「問題で〜す。2月14日は一般的にはバレンタインデーですが、実は本当はふんどしの日でもある……マルかバツか?」
「帰っていい?」
2月12日、バレンタインデーという年に一度のイベントに世間……というか恋する乙女が様々な形で盛り上がるこの時期に俺は突然呼ばれたと思ったら、呼び出した本人……青葉モカにこのような謎クイズを突きつけられた。
「も〜、ノリが悪いなぁ〜。暗い男はモテないぞ〜?」
「余計なお世話じゃ」
相変わらず青葉は飄々とした雰囲気でこちらを弄ってくる。それ自体に不快感は感じないのだが、今回はちょっとタイミングが悪かった。
その理由としては……突然呼ばれてその理由がこの謎クイズっていう訳ではなく、最近バイトで理不尽な理由でお客さんにイチャモンつけられ、自転車は盗まれて、タンスの角に小指をぶつけて……と何故かろくな事がないという理由でストレスが溜まりすぎていたから…………かもしれない。え? それはただの八つ当たりだろって? 仰る通りでございますハイ。
「それで? 実際にどういう了見? そんなふんどしの話をする為に呼んだ訳じゃないでしょ?」
「まあね〜。もしかしてキミはモカちゃん、のふんどし見たいのかな〜? えっちだ〜」
「代金はここに置いておく。釣りは要らねえ」
なんか変態扱いが癪に触った為、5000円を取り出したら「も〜、冗談だよ〜」といつものように返された。まあ、ここで帰るつもりはハナから無かったんだけど。
「まあとりあえずお話というのはね〜」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
場所を変え、俺たちはショッピングモールのチョコレートコーナーに来ていた。どうやら本当の用というのはバレンタインデーに贈るチョコ選びを手伝って欲しいという事らしい。
「それじゃあ先ずは蘭から〜」
蘭というのは彼女の幼なじみの1人である赤メッシュの女の子の事だ。ぶっちゃけ彼女とはいい思い出がない。初めて出会った時は「あんた、モカの何なの?」ってガン飛ばして来たんだもん。そっから売り言葉に買い言葉で全然仲良くなれないもん。俺とあいつは犬猿の仲に近づき過ぎてるよ。
「2人が犬と猿ならあたしは雉にならなきゃね〜」
「人の心をしれっと読むな。後なんか桃太郎始めようとしてる?」
「今モカちゃんの言葉に反応したな〜? これで君とも縁ができたね」
「急に暴太郎の方の桃太郎になるな」
と、こんな調子だがとりあえず美竹さんにはクランチボールビターチョコを選択。なんでクランチなのかと言うと、「形が吉備団子に似てるから」とのこと。どんだけ桃太郎引きずるんだ。というか犬猿の仲という言葉がある程犬と猿って仲悪そうなのに、桃太郎はよくその2匹をお供に出来たよな。
「さ〜て、次はひーちゃん達のチョコ探さなきゃ〜」
調子が上がってきたのがウッキウキでチョコを探し始めた。そんな中、俺も適当にその辺のチョコに目を配る。普段あまり意識してなかったけどチョコにも色々と種類がある。ケーキのようなチョコもあるし、随分とカラフルなチョコレートもあった。さっき目に入ったけどチョコレートで惑星をイメージしたような物もあった。まあ普通に高かったんだけども。
「ふう〜、ざっとこんなものかな〜?」
と、少し目を離している間にモカはカゴいっぱいにチョコレートを詰め込んでいた。
「え? どんだけ配る人いるの?」
「ん〜? Afterglowの皆でしょ〜? リサさんにさーやに〜後は」
「いや、お前友達何人いるんだよ」
「まあこれ全部渡すやつじゃ無いけどね〜。半分はモカちゃんが食べるやつだね〜」
やっぱりそう来たか。ほんとに食いしん坊だなこいつは……。
「太るぞ?」
「ざんねーん。モカちゃんのカロリーは全部ひーちゃんに転送されるようになってるんだ〜」
なんだよそのシステ厶。そう思っているとモカは俺の方をじっと見ていた。
「……何?」
「いやあ〜、君はなにか欲しいチョコでもあるのかな〜?」
「え? まあ……その……これ?」
何となく目に映った800円位の色んな種類のチョコが入ったものを取ってみた。所謂アソートチョコと言うやつだ。容器のスチール缶にも宇宙のような絵柄があり、食べ終わっても小物入れとして重宝するのも特徴のひとつだ。
「へえ〜。そっか〜」
「いや、まあ欲しいって言うよりちょっといいな〜って思った感じだけど……」
「へえ〜 」
「…………ん?」
「ん〜?」
あれ? なんか俺にもバレンタインチョコワンチャンあるみたいな感じじゃなかった!?
「なんで聞いたの?」
「ん〜? ただ聞いただけだよ〜?」
「ホワ?」
「あれ〜? もしかして期待しちゃった〜?」
「うわ、なんか腹立つ」
うん、期待しちゃったんだよ。期待した分恥ずかしいわ。そんな心情の俺を他所目にモカは「お会計行くよ〜」とレジに早足で向かった。
まあ、モカの目的は達成出来たしまあ良しなんだろうな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして日付は変わり、2月14日……バレンタインデー当日。
学校では下駄箱や机の中を入念に眺める者や何時もより身嗜みに気をつけている者、頑張って女の子に話しかけている者と色んな男がいる。そんな中、その光景を面白がってただ眺めていたのが俺だ。うん、こういうのは割り切りが大切。変に期待したら赤っ恥かくだけだからね。この間ので学びました。
そんなこんなで今日1日も変わった事無く、特に何かしら貰うことも無く……いや、貰ったわ。先生から宿題という名のプリントを。
まあいつも通りという事で今日1日が終わりへと近づく事を知らせるかの様に空も茜色に変化していく。特にバレンタインに思い入れは無いが折角だし自分にご褒美をという事で、俺はいつも立ち寄る「やまぶきベーカリー」というパン屋に足を運んだ。
そう言えばパンといえばモカはちゃんと皆にチョコを渡せたのだろうか。なんかチョココロネみたいなのも買ってたけどあれは渡すやつなんだろうか、それとも自分で食べるやつなんだろうか。
そんな事を考えていると目的地周辺にまで来ていた。やまぶきベーカリーまではまだ距離があるが、程よくパンの香りが漂っているのを感じた。
「おやや〜? 奇遇だね〜?」
やまぶきベーカリーの側まで歩いているとモカに遭遇した。
「君もバレンタイン限定のパンを買いに来たのかな〜?」
「まあな」
「あ〜、さては誰からもチョコ貰えなかったな〜?」
「うるせえし、んなもんどーでもいいよ。それよりちゃんとチョコ渡せたのか?」
「とーぜん。ちょうどさっきさーや達にも渡して来たからこれでミッションコンプリート〜」
そんでこれは自分へのバレンタインプレゼント〜とやまぶきベーカリーの紙袋を掲げながら自慢してきた。
それは良かったなと言い残すと俺はやまぶきベーカリーへと入ろうとしたその時……
「あ、言い忘れてたけど〜バレンタイン限定のパン売り切れちゃったよ〜?」
モカが衝撃の真実を叩き付けてきた。
まさかのこのタイミングで売り切れ? タイミング悪すぎやしませんかね?
「マジか……」
「どんまーい」
まあ無いものはしょうがない……。今日はまだこのってるパンを何個か買っていくか……。そう考えていると、誰かに肩をポンポン、と叩かれた。
「ほら〜、モカちゃんからの餞別〜」
突きつけられたモカの手にあったのは普通サイズのやまぶきベーカリーの紙袋だった。その中にはバレンタイン限定の物と思われる、いちご、チョコ、ホワイトチョコの3種類のチョココロネが入っていた。
「モカ、これって……」
「この間ショッピングに付き合ってくれたお礼も兼ねてね〜」
チョココロネの入った紙袋を受け取るとモカは背を向けてその場を離れようとしていた。
が、その途中で彼女はその足を止め……
「わかってるとは思うけど……モカちゃんにとってパンはチョコよりも希少価値のあるものなんだよ〜。
この意味、わかるよね〜?」
ニヤッとしながらそう呟きその場を去っていった。
モカが去った後、改めて袋の中を覗くと3種類のチョココロネの間に何か紙が封入されていることに気がついた。
『ホワイトデーの100倍返し、期待してるね』
全く。相変わらず掴み所がないと言うか、抜け目ないというか……。
その日食べたチョココロネはどれも何時もより甘く、夕方ながらも珈琲が欲しくなった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。