忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
「いくぞ……うおぉおおおおお、
凄まじい閃光と共に、カオスドラゴンは光の渦に完全に飲み込まれた。
剥き出しになったカオスドラゴンの
リムルはそれを見逃さずに、‶心核〟を守り抱くツキハが破壊の光に飲み込まれるその前に、『
時間と空間を無視し、『
膨大な
「リ、リムルよ、不味いのだ! このままでは爆発してこの辺り一帯が吹き飛ぶぞ!?」
ミリムはリムルの合図で既にドラゴノヴァの発動を止めている。
だがしかし、空中には未だに、空間を歪曲させるほどの巨大なエネルギー力場が発生していたのだ。
力と力がぶつかり、超圧縮されたエネルギーの辿る末路は――相反する力同士の反発と、超圧縮された破壊のエネルギーの解放。
もう、大爆発を起こすのは時間の問題であった。
これを吹き飛ばすのは、流石のミリムでも無理なのであろう。
焦ったようにリムルを見るミリム。
そんな見リムルに大丈夫だというように笑顔を見せるリムル。
「心配するな、ミリム。アレは俺が何とかする!」
「出来るのか!?」
リムルから出た言葉に驚くミリム。
(うーむ。その称賛に満ちた視線は心地いいんだけど、これで失敗したら面目丸つぶれ、いや、そんな事言ってる場合じゃないな。本当に大丈夫なんですよね、
と、内心で独り
《是。問題ありません》
それに、いつもと変わらぬ淡々とした言葉で返す
(相変わらず頼れる相棒だよ、先生)
その変わらぬ物言いに、どこか安心感を覚えるリムルだった。
リムルは不敵な笑みを浮かべ、カオスドラゴンだったモノを見つめる。
『アレは既に残骸だ。喰らい尽くせ、
高らかに
(しかし、あんな凄まじいエネルギーの集合体を、本当に喰らい尽くせるのだろうか?)
そんなリムルの心配をよそに、
リムルの創造を遥か超えて、ヒュゴウッと暴風が吹き荒れるが如く轟音を響かせると、一瞬で全てを吞み込んだ。
そして、訪れる静寂。
「終わった……のか?」
「いや、まだだよ。お前の友達を何とかしないとな」
「えっ!? 本当に何とかなるのか? それと、ツキハは無事なのか?」
「ああ、無事だ。それと、こんな時の為に、コレを用意したのさ!(嘘だけどな)」
そう言ってリムルが取り出したのは、‶
「……?」
ミリムが理解不能という顔をするも、リムルは自分の中の意識へ集中する。
(理論上は可能だ。そう、
リムルは必ず成功すると信じて、作業を開始する。
まず、心核を抱くツキハを丁寧に心核から離すと、ツキハが抱き抱えていた
この時ツキハは、無茶のし過ぎで
作業は殊の外簡単に終了した、が。
(さてと、問題はこの後だ。‶
焦るリムル。
表面上は焦る様子など微塵も見せずに、内面で必死に打開策を模索するリムル。
そんなリムルの頭の中に、ある事が閃いた。
(そう! そうだ、あれだよ。映画や漫画やラノベでよく使われるシーン、あれだッ!)
「ミ、ミリム。このカオスドラゴン君には、名前などないのかな?」
「名前、だと? そんなものは……」
(ヤバイな。何か、何か他の手立ては……)
目まぐるしく思考を巡らせるリムル、その時――
「ガイアだ! いつか、そう呼んでやろうと思っていた。この者の‶名〟は、ガイアなのだ!!」
イイナマエジャン
アンタ ノ ナマエ ガイアダッテヨ
『お? 起きたのかツキハ』
ウン イマオキタ
『そうか。本当にお疲れ様、ツキハ』
ドウイタシマシテ
トコロデ ココ ドコ?
ナーンモ カンジナイ クウカンナンダケド
『俺の『胃袋』の中だよ』
アア ドウリデ
クワレタンカ アタシ ッテナ ククッ
『喰ったという表現はそうだけど、喰ってねえよ!』
モウ ジョウダン ダッテ オコンナ!
ソレヨリ ハヤク オキナ ガイア
ダイスキナ ミリムガ マッテルヨ
『そうだぞ、ガイア。お前の友達が泣く前に、さっさと目を覚ました方がいいぞ?』
ガイアの心核に呼びかけるツキハとリムル。
すると、フウッと‶
成功である、魂に心が宿ったのだ。
その後リムルは、ガイアの宿った‶
これで、後は時間が解決してくれるだろう。
ガイアの場合は
そして、望む姿となり、新たな魔物となってミリムの前に誕生する事となるだろう。
それからリムルは、左手の手の平を上に向け、『胃袋』に保護していたツキハを外に出す。
手の平に小さな光球が現われ、赤い魔素粒子を巻き上げると、手の平サイズの黒猫の子猫が具現化した。
子猫のツキハは、トットッとリムルの腕を登って行き、左肩の上にチョコンと座る。
ミリムはリムルとツキハを見て、何かを言いたそうにしていた。
そこへ。
「成功したよ、ミリム。これが新しいガイアだ。まだ生まれていないから、卵みたいだな」
リムルはそう言って、‶
「うん、うん! やはりお前に任せると、全て上手く行くのだな。信じていたぞ、リムル。そして、本当に無事で良かった、ツキハ。二人がいなかったら、ワタシは……ありがとう、ありがとうなのだ!」
(良かった良かった。喜んでくれて何よりだ)
これで一件落着とリムルも顔を
「なあ、リムル」
「うおっ!?」
後ろから声をかけて来たのは、コハクだった。
気配というか、存在すらも
「お前なぁ、いきなり後ろから現われるとかやめろよな。マジで、心臓に悪いから!」
「うむ。相変わらず隠形の術は凄いな、コハク。ワタシでも気付くのが遅れたぞ」
「え? ミリムはアレに気付いたんだ……」
ミリムに寸前で気付いたと言われ、少し落ち込むリムルだった。
しかし、そこはリムル、気を取り直してコハクにここに来た理由を訊ねる。
「コハク、何でここに来たんだ?」
「何でって、決まってるやないか。ツキハを迎えに来たんどすえ」
「えっと、それだけ?」
「へえ。それだけやで」
コハクはそう返すと、リムルの前に立ち、右手の平を上に向け差し出した。
それを見たツキハは、リムルの肩からピョンと飛んでコハクの手の平の上に降り立つ。
コハクは手の平の上のツキハを優しく撫でながら、「アンタも無茶しよってからに」と言い。
ツキハを右手に載せたまま、左手で胸の前を少し開き、そっと自分の胸の谷間にツキハを入れた。
コハクの胸の谷間から頭だけをピョコッと出してるツキハは、文句も言わずそのまま大人しくしていた。
(あ、そこに入れるんだ。しかし、ツキハが怒らないとは、解せぬ。弱体化してるからだろうか……?)
それを見たリムルがジト目になっていると。
「なんや?」
「いえ、何でもないです」
「さよか」
どこか妖艶な笑みをフッと浮かべ言い、ミリムに言葉をかけるコハク。
「ミリム、良かったどすな。友達が助かりはって」
「うむうむ。リムルとツキハのお陰なのだ!」
満面の笑みで言うミリムに、微笑みを返すコハク。
「ほな、うちはこれで帰りますさかい、と、リムル」
「ん? 何だ、コハク」
「ツキハを守ってくれて、おおきに。感謝するで」
「いや、俺もツキハに助けられた部分もあるし、本当に無事で良かったよ」
「そうどすな。ほな、またな、リムル、ミリム」
コハクはそう言うと、パッと蒼白い魔素粒子を足元から巻き上げると、ツキハを連れて『空間転移』でテンペストへ帰って行った。
そして、リムルもまたミリムに向き直り。
「よし、帰るか。皆も心配してるだろうしな」
「うむ! ワタシの活躍を、皆に語って聞かせるぞ!」
(はいはい。手加減はしてやれよ、ミリムと言いたいが。ミリムとツキハがいてくれて助かったよ。あんなの、俺一人ではどうしようもなかっただろうからな)
遠くには城が見えた。
心配そうにコチラを見ている、リムルの仲間達の姿も見えて来た。
(皆も無事そうで何よりだ。これにて一件落着ってな。はあ~、何か疲れがドッと押し寄せ来た感じだ……。帰ってゆっくりしたいな。風呂に入って、キンキンに冷えたビールで乾杯したいね)
リムルは心から溢れ出る喜びを噛みしめ、ミリムと共に仲間達の下へと帰還したのだった。
★悪は
ユウキはマリアベルの力を得た。
「最初から相談して欲しかったですわ」
「ははは、だから言っただろう? そのお陰でマリアベルも
「ですが、ワタクシの表の部下達を誤魔化すのは、とても大変だったのですわよ?」
ユウキとリムルが戦う中、カガリはユウキの力の秘密が漏れないように隊員達の注意を自分引き付けていたのだ。
「まあ、君を信じていたからね。結果的には上手く行ったんだし、文句を言うのは止めて欲しいね」
「ええ、わかりましたわ。しかし、マリアベルから力を奪ったようですが、それも予定通りなのですか?」
「ああ、一応ね。大罪系はユニークスキルの中でも最強らしいから、狙ってはいたよ。‶欲望〟の大きさこそが『
「本当、無茶苦茶な方ですわね。普通は他人の
「まあ、そうだろうね。でもな、これが出来るんだよ。奪う事が、ね」
「本当ですの?」
「ああ。ルヴナンからこの情報を仕入れるのに、どれだけの大金を使ったことか」
そう言いながら、どこか忌々し気な表情を浮かべるユウキ。
「カガリ。魔人ラーゼンを覚えているかい?」
「ええ、旧ファルムス王国の魔導士でしたわね」
「アイツさ、召喚した
「そんなことが。でも、殺してはいないですわよね?」
「フフッ。もう一つ重要な情報があったんだよ、カガリ」
ニイッと口角を上げ、不気味な笑みを浮かべ言うユウキ。
「魔人ラーゼンの配下で、同じ日本人の召喚者のショウゴという少年がいてね。魔王リムルの配下との戦いの中で追い詰められて、仲間の同じ召喚者の少女を殺してね、
「仲間を殺してとは、悪党ですらないですわね」
カガリは、自分達が悪であれ、仲間だけは何があっても切らないという
「僕は、コレを聞いて歓喜したね。じゃあ、マリアベルを殺したら、『
「それも驚きですけど、ルヴナンの情報網の恐ろしさを、今一度思い知らされた気分ですわ」
「本当に、本当に忌々しくて厄介なヤツラだよ、番外魔王含めてのルヴナンは。この『
「――そうですわね。番外魔王の二人は、存在自体が理不尽そのものですもの。同じく、魔王リムルもですけど」
「まったくさ。でもこれで、全ての悪事はマリアベルのせいだったと、いう事に出来るんだけど、これに関しては半々だね。番外魔王の二人がどう出るかわからないから、何とも言えないかな。とりあえず、番外魔王の二人にだけは、喧嘩を売らないようにしないとね、今後の為にも。だから、当面は大人しくするさ、楽しみが増えたって事で良しとしよう」
「そうですわね。こうなっては焦っても仕方ありませんわ。それに番外魔王の二人は、恐ろしいほど狡猾で用心深い魔物。寝首を掻かれないようにしなくては、なりませんわね」
ユウキとカガリは、そう言って
そこでユウキが、ある事をカガリに言った。
「ところでさ、意外な収穫もあったよな。マリアベルが手配した‶
「そうですわね、ワタクシも気付きましたわ。評議会は西方聖教会と繋がりがあった。その理由こそ、五大老の長の正体に秘密がある、と」
「その通り。ファルムスの乱で英雄の評価は失墜した。これは新聞でも話題になった通りだね。でだ、これと連動するように、評議会からの西方聖教会への影響も薄れた訳だ。それが指し示す事実は、一つ! マリアベルの大祖父グランベル・ロッゾの正体は、‶七曜の老師〟だと僕は確信したね」
「なるほど……流石はユウキ様、見事な読みですわね」
カガリは自分の読みと、ユウキの読みがある程度一致していた事で、確信に到った。
そしてユウキは、まだ重要な事がわかったとカガリに告げる。
それは、マリアベルが何故あんな強引な手段を取ったのか?
魔王リムルを殺せば、‶暴風竜〟ヴェルドラが暴れ出す危険があり。
しかも、そのヴェルドラに呼応して番外魔王の二人までもが暴れ出す危険も含んでいたと。
更に、カオスドラゴンまで利用して、魔王ミリムの逆鱗に触れる危険性も十分あったと。
そこまで言うと、少し間を置いて口を開くユウキ。
「とにかく、流石に無茶ぶりが過ぎるんだよ」
「言われてみれば、確かに……」
「マリアベル自身、そうした危険性に気付かない訳がない。最悪、そうなった場合の対処も考えていたはずなんだ。じゃあ、それは何なのか?」
ユウキは、真っ直ぐにカガリを見てそう問いかけた。
「そうですわね……皆目見当がつきませんわ」
「まあ、普通はそうだろうね。まず、最悪の事態が起こった場合、西側に及ぼす被害がどれだけになるのか、正直、僕にもわからない。だけどね、どれだけの被害になるのかある程度予測出来てれば、リスクと自分に及ぼす利益を天秤にかけられるだろうね」
「――つまり?」
「マリアベルには、ヴェルドラやミリム、それに番外魔王の二人が暴れても何とかなるという根拠があったんだと思う」
「……」
「それは何か?」
「……グランベル」
「違う」
そう断言したユウキは既に答えに行き着いており、ニヤリと笑い、カガリを見る。
「ラプラスが聖地で戦った相手は誰だった?」
「それは、魔王ヴァレンタイン……あっ!!」
カガリの反応を見て、ユウキの笑みは深まる。
「そう、魔王ヴァレンタインは死んだ。でもね、おかしい事に
「あの魔王ヴァレンタインでさえ、全盛期のワタクシと互角でしたのよ。それならば……」
「本物はもっと強いって事さ! そして、今確信したよ。ルミナス教の総本山、そこを魔王が根城にしているという事は――」
「魔王ヴァレンタインの正体は、神ルミナスだとでも? そんな、まさか、有り得ないわ……」
「フフッ。そのまさか、さ。まず、間違いないと思うぜ。神ルミナスの正体は、
ユウキの確信に満ちた声に、カガリもまた、真実へと辿り着く。
「そう、か、そうですわね……。グランベルならば、その真実を知っていても不思議ではない、と、いう事ですわね」
「そうとも。そして、マリアベルも知っていたんだ。知っていたからこそ、西側諸国は神ルミナスに守護されていると判断したんだよ」
「そう考えると、何もかも
カガリも今までの情報と状況を踏まえ、納得を示す。
「そうなると、戦略の立て直しが必要ですわね」
「そうだね。でも、どうせ
「それと、番外魔王の二人、ルヴナンに関してはどうしますの?」
「手は出さないし、喧嘩も売らない。お互いに利用し利用される存在である、という事が賢明だろうね。まあ、少しだけちょっかいくらいは出すかもだけど」
「確かに。ワタクシが魔王だった頃でも、表立って争いたくはない魔物だったですもの」
「そう言えば、詳しくは聞かなかったけど、どのくらいの強さなんだ? 番外魔王の二人は。といっても、強いのは理解しているんだけど、どこか妙に曖昧な時があるんだよね。あの二人の強さが」
「確かに。覚醒魔王に進化する前でも、本当に不気味でしたのよ。正直、魔王だった頃あの二人を前にして感じた事は、強いか弱いか判断が付かなかったのですわ」
「鑑定眼は使わなかったのかい?」
「もちろん、使いましたわ。結果は、全盛期のワタクシより、格下、そう見えましたの。でも、それがとても恐ろしく感じたのも事実でしたわ。ワタクシの本能が警鐘を鳴らして、決して戦ってはならないと、そう告げていましたわ。アレは、普通の魔物とは違う、本当にそう思いましたわね」
「そうか。それは本当に賢明だったね。多分戦っていたら、今ここにはいなかったかも、ね」
「そう、ですわね。ワタクシの推測では、魔王レオンより強い、そう感じますわ」
「番外魔王。言い得て妙だけど、魔王ならずして魔王と同等の力を持つ魔物。そうそう、次会ったら僕の質問の答えをくれると言ったんだ、番外魔王コハクがね」
「何の質問の答えですの?」
「それは、会った時のお楽しみさ」
ユウキはそう言ってカガリに笑って見せた後、急に真顔になり告げる。
「でだ、僕は、この世界の王になる。君達にも約束しただろう? 僕がこの世界を手に入れるってね!」
「そうでしたわね。フフ、フフフフフ。楽しみだわ、本当に、楽しみ。クレイマンも、きっと喜んでくれますわね」
「ああ。だから、ちゃんと協力をしてくれよ?」
「ええ、勿論ですとも。貴方も、決してワタクシ達を裏切らないで下さいね、ユウキ様?」
「当然だろ? 必ず世界を手に入れよう。そして、皆で面白可笑しく暮らそうぜ!!」
ユウキとカガリは顔を見合わせて笑う。
一室に響く二人の笑い、
まるで、ゲームを楽しむように、魔人達は世界を狙う。
世界征服――この無謀ともいえる願望を、本気で実現する為に……。
★これからの事、そして未来の行く末★
リムルは魔国に帰還し、一人
カオスドラゴンをミリムの友達を救った。
無事だったユウキの説明によれば、追い詰められたマリアベルは自爆したらしいとの事だった。
マリアベルは、リムルを巻き添えにするつもりだったらしく、遺跡の最下層は自爆により完全に埋まってしまっていた。
(そこまでにして、俺を始末したかったのか……)
リムルは、何ともやり切れない気分になる。
あの一件により、ユウキの疑惑は晴れたのだが、素直に喜べない自分がいたのだ。
(うーん、ユウキと今まで以上に協力関係は築けて、いるんだけど……何か、こう……)
リムルが一人思案に頭を悩ませていると――
《否。疑惑が確定しました。個体名:
『えっ? いや、それならどうして、今まで黙っていたんだ!?』
《解。その行動原理が簡単で、利用可能だったからです。これは、コハクとも意見が一致しています》
『そんな理由で? いや、うん、そうだったのか……。
《……》
――そうだな、俺の甘さが原因だ。あの時、俺はマリアベルを殺す事を
明確に殺意を向けられていたのに、迷うべきではなかったのに……。
‶覚悟〟は決めた、そのハズなのに、また、迷いが生じてしまった。
見た目が幼女だからか? 違う、この世界では見た目だけでは判断出来ない。
そんな事はわかっているハズなのに……。
ツキハなら、コハクなら、迷いすらなくマリアベルを殺せただろう。
ガイに対しても、殺した後でやり過ぎた気分になっていた。
だから、マリアベルに対して心が鈍ってしまったんだ。
俺では、マリアベルを殺せない。
そう判断したからこそ、
《……是。そうする必要がある、と判断しました。これには、コハクの助言も含まれています》
(勝手な真似を――とは言えない。事実、
《否。それは違います。
『ありがとう、
《……》
『でもな、嬉しいけどそれじゃ駄目なんだ。ちゃんと受け止めて、俺が俺の意志で決定しなければならない。そうでなければ、
《……》
『
《……》
『なあ、
《了。御心のままに》
(ユウキが何を企もうと、俺がその野望を打ち砕いてみせる。俺は一人ではない。仲間もいるし、頼もしい相棒もいる。なあ、そうだろう?)
その時、
★最後は、忍法○○○○○★
魔国に戻ったツキハとコハク。
ツキハはまだ、子猫のままである。
とりあえず、リムルに頼んでいる憑依体の完成までこのままでいるつもりのツキハであった。
コハクの胸の谷間で惰眠を
そして、ツキハを胸の谷間に入れたまま出かけようと家を出たコハク。
そこへ、サンコがやって来た。
「コハク様、頼まれていた西側諸国の動向の情報にゃあ」
「ご苦労さんどす、サンコ。報酬は本店でもらいなはれ」
「にゃあ、わかったにゃあ」
サンコはそう言って立ち去ろうとしたが、振り返ってある一点を凝視して立ち止まる。
「にゃあ? にゃ、にゃッ!? ツキハ様にゃ?」
コハクの胸の谷間で寝ている子猫を指差して、驚きの声を上げるサンコ。
「何よ、サンコ?」
目を覚ましたツキハがそれに答える。
「にゃあ……ツキハ様、弱体化してるにゃ?」
「そうよ。だから、なに?」
「にゃふふ。何も、ないにゃよ」
思い切り含み笑いを漏らすサンコ。
そして、次の行動に出る。
『みんにゃあああああああっ! ツキハ様が、馬鹿主が千と数百年ぶりに弱体化してるにゃよぉおおおお! 今がチャンスにゃああああ!!』
『思念伝達』で、眷属達に呼びかけるサンコであった。
『『『『『何だってぇえッ!?』』』』』
一斉に暇している眷属達が反応する。
続々とルヴナン敷地に『空間転移』してくる眷属達、その数百体以上。
あっという間にコハクを取り囲み、子猫のツキハを
「ちょ、やめっ、触んな、クソがぁあああッ!!」
代わる代わるに頭を撫でられ、
シャーシャーッと威嚇の声を上げ、前足の爪を伸ばし眷属達の手を攻撃するツキハ。
しかし、今のツキハの爪では、眷属達にとってくすぐったいだけであった。
「可愛い、ツキハ様。もう、そのままでいて欲しいわぁ」
「流石のツキハ様も、こうなれば怖くもないな」
「猫使いの荒い、馬鹿主に天罰を!」
「よーしよし、大人しくしてねぇ。今、思い切り頭を殴って、じゃなくてぇ、撫でてあげるわよぉ」
「ウハハハハッ! 覚悟しろ、守銭奴馬鹿主めっ!」
相変わらずの言いたい放題である。
そして、事の発端のサンコは、既に何かを察して逃亡していた。
「アンタらなぁああああああああッ!!」
両前足を上に上げ、シャアァーーッと最大の威嚇をするツキハ。
流石の眷属達もそれに
ツキハが、眷属達をジロリと見回し――
「忍法、チチ
と、静かに言葉を告げ。
スススーッとコハクの胸の谷間に完全に潜ってしまった。
その反動で、ポヨンと軽くコハクの胸が揺れ動く。
「「「「「「はあぁっ! エロ猫様の胸に完全に潜りやがった!!」」」」」
コハクの胸に完全に隠れたツキハを見て、叫ぶ眷属達。
「そんなもん、俺が引きずり出してやるわ!」
今日は魔王役の仕事がないムツオが、コハクの胸に手を出し、指先が触れた瞬間――
ズバアンッ! 凄まじい打撃音が鳴り響くと同時に、ムツオが盛大にキリモミ状態で大森林の方へ吹っ飛んで行った。
コハクの裏拳がムツオの顔面に放たれたのである。
ドオオォン! 何かに激突し、ザザザザァと樹々の倒れる音が響いて来た。
それを、大きく目を見開き見る眷属達。
「アンタら、うちの胸に触るなら、命を捨てる覚悟で来なはれ。その覚悟があるなら、いつでも来て、ええで」
微笑みながら言うコハクの目は、笑ってはいなかった。
主からこう言われては、普通は何も出来ないのが当たり前、なのだが。
普通ではないのが、コハクとツキハの眷属である。
で、何が起こるのかと言うと――
「「「「「「上等だ、ごらあぁーーっ!」」」」」
男と女の眷属達が、一斉にコハクに襲い掛かる。
激しい土煙が上がり、轟音と共に吹き飛んでいく眷属達。
呪符が爆発し、コハクの蹴りと拳が荒れ狂う。
そこへ、眷属達の呪符が乱れ飛ぶ。
それを、
そして……。
一人、また一人と、地面に倒れ伏していく眷属。
やがて、最後の一人が倒れ、ルヴナンの敷地に静寂が訪れた。
「やーっと大人しくなったか」
ピョコっとコハクの胸の谷間から頭を出したツキハ。
「ほんま、しょうもない子達やわぁ」
ツキハの声に、クスリと笑い言うコハク。
「ほな、何か、美味しいもんでも食べにいくどすか?」
「だね。そういや、最近新しく出来た店があるじゃん、そこいこう」
「せやね」
そう言い二人は、中央都市リムルの歓楽街にある店に『空間転移』して行った。
後に残された、
復活に、数日を要したのは言うまでもない。
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