ほんの御目汚しですが、ご笑覧頂ければありがたいです……
「『ボク達のアオハル、誰にも邪魔させない。〜アオハル18切符発売します!〜』……ふぅん」
受験勉強を第一志望合格という最高の結果で終え、卒業式も終え、進学先の入学手続きも終え、やる事がなくなっていた俺、鶴見達也はスマホでネットサーフィンをしていると、一つの広告を見つけた。
アオハル18切符。JRグループの在来線全線が1日乗り放題になるかの有名な『青春18きっぷ』の姉妹バージョンで、誰でも使える本家とは異なり、こちらは学生限定の切符だが、本家18切符よりも利用可能な路線が多く、別に切符を買えば特急や新幹線にも乗車可能。値段も2枚綴りで6500円とかなり良心的である。
これなら新生活の準備で寂しい懐にもなんとか手が届きそうやな……
電車に乗って様々な場所に行くのを趣味とする鉄道ファン、所謂『乗り鉄』である俺の琴線が反応しないはずが無い。
「なあ、有咲」
「んぁあ?どうした、達也」
「俺ら、卒業したよな」
「そうだな」
「明日から、なんか予定ある?」
「いや、特にないけど……どうした?」
「卒業旅行つうことで……旅に出ないか?」
「……はぁ?」
俺は早速、隣でパソコンを操作している我が愛しの恋人、市ヶ谷有咲嬢にその提案を持ち掛ける。しかし、当の有咲はこいついきなり何言ってんだという表情を見せる。
「はぁ……、お前のそういうところは付き合い始めた頃から変わんねぇな」
「そこが俺のアイデンティティですから」
「いやそこ誇るとこじゃねえし。悪いけどパス。私がインドアだって事、知ってるだろ?」
「くっ」
そう、有咲は中学時代までは引きこもり、ポピパのキーボードになってから多少は外に出るようになったものの、それでも趣味はネットサーフィンと盆栽の手入れという隠居後の老人を思わせるような趣味嗜好をしているのだ。
そんな彼女を説得する事、1時間……
「ああっ!分かった、分かったから!行くよ!」
「ええん?やった!」
何とか彼女を説得する事が出来た。明日が楽しみだ……!
大きな期待と共に俺は有咲の蔵を後にするのだった。
〜翌日〜
その次の日、俺の姿は世界が誇る大ターミナル、東京は新宿駅にあった。まだ世を徹して走り続けて来た夜行バスさえ、到着していない朝の5時前の空はまだ暗い。
そこから遅れて約20分。
「お、お前早すぎだろ……」
「いやいや、電車はもう動き出してるんだぞ?むしろ遅い位」
有咲がやって来た。装いは普段のとあまり変わりはないが、特筆すべきはその髪型。いつもはツインテールにしているその金色の御髪を何とポニーテールにしていた。これはポニテ萌えの俺にとっては最高の宝物……!
「な、何ジロジロ見てんだよ」///
「い、いや。ポニテにしたんだなって」
「こ、これは達也が喜んでくれるかなってやったんだぞ!(べ、別にこれは達也のためじゃねえぞ!ただの気分だ気分)」
「有咲有咲、逆」
「あっ」///
俺の指摘で本音と照れ隠しがテレコになってるのに気付き、顔を赤らめ、それを覆う様に腕を曲げて某大輔のポーズをするツンデレ少女。
「ううっ……」///
こっちみんなと言わんばかりの視線を向けられてしまった。解せぬ。
「あ、やばっ、もう電車が出る」ガシッ
「えっ、ちょ、ちょままっ!」///
そんな事を駄弁っているともう電車が来る時間であるのに気づき、俺は有咲の手を引いて走っていく。
「つ、着いた……」
「おい、今何時だよ?」
「ええー、昼の3時過ぎでございます」
「移動時間で9時間以上かけるってお前バカかよ!」
そんなこんなで電車を何本も乗り継ぎ、降り立ったのは古都、京都。新宿を出発した後、俺達は小田原、沼津、静岡、浜松、豊橋と電車を何本も乗り継いでいった。ちょうどアオハル18切符と青春18きっぷのシーズンが一緒な為、どの電車も混んでいて、席争奪戦に敗れる事も少なくなかった。まあ、今乗ってきたのは楽に座れたのだが。
米原から1時間以上座り続けて来た関西が誇るモンスタートレイン、新快速に別れを告げ、今は駅ビルの中にある抹茶カフェで休憩していた。
「ていうか、何で京都なんだ?」
「いやぁ、有咲が懐かしんでくれるかなぁって」
「別に『私』は京都出身じゃないぞ……でも懐かしい感じがするのは否定出来ないな。何でだろ?」
さあ、何ででしょうね(棒読み)
「うしっ、折角だし和菓子巡りでもするか。荷物持ち、やってもらうからな」
「ヘイヘイ、分かりましたよ、お嬢さん」
そこからは主従逆転、俺達は有咲は一度行ってみたかったらしい、和菓子の老舗へと足を運んだ。東洞院にあるそれは万永元年創業の名に恥じない風格の町屋造でそれを見るだけでも幕末から脈々と受け継がれて来た時代を感じられる。
「ほら、買って来たぞ」
中で注文をしてから数分後、有咲が二人分のあんみつを持ってやって来た。
「おっ、あんがt……ってあれ?スプーンは?」
「スプーン?ここにあるだろ」
「いやいや、俺の分よ俺の分」
「だ〜か〜ら、ここにあるだろ?私と達也の分が、さ」
えっ……まさか。
「ほ、ほら。あ〜ん」///
何と彼女は俺の分を自分のスプーンですくって俺の口元に運んできた。あ〜んじゃないか!!
「あ〜ん!」
勿論俺は親に餌をもらう雛鳥の如く口を大きく開けて、あんみつが載せられたスプーンを口内へと迎え入れる。
「ど、どうだ?美味いか?」
「……」コクッ
はっきり言おう、めっちゃ美味い。甘さ控えめで他の素材を殺さない蜜豆、他の具材の味に染まってサポート役に徹する寒天や杏やさくらんぼといった果物などが美味い具合に調和しているのだ。あのアホ作者の語彙力ではこれが限界なのは本当に悔しい。また後でお説教だなこりゃ。
「ふふん、一生懸命調べた甲斐があったな」
その仕草を見て満足した表情を浮かべる有咲。
その後、あんみつを完食してバスに乗って次に向かったのは京都の中心地、四条河原町。既に日は傾いていて、鴨川は夕陽に染まり、通りから一本入った路地では既に提灯の灯が灯り始めていた。
「やっぱり人が多いな……」
「それで、次はどこに行くんだ?」
「そうだな……先斗町とか知恩院とかあるけど、やっぱり王道は」
「八坂か」
「ちょまっ、先に言うなよ」
とまあ、こんな感じで名所などを巡っていくのだった。
そこから数時間後、俺達は再び京都駅に戻ってきていた。ちなみに、俺の手にはスーツケースと大量のお土産が携えられ、この時点でもかなり重いのに対し、対する有咲はハンドバッグ1個とかなり軽い格好になっている。荷物持ちの約束は忘れられていなかったようだ。
「はぁ〜、なんかあっという間だったな」
「そうだな……って今から戻んのか!?」
「いや、明日は昼からポピパの練習やろ?今から行かへんと間に合わへんし」
「いや、そうだけど、この時間からはもう乗り継げないはずだぞ」
「本来ならそうなんやけど、この時期だけ夜行列車が走ってるからな」
困惑する有咲を連れて新快速で米原まで行き、そこからもう1本普通を乗り継いで、岐阜県の大垣まで戻って来た。
本来なら、ここから後何本か電車を乗り継ぐのだが、今回はその必要はない。
名古屋や豊橋、米原といった近距離の地名がホームや電車の行き先表示に躍る中、隣の乗り場にはアイボリーと中央に緑のストライプが入った車両がここから400kmも離れた『東京』の文字を掲げていた。
『ムーンライトながら』。大垣から東京までを結ぶ日本最後の夜行快速で、18きっぱーや貧乏旅行者にとっては超有名な列車である。
今回はこれで一気に品川まで飛ぶ。これで乗車券+530円の座席指定料金だけでええんやから学生にとっては非常にありがたい。まあ、指定券取るんはめっちゃ大変なんだが。ひどい時は発売して10秒で完売するからな。
「へぇ、朝起きたら東京か。なかなか良いな」
有咲がそう呟く。確かに、それだけ見ればなかなか便利な列車のように聞こえる。
「じゃあ、入るか」
「ん」
デッキを通って車内に入る。車内は空席が多い。というのも、発売時は満席扱いになっても、実際は後でキャンセルが出る事が多く、俺も指定席券はキャンセル待ちで手に入れた。
しかし、意外に思ったのは車内が意外に静かなのだ。
ムーンライトながらといえば通称が『走るスラム街』と言われるぐらいに治安が悪かった。定期運行していた時代にはよくホームレス達が宿代わりに使っていたりした事もあって、翌朝には車内に異臭が漂っていた……なんてこともあったという。
10年ぐらい前に全席指定制の臨時列車になってからは多少は改善されたらしいが、それでも下り大垣行きはかなり居住性は悪いらしい。ただ、今回の列車はそんなマナーの悪い人間もこの車両には居ないようなので俺達にとっては運が良かった。
二人がかりで最低限の荷物以外は荷棚に上げて後ろに乗客がいないのを確認して、リクライニングを倒す。
「はぁ、疲れた」
「何だ、結局達也も疲れてんじゃねえか」
「流石にな」
「「ハハっ……」」
こんな感じで会話していると窓越しに発車を伝えるアナウンスが流れ、ガクンと車内が揺れる。グワングワンと唸るMT54D形直流直巻電動機の力強いモーター音をBGMにゆっくりと動き始めて、夜の大垣を後にする。
「あ、そうだ(唐突)」
それからしばらく、ふとある事を思い出して有咲に向き直り、小声で話しかける。
「ん?どうしたいきなり畏って?」
「こ、これを受け取って欲しいんだけど」
言って俺は箱を差し出す。
「何々……これって」
有咲は箱の中身を見て目を見開く。
そこにあったのは星の形を象ったネックレス。乳白色の照明に照らされてキラキラと光っていた。
「な……何でこれを?」
「いやぁ……んまあ、日頃の感謝、だな。京都でお土産買う時に買って来たんだ……俺はもう旅に出ようと言った翌日に出発したり、色々知らん所を連れまわしたりと本当にどうしようも無い男や。でも、有咲が好きっていう気持ちはいつも心の中心にある。有咲がいればどんな辛いことでも頑張ってこれた。ちょっと前までやってた受験勉強もそうだし」
「……」
「やから……こんな俺でも良ければ、これからもよろしくお願いします」
「……」
数秒の沈黙が流れる。そして……
「……フフッ、勿論だろ?むしろ私がお願いしたいぐらいだ」
有咲は目尻に涙を浮かばせながら、笑顔で首肯した。その笑顔は今まで接して来た中で一番美しく、忘れがたい笑顔だった。
「……ああ、こちらこそ宜しく」
小声で言い交わして、二人で笑い合う。
「ふわぁぁぁ、何か眠くなってきた」
「眠いのか?それじゃあ……ほら」
俺が寝ようとしているのを見て、有咲は微笑みながら俺を抱き寄せる。あの〜、何がとは言いませんが、当たってるんですけど。
「ふふっ、当ててんだよ♡達也も疲れたんだろ?遠慮しないでくれよ」ナデナデ
そう言って有咲は頭を優しく撫でる。目の前の弾力の気持ちよさと女の子特有の良い匂いも相まって、俺の意識は沈んでいった。
「達也、大好きだぞ♡」
そんな二人を引き連れて、列車は深夜の東海道本線を駆け抜けていくのだった……