転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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112話:テクトのこだわり

 連絡を受けた翌日には予定も整い、謁見の間には重苦しい空気が漂っていた。

 

 テクト達の前には老人が平伏し、その後ろにアルベルトに敗北した三人が同様にひれ伏している。

 

 老人の名はガドラ。

 

 今回の謁見を申し込んだ張本人である。

 

 派手さはないが、高級感のある魔法服に身を包んでおり、老人とは思えない鋭い眼光をしていた。

 

 そして、後ろの三人だが、シンジーだけは偽名であり、本名は谷村真治というらしい。

 

 ガドラをはじめとしたこの四人は参謀なる女性の命令で魔国連邦の調査を行うこととなったらしく、目立つような行動を取っていたのは暗殺などを避けるための安全策だったようだ。

 

「ふむ。事情を正直に話したことは評価しよう。だが、互いに現状最大の仮想敵と見定めている敵国にいるのだ。この場で処断されても文句はあるまいな?」

 

 妖気を垂れ流し威圧するテクトにガドラが生唾を飲む。後ろの3人もその威圧感にただでさえ悪かった顔色をさらに悪くし、息苦しそうにして冷や汗をこぼしていた。

 

「まあまあ、それぐらいにしとけって。こんな状況じゃ落ち着いて話も出来ないし、場所を移そうか」

 

 リムルが執成すとテクトも妖気を収め、正常な呼吸ができるようになった後ろの三人はゆっくりと呼吸を整える。

 

「面を上げなさい」

 

「は、はは──ッ!!」

 

 シオンの言葉にガドラは了承で返す。その様子に大袈裟なものを感じたリムルは面倒くささを感じてこっそりとため息を吐いた。

 

 場所を移し、応接室。

 

 相手は名の通った人物とはいえ敵国の人間であり、ついでにアダルマンの友人ということで格式ばったものは必要ないとの判断からそれなりの家具がある応接室だ。リムルとしてはもっと過ごしやすい安めの家具の応接室を希望したいところだったが、テクトの判断に任せることにした。

 

 テクトは座るなり雰囲気を崩しコリをほぐすように首を鳴らす。リムルもテクトの膝へと収まり最低限の警戒を残すのみとなった。

 

「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

 

「じゃ、じゃあ、コーヒーで」

 

「シ、シンジィ──ッ!!」

 

 フランクに問いかけたリムルに思わずといった様子でシンジが反応する。問われたとはいえ要求をしたことでガドラは血相を変えるが、リムルは軽く宥め、ガドラにも聞く。

 

「ガドラさんは?」

 

「ワ、ワシですか? そ、それじゃあ、その、シンジと同じもので」

 

 リムルの問いに戸惑いながらではあるがガドラが答える。テクトがマークとシンに目を向けると無言で頷いたので全員コーヒーでよいと判断し、シュナへと視線を向けた。

 

「シュナ、アメリカンーいや、エスプレッソにしよう。ちょうどこの前マシンの開発が終わったからな。試すにはちょうどいい」

 

「え~、俺あれ苦手なんだけど」

 

「そういうなよ。せっかく作ったんだから」

 

「あ、あの!」

 

 声を上げたのはマークだった。会話に割り込んだことでガドラが叫びかけたがテクトはそれを目で制す。

 

「なんだ、お前も濃いのはダメか? まったく、なんで皆あの良さがわからないんだ」

 

 舌打ちでもしそうな顔でテクトが独り言ちる。明らかに機嫌を損ねた様子にマーク達が慌てる。

 

「いえいえ、そうではなく! その、御二人は“異世界人”なのではと……」

 

「そうだけど?」

 

「お前等、本当にこの国を探るつもりがあったのか?」

 

 マークの確認にリムルがきょとんとした様子で、テクトが実に呆れたという様子で応じる。

 

 魔国連邦の魔王二柱が“異世界人”であることは別段隠し事にしているわけでもない。少し調べればわかる基本情報の一つさえ知らなかった事実に、本題が地下迷宮内部の偵察であるとしてもあまりに杜撰と言わざるを得なかった。

 

 四人の顔をみると、どうやらガドラが伝え忘れていたのか失策を悟ったような顔をしていたが、重要なことではないため放置することになった。

 

「さて、話を聞こうか」

 

 全員に行き渡ったのを待ってからエスプレッソを楽しみ、カップを置いたテクトが視線を上げる。どうやら膝の上のリムルも含めてあまり受けなかったようでテクトが眉を寄せていると、ガドラは話を始めた。

 

 ガドラは大昔から大魔導を極めようと欲して何度も転生を繰り返し行っており、生まれ変わる度に、その国の魔導書を読み漁って膨大な知識を蓄えていた。

 

 その最中、隠れて魔導研究を行っていた時に知り合ったのが、親友となったアダルマンだったそうだ。

 

 アダルマンを謀殺され、西方聖協会に恨みを募らせたガドラは西側の制覇を目指していた帝国を利用するため、その身一つで入国し信用を積み重ねていたという。

 

 ヴェルドラと帝国の戦いにも事前に転生の儀式を済ませてから参加し、その経験から戦力的な勝利は不可能だと感じているらしい。

 

 現在の帝国であれば戦術的な勝利は可能だが、支配を目論む帝国の姿勢には不可能だと断言し、少しでも西側諸国へ差し向ける戦力を確保しようとしていたそうだ。

 

 ヴェルドラの力を知っている上にルミナス教の壊滅が本懐でそれ以外はどうでもいいガドラはドワルゴンと同盟し、軍事行動を見逃してもらうことで西側諸国への侵攻を主張していた。だが、覇権主義の軍人達はジュラの大森林の侵攻を強硬に主張し、ガドラは頭を悩ませていたという。

 

 しかし、ガドラは既にアダルマンの生存を知っている。この面会が終わり次第案内することになっており、すでにガドラには戦争を行う理由がない。

 

 皇帝とも懇意にしているガドラだが、軍事計画の撤回を奏上できるほどの立場ではなく、次回以降の会議で反戦の主張を上げることになっている。

 

 そして、ドワルゴンについてだが、ガゼルは帝国の要求を拒否し、彼の暗殺も計画されたが、ガドラが帝国の覇権主義のもと制覇を提言し、計画は立ち消えになったとのことだ。

 

 そのほか、帝国軍の内訳や上層部の考え方などガドラの知る限りの情報を聞き出し、最後にガドラは軽い調子で本音を語り始めた。

 

「ワシ、これといって帝国に義理などないのですよ。ワシが手塩にかけて育て上げた軍団も解体され、部下まで取り上げられてしまいましたでな。シンジ達はワシの弟子であったため一時的に預けられただけでして。アダルマンが無事-とは言い難いですが、まあ、元気にしておるなら、向こうに未練など何もありませんな。そんな訳ですので、これからは魔王両陛下の配下の末席にでも加えて頂けましたら、粉骨砕身働く所存ですじゃ!」

 

 ガドラが帝国に忠誠心などないと言い切った直後に鞍替えを求める。

 

 直後、空気が軋むような音を発し、妖気が部屋に充満する。妖気の発生源であるテクトは無表情のまま厳かに告げる。

 

「自分が何を言っているのか理解しての発言か? 俺には、貴様の転生すら許さず殺し切る手がある。お前が今生きているのは戦争を起こさずに済む可能性と、アダルマンの友であるという立場だけだ。それらを理解した上で答えろ。目的は何だ?」

 

「今この時でよろしければ、初心に立ち返り、大魔導の探求ですな。長年求め続けた復讐も根底から覆されましたので」

 

 妖気に身を縮こませず、謁見の際のように生唾を飲むこともなく答えたガドラをしばらく眺めていたテクトだったが、唐突に妖気を収めるとため息を吐きつつ頭を掻いた。

 

「仮雇用ってことにしといてやる。とっとと懐かしの友人との再会でも済ませてこい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ガドラが恭しく礼をすると応接室に樹妖精が入室し、アダルマンの元まで案内していく。

 

 シンジ達についてはこのまま魔国連邦への移住を申し出、裏切った場合は追放という条件の元承認された。

 

 ガドラの配置場所をすぐに決めるわけにはいかず、帝国を離れた後はいったんアダルマンの預かりとなった。

 

 十分に旧交を温め、帰国する旨を報告に来たガドラをテクトは指を一本向けた。

 

「ガドラ、当然ながら、俺はお前を信用していない」

 

 テクトの言葉にガドラは動揺しない。新入りで忠誠心もないと語った以上、当たり前の警戒だからだ。

 

「だがまぁ、長きを生きてきたお前の成果についてはある程度期待しておいてやる。戦争を止めるのが一番望ましい。だが、覇権主義を掲げている帝国をお前の抗弁一つで確実に止められるとは思っていない。そこでだ」

 

 テクトが取り出したのは迷宮の宝箱から入手できるアイテムだった。特質級も含む装備品や復活の腕輪、ポーションなどを並べていく。

 

「うまくいかないと判断した場合はこれらを使って軍を迷宮へと誘い込め。損失が発生しないという防衛においてこれ以上ない利点を持つこの地下迷宮で帝国の戦力を削ぐ」

 

「なるほど、その御考え、流石で御座います。強欲な指揮官に心当たりが御座いますので、こちらの策は必ずや成功するかと」

 

 ガドラは並べられたアイテムを見分し、誘導作戦を自信満々に請け負った。

 

 その様子にテクトは鷹揚と頷くとガドラを送り出し、いざというときに備えて防錆戦力の確認を行うのだった。

 

 

 ガドラを送り出し、数日後。

 

 執務室に姿のなかったテクトを探し、リムルが歩いていると、視界の端に煙がよぎった。

 

 火事の可能性もありその方向へと向かうと、紫煙をくゆらせるテクトがいた。

 

「タバコ吸ってるのか?」

 

「葉巻だ」

 

「似たようなもんだろ?」

 

「全然違う。むしろ雲泥の差と言っていい。芳醇な香りに豊かな風味。立ち昇る煙は、もはや官能的とさえ言える」

 

 煙を吐き出し、テクトはニヒルに笑う。様になるその仕草にリムルは目を奪われたが、すぐに違和感に気づいた。

 

「……前は吸ってなかったよな?」

 

「身体に悪いからな」

 

 リムルの問いにテクトは当然といった様子で答える。その受け答えにリムルの頭は疑問で埋め尽くされた。

 

「なら何で葉巻なんか吸ってるんだ?」

 

「カッコつけたかったからな」

 

「こんな目につきづらい場所でか?」

 

「副流煙を吸わせたらまずいだろ」

 

「俺は?」

 

「がんも何もないし」

 

 質問には端的に返し、テクトは再び紫煙を吐き出す。一応はリムルにも気を使っているのか風を操作して煙が行かないようにしていた。

 

「ていうか、お前あのシリーズもののステルスゲーが好きなだけじゃん」

 

「まぁ、そうだけどな。でも似合ってるだろ?」

 

「……」

 

「似合ってない?」

 

「様になってるとは思うけど……」

 

 リムルの回答にテクトは満足げに煙で輪を作って見せる。

 

 その後は特に会話もなく、テクトが葉巻を吸い終わるまでリムルは待っていた。

 

「お待たせ」

 

「ん」

 

 灰と化した葉巻を始末し、煙の臭いを消したテクトが歩き始める。

 

 その隣に並んで歩きながら、リムルが思い出したように口を開いた。

 

「そういえばさ、テクトってこだわるタイプだよな」

 

「そうか?」

 

 テクトは顎に手をやり首を傾げる。無駄に様になる姿に目を細めつつ、リムルは続ける。

 

「エスプレッソマシンとかそうとうこだわりがないと造らないだろ? それに、銃を作るときもめちゃくちゃ細かいところまで作りこんでたし」

 

「それもそうか。でも、作りこんだのはそれだけじゃないぜ」

 

 テクトは懐に手を入れ、ペンを取り出すと得意げな顔をする。

 

「例えばこれ。ペン型拳銃だ」

 

「007かよ」

 

「ま、威力は文字通り豆鉄砲だけどな」

 

 テクトはペンを回すと先をリムルへと向ける。直後弾が発射されたが、額でぺちっと小さく音を立てただけだった。

 

「他は?」

 

「そういえば、シュナのルガーはマガジン式に改造したんだよ。他との互換性確保のために」

 

 元々はモデル同様に上部から弾を供給する方式だったが、銃器開発を正式に行うようになったため、給弾方式をマガジンに変更していた。グリップは細いのだが、補給するのが弾頭だけなのでマガジンへの改造が可能となっていた。そのためリロードがスムーズになり、シュナが持ち歩く弾数も増えている。

 

「ある意味、テクトもロマン思考だよなあ」

 

 その他さまざまな開発内容を思い起こし、リムルはしみじみと呟いた。対するテクトは唇を尖らせていた。

 

「実用性のないものを開発している自覚はあるけど」

 

「ちなみに一番最近のは?」

 

「魔王の守護巨像用のドリルアーム」

 

「絶対使わないロマン装備じゃんか」

 

 テクトの回答にリムルは笑みをこぼす。

 

 余談だが、すでにロケットパンチは開発済みで、ドリルアームと合体することもできる。現在開発しているのは工作用換装部品のショベルアームだ。

 

 さらに言えば、魔王の守護巨像に最初に実装した機能が機密保持機構(自爆システム)だったりする。

 

 既に実用性をかなぐり捨てた装備が多いが、まだ変形合体機能の実装が目指されていることを思い出し、リムルはため息を吐く。

 

 それを不満と受け止めたテクトが弁明するように開発計画を語るのを、リムルは苦笑しつつ聞いていた。

 


 

 東の帝国-王宮。

 

 呼びつけられた男は指定の部屋に入るなり待っていた相手に挨拶もなく問いかけた。

 

「それで? わざわざ呼び出して何の用だね?」

 

「本当にお前は……まぁいい」

 

 待っていた参謀は大きくため息を吐く。だが、目の前の男に何を言っても無駄だと判断しているのかそれ以上は苦言を呈することなく本題に入ることにした。

 

「依り代の件よ」

 

「ほう? どういう風の吹き回しかね。君は我々の計画に批判的だと思っていたが」

 

「否定などしていないわ。たった一つ成果を得られればいいという基本スタンスは同じだもの」

 

 訝しむ男に参謀は手をひらひらと振って告げる。男は目を細めるが、一旦疑問は脇に置いたのか椅子に座ると目で続きを促した。

 

「……今回は少数精鋭。故に必要なのは最低限力に耐えられる器。そうよね?」

 

「ああ」

 

「だから、見込みのある者の覚醒を促すために戦争を起こすわけだけど、保険は必要だわ」

 

「そうかね?」

 

「ええ、前回はヴェルドラに潰されて成果ごと吹き飛んだのでしょう? 今回はその上魔王が二柱。また全滅しましたでは「ルドラ」という象徴の力が削がれるわ」

 

「ふむ……」

 

 参謀の言葉にも一理あった。帝国の威信などどうでもいいが、皇帝への忠誠に陰りが生じるのはよろしくない。万が一にも討ち取られるという結果は避けなければならない。そのためにも、ここで計画を進めるための保険を用意しておくのは合理的と言えた。

 

 そういった結論を導き出したことを確認し、参謀は言葉を続ける。

 

「使うのは禁忌呪法:妖死冥産(バースディ)。死者の肉体と怨念を集合させることで妖死族を生み出す術よ」

 

「なるほど、それを依り代とすると……材料はどうするのかね?」

 

「混成軍団を使う。名目は……軍事行動に際して手薄になったのを好機とみた私がクーデターでも企んだことにして粛清でいいでしょう。ユニークスキル所持者を複数使った妖死族なら、名持の連中でもはいれる器になるはずよ」

 

 眉を寄せて理由付けをする参謀に男は愉快そうに口を歪めた。

 

「随分と協力的だな。疑いたくなってしまうよ」

 

「繝ヲ繧ヲ繧ュ縺悟次菴懊h繧頑掠縺剰┳關ス縺励◆縺励o蟇? ○縺後%繧薙↑蠖「縺ァ髯阪j縺九°縺」縺ヲ縺上k縺ェ繧薙※」

 

「何か言ったかい?」

 

「いいえ」

 

 参謀は舌打ちすると席を立つ。そのまま話は終わったと言わんばかりに姿を消し、部屋には男だけが残された。

 


 

 次回「」

 




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