伝えたい、伝わらない。
大事なことだけが。
だから、ぶつけるしかない。
力の限り、命の限り。

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インターハイ少し前の時間軸です。


叫ぶ声はアオく響いて

 ほんの少しの嘘くらい、笑って済ませばそれで良かったかもしれない。私は家族でも恋人でもない、友達かどうかさえ曖昧だ。なにもかもつまびらかに話してくれるほど、信頼されている訳じゃない。

 私たちはお互い知っている事なんか殆ど無いし、きっと知らないまま過ぎていく事の方が多いんだろう。人生の中でたった二年間、それっぽっちの時間を一緒に過ごすだけ。同居が終わってしまえば、そこで縁も切れる。後は単なる想い出しかなくなる、それさえも記憶の淵で少しずつ掠れていくだろう。

 それでも、それなのに。大喜くんに嘘を吐かれた事が、私にとっては余りにも大きい出来事になっている。心はささくれ立ち、澱んでいく。インターハイに向けて集中しなければいけないのに、まるで時限爆弾を抱えているみたいだ。

 このままではいつか、()()()()()()

 

 一心にシュート練習をしながら、それでも心は治まらない。ボールが手を離れる瞬間、泥のように鈍った戦意がコントロールを奪ってしまう。試合でこんな事になってしまったら、首を括っても詫びきれない。 

 今は大事なときだ、余計なことを考えるな。全てを抑え込んで、忘れてしまえば良い。何もかも、忘れてしまえば良い。

 ……そう出来れば、どんなに良いか。

 大喜くんの事も何もかも、想い出に変えてしまえれば。何もかも過ぎ去ってから、ああそう言えばあんな子いたね、と笑って言えるようになれたら。

 それは、――良いことの筈なんだ。

 だって私がどんなに足掻いたって、もう遅い。大喜くんには蝶野さんがいて、他の女子を見たりはしない。私は二人にとって、異物でしかない。あんなにもお似合いの二人の間に、どうやって入っていけるのか。

 そんなのは分かっているのに、痛いほど分かっているのに。

 私はどうしても、割りきれない。壊れそうなほど胸が痛んで、誤魔化しきれなくなっていく。

 もっと上手く生きたい、器用になりたい。傷だらけで尚真っ直ぐ生きるのは、大変だから。

 あの日蝶野さんを羨ましく思ったのは、嘘じゃない。あんな風に、屈託なく笑いたい。自分を騙さず、言いたいことを言いたい。いつの間にか物分かりが良くなって、人の都合に合わせるだけでなんとなく生きている自分が嫌になる。

 大喜くんが憧れてくれている事は喜ぶべきことだけど、私はそんな扱いを受けたいわけじゃないんだ。

 私は、大喜くんが――。

 

 言いたいことを言えるような人間になりたかった、才能も運も無くなっていいから本心をさらけ出せるようになりたい。 

 私だって叫びたいんだ、自分の気持ちを。ワガママをブチまけて、何もかも台無しにしてしまいたい。

 インターハイに向けた最後の詰め、長引いた練習を終えて夜の道を駆け抜ける。

 生ぬるい風を浴びていて、気が付けば涙が溢れてきた。

 大喜くんに嘘を吐かれて辛い、蝶野さんばかりを見ているのが悔しい、私だって大喜くんが、好きなんだから。

 声が枯れるまで、目一杯叩きつけてしまいたい。その気持ちを。

 私は誰のために遠慮しているんだろう、ルールも何もかも蹴り飛ばしてしまえばいいのに。周りの顔色を伺うような事ばかりして、それで私に何の得があるんだ。

 今の生活を維持する為に必要だとしても、そんな日々は苦痛でしかない。今日と同じなら、明日なんかいらない。

 心の底から込み上げる想いが、私の足を加速させていく。

 気遣いも飾る言葉も必要ない、私はそんなにオトナじゃない。ワガママで、バカで、真っ直ぐにしか進めない子供なんだ。

 求めているのは、ただ一人。伝えたいことは、ただ一つ。それだけあれば良い。その為ならば、私に不可能は無い。インターハイだって征してやる、大喜くんが私以外見えなくなるくらい、誰よりも眩く輝いてみせる。

 誰が傷付こうと、構うものか。私を誰だと思っているんだ。

 出迎えてくれた由紀子さんを一瞥し、怪訝そうな視線を背中に受けながら階段を駆け上がっていく。

「あ、先輩。……おかえりなさ、い?」

 突然部屋に飛び込んできた私を、不安げに見ている大喜くんと向かい合う。

 さあ、言ってしまおう。トラブルメーカーになろうがどうなろうが、知ったことじゃない。

 本当の私はどうしようもなくワガママなんだ、命の限り好き勝手してやろうじゃないか。

「私は、大喜くんが好きです!!」

さあ、正念場だ。やってやろう。

 きっと想いは、通じるんだ。


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