鬼狩柳桜の大半を手にした沙都子と、その切っ先のみを使う梨花の戦いが拮抗しているのは偏に沙都子に殺意が無いからであった。
殺意が無いと聞いて「沙都子は梨花の事を何度となく殺しているではないか?」と疑問に思うかもしれないが、繰り返す者にとって一つの世界における肉体の死とは本質的には正に眠りと大差のない出来事であり、鬼狩柳桜を用いない限りにおいてはじゃれ合う様なものでしかない。
そも鬼狩柳桜とは繰り返す者同士の戦いにおいては互いに対する生殺与奪の権なのだ。その大半を手にしている沙都子が殺してしまおうと思ったのなら戦いにもならずに繰り返す者としての梨花の精神は霧散していて当然。戦いという形式になっている事自体が殺意の無さの証明なのである。
対する梨花も鬼狩柳桜を持ち出したはいいものの、別に沙都子を殺してしまいたいと思っている訳ではない。むしろ自分と同じ様に世界を認識できる仲間となったのだから仲良くしたいとすら思っている。だから梨花にも沙都子に対する殺意は無かった。
殺意が無いという事は、しかし「その二人の戦いが長く続いてたとしても、二人が安全にじゃれ合い続けられる」という事ではない。殺意無く振るおうと振るう武器が互いを殺しうる武器である事は変わらないのだから不意に殺してしまう、あるいは殺されてしまう可能性は付いて回る。
それでも互いに互いを言葉で説得する事も、暴力で心を打ちのめし従わせる事も出来ないまま危険な遊戯が続く。
「見物であるな、出来損ない。どちらも相手を殺す気など無いというのに……おお危ない危ない。さて、望まぬまま相手を死に至らしめるのはどちらであろうな?」
遊戯を見物するは神・エウア。沙都子を繰り返す者とし、梨花の意思を変える為の足掻きという名の奉納演舞の最後の演目となった殺意無き二人による殺し合いににんまりと顔を歪めた。
「二人がこんな事をしなければならない理由はないのに……どうして、どうしてこんな事を」
遊戯を見せつけられるはかつて神であった羽入、その残滓。言葉通り腹を割り、割られる事でようやく始まった話し合いが平行線のまま徒に血を流すばかりとなる光景に悲しみに顔を歪めた。
「我に罪を求むか? ……我は神である。我が全てを引き受け去れば終わろうぞ」
そう、ここまでしなければ正真正銘心の底からの話し合いなんて出来なかったのだから「二人がこんな事をしなければならない理由はあった」のだ。
……『エウアに罪あり』として追放し、罪無き雛見沢を取り戻す。そうすれば沙都子も梨花もただのエウアの被害者となり罪を負う存在では無くなるだろう。しかしそれではかつてと何が変わるだろうか? 「やはり人は人の罪を赦せないのだ」と示すだけでは無いのか?
「奇跡の準備は出来たか? 出来損ない」
奇跡? 羽入が疑問を持つが早いかエウアは続けた。「当然であろう。残滓とはいえそなたも神の端くれ。繰り返しの果てに至る必然の結末を変えたいと願うなら、結末を変えるに足る奇跡を紡いで見せよ」
神剣を振るい続ける事で半ば神と化しつつある梨花と沙都子は空中を飛び、時に刃を切り結び、時に光の弾丸を放ちあう。
沙都子の放った多くの想いを乗せた弾丸の一つがついに梨花へと突き刺さり、勢い余って梨花を殺すに至る……そう思われた瞬間、第三の人影が宙に現れ、バットを振るい弾丸は哀れ場外ホームラン!
「面白そうな事してるじゃねえか! 俺も仲間に入れてくれよ」
第三の人影がその手に持つはバットであってバットで無し。神剣・鬼狩柳桜をバットの姿と化したものであった!
「あっ圭ちゃんずるい! 一人だけカッコいい登場するなら部長の私がする場面じゃないのー!?」
第三の人影――圭一に続き第四の人影、魅音も現れる! その右手には黄金の拳銃――これも神剣・鬼狩柳桜の変じたものである!
「堂々としてればそれはそれで様になったと思いますよ」
「すねてる魅ぃちゃんもかぁいいよぉ~♪」
更に現れたるは稲妻そのものを刀として手にする詩音と黄金の鉈を持ったレナ! 二人の手にするも当然、神剣・鬼狩柳桜!
「ふむ。鬼狩柳桜を手にした者を外から呼んだか」
「二人きりじゃないとできない話もあるのです。でも二人きりで話がうまくまとまらない時は他の人も居た方がいい。そんな事もあるのですよ」
「……しかしそれで止まると思うてか?」
カケラ空間でエウアと羽入が言葉を交わす。
「なあ沙都子、散々好き放題したんだから、今度は俺達が好き放題する番でいいよな?」
そう言ってにじり寄る圭一と、その言葉に同意するかの様に同じくにじり寄る詩音魅音レナ!
この場にある鬼狩柳桜の数は5本。沙都子が手にするは1本足らずなのに対して、新たに沙都子を取り囲んだ4人の手にするは4本! ……この圧倒的な力の差があれば生殺与奪どころかこれでは何をどう好き放題されようと沙都子には抵抗の一つも出来はしないだろう!!
「沙都子に何を晒すんじゃこのボケがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
更に現れたるは鉄平! その手には……何もない!!
鉄平は罰ゲームの意思を持って放たれた部活メンバーらの光弾全てをその身一つで受け止め、しかし全てを弾き返す!
鉄平は誰の生殺与奪の権も手にしてはいない! 否、鉄平は自分自身だけではなく、誰の手にも生殺与奪の権を委ねはしない! 鉄平は鬼狩柳桜を手にしてはいないが持っていない訳ではない!!
そう、鉄平は生殺与奪の権である鬼狩柳桜をその身に封じて来たのだ!!!
「佳きかな! 突拍子もないが、だからこそ佳い! 愉快であるぞ」
エウアは満足しているが羽入は満足していない!「まだボクの奇跡は終わってないのですよ?」と言ったが早いか……
部活メンバーに詩音と鉄平を合わせた7人が入り乱れ乱闘と化したその場に更にもう二つの影! そう、エウアと羽入までもが現れた! 当然その手には鬼狩柳桜!
「ふむ、どういう趣向なりや?」
巨大に過ぎる鬼狩柳桜を軽々と動かし、しかし手慰みに動かしてみただけという様子のエウア。
「部活というのは見ているだけでも面白いですが、実際にやるともっと面白いのですよ」
先輩風を吹かせるは、傷の入った鬼狩柳桜を手にした羽入!
「エウアさんまでやって来るなんてもう本当になんでもありでございますわね……」
そこから続いた半神達――神剣の力で神へと近づいた元人間達と、受肉した状態であるが故に人へと近づいた元神達――の戦いは人には理解しえない事象すら多数入り混じっての大乱闘となった!
最初に沙都子が「恩がある」と言い、エウアの味方をするふりをしておいて「どんな手を使っても一番を目指すのが部活ですの」と部活の洗礼! 鬼狩柳桜を弾き飛ばそうとするも逆にエウアに斬られかけ、しかし鉄平がそれを受け止め、続く6人の攻撃にたたらを踏んだかと思えば錫杖で反撃!
しばしの攻防でさしものエウアも消耗し、あわや討たれるかと思いきやふとした拍子に魅音・詩音の姉妹喧嘩が再燃! あるいは圭一・レナが提示した欲望に塗れた罰ゲームの内容に鉄平の顔色が面白いように変わり「それを通したら流石に教育に悪いわ!」と普段の部活でとっくに手遅れな事知らぬまま迎撃態勢を取る!
戦いの合間に羽入と梨花が再会を喜んでいると嫉妬の炎を燃やした沙都子が羽入を言葉責めし、羽入が神様ぶった言葉を言いかけたその瞬間「今更神様ぶるんじゃないわよ」と梨花がお仕置き用の激辛キムチをねじ込んだ!!
その後も時に物理的に腹を割ったり割られたりする事もありながらも本音と本音をぶつけ合う部活式半神向けコミュニケーションは続き……気が付けば夕暮れ時の河原に全員突っ伏していた!
「空回りする熱意を更に空転させ、本音で話せる状況を作るか。愉快であったぞ……」「どう取り繕ってももう完全完璧に当事者なのです☆」「かぁいいものはお持ち帰りしてもかぁいいんだよ? だよ?」
「……本音が伝わるのはええと思うが、沙都子にもあんな罰ゲームしちょるんか?」「俺も含めて全員同じ様に罰ゲームの時は罰ゲームで……」「鉄平も、変われば変わるものなのね」「……えぇ、いいおじさまでしてよ」
全員が全員疲労の限界を迎え、主張を通せず、しかし不満の色は薄い。一緒に遊び・本音をぶつけ合った相手で、そもそも害意を持っている様な関係でもなく、言葉にしなかった・できなかったから出来ていた蟠りが解ければ十分に仲良くなれるくらいには同じものを見ていた相手だったのだ。
これからもしばらくは人類には耐えがたい半神向けのコミュニケーションは続くかもしれない。そしてそのコミュニケーションの結果として道を分かつ事もあるかもしれない。でもそれは彼らを本当の意味で分かつ様な結果ではない事だけは確実であった。
「とりあえずこれからぱーっとパーティだね!」「人数が増える事、連絡しないとですね」