魔法科高校なのに身勝手   作:参勤交代02

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前回の投稿から一週間以上経ってしまいました。

ゆっくりですが投稿は続けて行きます!

誤字報告も大変助かっています!ありがとうございます!
では、どうぞ!


入学編 Ⅴ

 

 

 模擬戦等、色々と忙しい一日を終えた慎悟は次の日の放課後風紀委員会本部に向かっていた。

 この日から一週間、一高は毎年春の恒例の新入部員勧誘期間に突入する。この魔法科高校でも一般の高校と同じようにクラブ活動があるため、正規の部活と認められるには人数も実績も必要である。

 だか、魔法科高校には一般にはない魔法に深く関わりを持つ部活も多い。

 

 『全国魔法科高校親善魔法競技大会』通称九校戦という全国九つの魔法科高校で行われるスポーツ系魔法競技で競い合う全国大会があり、その結果によって学校の評価が変わり、優秀な成績を収めたクラブにはクラブ予算からそこに所属する生徒個人の評価に至るまで様々な便宜が与えられる。

 

 そのせいもあって、どのクラブも新入生を獲得するのに躍起になっているため問題も多数起こる。しかも、期間中は新入生向けのデモンストレーション用にCADの携行の許可が出ている。審査はあるが実質フリーパスでこの期間は学内が無法地帯と言っても過言ではない状況になる。学校側も九校戦での成績を上げたいため、このような多少のルール破りについては黙認しているので手に負えない。

 

 慎悟が風紀委員本部に入ると、すでに達也を含め慎悟以外の全員が集まっていたため慎悟は一言言ってから達也の隣に座った。

 

 

「すいません遅れました」

 

「いや、まだ集合時間内だから謝る必要はない。他の連中が早すぎるだけだ」

 

 

 摩利は周りを見回してから慎悟にそう言い、全員揃ったことを確認すると椅子から立ち上がり話を切り出した。

 

 

「そのまま聞いてくれ、今年もまたあの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た。風紀委員としては新年度最初の山場となる。いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすことのないよう注意しろ。今年は幸いにも卒業生分の補充が間に合った」

 

 

 そう言って摩利はその補充員の慎悟と達也を立たせた。落ち着いた面持ちながら肩の力を抜きすぎているような風情のある達也と、余裕そうな表情をしながらどこか隙を感じさせない慎悟に上級生達は、癖のある新入生が来たなと思っていた。

 

 

「1―Aの神楽慎悟と1―Eの司波達也だ。今日から早速パトロールに加わってもらう」

 

「役に立つんですか?」

 

「あぁ、心配するな。ちゃんと私の目で判断した。信用できないなら直接自分で確かめてみるといいだろう」

 

「い、いえ、大丈夫です.....」

 

 

 摩利が慎悟達を紹介すると、摩利から見て左側にいた二年の男子生徒が慎悟達、というよりも達也のエンブレムの付いていない肩を見てそう言った。しかし、摩利に睨まれるような形で言葉を返されたためおとなしく引き下がることとなる。

 

 

「よろしい、では各員行動に移してくれ!出動だ!」

 

 

 その言葉と同時に慎悟達を除く他の風紀委員達は一斉に立ち上がり、走るように部屋を出て行った。慎悟達もそれに続こうとしたがそれを摩利が止めた。

 

 

「待て、行く前にこれを持っていけ」

 

 

 摩利はそう言うと二人の前に風紀委員と書かれた腕章とボイスレコーダーを置いた。

 

 

「巡回中は常にその腕章を腕につけておけ。右側のボタンがスイッチとなっているから何かしら違反行為を見つけたらすぐにスイッチを入れろ。CADについてだが、風紀委員は学内携行が認められている。使用についても各自の判断に任せるが、不正使用が判明した場合は厳重な罰が与えられるので注意するように」

 

「質問があります」

 

 

 説明が終わるタイミングを合わせて達也は摩利に質問を求めた。摩利が「許可する」と言ったため達也は部屋の棚に無造作に置かれたCADを見て言った。

 

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

「構わないが、あれは旧式だぞ?」

 

「確かに旧式ではありますが、エキスパート仕様の高級品ですよ、あれは」

 

 

 達也の説明になるほどと感心している摩利の横で、ある程度CADの知識を有していた慎悟は逆に達也の説明に頷いていた。

 それから摩利の許可を得た達也は棚へと近づき、そこからCADを()()取ってから腕に装着した。

 

 

「では、この二機をお借りします」

 

「二機.....?本当に面白いな、君は」

 

「慎悟も借りていくか?」

 

「俺はいいかな、自前のがあるから」

 

 

 達也の質問に慎悟は自身の左手に着いている濃い青色のCADを見せながら断った。そのCADを見た達也は以前から気になっていた慎悟が持つCADについて、この機会に聞くことにした。

 

 

「そういえば慎悟、お前の持つそのCADはどこのものなんだ?全く見たことない形をしているんだが」

 

「あぁ、これか?これもあの同居人に貰ったんだよ。だからどこのものかは分からないな」

 

「はぁ、また同居人か.....」

 

 

 慎悟の口からまたもや出た同居人という言葉に達也はため息をついてしまった。もはやここまで来ると驚きもしない、そういうものなんだと達也は思い始めていた。諦めとも取れるがある意味それは正解である。

 

 

「ほんとに慎悟君の同居人は一体何者なんだ?想像もつかないのだが.....」

 

「割と人間臭い普通の人ですよ、ちょっと語尾は特徴的ですけど」

 

「そ、そうなのか。ますます想像出来ないな」

 

「俺は是非とも一回会ってみたいものだ」

 

 

 達也が叶わぬ願いといったように呟いたが、慎悟は横にいるこの話の中心人物である天使を見た。

 その天使、マルカリータは達也に一度目を向けた後にっこりと微笑んで頷いたため慎悟も笑いながら達也に提案した。

 

 

「なら今度、俺の家に来るか?多分あいつも喜んで歓迎してくると思うんだけど。どうだ?」

 

「!それは有り難い申し出だが、ほんとにいいのか?」

 

「あぁ、全然問題ないよ。深雪も一緒でいいし」

 

 

 慎悟の予想外の提案に達也は目を見張った。彼の中では慎悟の次に来るほど気になっていた人物であったため、それは願ってもないものである。

 場所も忘れて早速予定を決めようとしていた二人であったが、その様子を見ていた摩利がそこに口を挟んだ。仲が良いことは結構だが今は風紀委員の仕事の方が優先だと。

 

 摩利に言われ、会話を中断した慎悟と達也は急いで風紀委員会本部から出て巡回に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、巡回に向かいますか」

 

「そうだ慎悟、巡回なんだがエリカも一緒でいいか?レオも美月も入るクラブを決めたみたいで二人で見て回ることになったんだが」

 

「エリカが?じゃあ先にそっちだな、どこで待ち合わせしてんの?」

 

「教室前だ。集まりが終わった後に行くと言っておいた」

 

「てことは1―Eか、さっさと行かないとエリカから小言をもらいそうだ」

 

 

 二人は急いで─とは言っても廊下を走ることはせずに、少し早歩きしながらエリカのいる教室へと向かった。

 教室までは大した距離はないため少し歩けば着いたが、そこにエリカはおらず中を見てもそれらしき人物は見当たらない。これには慎悟達も首を傾げた。

 

 

「あれ?いないな」

 

「エリカのことだきっと先に行ってしまったのだろう。しょうがない、巡回しつつエリカのことも探そう」

 

 

 達也の提案に頷いてから慎悟達は校舎から出た。

 外の状況はまさにお祭り騒ぎという言葉が似合う状態であった。各クラブが順番にテントを並べ、新入生に興味を持ってもらおうと声を張り上げて勧誘をしていたり、やや強引に腕を引っ張ってまでも自分のクラブの方へと連れて行こうとしていた。

 

 

「なんか想像してたよりも遥かに盛り上がってんのな」

 

「どのクラブも優秀な生徒、特に一科生などは喉から手が出るほど欲しいのだろう」

 

「達也はどこかのクラブに入ったりしないの?」

 

「今は風紀委員があるからな、それに特に入りたいものはなかった。慎悟はどうなんだ?」

 

「俺も特に無いかな、もっと身体を動かせるものがあればいいんだが.....」

 

 

 たとえ魔法科高校の部活だとしても自身が全力でやれるものがないため、慎悟からしたら少々物足りないのだろう。手をヒラヒラさせながら残念そうに慎悟はそう言った。

 特に違反行為を見かけることなくエリカを探しながら各クラブの熱烈な勧誘を眺めていると、一人の女子生徒が複数のクラブの人達に囲まれ騒々しくなっているのを目にした。

 

 

「あの....!もう離してください.....!」

 

「あの声って.....」

 

「.........おそらくエリカだろう」

 

 

 人混みの中を覗くと、そこには確かにエリカがいた。二科生がこうも熱心に勧誘されることはとても珍しいことであるが、理由は単純にエリカが深雪とまた違ったタイプの中々お目にかかれない美少女であるためだと考えられる。

 例えそこで結果を出さなくてもそのクラブの顔、つまり広告塔やマスコット的なキャラクターになってくれればそれでいいのであろう。

 

 慎悟と達也はエリカがその内力尽くでその場を脱出するのかと思っていたのだが、囲んでいる相手が女子生徒であるせいかそれを躊躇しているように見えた。

 

 

「ちょっ!どこ触ってるの、や、やめっ.....」

 

 

 そうこうしているとエリカの悲鳴に似たような声が響いた。どうやら本格的に冗談にならない状況になっているようだった。

 二人は即座に判断を下してエリカの下へと走り出した。慎悟が当たり前のように自分のスピードについて行っていることにもはや達也は何も感じない。

 

 

「達也、一瞬気を引き付けるからその間にエリカを頼む」

 

「何か考えがあるのか?」

 

「まぁそういうとこ。あと、絶対に後ろ振り返るなよ」

 

 

 慎悟のその言い方に少々疑問を感じた達也であったが、それを聞く時間もないため一度頷いてから正面を見てエリカの下へと一直線に向かって行った。

 ある程度集団に近付いた所で慎悟は一度立ち止まり、手を広げた状態で額にかざした。この独特なポーズをとった後、慎悟はある技名を叫んだ。

 

 

「太陽拳!!!」

 

 

 その瞬間、あたりが光に包まれた。

 慎悟が使用した技は『太陽拳』。名前の通り太陽光を反射させたかのような輝きを出す技である。特に身体に害がある訳でなく、言ってしまえばただの目眩し、閃光魔法とやっていることは変わらない。

 

 しかし、目で相手の動きを把握する生物相手に対してはその効果は絶大である。その結果エリカの周りを囲んでいた生徒達の半数以上が条件反射的に怯んで目を押さえた。

 残りの者達は達也が対処をすることとなる。腕のCADを操作し地面を蹴りつけた際に起こる振動を足元に展開した魔法式によって増大させ、更に方向性を与える。それによって、平衡感覚を失った生徒達はそのまま倒れ込み尻餅をついた。

 

 

「走れ」

 

「えっ、ちょっと!」

 

 

 倒れた生徒の中をくぐり、エリカの手首を掴んで達也はその場を走り抜けていった。慎悟もそのことを確認してからその場を離れた。

 

 人気の少ない建物裏まで来たところで三人は立ち止まった。かなり走ったというのに余裕な表情を浮かべる慎悟と達也に対してエリカは、息を切らして何度も深呼吸をしていた。

 

 

「ここまで来れば大丈夫か......っ」

 

「さすがに追っかけてはこないだろ、大丈夫か?エリカ.....っ」

 

「!み、見るな!」

 

『見てはいけないのですます!!』

 

「うぎゃっ」

 

 

 エリカの無事を確認する為に振り返った二人は言葉を失った。エリカの服装がはだけて人様には見せられない状態になっていたからだ。それに気付いたエリカは顔を赤くしてすぐに服装を直し始め、達也は後ろを向き慎悟は自分で目線を逸らす前にマルカリータによって強制的に後ろを向かせられた。

 

 背中から布が擦れる音が無くなると慎悟と達也はゆっくりとエリカに向き直った。まだ顔は赤かったが先程よりも落ち着いているようであった。

 

 

「見・た?」

 

「見えた、すまない」

 

「ごめん、見た....」

 

「ばかっ!」

 

 

 素直に謝ってきた二人を睨み付けながらエリカは目の前にいた達也の脛を蹴り上げた。しかし、蹴られた達也よりも蹴った本人の方が痛そうであった。

 

 

「いてて......なんで慎悟君はさっきから首を押さえてるの?」

 

「いや、なんでもないよ。なんでも......」

 

『あまり女性のあのような姿を見るのは良くないのですますよ』

 

『はい、ごめんなさい.....』

 

 

 無理矢理首を動かされたせいで慎悟は首をさすっていたのだが、そこをエリカに突っ込まれた。なんでもないと言う慎悟の隣でマルカリータが少し不機嫌そうに慎悟の顔を見ていた。

 

 

 

*********

 

 

 

「おぉ!剣道部の演武って結構面白いもんだな!」

 

「そうかしら......」

 

「ん?エリカはそう思わないの?」

 

「.......だって、つまらないじゃない。見栄えを意識した立ち回りで予定通りの一本なんて。試合じゃなくて殺陣だよ、これじゃ」

 

「宣伝の為の演武だ、それで当然じゃないか?他人に見せられるものじゃないだろ?武術の真剣勝負は、要するに殺し合いなんだから」

 

「お前ら本当に高校生か?」

 

「「慎悟(君)には言われたくない」」

 

『だそうですますよ』

 

 

 慎悟達は現在、第二体育館、通称『闘技場』へと足を運んでいた。ここでは屋内で活動する部活が一定時間ごとに交代でデモンストレーション行っており、三人が来た時には丁度剣道部の時間であった。

 独自の部活が多い魔法科高校の中で比較的馴染みのある剣道部の演武を慎悟は楽しそうに見ていたが、エリカは正反対に退屈そうな顔をしていた。おそらくエリカは見栄え重視で本来の武を疎かにしていることがどうにも納得出来ないのだろう。

 

 エリカ達の考えに高校生らしくないなと考えた慎悟であったが、達也達からしてみたら慎悟の方が高校生とは思えなかった。主に身体能力的な意味で。

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 会話の途中で演武を行っていた剣道部の男子生徒が、何者かに飛ばされたせいで大きく尻餅をついていた。見るからに異常事態と分かる状況に慎悟達三人はすぐさま目を鋭いものへと変えた。

 

 

「桐原くん!剣術部の時間まで、まだ1時間以上はあるわよ!どうして待てないのっ?」

 

「心外だな、壬生。あんな未熟者相手じゃ、実力が披露できないだろうから、協力してやろうって言ってんだぜ?」

 

「無理矢理勝負を吹っ掛けておいて!協力が聞いて呆れる!」

 

 

 慎悟達が現場へと来ると既に二人の男女が口論をしていた。女子生徒の方は先程演武をしていた剣道部と思われ、長い黒髪を後ろで結っておりその綺麗な顔を怒りに染めている。

 もう一方の男子生徒は逆ににやにやと嫌な笑みを浮かべながら何か小馬鹿にするように女子生徒へと話していた。

 

 一触即発の雰囲気に闘技場にいたギャラリー達は動くことが出来ず顔を半分恐怖に染めながらその様子を見ていた。しかし、中にはこの状況を楽しそうにしながら見ている者もいた。

 

 

「面白いことになってきたじゃない」

 

 

 その者とはエリカのことである。さっきの退屈そうな顔と違い好奇心剥き出しの表情をして眺めていた。一緒に来た慎悟と達也も風紀委員として何かあればすぐに動き出せるようにし、ボイスレコーダーのスイッチも入れていた。

 

 

「さっきの茶番よりも断然いい対戦になりそうね」

 

「あの二人と知り合いなのか?」

 

「直接面識はないけどね」

 

 

 達也の問いかけにエリカは答えてから件の二人について説明し出した。

 

 

「女子の方は壬生紗耶香。一昨年の中等部剣道大会女子部の全国二位。男の方は桐原武明。こっちは一昨年の関東剣術大会中等部のチャンピオン、正真正銘、一位」

 

「確か剣術って剣技と術式を組み合わせた競技なんだよな?」

 

「そうよ、そもそも魔法師を目指す人は高校まで来て剣道をやる人は少ないわ、基本を身に付けるために剣道を始めるって人は多いけど本格的に魔法師になるのなら大体の人が剣道から剣術に移行するのよ」

 

「なるほどね、じゃああんまり関係が良くなかったりするのか....」

 

 

 エリカから剣術について詳しく聞いている間にも事態は進んでいた。紗耶香と桐原がお互いに竹刀を構えて向き合っていたのだ。

 

 

「心配するなよ、壬生。剣道部のデモだ、魔法は使わないでおいてやるよ」

 

「剣技だけであたしに敵うと思っているの?魔法に頼りきった剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」

 

「言うじゃないか、壬生。ならお望み通り見せてやるよ、剣術の剣技をな!!」

 

 

 その言葉が開始の合図となり桐原は一気に紗耶香との距離を詰め、頭部目掛けて竹刀を振り下ろした。それに怖気付くことなく紗耶香は桐原の竹刀を捌き続け、闘技場には二人の剣撃の音だけが響いていた。素人では何が起こっているのかも分からないだろう。

 

 

「あの実力で女子二位か.....すごいな」

 

「あぁ、あれが二位なら、一位はどれだけ凄いんだ?」

 

「違う.....あたしが見た時とはまるで、別人。たった二年でこんなに腕を上げるなんて......」

 

 

 二人の剣さばきに素直に感心していると、好戦的な目をしながらどこか嬉しそうな雰囲気でエリカがそう言葉を零した。武道を嗜んでいる者は強者と戦いたいという欲求が特に強いのであろう。

 

 その後も二人の攻防はしばらく続いたが徐々に変化はしていた。桐原の表情が段々と苦しいものになっていき紗耶香の方は始まった時と変わらず平然としていた。そして一際大きな音が響いた後二人の動きは止まり辺りも静かになった。

 二人の様子を見ると桐原の竹刀は紗耶香の左上腕を捉え、紗耶香の竹刀は桐原の右肩に食い込んでいる。

 

 

「最後に迷ったか」

 

「そうだな、桐原先輩は途中で狙いを変えた、完全に相打ちのタイミングだったが、非情にはなれなかったようだ」

 

 

 勝負に勝った剣道部の人たちは安堵の表情を浮かべ、負けてしまった剣術部の各々は悔しそうに紗耶香のことを睨んでいた。どちらが上か、もはや勝負はついてしまった。

 

 

「桐原くん、真剣なら致命傷よ。素直に負けを認めなさい」

 

「真剣なら?がっかりだぜ。壬生、お前真剣勝負が望みか?だったらお望み通り真剣で相手をしてやるよ」

 

 

 不敵に笑いながらそう言った桐原は左手に装着していたCADを操作し出した。するとガラスを引っ掻いたような不快な騒音が届きサイオンの光が桐原の竹刀を覆った。

 魔法式を展開すると同時に紗耶香との間合いを詰めた桐原はその竹刀を振るった。咄嗟に後ろに下がってその攻撃を回避した紗耶香であったが、彼女が着ていた胴衣が横に切れていた。もし彼女が少しでも回避が遅れていたら、きっと無事では済まなかったであろう。

 

 

『マルカリータ、あれって.....』

 

『あの切れ味を見るに、振動系・近接戦闘用魔法である「高周波ブレード」ですますね。殺傷性ランクはB』

 

『おいおい、そんなもの振るってんのかよ』

 

 

 高周波ブレードとは刀身を高速振動させ、固体を局所的に液状化させ切断する魔法であり、殺傷性ランクが示す通り人間を容易に殺すことも可能である。

 そんな危険な物であるにも関わらず、桐原は構わずにそれを振るい紗耶香に迫っていた。

 

 

「どうだ壬生、これが真剣だ!」

 

 

 桐原は先程よりも早く鋭くその竹刀を振り上げた。もう避けることは出来ない。闘技場がさっきとは違った意味で騒々しくなり、女子生徒は悲鳴を上げ顔を青ざめている者もいた。

 紗耶香に竹刀が届く瞬間、二人の間に入り込んだ男子生徒がいた。

 

 

──バシン!

 

 

「おもちゃみたいに振るものじゃないですよ、これは」

 

「なっ!お前、どうして.....」

 

「嘘でしょ.....」

 

「慎悟の手に何かが集まっている?サイオンか?」

 

 

 桐原に立ちはだかった男子生徒──慎悟は高周波ブレードを左手で()()()()()いた。普通なら受け止めた腕は切り落とされていても不思議ではないが、慎悟は手に気を集中させていたためそれを防ぐことが出来ていた。

 驚愕している人達を他所に慎悟は桐原の竹刀を握り潰して魔法を消し、桐原に手刀を入れて気絶させた。一切無駄のない鮮やかな動きである。

 

 

「見せびらかす為の魔法じゃないだろ.....」

 

「慎悟!」

 

「達也、さすがにこれは報告しないとまずいよな?」

 

「そうだな、ここまで事態が悪化した以上しょうがない。桐原先輩には魔法の不正使用ということで同行してもらおう」

 

 

 慎悟の隣に来た達也は状況と逮捕者を連れて行くため風紀委員本部に連絡を入れた。しかし、これに反抗する人がいた、剣術部の部員である。

 慎悟が出てきた時には状況を理解出来ずただ立っているだけであったが、達也がくると目の色を変えた。二科生が風紀委員の腕章をしていたからだ。

 

 紗耶香がなんのお咎めなしで桐原が連行されるということに対して食ってかかった剣術部員であったが、達也はそれに律儀に答えた。

 しかし、その態度が気に食わなかったのか剣術部員は達也に掴みかかったが、達也にその程度のことが通用する訳でもなく軽くいなされていた。慎悟の方にも襲いかかって来る者がいたが、指先一本触れることも出来ず、まるで遊ばれているかのように全部避けられていた。

 

 その後も十人以上の者が慎悟と達也に向かっていったが全く相手にされずひたすら避けられ反撃もされていなかった。中には魔法を使おうとした者もいたのだが、それは達也が魔法式を消していた為発動は出来ていなかった。

 

 

「これいつまでやってればいいんだ?」

 

「さっき風紀委員本部には連絡をしたからその応援が来るまでだな」

 

「了解、それとさっきから俺の動きずっと見てるよな?」

 

「やっぱり気付くか。すまない、どうしてもこの前のが気になってな」

 

 

 この騒動の中でも達也は慎悟の動きを注視していた。自分が相手にされなかった男の動きを見て何かを得ようとしていたのだろう。

 別に見られても困ることは何もないため慎悟は達也に対して怒ったりなどはしなかった。

 

 それから他の風紀委員が来るまで二人は剣術部員と遊び続けた。

 

 

 

 




「で、いつ俺の家に来る?」
「こっちが向かう側だからな、慎悟の都合に合わせるが.....」
「そうか、じゃあ定期試験が終わった後なんかはどうだ?」
「大丈夫だが、随分先の話だな」
「これからちょっと忙しくなりそうだからね」




読んでいただきありがとうございました!
では、また次回の更新で!
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