ここまで充実した施設を初めて見た感想がそれというのは、全くおかしいとまでは言わないが……

 

 

「そうなんだけどな。この学校なら何かありそうな気がしてな」

 

「まぁ、そうね……」

 

 

 私は違和感を拭いきれなかったために思わず少し歯切れの悪い返事をしてしまう。

 

 

「堀北あれ、何かわかるか?」

 

「え? ……どうやら銭湯みたいね」

 

 

 そこには別に珍しくも何ともない、実に普通の銭湯があった。

 

 

「! 銭湯っていうとあれか? 複数人でデカい風呂に入るっていう公衆浴場の事か?」

 

「……ええ。その公衆浴場のことよ……」

 

 

 私はやたらと興奮した様子で銭湯について聞く綾小路君に対し、思わず引き気味に答えてしまう。

 

 彼は銭湯の事すら知らないのだろうか。

 そしてなぜこんなにウキウキしているのだろうか。

 正直言って少々……いや、何でもない。

 

 

「なあ堀北、入っていかないか?」

 

「……何を言っているの?」

 

 

 今度は意味不明な事を言い出した。

 一体どうして今この瞬間に私と銭湯に入るなどという選択肢が浮かぶのか。

 

 

「それに入浴は無料だけどタオルとかは購入しなきゃ駄目みたいね」

 

「うーん……」

 

 

 ……一体銭湯の何がそこまで彼を惹きつけるのだろうか。

 はっきり言って私には全く理解ができない。

 

 

「……諦めて後日一人で行きなさい」

 

「……そうだな」

 

 

 綾小路君は何やらやたらと残念そうにして渋々私の意見を承諾した。

 

 

 まったく……

 

 

「あなた本当に変なところに興味を持つのね」

 

 

 私はそんな彼を見て思わず微笑を浮かべながら綾小路君にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この学校では、4月の時点で水泳の授業がある。

 それは恐らく夏休みに行われるであろう特別試験の対策にもなり得るものであり、重要度がそれなりに高いものである。

 

 

 私は、この水泳の授業を利用してやりたい事がいくつかあった。

 

 

 そんな朝。

 登校してから本を読んでいると、記憶と同じく、とある話題に関する話し声が聞こえてきた。

 

 

「この学校は最高だよなー! こんな時期から水泳があるなんてさ!」

 

「水泳って言ったら、女の子! 女の子と言えばスク水だよな!」

 

 

 池君と山内君が水泳と、それに付随する女子の格好についての話を他者の耳を一切気にせずにしている。

 

 

「おーい博士ー。ちょっと来てくれよー」

 

 

 そんな2人に外村君が加わり、女子の水着姿を記録するなどという話を教室中の女子に聞こえる程に大きな声で話している。

 

 

 ……まずは、1つ目。

 

 

 私は席を立ち、何やらおろおろしている様子の綾小路君の姿を一瞥してから3人の元へと向かう。

 3人は話に夢中となり、どうやら私が近づいて来ているという事実にすら気付いて居ないらしい。

 

 

 

「ねえ」

 

「!? ほ、堀北ちゃん!? ち、違うんだ! これは……」

 

 

 私が話しかけてきた事実を認識したにも関わらず、この期に及んで何やら下らない言い訳を述べ出した池君の言葉を遮る。

 

 安心するといい。

 私はあなたたちをただ咎めに来ただけという訳では無いのだから。

 

 

「あなたたち、女性に好意を持たれたいのよね?」

 

「え!? い、いやまあ……」

 

 

 言い淀む池君たち。

 誰が見てもわかりきった話なのだが、実に往生際の悪い事だ。

 こんな惨めな姿を晒す今の彼らに一体誰が好意を持つというのか。

 

 まあ、それでこそ池君や山内君、外村君ではあるのだが。

 

 

「なら、アドバイスしてあげる」

 

「まず、あなたたちの年代で性的な事に興味を持つのは恐らく仕方のない事なのでしょう。でもそれは秘める事。決して口に出してはいけないわ。それを聞いた女子からの幻滅は避けられないのだから」

 

 

 そう言って私は周囲をあからさまに見渡し、女子の反応を彼らに教える。

 私が彼らをただ注意しに来ただけではないと認識した3人は、私の目論み通り話に耳を傾ける事にしたようだ。

 

 

「次に、女子に好意を持たれたいのなら、何でもいいから努力する事」

 

「で、でもよ。そんな事言ったって……」

 

 

 山内君が情け無い声を上げる。

 こんな感想が出るという事は、私の言葉は現時点でもそれなりに彼の心に刺さっているようだ。

 

 

 ……このやり方は、怜山さんのそれを参考にした物だ。

 一見突拍子も無い話のように思えるが、その内実は、ただ自分の言いたい事を言うのではなく、相手が興味を抱きそうな話を持ち出す事で思考を誘導し、望む結果に導こうとするやり方。

 過去の経験からその有効性に疑いは無い。

 

 

「結果をすぐに出せなんて言っていないわ。勿論、それに越した事は無いのだけれど、一心不乱に努力をするその姿勢そのものに好意を抱く女子はそれなりにいる筈」

 

 

 私は一瞬目を瞑り、間を作ってから話を続ける。

 

 

「例えば……それこそ授業を真面目に受けてみるだけでも、心変わりを理解し、認めてくれる女子は現れるでしょう」

 

「え、そんな事でいいのか?」

 

「勿論、それは触りでしか無い話よ。先程も言ったように、それに加えて成績を向上させたりすればより効果的でしょうね。ただ、少なくとも今よりは可能性は広がるはず」

 

 

 話を聞いた池君は、興奮したかのような様子で

 

 

「な、ならよ。堀北ちゃんも俺たちが真面目に授業を受ければ好きになってくれるってことか!?」

 

 

 ……言うと思った。

 

 

「……好きになるとまでは言わないけれど、印象は良くなるわね。少なくとも、さっきのような話を大きな声でする今のあなたたちよりは」

 

「マジかよ! それならやってやるぜ!!」

 

「俺もやるぞ!!」

 

 

 3人は私の言葉に対して実に喜んだ様子を見せていた。

 

 

 

 

 私がこのタイミングで彼らにこんな話をしたのには当然意味がある。

 先日、ポイントの節約についての話をした際に私がある意味で少し突き放す様な発言をしたのにも重なる事だ。

 

 何が言いたいのかと言うと……私は、この学校のシステムについてどの程度クラスに伝えるのかを考えていた。

 

 その結論として、貰えるポイントが変動する可能性についてこの時点では特に言及しない事にした。

 

 

 何故なら普通の人間は、1度痛い目を見なければ学習しないのだから。

 

 

 いや、むしろ1度の失敗で学習する人間ならば、その人物はかなり優秀な人材だとすら言える。

 少なくとも、私の記憶ではDクラスの生徒は1度の失敗程度では行動を改めない人間が多々存在していた。

 

 例えば、須藤君は覚えている限り3回大きな誤ちを犯した。そして、それを反省した彼は私の頼れる味方となった。

 

 例えば、かつての私はあれだけ苦渋を舐めさせられたにも関わらず1年時体育祭の段階でようやく他者の力を借りる必要性を認めた。

 

 そのため私は、クラスメイトには5月の時点で自分たちの評価が最下位なのだと突き付けられる必要があると考えたのだ。

 

 

 だが、そうだからといって注意喚起を何もしないというつもりも無かった。

 それでは記憶にあった状況と何も変わらないのだから。

 

 

 だから、私はこのタイミングで池君たちにこういった話をすることで、彼らだけでなく話を聞いていたクラスメイト全員が少しでもいいから生活態度を改めるようにと願った。

 

 勿論、初日のポイント節約の話をした時と同様に、これだけで全員が態度を改めるようになるとは全く思っていない。

 

 直接話を受けた池君や山内君、外村君も、今日1日くらいは真面目に授業を受けるだろうが、少し経つだけで直ぐに綻びが出るだろう。

 先程言ったように、人間は痛い目を何度も見ないと学習しないのだから。

 

 ただ、私は彼らに気付く機会を、成長のきっかけを与えたかった。

 つまりはそういう事である。

 

 

 

 

 そうして、すっかり教室が静まった中私が席に戻ると

 

 

「……堀北は、何にでも努力して全力を尽くすような男がタイプなのか?」

 

 

 ……よりによって、あなたがそれを言うの? 

 

 

 先程の池君たちへの発言は、勿論綾小路君に対しての言葉でもあった。しかしそうだとしても、どうしても私はそんな風に思ってしまった。

 

 

「……そうね。少なくとも、自分の実力を隠そうとする人間よりは」

 

「…………そうか」

 

 

 話を終え、私は平田君と松下さんに後詰めの指示を出してから読書を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝の堀北さん凄かったよねー!」

 

「うんうん! 何というか、人の上に立つ人の風格? みたいなのをすっごい感じた!」

 

 

 更衣室にて。

 私は着替えながら朝の池君たちへの言動を松下さんや佐藤さんを始めとした女子に称賛されていた。

 

 これもまた、目論み通りの結果である。

 初日と合わせてこれで、少なくとも私のリーダーの座は揺るがなくなったと言っていいだろう。

 

 松下さんはとりあえず私の指示通りに動いてくれるらしい。

 それを確認出来たこともまた、収穫と言える。

 

 

「めちゃくちゃかっこよかったよー! 堀北さんみたいな女の子、憧れちゃうなー」

 

 

 私は称賛の声を聞きながら、一瞬だけ1人の女子生徒の姿を見た。

 

 

 この状況下での彼女の表情は……

 

 やはり、そうなるか。

 

 だが、厳しいようだが今それはいいのだ。

 それは彼女が味わうべき感情なのだから。

 

 

 

 

 

 

 それはそうと、この水泳の授業にて、私にはもう一つ確かめたい事があった。

 

 それはとある人物の事である。

 

 その人物とは……

 

 

 小野寺さんだ。

 

 

 彼女は、1年生体育祭時には私より足が遅かった筈なのだが、2年生体育祭時には学年の女子トップの身体能力へと成長した極めて優秀な人材である。1年学年末時点ではそこまでの運動能力を持っていなかったと記憶している以上、彼女は2年になってからの数ヶ月で学年トップの身体能力に向上したと考えられる。

 

 ……正直言って、明らかに不自然な伸び具合だった。いくら学校生活で成長したからと言って、限度という物がある。

 特に足の速さなどは1年走り続けても1秒タイムが伸びたらかなりの成長とすら言えるような物なのに。

 その伸びは当然、元が速ければ速いほど、上に行けばいくほどに緩やかになる物で。

 

 そして、彼女は陸上部ですら無く水泳部なのに。

 

 男子3日会わざればとはよく言ったものだが……私は彼女についても気に掛ける必要があると思った。

 

 私は当時彼女も綾小路君と同様に実力を隠していたのかと疑ったのだが、彼女の性格上そんな事をするのか甚だ疑問だったし、何よりその時点で学年トップの実力を十全に出してくれるのならば、当時としてはそれまで力を隠していたのかそうではなかったのかは別にどちらでも良かったのだから。

 

 

 とはいえ、今となると当時とは話が違ってくる。

 何故なら実力を隠しているという事ならば、それを発揮してもらえた場合は少なくとも体育祭と学年末対抗試験の結果は大きく変わりうるのだから。

 

 

 そのため、今日の授業にて彼女の実力を測る事も目的の1つだった。

 

 

 彼女は実力を隠しているのか? 

 それとも本当に急激に伸びただけという話なのか? 

 

 

 見定める必要がある。

 

 

 

 

 

 

 その結果……水泳の授業自体は拍子抜けする程記憶のそれと全く同じように進み、肝心の小野寺さんは、少なくとも私の観察眼では実力を隠しているようには見えなかった。

 

 ……小野寺さんが3年間で鍛え上げた私の観察眼を欺けるだけの能力を持っているのならば話は別なのだが、多分、そうではないと思う。

 これでも、実力者を見る目は培われてきている自信はあるのだから。

 

 どうやら、これ以上彼女を気にかけても杞憂でしか無さそうだった。

 

 

 ちなみに、これは既にわかっていた事ではあるのだが、私の身体能力は1年時の物と変わっていない。知識は兎も角、肉体は1年時の物に戻っている以上は当たり前の事だ。

 技術面は向上しているため、水泳のタイムは記憶にある1年生の頃のそれよりは伸びていると思う。1年時のタイムなど注意して記憶している物でもないので、多分、という注釈は付くのだが。

 とはいえ、正直言ってそれで何かが大きく変わるなんて事は無いためどうでも良い話だ。

 

 

 それはそうと、今日の授業と記憶の違いがあるとすれば、それは女子の見学者が圧倒的に少なかった事だろう。

 これが私の行動の結果、という物だ。

 こうして目に見える形で現れると達成感のようなものを感じる。

 

 

 小野寺さんの話は兎も角、今日の行動における収穫は十分にあったと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

『明日、一緒にお昼を食べない?』

 

 

 放課後、寮で私は怜山さんからそんなメールを受け取った。

 

 いいだろう、受けて立つ。

 今度こそ、私はあなたと対等になってみせる。

 

 正直な話、未来の記憶という卑怯な力に頼るのは不本意だ。

 

 だが、私は彼女を記憶における2年次以降のように退屈させる訳にはいかないのだから。

 

 それこそが、私が見たい未来なのだ。

 

 

 

 

 

 

 




走者・櫛田 「「こいつは誰だ」」
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