ガドラが帝国へと戻った直後。
テクトはリムルによって拘束されていた。
「えぇっと……どういう状況、これ?」
突然拘束されたテクトの表情は困惑に彩られていた。対するリムルは冷静に答える。
「アダルマン達の件もあったし、他に何か隠していることはないかと思ってな」
「別に普通に聞けば教えるのに、なんで縛ったのさ……」
「……ノリ?」
首を傾げたリムルにため息を吐き、テクトは拘束を外す。軽く膝上を払ってから手を広げると、当然のようにリムルがそこに収まった。
「で、何が聞きたいのさ」
「アダルマン達が俺が知ってた以上に強くなってたし、死霊竜とか聞いてなかったし、魔王の守護巨像に変形合体機能の予定とか計画書にも載ってなかっただろうが!」
声を荒げたリムルをなでて落ち着かせ、テクトは顎に手を当てて視線を彷徨わせた。
「まぁ、魔王の守護巨像は後で仕様書を見てもらうとして……アダルマンと死霊竜もいいか。アルベルトは、最近はアルノーの指導をしているよ」
「指導?」
リムルが首を傾げる。聖騎士団の隊長格であるアルノーはかなりの腕前である。子供たちにも指導をするほどの男が指導を受ける側に回るという状況を訝しんでいた。
テクトも脈絡のなさはわかっているため苦笑すると、事の発端から話し始めた。
先日のルベリオスでの戦いの敗北を糧に奮起したアルノー達は、中断していた地下迷宮への挑戦を始めていた。
七十階層の階層守護者である魔王の守護巨像は開発中で存在しなかったためそのまま突破し、下層へと進んで行ったのだが、その次のボスにあっさりと敗北したのだった。
八十階層の階層守護者はゼギオンなのだが、そこまでたどり着くこともなかった。その一つ上の階層にはアピトが
超速機動と究極毒を持つアピトにアルノー達はかすり傷一つつけることも出来ず、召喚された彼女の眷属に全身を刺されながら泣いて逃げ出したのだ。
完全敗北を喫したことで自分達を見直そうとアルノー達は地下迷宮を最初から攻略し始めたのだが、かつて攻略した六十階層で今度はアルベルト一人に敗北したのである。
数百年前に最強を誇った
「それでシンジ達が六十階層に降りたときにあんな自信満々だったのか」
「まあね」
得心いったという表情のリムルにテクトは頷いて見せる。
「それと、進化したのはアダルマン達だけじゃないんだよね」
「まあ、それは察してたけど」
得意げにするテクトにリムルは苦笑していた。
迷宮十傑-それが、現在の地下迷宮を守る強者達の呼び名である。
まずは四体の
ミリムとテクトが連れてきて毎日ヴェルドラの魔素を浴びていた
そして、名持の階層守護者とそれに連なる者達。
九十階層階層守護者-“
八十階層階層守護者-“
七十九階層領域守護者-“
七十階層階層守護者-“
七十階層前衛-“
そして筆頭はなぜかベレッタが就任していた。
おまけとしてゴズールとメズールがいるが十傑には数えられていない。
「なんでベレッタが?」
説明を受け、リムルは思わず聞き返した。対するテクトは苦笑しつつ答える。
「トレイニーもカリスもそれぞれの主の世話で手一杯ってことになっていてね。マウザーは先に受肉した件もあってテスタにこき使われてるみたい。ベレッタも仕事はあるのにね」
リムルはその他雑用もさせられているにもかかわらず意味不明な役職のトップにされているベレッタに黙祷する。テクトは一つ咳ばらいをして話を戻した。
迷宮十傑の所属だが、各人の要望に沿う形にしている。これは地下迷宮が魔国連邦の所属ではあるが、その運営に際してラミリスとヴェルドラの存在が不可欠だからだ。
そのため面談を行い、以下のように決定している。
ベレッタはこれまで通りラミリスに。
各竜王も自我が芽生えているため確認の上ラミリスと契約をして彼女の配下となった。
クマラは名付けの件もあってテクトに懐いており、普段ペットのように扱われているフェルを差し置いて自分こそがテクトのペットだと豪語している。
ゼギオンとアピトは名付けの件もあるが、治療をしたリムルへの恩義もあり、魔国連邦そのものへの忠誠を誓った。
アダルマンは言わずもがな、神と崇めるテクトへの信仰を止める様子はなく、アルベルトもそれに感化されていてアダルマンを通じ、テクトへと忠誠を向けている。
そしてゴズールとメズールだが、名付けの恩もあり、リムルへと忠誠を誓っていた。
「それと、十傑も全体的に強くなってるんだよね」
「え、アダルマン達みたいにか?」
テクトの言葉にリムルがぎょっとする。アダルマンでさえかつて敗北した聖騎士達が相手にならないほどに強くなっているのだ。他の十傑の成長度合いに嫌な予感がするのも当然だった。
上位竜が竜王へと進化したのは話した通り。進化により戦力が上がるのは当然である。
そして、ゼギオンとアピトだが、変態を終え人型に進化していた。
ゼギオンは全身に甲殻を纏った細身の姿になり、強者の風格を漂わせていた。
アピトは蜂の特徴を残したまま女性らしいフォルムへとなっている。
ヴェルドラやヒナタが指導をするというのは摸擬戦を繰り返すというだけではなく、身体の動かし方などの戦闘技術を学んでいたのだった。ヴェルドラ流闘殺法がどれほどの効果があったのかはわからないが、二人ともかなりの強者へと育っており、ゼギオンに関してはディアブロさえも下すほどだ。
最後にクマラだが、普段は迷宮の各層に尻尾の魔獣を解き放っているため子供の姿になっているが、すべてを取り込めば
「お、おぉ……。それって、一般参加者が勝てる強さか?」
「無理だねぇ。一応冒険者相手には手を抜くように言っているけど、それでも圧倒できると思うよ」
顔を引きつらせるリムルにテクトは肩を竦めて返す。
せっかく作ったのだからできるだけたくさんの人の目に触れてほしいところだが、日の目を見ることのなさそうな下層の状況にリムルは複雑な顔になるのだった。
そんな話をした数日後。
リムルが開発を続けていた監視魔法の実用試験を行うことになった。
場所は新たにヴェルドラの私室の横に設置された―通称“管制室”。
正式名称を戦略級軍事管制戦闘指揮所というのだが、ベニマルをはじめとして正式名称で呼ぶ者はいない。というよりも、ノリノリで名付けたリムルとヴェルドラでさえ管制室呼びなので正式名称を知る者の方が少なかった。
開発された監視魔法-物理魔法:
魔法の発動媒体として極小のリムルの分身体を配置することで空間支配と合わせて一瞬のずれもないリアルタイムでの映像の再生が可能となっている。
分身体のサイズは小さく自我もないためエネルギーの消耗もほとんどない監視システムとなっていた。
そして、この魔法の副次効果として映像の映る先への神之怒を発動させることが出来るようになっていた。
また神之怒そのものも進化にともない演算能力が向上した智慧之王が改良を重ねた結果、威力が増大している。また、夜での発動が可能となった。昼の時間帯の地域から日光を集めて照射するため昼間に打つほどの威力は出ないが、それでも人間相手には十分な威力を持っていた。
ちなみに神之瞳を利用した神之怒の実験台になったのはゴブタだった。いきなり足元に致命傷になりかねない光線を撃ち込まれ飛び上がった挙句、あっさりと成功して気まずくなったリムルに「油断しすぎだ」と怒られ訓練の量を増やされるという不憫な目にあっている。
肝心の実験の成果は上々。ジュラの大森林の各地やドワルゴンの貿易路だけでなく、ファルメナスに接する海路やカナート山脈山頂さえも問題なく映し出されていた。
この魔法を見たディアブロははしゃいで讃美歌でも歌いだしそうな雰囲気だったが、だれも取り合うことなく運用についての相談がなされた。
その日の午後にはシンジ達三人から亡命と魔国連邦での登用を申し込まれ、迷宮で研究に従事することが決定した。
情報の聞き取りにも素直に応えたため、顔見知りと戦争することを避けたい彼らの心情を汲んだのである。
ラミリスも直轄の研究員が増えることを喜び受け入れたため、数日で溶け込む事になった。
そうして戦争に備えつつ日常を過ごしていると、ガドラが帰還した。
迷宮内に直接転移した時には重傷だったようだが、持たせていた“復活の腕輪”の力で復活しケロリとしている。
ガドラの話では、御前会議では反戦を主張したが、やはりというか開戦という結論になり、最後の奉公として皇帝への直訴をしようとしていたという。そのための面会の予定がちょうど今頃なのだが、王宮を歩いていると背後から心臓を貫かれ、瀕死の重傷となったようだ。ガドラの気配察知をかいくぐった上での一撃だったらしく、正体についてはわからないらしい。
正確には心当たりはあるが、信じがたい相手のようだった。そのため情報の精査をしてから改めて報告したいと申し出を受け、ガドラの警戒をかいくぐれる強者がいることに警戒するということで決着した。
帝国はすでに開戦に向けて動き出している。
帝国が他国に戦争を仕掛けるとき、宣戦布告は行わない。
皇帝を唯一無二の存在と定めており、他国の存在など認めていないからだ。
とはいえ、それはあくまで建前であり、実際にはドワルゴンをはじめ国交のある国もあり、その統治に対して口出しはしない。
帝国が他国を侵略せんとする時とは万全の準備が整った時である。そのため、宣戦布告ではなく降伏勧告が行われる。
この降伏勧告は一度だけであり、これを断れば即開戦となり一切の容赦なく蹂躙される。
西側諸国評議会が定めた国際法の批准もしていないので、戦争となれば問答無用であり、禁止行為も敗戦時の取り決めもお構いなしだ。そのため、西側諸国は帝国を非常に恐れているのだった。
敗北すればすべては皇帝のものとなり、賠償などという言葉は存在しない。
帝国に意見を通すのであれば最低でも引き分けに持ち込む必要があるのだ。
となれば魔国連邦としても手を抜く道理はなく、決着をつけて禍根を断ち切る方針となる。
まず、管制室内に作戦統合本部を設置し、ここにベニマルとソウエイが常駐することになった。
そこに加えてソウエイとモスによる情報収集を行い、神之瞳以外でも帝国軍の動きを監視する。
神之瞳による監視映像の精度とその魔法の構築を見たガドラが興奮をあらわにし、ディアブロとともにはしゃいで追い出される一幕はあったが、ともかく帝国を迎え撃つ体制が整い始めた。
現状の彼我の優位性を考えるのであれば、魔国連邦が非常に有利と言える。
普段の戦争でも遠距離魔法による監視は行われてこそいるが、それはあくまで地上戦での話。航空戦力という概念が存在しないこの世界で、さらにその上空である衛星軌道上からの監視網など誰にも対応できるはずもない。その上帝国の内情に明るいガドラが加わったことで情報戦という点では覆しようもないほどに水をあけていた。
とはいえ、ガドラを殺した者以外にもクロノアの知る未来でリムルを殺せる強者がいる可能性も否定できないので、戦力差という点では未知数である。そのため油断できるような状況ではない。
さらに、相手はルール無用で仕掛けてくる帝国のためこちらも同様の心構えで対応しようというのがテクトの姿勢だったが、リムルから待ったがかかり、魔国連邦側でのルールが作られた。
それが、『民間人には手出し禁止!』というものだ。
また、先制攻撃も厳禁とされ、リムルの戦争終結の宣言以降の攻撃も一切禁止と定めている。
テクトとしては
そして今、集結していく帝国軍が映し出された管制室に魔国連邦の幹部が勢ぞろいしていた。
司令官のベニマルに相談役のハクロウ。
情報担当のソウエイ。
内政担当のリグルドとコウカに、三権の長であるルグルド、レグルド、ログルドの三名。
彼等に加えてシュナとリリナ、リグル、カイジンにクロベエ。
情勢についての顧問としてベスターとミョルマイル。
各軍団長であるゴブタ、ゲルド、ガビル。
テスタロッサ、カレラ、ウルティマの三人。
参考人としてガドラ達-元帝国人も呼ばれている。
そして、一応状況の把握は必要であるため呼ばれたマサユキ。
最後にヴェルドラとラミリスが席に着く。
ディアブロとシオンがテクトの後ろに、ベレッタ、トレイニー、カリスが部屋の片隅に控え、会議に参加する全員が揃った。
「今日集まってもらったのは他でもない、帝国に対抗するための会議を行うためだ。作戦の概要は決まっているが、多角的な視点での意見が欲しい。遠慮なく発言してくれ」
膝上のリムルを揉みながらのテクトの言葉に全員が諾と応じ、会議は始まった。
次回「」
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煩わしい提出書類だとか、世界の命運を決める強制クエストとかいろいろ一段落ついたので、更新が止まっている分も再開出来そうです。
さしあたっては、もう一方の投稿をします。
今後ともよろしくお願いします。