君の事が、好きだから。
伝えたい事は、一つだけ。
裏側に秘めていた、その声を。
きっと大喜は、気付いていない。私が窶れた顔を見せたくないから強めにメイクしている事も、お腹苦しいけど制服のスカートいつもより折り込んでかなりミニにしている事も。――私がたいやき以外の理由で大喜を連れ出した事も、何もかも。
それに全国3位という結果が、眠ることさえ出来ないほど屈辱だった事もだ。大喜は素直に驚いて、そして祝ってくれたけど。でもそれは全中4位の頃から、何も成長できていないということだ。一年かけてようやく一人抜いた、というわけじゃない。私には1位になる実力がない、これが天井なんだ、という現実が確定しつつあるということ。
私は勝ち続けるしかない。毎年上がってくる「新星」たちに追い付かれてしまえば、私は何の価値もなくなるんだ。なのに私は足踏みをしているだけ、この生活を維持したいとさえ思っている。もっと研ぎ澄ませなければならない。誉めることしかできない無能なコーチも馴れ合いだけの人間関係も、何もかも捨てなければ私は沈んでいく。
それでも「今」にしがみつくのは、大喜がいるからだ。
こうして一緒に歩ける、バカな話が出来る友達。コイツがいないなら、私は栄明にいる意味もない。もっと強い、環境の整った学校へ移ってしまって良い。大喜以外の友達なんか、いらない。
そう思うのに、私は。私は、この関係を崩そうとしている。
「――時間、気にしてる?」
言わなくても良いことを、つい言ってしまう。
私はそれを気にしてはいけない、考えるべきじゃない。でも、思ってしまう。
……どうして? 決まっている。今ちょうど、千夏先輩が試合中だからだ。
さっき調べた所が確かなら今日はインターハイ二回戦、相手は去年の全国1位。栄明女子バスケ部に、勝ち目があるかどうかは分からない。それでも大喜は千夏先輩の勝利を信じ、心から応援したいと思っている。
だって大喜は、千夏先輩が好きだから。
大喜を好きになればなるほど、それを突き付けられる。所詮私は大喜にとって、友達でしかない。私にどれだけ想われているか、気付くことなんか無い。
方法はある、でもそれは最低の悪手だ。
だからずっと、逃げてきた。
独りに戻るのは、怖いから。
千夏先輩なんか負けてしまえ、とは思えない。あの人は、好い人だから。私にとっても尊敬できる先輩で、出来ればあの人にも笑顔でいてほしい。でもそれは無理な話だ、大喜が先輩を好きでいる限り。
悔しいな、本当に。大喜は私の競技中、気にかけたりはしなかっただろう。こっちから試合前に連絡しただけで、大喜からは何も言ってこなかったし。私の全国3位を知ったのも、ついさっき。もっと私を見てほしいのに。
でも千夏先輩相手には、そんな薄情はしないだろう。試合前に激励して、試合中は活躍を祈り、勝っても負けても試合後は健闘を労うんだ。ああ、――羨ましい。
どうして私に、そうしてくれなかったんだろう。もし大喜が支えてくれれば、私はきっと勝てていたのに。
一緒にいても頭のなかは千夏先輩の事だけで、私が何を考えてるか想像もしていない。
もし。今私が、言ってしまったなら。大喜を好きだと、言ってしまったなら。
恋人になれるわけがない、でも友達のままでもいられなくなる。赤の他人よりも辛い、皹割れた関係になる。私はそれが、何よりも怖い。
それでも。それでも――。
「靴飛ばし対決しようよ! 負けたら誰にも話してない、恥ずかしい話披露ね!」
ブランコの板に立って、私は脚を振り上げる。
正直テンションを作りすぎた気もするけど、まあいいや。
私は負けて、そして言うんだ。取り返しのつかない事を。もう二度と戻れないくらい、特大の恥ずかしい話を。
さあ、――何もかも失う覚悟は出来た。一切合財、派手に散らそうじゃないか。
蝶野雛、一世一代のバカをやらかす時だ。
行こう、私。