【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】   作:ヌオー来訪者

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 2000年あたりのポカリのCMで流れてたセンチメンタル・バスのSunny Day Sundayって先見の明があったんやなって……(んなわけ)

 今や33度でまだマシとなってしまう現代人怖い。




 はい、今回は外伝です。時系列は大蛇丸戦前です

 あらすじ:普通の女子高生(変人)のミナヅキは正義感溢れる委員長気質の女だったが、それが災いして逆恨みを受けかける。そんな時居合わせた謎の男に救われる。その謎の男が落とした名刺によると私立探偵らしく……

 前回


ミナヅキの事件簿 02

 あれから家に帰った所で一連の出来事は父親に話すことにした。

 そもそも遠慮してやるつもりもなければ、情けをかけてやるつもりもなかった。

 メモリーカードの中身を見せた瞬間、父は言葉を失っていた。動画を見ている父の体が固まって見えた。

 正義を重んじる父のことだ。閂市がここまで治安が悪くなっていることに思うことがあるのだろう。

 

 閂市の治安はお世辞にも良いとは言えない。

 ヤクザかぶれ*1の集団が肩で風を切り、交通事故率県内ワースト1と中々凄まじい街であることには間違いない。

 数年前の宇宙人襲来からかなり治安が落ちたとまことしやかに囁かれているがきっと本当だ。

 

 

 これから慌ただしくなりそうだ。

 そう、その時父にメモリーカードを渡したときミナヅキはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女を待っていたのは不気味なほどの静寂だった。

 この手の犯罪となればマスコミが嗅ぎつけると思ったがマスコミはノロイ党の悪事や、深紫の忍びと正義のヒロインに夢中でたかだか人間ごときの犯罪には見向きもしていないようだ。

 何せあっちの方が視聴率を稼げるのだから。

 今日もいつものように芸人上がりのコメンテーターが訳知り顔で彼らの正体を中身スカスカな考察をしているだけだ。

 

 彼らは何もしない。

 ただただ正義のヒロインとやらをやんややんやと囃し立て、自らのイデオロギーを満足させるための恰好の道具としてしか彼らを見ちゃいない。

 

 彼らは何もしない。

 正義のヒロインも深紫の忍びもノロイ党と戦うだけでヤクザ紛いの悪党には何もしない。

 

 ノロイ党なんぞより始末しなくてはならないものなんて腐るほどあるというのに。

 静寂は続く。

 

 メモリーカードを渡してからというもの、父はあの事件の事にはまるで一つも触れやしない。それが酷く──不気味であった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「ごめんくださーい」

 

 蝉の鳴き声が聞こえる。

 あの廃ビルに現れた謎の男が落とした名刺によると、閂市の駅から徒歩10分ほどの何やっているのかよく分からないような怪しいビルの立ち並ぶビル街にある細いビルがそうらしい。

 X県閂市橘3丁目4-3涼村ビル3F

 

 現世探偵事務所。

 

 菓子折りを片手にミナヅキは少し力ない動きでドアをたたき、声を上げる。──返事はない。

 これで何度目だろうか。……数えたことはないがきっと通算12回目。

 

 

 こっちの苛立ちなどお構いなしに聞こえるセミの鳴き声が腹立たしかった。

 この探偵事務所本当に営業しているのか。これまで何度か訪問してきたが反応はまるでない。5度目の訪問でほとほとに疲れ切っていたミナヅキは大きくため息を吐く。

 

 礼は必ずする。それがミナヅキの流儀であったが、流石に30度台の炎天下を毎度毎度あるく体力はない。

 揺らぎかけた流儀をビンタしながらダメ元でインターホンをもう一度押す。

 

「ごめんくださーい」

 

 もうどうせいないのだろう。

 ここまで来るとあきらめムードになりつつあったミナヅキは踵を返し、エレベーターに向かう。またあの炎天下を歩かされると思うと少しばかり思うことはあるが、実際問題恩人を無碍に出来るほど薄情ではない。次に期待しよう。

 と、虚しいだけの決意を新たにしたその時だった。

 

 ガチャリ──と、聴くことはないだろうと思っていた音が背後からした。

 

「えっ」

 

 ミナヅキの体が一瞬だけ硬直した。心のどこかでは完全にあきらめきっていた部分もあるだろう。それが覆されたとなると心が受け入れるのに少しばかり時間を要するというものだ。

 そういう展開を期待していたはずなのにおかしな話だ。

 

「あ? 一条学園の制服ってことは取り立て屋じゃあないな? 誰だ?」

 

 半開きのドアから気だるげな男の顔が覗かせる。ウェーブ掛かった黒髪。間違いない。あの幽霊マンションで暴漢をオクラ嫌いを公言しながら撃退したあの男。

 現世勇深──

 

「あのッ──先日助けていただきありがとうございました! これっ、つまらないものですが受け取っていただいて……」

 

「先日?」

 

 高まったテンションのままに押し付けるように菓子折りを渡すと、一応イサミは受け取る。少し考え込んでから──ドアを閉め始めた。

 

「ちょっ! 待ってください!」

 

 慌ててドアの間に足を挟み込み、ドアを掴む。しかしイサミは問答無用でドアを閉めにかかろうとしていた。

 ここで折れようならきっと二度とこのチャンスは消え失せてしまう。そう予感していたミナヅキは頑なにドアを引っ張りにかかる。

 

「ぐぅっ! 申し訳ございませんが当探偵事務所は未成年からの依頼並びに相談、来所は受け付けておりません。……ハタチになってから一昨日きやがれ。放せ、その足を放せッ」

 

 先日の超然とした立ち振る舞いから想像できないような他人行儀のような物言いをしながら、がすっ、がすっ、とミナヅキの足を蹴り追い出そうとしている。

 力の差は歴然。成人男性とどこにでもいるような女子高生。どちらが強いかは大体は想像はつくだろう。

 

 だがしかしこの男にはこころなしか『遠慮』がある。

 故に全力は出していないと見た。事実、力づくで勢いよくドアを閉めてしまえばミナヅキは足の痛みに耐えきれず引っ込めることだろう。だがしかしこの男はそうはせず、申し訳程度に足をげしげしと蹴り剥がそうとしている。

 しかもその蹴り自体には力は籠っていない。明確な拒絶は感じられるがそんなものを慮ってやるミナヅキではない。

 

「こんの……ぉっ」

 

「このクソガキ、数年待てねえのかぁぁぁぁぁぁッ」

 

「最後まで話聞きなさいよ……!」

 

「うるせえ……俺の時間に乳臭いガキンチョに割いてやるものなぞ……なあいッ」

 

 隙間があるならば入ればいい。

 幸いミナヅキは身が細かった。育ってきた胸が少しばかり邪魔だったがこの程度ならば簡単だ。

 潜るように入ろうとすると、イサミの表情が「げっ」と言わんばかりに凄まじく嫌そうな顔をする。その瞬間──ミナヅキは勝利を確信した。

 

 ──勝ったッ! 

 

 イサミの抵抗とドアを潜り抜け、玄関まで入った所で緊張の糸がぷつりと切れてしまった。

 その次の瞬間ふわり、とミナヅキは嫌な浮遊感で眉間にしわを寄せた。この浮遊感は──転ぶときに擁く絶望感のソレだ。

 

 ──やばっ

 

 慌てて手をつこうとしても腕は思うように動かない。このまま転べば間違いなくどこかを酷く打ち付けるか、擦りむくかだ。

 その時、ミナヅキは自らの行動に酷く後悔した。こんな押し問答をするんじゃなかった、と。

 

「きゃぁっ!?」

 

 すぐやってくるであろう痛みにこらえるように目を閉じる。

 まずやってきたのはどごん、と何か重いものが落ちるような鈍い音だった。痛みは──いつまで経ってもミナヅキの身に降りかかることはなかった。

 代わりに、温かい感触。

 

「なんて強引な……ガキンチョの癖に……」

 

 そして、悪態をつくイサミの声。

 目を開くと、心底面倒くさそうな男の顔がそこにはあった。前のめりに倒れるミナヅキをイサミがクッション代わりになった形だった。彼の胸板の上で倒れこむようになっていたミナヅキは慌てて離れると、イサミはゆっくりと頭を掻きながら立ち上がる。

 

 あれだけ派手な音がしたというのにも関わらず、イサミ自身は一切打撲の一つもしている様子はなく──

 

「その辺に転がってるガキンチョ如きが俺に手傷を負わせられると思うなよ。もういいから入れ、茶ァ出さねえけどな。ったく……」

 

 頭を打ってしまったのではないかというミナヅキの心配も一切跳ね除けてしまった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「あれから、父にはこの一件のことを伝えました」

 

「あぁそう」

 

「おそらくもう彼らももう逮捕されていることでしょう。閂市の治安を悪くしていた癌のような男たちでしたから」

 

「おん」

 

 応接用のソファに腰かけたミナヅキは助けて貰ってからのことを話している一方で、向かいのイサミは不機嫌そうにミナヅキが寄越した芋長の芋羊羹を頬張っていた。

 どうやら甘党らしく時々物凄い笑顔を見せるが、その顔を見られたことに気づくと急に不機嫌な顔に逆戻り。

 存外分かりやすい男だ。

 

 

 

「ま……逮捕なんてされる様子ねえけどな」

 

「何か言いましたか?」

 

「何も」

 

「お陰で閂市の治安は良くなったも同然です、本当にありがとうございました……!」

 

 ミナヅキは深々と頭を下げる。

 実際問題この男の動きようで閂市の治安はある程度保障されたも同然だ。実際問題、菓子折りを受け取ったまま締め出そうとした所だけは目を瞑るとしよう。

 

「あぁそう。……所で、だ。どうして治安に拘るんだ」

 

 先ほどまで生返事ばかりだったイサミから想像できないような質問にミナヅキは面食らって一瞬だけ言葉に詰まった。しかしながら当然のようにすらりと言葉が思い浮かんだのは厳格な父に育てられたが故か。

 

「それは……私は警察官であり厳格な父を持ちました。国に認められた暴力装置の一つであるが故に誰よりも厳しく己を律し規範となるように務めなければならない。電車が定刻通りに正しく到着するように、自らも正しく在り規範とならなくてはならない。それが私の父の口癖です」

 

「あっそ。お前、生きにくそうだな」

 

 なお返事は酷くどうでも良さそうな返事であった。まるで小馬鹿にしているかのようにすら思える。何故か扇子を取り出してバッと開くと面には「窮屈!」と書いていた。

 いつ用意したんだそんなピンポイントなもの。

 ──こいつは何だか好きになれなさそうだ

 少し額から青筋が立ちそうになるがミナヅキは必死にそんな自分を宥めた。怒るな、この男は恩人だ。

 この男がいなければあの関田団は大きな顔をしていただろうことを。忘れてはならない。

 

「その親父の名前、なんて言うんだ?」

 

 質問の意図が分からない。先ほどまでのどうでも良さそうな返事とは思えないような質問だった。本当に馬鹿にしているなら名前すら聞かないはずだ。

 なんなんだこいつは。

 

「涼暮征四郎ですが」

 

 やや投げやりに返す。すると一瞬。一瞬だけだがイサミの目が鋭くなったような──そんな気がした。

 

「そうか……」

 

「え?」

 

 含みのある反応が面白くなかった。心底面白くなかった。掴みどころのない態度がまったくもって面白くなかった。

 本心を明らかに隠しているような態度が酷く気に入らない。

 

 なんなんだこの男。

 あの悪意塗れで性欲しか脳みそにないあの男連中とはまた別ベクトルで気に食わない。

 あれだけ礼を言う為に足繫く通っていた自分が馬鹿みたいだ。大きくため息を吐く。その一方でイサミは勝手に自分で淹れたコーヒーを呷っていた。

 煽っているのかこの男は。

 

 イライラが募る中、別のナニカが水を差す。

 

 

 どんどんどんどんどん! 

 

 

「え?」

 

 玄関から不穏なノック音が木霊する。ミナヅキはその乱暴な叩き方から肩を跳ね上げさせた。明らかに依頼人のそれではない叩き方だ。

 だがしかしそんなミナヅキ以上に大の大人であるはずのイサミの方が深刻な表情をしていた。

 

「居るのは分かってますよ!」

「困るんですよ! ご返済の期限は1週間を超えてるんですよ!」

 

 ドア越しから聞こえる2人の男の声。

 取り立て屋。少し前にイサミが言っていたのはもしかしてこれのことか。イサミが何やら借金をしていることを理解したミナヅキは玄関からイサミの方に視線を戻すと、ソファには彼の姿はもうなくいつのまにか靴を履いて窓の方に足を差し出していた。

 まさかコイツ──ビルの配管やらなにやらを利用して逃げる気だ。

 

「なッ──」

 

「あとはテキトーに帰ってろ。もう二度と来るんじゃあねーぞ」

 

「いやいやいや、何をするつもりなのよ」

 

 分かり切った質問にイサミは外の配管に捕まったまま口を開いた。

 

「とんずらするに決まってんだろうが」

 

「はぁ!?」

 

 ここまで来ると最早清々しい。

 元々ミナヅキの家庭はその手の借金については無縁だった。家も車も一括。ローンなんて知るものかと言わんばかり。

 借金なるものとは無縁の人生を辿っていたが故に、そして借りた物を返さない駄目人間ぶりにハードルの下の下までイサミは落ちたような気がした。

 

「じゃあな」

 

「待ちなさい! お金返しなさいよ!」

 

 ミナヅキの制止を振り切って外から窓を閉め切り、3階から人間離れした身のこなしでひょいひょいと降りていく様はハリウッド映画かSASUKEでも見せられている気分だ。

 あの関田団を返り討ちにしたのも頷けるような動きを平然と、こんな逃亡のために使われていることに呆れるしかなかった。あっという間に地上に降り切ったイサミはそのまま走って街の中へと消えていく。

 

 流石に彼を追うだけのフィジカルも、メンタルも持ち合わせて居なかった。

 なんなんだこいつ。

 唖然としたままイサミを見送ったミナヅキはふらふらと玄関へと向かう。頭が痛かった。お礼は言ったがそこに自らが期待していた正義はカケラも見当たらず。それどころか失望だけがそこにあった。

 

 どんどんどん、と未だ叩かれ続けているドア。だがしかし恐怖心は不思議となかった。

 鍵を外しドアを開けると2人のスーツ姿の男、方や針のように細く、方や肉団子のように太った男たちがポカンとして突っ立っていた。まさか、イサミではなく女子校生が出てくるとは思わなかったのだろう。

 

「あの……どちらさま?」

 

 それもそうだ。

 本来出てきてほしいのはイサミであってミナヅキではない。もしかして部屋を間違えたかとプレートとミナヅキを頻繁に見比べている姿は正直哀れに思えた。

 

「別に……菓子折持ってきただけです。借金をしているというのは本当なんですか?」

 

 話して良いのか。と男2名が互いに困り顔で見合わせる。

 それから結論が出たのか、針のような男が口を開いた。

 

「それが、彼借金をされていましてね。中々返してくれないもので……返済期限もう過ぎてるんですよ」

 

 余程切羽詰まっているのだろう。針のような男は貧乏ゆすりを始めている。

 借金も結局返してもらわなければ商売上がったりだ。この手の商売は得てしてノルマなるものが存在するのだ。近年その手の話が問題視されているのであまり派手な取り立ては出来ないようだが。

 

「いくらなんです?」

 

 その問いに肉団子が懐から取り出した電卓を叩き始める。針はそれに添えるようにメモ帳を肉団子に見せていた。しばらく叩いてから出てきたものは0が……数えるのも面倒になるほどの夥しい桁だった。

 

「その額は1000万飛んで……26円!」

 

「うげぇ」

 

 思わず女子らしからぬ声が漏れ出た。何をどうしたらそんな借金が出来るんだあいつは。

 男たちもため息をつき、針が気炎を上げる。

 

「……そうなんですよ。彼、取り立てようにもどういう手を使ったのか出鱈目な動きで逃げ回るし、前担当者は鬼畜眼鏡と呼ばれ優秀だったのにも関わらずプライドが折れて退職。これ以上の悲劇を出すわけにはいかないんですよ!」

 

「いや、鬼畜って何ですか」

 

 人でなしvs人でなし。ロクでもない世界がミナヅキの前で繰り広げられていた。

 借金取り側も大概ヤバい連中な気もしなくもない。我に返った針は「こほん」と咳払いをしてから話題を戻した。

 

「あぁ失礼しました。ところで彼はこの中には?」

 

「もういません。とっくにここ出ました」

 

「なっ……」

 

 驚愕する針と肉団子。信じられまいと中にどしどしと入っていくがミナヅキは止めなかった。

 確かにもうこのビルからとんずらしてしまったことを確認すると彼らの顔は真っ青に染まる。それもそうだ。ここにいると確信していたのにも関わらずいつのまにか逃げられていたのだ。平然と出来るはずがない。

 

「彼は一体どこへ……」

 

「知りません。勝手にいなくなりましたし。それに借金してたなんて知りませんでしたから」

 

 どうやって抜け出したかは武士の情けで言わないでおく。だがしかしこの先借金取りに捕まってコンクリート詰めにされて魚の餌にされても、地下で強制労働をさせられたとしても同情はしてはやらない。

 もう知らん。あんなやつ。

 

 どたどたとまるで刑事ドラマの刑事たちのように事務所から慌ただしく出て行く彼らをミナヅキは見送りながら再びぽつりと取り残された。

 

「何なのよ……もう」

 

 嵐のような時間に巻き込まれたミナヅキは心底辟易した声色で、窓の鍵を締めたり最低限の戸締まりと後片付けをしていく。流石に鍵は持っていないのでドアの方は閉めてやれないが。

 ある程度片付けて、探偵事務所のど真ん中に立ちすくむミナヅキだったがこの部屋が何故か酷く、淋しく思えた。

 

 

 片隅に置かれたテレビ、レトロ趣味なのか置かれたレコード。古ぼけたラジオ。

 冷蔵庫に本棚。応接用のソファにテーブル。事務用の机の上に置かれたマグカップとコーヒーミルやPC。乱雑に置かれたカップ麺の容器たち。主のガサツさが出て中々汚いが探偵事務所としての体裁はなんとなくながら整えられているようだ。

 不躾ながら本当に探偵事務所をやっているのか気になったので机の近くに置かれた本棚を軽く見てみたが報告書やらがちゃんと置かれており詐称ではないらしい。

 

 こんな物には困っていないラインナップの割に寂寥感があるのは、彼から見え隠れする仮面の奥に何かを見出しているからだろうか。

 あの男は一体どんな気持ちでこんな淋しい部屋の中で生きているのだろうか。

 当然教えてくれる者など1人もおらず、ミナヅキはひとりとぼとぼと事務所を出た。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 事務所に来て何が得られたというのか。

 勝手に夢見て失望して。

 それまできっと彼に期待していたのだ。燦然たる正義を。

 きっと彼から正義を学びたかったのかもしれない。けれどもあの男もベクトルが違うとはいえ、男どもとそう差などないのかもしれない。

 

 

 ただ徒労となっただけのこれまでの行為に自己嫌悪を覚えながらとぼとぼと街中を歩く。

 横から聴こえる無遠慮に走る鉄の塊たちの鳴き声をBGMに歩くのは慣れているはずなのにいつもとは違って聴こえた。

 

 我ながらここまで感傷的になる女だったか。

 振り向くな、奴のことは忘れよう。

 

 いつもと違う鉄の塊たちの鳴き声が鳴りを潜めると代わりに老若男女のハモった低い声がミナヅキの耳朶を打った。

 

 顔を上げると白い服の集団がぞろぞろと列を成して横断歩道を歩いている。

 

「てーんーじょー!」

 

 先頭の男が叫ぶと、後列の者たちが1対の木の棒……拍子木というらしい木の棒と木の棒をカンカンと叩いてから続いた。

 

「むーきゅーうー!」

 

「てーんーじょー!」

 

「むーきゅーうー!」

 

 と、その時1人が横断歩道前で足止めを食らってる車の開けっ放しのドアに素早く向かい、突如物凄い追い詰められたような顔になって窓をノックする。

 ノックされた側がもしお人好しならば何事だ、と思って開けてしまう者もいるだろう。

 その思ってしまったのが今のノックされた車の運転手だった。運転手でスーツ姿の青年が「何、どうしたんすか」と迂闊にもドアを開けたのが運の尽き。

 

 そのまま手に持っていた紙の束一枚を寄越した。

 ビラだ。ノロイ党の行為が人類救済によるものなのだ、とかそんな感じのものを書いているような。

 

「これどうぞ」

 

「げっ……どうも。……はいはい貰うから……あの、すんません早く行ってもらえません? 早く行って? もう分かったから早く行ってぇッッッッ!?」

 

 車の運転手に少しばかり同情した。運転手の男は半ギレで手をひらひらさせて「あっちいけ」とあしらうが相手はそんなのお構いなしだ。

 実際問題、車の方が立場は弱い。

 

 横断歩道が赤信号になり、車道の青信号が点灯しない限りこの責め苦は続くのだ。

 

 最近、治安の悪い閂市が頭を抱えているものが他にもある。

 それが彼ら、天壌無窮教だ。

 元々少し前の宇宙人襲来時、終末思想を唱えていた新興宗教だったが、最近ノロイ党の行動もあって勢いを増している。

 存外人間という生き物は歴史から何も学ばないらしい。

 

 人の世は終わる。

 天壌無窮なる世を生きるためには徳を積み、悪魔を祓う必要があるのだとかなんとか。

 彼ら曰くノロイ党は神の使者らしい。馬鹿馬鹿しい、とミナヅキは吐き捨てた。

 

 

「斎田さん。受け取っちゃダメですよ。問答無用で閉めなきゃ」

 

「斉藤な。問答無用つったって閉めても挟んだら挟んだでクソ面倒なんだよなぁ……くそう、新聞屋に配達だとか抜かされてホイホイ開けたら玄関に居座られた時もそうだ。何かまずいことがあったと思って開けたら……一人暮らし始めてから学習しろ、俺……マジでごめん!」

 

「あーもーいいですって、ほら青になりましたよ! 佐藤さん!」

 

「だから斉藤……とーりまーす」

 

 運転手の悲痛な叫びが聞こえてくる。意外と苦労しているらしい。

 天堂(斉藤)と呼ばれた男と助手席の青年の不毛な漫才の果てに、後ろの車たちが次々と抗議のクラクションを鳴らし始め流石に時間切れを悟った信徒が引き下がると、青信号になるや否や発車そのまま全速前進で逃げるように走り出した。

 逃げ切った彼らに幸あれ。

 ちょっとだけ気の毒に思えたミナヅキは内心手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 天壌無窮教。

 彼らの思想には共感できないが、ノロイ党そのものが行っているのは一種の世直しだ。それに惹かれる者も少なくはない。

 無論、ミナヅキ自身も心のどこかでは期待している節がある。

 

 学校という小さな社会の中で、ただただどうしようもないやつはいくらでもいる。

 死んで仕舞えばいいと思ったこともある。ノロイ党が粛正してしまえばどれだけよくなることか。

 

 小学生の頃から発育の早かった自分をデカパイだのおちょくる馬鹿男子。

 素行不良はおろか暴力をもって弱い者に迷惑をかける生徒、それらを見て見ぬ振りをする教師、生徒と関係を持つ教師。

 関田団なる暴力と数に物を言わせた男連中。

 今回のふざけた借金逃亡私立探偵。

 

 

 

 あぁ不愉快だ。

 

 

 

 悶々としながら街の中を歩く。

 ひたすら歩く。気付けば陽は落ち、門限も近付いていた。どういう理由であれ門限を過ぎてしまえば家に入ることは許されない。

 

 進む足が早くなる。

 道ゆくサラリーマン、学生たちを掻い潜るように進む。ぬるい風が肌を撫ぜ、髪をなぶり痛めつける。もわっと立ち込める排気ガスの臭い。

 

 あぁ不愉快だ。

 

 夏は嫌いだ。

 男連中の胸元を見る邪な目線、じっとりとした湿気、年々上がる気温、湿気で傷む髪。人混みの熱で上がる気温。

 

 あぁ不愉快だ。

 

 夏なんて滅べばいいのに。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 その時、ひんやりとした風がぬるい風の代わりに汗に濡れた肌を擽った。

 ビルから漏れ出たエアコンの冷気とも違う、まるで冬のような自然の空気。

 

 最初こそ気のせいだと思いはした。けれども周囲が各々肌に触れて怪訝な顔持ちをし始めることでこれが現実だと言うことをまざまざと思い知らされる。

 

「なんか寒くないか?」

 

「っかしいな。今日33度って予報で……」

 

 かくして少女の願いは叶った。

 夏は滅びたのだ。

 などと思えばどれだけ幸せだっただろう。

 

 こんな漫画的なことが通常起こるはずがないのだ。

 天の恵みと思っていた涼しい風は徐々に指先から肩、胸、腹へと蝕んでいく。

 

 おかしい。

 涼しいを通り越してこれは寒いじゃないか。

 

「なに……これ」

 

 さっきまでのじっとりとした夏特有の暑さがまるで嘘のようだ。腕を組み必死に少しでも暖を取ろうとすればするほど余計に寒気が肌を襲う。

 手と手を擦り合わせれば逆に手のひらが凍るような痛みがミナヅキを襲った。

 

「つっ……」

 

 おかしい。

 これではこの街じゃなくて自分がおかしくなったみたいじゃないか。

 霜焼けのように赤く染まる掌を見てミナヅキは喉を詰まらせる。

 

「ガチ寒い……冬服なんてまだ用意してないし!」

「なんで冬になるん? 異常気象的な!?」

 

 ミナヅキの近くで凍えていたケバケバしい女子高生の二人組がぼやく。

 おかしくなっているのは自分だけではないらしい。

 

 ぬるい風が凍えさせるのならば、風に当たらないようにするしかない。車の生ぬるい(はずの)排気ガスと熱気から逃げるようにミナヅキは人混みから離れてビルの谷間に潜るように逃げ込む。

 やはり先程いた歩道よりはマシだが寒いものは寒い。

 

 なんなんだ。

 一体何がどうなったらそうなるんだ。訳がわからないまま、ミナヅキは寒気に耐えて耐えて耐え続ける。

 最早門限どころの話ではなかった。歩道に出れば排気ガスの熱気でまた凍えるのだ。全てが収まる、そんな都合のいい時が来るのを待つしかない。

 

「寒い……」

 

 ぽつりと独りごちたその時だった。

 

「ヌンジャ!」

「ヌンジャ」

「ヌンジャ!」

 

 甲高い声……というより鳴き声がミナヅキの耳朶を打った。声のした方に音を忍ばせ、身を低くしながら覗き込むとそこには、ビルとビルの間で使い道なく空き地と化した広場に黒衣の忍者風の怪人たちが泣き声を上げていた。

 あれはニュースでよく見るノロイ党の戦闘員だ。

 その中で1人だけ、一際大きく歌舞伎者を思わせるようなお面のような顔をした者が1人。

 それは怪人と形容する方が正しいだろうか、頭から上着をすっぽり被ったような風貌をしているがために首がない。かと言って中に誰かが入っている着ぐるみのようにも見えないときた。

 

「フフ……フフフフフフ。効いているようだな。このノロイ党鬼門転士。ジザイヤ感逆自在にかかれば……あらゆる感覚は真逆反転する。過去に比べ気温の高いこの時代、凍土に薄着で居るようなものだ……」

 

 滔々と語るこのジザイヤなる怪人によれば、一連の寒気は術。つまり人ならざる力によるもののようだ。ならばこのジザイヤなる怪人を止めることができれば、この寒気も終わる。

 

 警察に連絡する。そんな選択肢がミナヅキの脳裏をよぎるがすぐかぶりを振って跳ね除けた。

 駄目だ、警察の銃器は生放送で見せられた。まるで一つたりとて通用していなかったはずだ。連中を無力化なんて夢のまた夢だ。

 

 となれば最早、嫌な奴が同じ目に遭っていることを願うくらいだ。

 

「この術を以て、者どもを混乱させノロイ様に瘴気を送り込む……我ながら見事也!」

 

 自らの行為に酔いしれるジザイヤ。たしかに回りくどいが社会は混乱するはずだ。

 無差別なのが少しばかり気に食わないが。向ける方向が限られていればまた違うように思えたはずだ。例えば関田団のような悪党のような連中だけを狙って凍えさせてしまえば──

 

「ゲハハハハハハハ!」

 

 その時、ジザイヤのお面のような白い顔が180度真逆にひっくり返り、先程までの古風然とした長細い舌をまるでカメレオンの舌のようにピロピロさせながら人ならざる笑い声を吐き出す。

 

「……っ!」

 

 ぞわり、と背筋が凍るような感覚がした。

 ここに長居するときっと碌なことはない。その時のミナヅキに冷静な動きは最早出来なかった。一目散に逃げるように足を動かすや否や、近くに転がっていた空き瓶を蹴り飛ばしていた。

 

「むっ!? 誰だ!」

 

 こんな裏路地に空き瓶をポイ捨てした奴を殴りたかった。ゴロゴロと虚しく転がるオロナミンCの空き瓶が酷くミナヅキには恨めしい。

 瞬く間に顔を元に戻したジザイヤとそのお供たちはミナヅキのすぐそばまで迫っていた。

 

「……小娘、先程までの話も聞き耳立てていたな?」

 

 足が震えている。

 思うように動かないのだ。人の理から外れた風貌の物の怪だ、おそらく存在そのものを理性が必死に拒絶をしている。

 後退りしようとしたその時、足が滑り尻餅をつく。

 今度は油だ。何の油だか分からないが何かの排水がミナヅキの足を滑らせたのだ。

 

「そ……それが何よ! 勝手に喋ってたのは貴方の方でしょ!?」

 

 震えて動けない自分自身に鞭打つかのような奴ミナヅキは吠える。

 実際問題ジザイヤがベラベラ忍者もどきと話をしていなければ目論見もバレたりはしなかったろうに、とんだ間抜けもあったものである。

 だがその間抜けも拳銃が通用しない以上脅威なことには変わりないのだが。

 

「かの閃忍ほどではないが、お前も随分と美しい顔をしている。俺は美しい顔の女が好きだ」

 

「……っ」

 

 ぞわり、と背筋がざわつくような感覚がした。閃忍というのはあの正義のヒロインとやらのことだ。

 ミナヅキも多少自覚はある。他人より多少外見の面では恵まれているのだと。母も父も若い頃は美女美男だったという。

 

 だがしかし、好きでもない上に人ならざる化け物に好意を向けられたところで気持ち悪い以外の感想は湧かなかった。

 

「女の美しい顔を征服するのが俺の悦び……」

 

 カクン、とその仮面を再び180度回転させ──

 

「悦びなのダァァァァ!」

 

 人間の声とは思えないような狂声がミナヅキ目掛けて吐き出された。

 こいつも結局同じか。あの唾棄してきた男どもと。

 忍者もどきが、ぞろぞろとミナヅキの両腕を押さえ込み無理やり起こし膝立ち姿勢にさせられる。

 

「このっ、離しなさい!」

 

 必死にもがいても力の差は歴然。

 びくともしない事実にミナヅキの胸の奥に黒々とした絶望が沈み込んだ。

 

「知っているだろうが、人は顔の性感帯だけで達することは出来ぬ」

 

 顔を元に戻したジザイヤはミナヅキの顎をくいっと持ち上げ唇をぷるん、と弾く。

 

「だが他の怪忍のように俺だけが悦べばいい、というのは主義ではない。俺が征服することで女が悦べば……女の悦ぶ顔も征服出来て俺は余計に嬉しいではないかぁっ!!」

 

 一体なんの話をしているのかはいまいち分からないがこれだけはわかる。

 この化け物は自分の体を嬲り、辱めようとしている。まるで自らの身勝手な慈悲の形をした悍ましい何かに酔いしれるような物言いであった。

 

「シュシュシュッ! 俺は何と優しいのだ! シュ、シュシュシュッ……カーッカッカッカッ!」

 

 顔が再びひっくり返り、狂笑を撒き散らし唾液がミナヅキの顔に飛び散った。

 その時、ミナヅキはあずきバーを噛み砕く程に歯を噛み締めていた。

 

 ジザイヤはミナヅキの前に膝をつくと、制服の胸元をぐっと掴みそして、力を入れ引き──

 

「ヌンジャァ!?」

 

 ちぎるより前に後ろから鈍い音と共に忍者もどきの悲鳴がミナヅキの耳朶を打った。

 瞬きをする間に、首根っこを掴まれて体が浮遊感に襲われる。

 

 瞬きするたびにまるでコマ送りの漫画を見ているような感覚だった。忍者もどきをミナヅキを抱えている誰かが蹴り飛ばしては反撃を避けているのがわかった。

 自分を抱えているのが一体誰なのか、考える暇与えず気付けば既にジザイヤから数メートルまで離れていた。

 地面の上で転がされたミナヅキは判然としない視界を必死に凝らし、その『誰か』を見る。

 

 それは酷く、見覚えのある服装がフルフェイスのヘルメットを被っていた。

 

「シュシュシュッ……少し驚いたが所詮はただの人間。ゲニンを沈めることは出来んようだな!」

 

 とは言っても事態が好転した訳ではないらしい。忍者もどきの動きは完全に『誰か』とミナヅキの行く手を完全に阻み、逃げ場を奪い切っていた。

 

「おい大丈夫か……」

 

 男の声。

 その声はフルフェイスのヘルメットのせいで籠っていたが聞き覚えがあった。

 それはこっちの台詞だ。

 勝手に入ってきて逆に自分がピンチになっては世話ないだろうに。先程のごたごたでちゃんと見ていなかったのであろう、フルフェイスの男は呆れ顔のミナヅキの顔をちゃんと見た瞬間──バイザーの奥から覗かせる眉間から一気に皺が寄った。

 

「げっ……」

 

 この世で一番見たくないものを見たような声だ。

 聞かされたミナヅキは心底うんざりした。

 何がげっ、だ。

 自分で突っ込んできておいて何そんな声を出してるんだ。

 フルフェイスの男は首をぶんぶん振ってからジザイヤらと相対し、口を開いた。

 

「この異様な寒さ。テメェの仕業か」

 

 それは一瞬だけ、事務所で自分の父親の名を問いかけた時の声のようだった。

 関田団を打ちのめした時の小馬鹿にしたような態度とも、ミナヅキに嫌々応対した時の気怠そうな態度とも違う。

 

 強いて言うならば──殺し屋のような。

 

「左様。だがここで知ったところで何になる? この良いところを邪魔だてしたお前はここで八つ裂きになってもらおうか……シュシュシュ! カーッカッカッカッ!」

 

 駄目だ、ジザイヤなる化け物はこの男を殺す気だ。この男はミナヅキとしては嫌いな人種ではあったが、死ぬほどのことではないはずだ。

 逃げろと促そうと声を上げようとしたその時、見えるフルフェイスの男の背中がそれを拒んだ。

 

 あの狂ったような笑いを前にしてもフルフェイスの男からは余裕を感じられた。

 

「ただの人間なら、だろ? 生憎おれ様は人の道理から外れたらしい」

 

 フルフェイスの男は懐から何かを取り出す。それは黄金の瓢箪。

 それを見るや否や、ジザイヤは声を上げた。

 

「その瓢箪……もしや深紫の忍びか!」

 

 深紫の忍び。

 まさかあの正体不明のノロイ党を倒して回る謎の存在はあの男だと言うのか。

 ガッカリ感と共に何となく納得しそうになる自分を殴りたくなる。あの借金男が深紫の忍びとは中々酷い話である。

 と、苦笑いしかけたところフルフェイスの男は首を横に振った。

 

「違うな……おれ様は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇらノロイの敵、全ての人間のオンナの味方。目に物見せるは──」

 

 きゅぽん、と瓢箪の栓を親指で弾き出すように引き抜き地面に溢す。すると出てくるのは酒ではなく無数の水を纏う機械蟲だった。

 フルフェイスの男の腰に巻き付くや否や機械仕掛けのベルトへと姿を変える。

 

 瓢箪を投げ捨て、入れ替わりに橙色の3枚刃の手裏剣の付いたプレートを持ったまま、空いた腕を前方に突き出すように曲げ、拳を作る。そして──

 

()()()()()()だ。──変身」

 

 その掛け声は高らかであった。

 がちゃり、とプレートをベルトのバックル部分に取り付け3枚刃の手裏剣を回転させる。

 すると中心部から忍者が持つような巨大な巻き物が吐き出され、男の背後からは3倍近くの大きさを持つ機械仕掛けの蜂が現れる。

 

 巻き物は機械蜂と男の周りをぐるぐると回り続け、機械蜂の針を出すお尻の部分から機械仕掛けの鎧が排出されるや否や瞬時に男の体を戦士の姿へと変えた。

 

【踏んだり! 蹴ったり! 張ったり! 仮面ライダー・ハッターリッ!】

 

 

 

 中々酷い音声が聴こえたような気がするがこの際聞かなかったことにする。

 いつのまにか機械蜂も巻き物も消え、珍妙奇怪な格好となった彼を見たミナヅキは言葉を失った。

 全身を覆う黒いスーツを基調に四肢を覆う橙色のプロテクター、体の節々に絡みついた布、そして後頭部から伸びる鉢巻の余り布を思わせる細長いそれ。そして、3枚刃の手裏剣を思わせる仮面。

 

 文字通り、あの男は『変身』してしまった。

 

「……変わった。あと、大きい蜂は戦わないんだ……」

 

 

 ミナヅキのツッコミを見事に素通りしながらハッタリの前に忍者もどきがわらわらと群れを作り始める。一番奥で構えていたジザイヤは少し考え込んでから言葉を紡ぐ。

 

「ゲニンよ、やれ……!」

 

 ジザイヤの指示でゲニンたちが人外そのもののような動きで飛び回りながらハッタリに迫る。

 そこからは一方的な勝負だった。

 

 一番槍として仕掛けたゲニンの縦に振り下ろされた一太刀は二本指で白羽どりしたと思いきやそのままへし折り蹴り飛ばす。

 次に攻撃をしかけたゲニンの斬撃は最低限の動きで上体を逸らすだけで躱してみせそのまま流れるように裏拳、当て身、膝蹴りと次々に沈めて行った。

 

 先程の変身前ではろくに通用しなかった攻撃も今となってはまるで冗談のように効いていた。次々と黒い煙となって消滅していく光景は快哉を叫ばずにはいられない。

 

 流石に部下をまるで赤子の手をひねるかのように処理して見せたハッタリに、ジザイヤの声色も少しばかり焦りが混ざり始めていた。

 

「くっ……お前、深紫の忍びの仲間か!」

 

「仲間? 勝手に混ぜてんじゃねえ」

 

 ハッタリが背中に収められた小太刀を引き抜くと、それに応えるかのようにジザイヤも腰に収められた2本の刀を引き抜いた。

 

 

 静寂がこの裏通りを包む。

 先程の格闘戦が嘘のようにざり、ざり、と摺り足でじゃりを踏み締める音だけが聞こえてくる。

 どちらが先に打って出るか。

 ミナヅキは黙して見守ることしかできなかった。

 

 

 先に動いたのは──ジザイヤだった。

 

 

「ハッ──! 遅い!」

 

 斬。

 ジザイヤの得物は交差するように振るわれた。Xの字に振るわれた一撃は受ければ鉄の塊だろうがいともたやすく切り裂いてしまうだろう。事実、衝撃波が、刀が届かないはずの位置にあるゴミ箱を真っ二つに切り裂き、その中身をぶちまけたのだから。

 

 しかし──ハッタリにはそれが当たってなどいなかった。ジザイヤの斬撃よりも早く、通り抜けざまにハッタリがジザイヤの横を通り過ぎていたのだ。

 そして──まるでハッタリが通り過ぎた跡にいたジザイヤの体は頽れ膝をつき、脇腹を押さえて苦悶の声を上げた。

 

「ゲハッ!?」

 

 小太刀の切っ先を無遠慮にジザイヤへと向けながら再びじわじわと近づいていく。

 そんな彼に、ジザイヤはその怪しげな黄色い瞳を輝かせた。その次の瞬間、ハッタリの足元に何かの紋章が浮き上がった。

 

「ゲハハハハハハハ! かかったな! 間抜けめ!」

 

 狂ったような笑い声でようやく、ハッタリの身に何かが起こったことをミナヅキは確信した。

 ハッタリの方を見るとなぜか、ジザイヤに迫っていたはずがジリジリと後退りをしている。

 

「身体が言うことを効かんだろう? そのまま()ねぃ!」

 

 困惑しきっているハッタリをよそにジザイヤは得物を振う。鉄すら切り裂くその斬撃はハッタリの装甲を切り裂く。

 堅牢な装甲と何者をも切り裂く刃が拮抗し、火花が大きく散る。だがしかしハッタリは攻撃で後ずさるどころか前に出ていく。

 

「フフフフフフ……自ら当たりに来るか。まぁ当然か、我が術を受けたのだからな!」

 

「っざけやがって! うぉっ!」

 

 面白いように攻撃を受けるその光景は異様だった。ノーガードで自ら受けにいくその動きへ先ほどまでのハッタリの行為からは想像がつかないものだ。

 当然ながらハッタリが吐き出す苦悶の声は明らかに不可解さに対する不満めいたものも感じられた。

 

 おかしい──

 ミナヅキは思考する。この状況に対する解決法を。

 あのジザイヤを叩きのめすだけの方法を。その時には既にミナヅキの脳裏からは『逃げる』という選択肢は消え失せていた。

 

 

 奴は、先程術と言った。

 

 奴は言った。感逆自在、と。

 

 寒さを暑さに、暑さを寒さにするだけの力を奴は持っている。

 

 

 

 普通なら攻撃をしたなら避けたり防御したりするはずだ。

 今この瞬間、手足を大の字に投げ出しておもしろいように攻撃を受けている。ということは──

 

「そこの踏んだり蹴ったりマン! 私を見なさい!」

 

「あぁん!?」

 

 ミナヅキが声を上げた途端、ハッタリはミナヅキのいる方向とは真逆の方を向いた。

 やはりそういうことか。全ての謎が解けたミナヅキは言葉を紡ぐ。

 

「反対よ! 逆! 逆! 奴はあなたの感覚を反対にしているの! だから……あなたの動きをあべこべにしてしまいなさい!」

 

 この言葉がちゃんと伝わったかは分からない。けれども全て吐き出し切った所でハッタリの顔が一瞬だけ──そう、一瞬だけこっちを見て頷いたような、そんな気がした。

 

「余計な真似をするナァァァァァ!!」

 

 ジザイヤが種明かしをされたことに怒り狂ったか頭を逆さまにしたまま刀を振るう。

 するとXの字の衝撃波が凄まじい勢いでミナヅキ目掛けて飛来する。このまま受ければ体は真っ二つ。即死は免れまい。

 

「あ──」

 

 死にたくない、と無様にも思ってしまった。

 けれども体は動かない。完全に弛緩し切った筋肉は自らを逃すには力不足。

 

 嫌だ。

 

 死にたくない。

 

 嫌だ。

 

 人間50年と言うがその半分の四半世紀すら生きちゃいない。

 

 理性と本能が必死に生を掴もうと足掻いても体は動かない。これほど間抜けな終わりなどあるまい。

 目を閉じる。全てが闇に包まれて────

 

 

 

 

 いくことはなかった。

 

 

 

「あーなるほど、だいたいわかった」

 

 ハッタリの声に引っ張られるように目を開けると、そこには衝撃波を相殺したハッタリが手遊びと言わんばかりにくるくると小太刀をバトンのように振り回していた。

 

「馬鹿な! ここまで何故こうも早々に動けるッ!」

 

 感逆自在の術を受けてもなおも平然と小太刀を回して遊んでいるハッタリにジザイヤはドン引きし切ったような声を上げる。

 事実として前に向かえば後ろに、後ろに向かえば前に、左に向かえば右に、右に向かえば左と真逆の動きを強いられているのにも関わらず平然と動けているのは普通ではない。

 そんなジザイヤの指摘にハッタリは小太刀で遊ぶのをやめて再び切っ先をジザイヤに向けた。

 

「おい、さかさまパイプラインって知ってるかよ」

 

「何だそれは!?」

 

「知らねえか」

 

 さかさまパイプラインなる意味不明の会話を繰り広げながら、無造作に斬撃を叩き込んでいくその様子は側からみれば恐怖そのものであろう。

 後々知ることになるが、ビデオゲームのステージ名らしい。

 

 ビデオゲームのステージ名の話をしながら刃物を振り回しているというのも尚のことサイコ感滲み出ているような気もしなくもないとその後のミナヅキが思ったのは内緒である。

 的確に斬撃を加えられ、蹴りを叩き込まれたジザイヤはその身を紙屑のように飛ばす。

 

 そして地面に転がったところでハッタリはベルトの手裏剣を勢いよく回した。

 

【ファァァンタスティック・忍POW!】

 

 珍妙奇怪不可思議な音声と共にハッタリの体が消えて無数の小さな機械蜂の群れへと姿を変える。そしてそのまま上空まで飛んだと思いきや再びハッタリの姿へと戻り、重力に従って飛び蹴りを放つ──はずだった。

 

「受けて立つ!」

 

 ジザイヤもカウンター狙いで得物を振るう。ジザイヤもかかしではない。最悪ハッタリが返り討ちに遭い負ける可能性もゼロではない。

 そんな未来に身震いしながら見守る必殺の一撃は──ハッタリが炸裂間際で消えたことによって不発となった。

 

 ──消えた!? 

 

 あのまま一撃を放たずに消えてしまったハッタリに見ていたミナヅキもどんな顔をすればいいか分からなかった。

 一体さっきの飛び蹴りはなんだったのか。

 その答えは──

 

「……ゲハッ。まさかあの一撃が囮……だったとは」

 

 突如、ジザイヤはまるで重油のような黒い液体を吐き出した。

 これは血だ。胴体をよく見ると血塗れの白い刃が胸から突き出ている。ジザイヤの背後をよく見ると、そこには──逆手に持った小太刀を深々とジザイヤの背中に突き立てたハッタリの姿がそこにあった。

 

「大技で吹き飛ばすよりは急所にブチ込んだ方が速いのさ。蝶のように舞い蜂のようにぼんのくぼに刺す……ってな」

 

 まぁ、今回ジザイヤには首がないのでぼんのくぼも何もないのだが。

 

「こんな……俺がこんなところで殺られるなど……あ、あれも……これも……まだまだひっくり返してないのに……」

 

「すんな」

 

 恨み言はどこ吹く風。

 突き刺した小太刀を引き抜き、背中に背負った鞘に収める。

 穴から黒い血を噴き出しながらジザイヤは力無く倒れていく。最早彼に闘う力は残されてなどいなかった。

 

「ノロイ党に勝利あれええええええええええ!」

 

 爆発四散して消えていくジザイヤに、ハッタリは何処からか取り出した扇子を開きパタパタと扇ぐ。

 張り紙には「成敗!」とデカデカと殴り書きされていた。

 

 ──いやだからなんでそんな扇子持ってるのよ

 

 しかしハッタリは、ハッと我に返ったのか動きを止めその扇子を慌てて仕舞った。おそらくバレることを危惧しての行動だろうがもう手遅れだ。態度と服装でもうモロバレだ。間抜けめ。

 呼び止めようとしたがそれよりも早くハッタリは逃げるように去っていく。その動きはやはり人智を超えたものであり、逃げる様は酷く不恰好ではあったが──

 

 

 そこには間違いなく燦然たる正義が宿っているようにミナヅキには思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 あれから。

 門限をぶっちぎってしまったミナヅキはひどく怒られた。それはもう徹底的に。

 

 ノロイ党のテロに巻き込まれたなんてものはただの言い訳に過ぎない。

 事実あの寒気を無視して帰ってしまうのが正解だったのかもしれない。遅かれ早かれあの男が現れてジザイヤを仕留めてしまうことは目に見えていたのだから。

 

 けれども──家族からの怒りを買ってでも得られたものがあった。

 

 

 

 数日経った程度では借金取りから逃げ回る彼は帰って来ないようで、探偵事務所の鍵は開けっ放しだ。

 流石にこのままでは泥棒が入るだろうし最悪差押えだってあり得るのだ。

 ついでに散らかった部屋も掃除していく。埃は主不在のこともあり、かなり溜まっていた。

 

 ここのビルの大家もイサミには随分悩まされていたらしく、その旨の話をしたら快く協力をしてくれた。

 カップ麺の空はゴミ袋に詰め込み、煙草の吸い殻は火災が起きないように適切に処理。

 埃は掃除機で吸い上げ、雑巾掛け。

 

 数日かけてやっとこさ綺麗に片付いた部屋を一瞥してからミナヅキは大きく深呼吸した。

 あぁ、片付いた……

 

 達成感に酔いしれていると、玄関から乱雑なドアを開ける音が聞こえてきた。

 ……どうやらやっとこの事務所の主が帰ってきたらしい。

 

「あ? なんで妙に片付いてやがる……ってお前! なんでこんな所に居座ってんだ!?」

 

 ミナヅキを見るや否や、追い出そうとするイサミだったがミナヅキも引き下がる気は毛頭なかった。そもそも追い出されたとしても大家さんの力を借りるのでイサミに勝ち筋はない。

 

「貴方こそ一体全体ずっとどこにいたんですか!」

 

 数日間ずっと借金取りから逃げていたわけではないだろう。そんな意味合いの問いにイサミは大袈裟に腕を広げながら滔々と語る。

 

「世界中のオンナの所だ。オンナある所に俺はいる」

 

 ……なんとなくそんなふざけた回答が飛んでくることは想定していた。酒の臭いがするあたり恐らく夜の店にでも行っていたに違いない。

 案の定、ではある。だがしかしこうして聞くとどうしても失望や、怒りが抑えきれない。

 せっかくの素質を台無しにしているのだ。

 

 思い立ったミナヅキは立ち上がり、イサミに向かって宣戦布告でもする国家元首のような顔持ちで口を開いた。

 

「……決めました。やはり貴方は更生させます。させてみせます」

 

「あ? 更生? なんでそんなことを勝手に……」

 

 まさかここまで反抗されるとは思わなかったのだろう、イサミの顔は困惑し切っていた。

 けれども情けはかけない。畳み掛けるように続けるとあまりの捲し立てっぷりに唖然としていた。

 

「大家さんからの許可は貰ってます。女遊びなど元から論外なのですがそもそも最低でもお金を返すことをしてからやってください!」

 

「ゲッ、大家め、まさか先月一気に返したこと根に持ってやがるな……!」

 

 大家さんからはこんな話を聞いたことがある。

 基本ここの家賃は月1支払いだが、イサミは半年ほどの家賃を未納としておりそれらを上手いこと言って大家から取り立てを回避していたようだ。

 よく強制退去させられなかったものである。

 

「当たり前でしょう! という訳で借金返済と更生のため私も助手として働きますのでよろしくおねがいします!」

 

「よろしくお願いしまぁす……じゃねえ! 給料出さねえぞ! そもそもこの仕事はガキンチョのやる仕事じゃ……」

 

「最低でも体裁整えてから言ってください!」

 

 答えに窮したのか完全にイサミは「うぐっ」と言葉を詰まらせる。勝負あり、だ。

 いくら文句を言おうが大家が協力している以上どうにもならない。

 

「こ、このガキンチョめ……大家めえええええええ」

 

 かくして、ミナヅキによる仮面ライダーハッタリ更生計画が始まった。彼女の戦いは……始まったばかりである。

 被害者(兼加害者)こと現世イサミの悲鳴と呪詛の声が空へと虚しく響いた。

*1
今で言う半グレ集団のことだが2008年当時にそんな概念はなく、2010年代からのものである




 初期名護さん思考になる時がある委員長気質かつやや男嫌いなやべー女と、借金から逃亡するわ女好きだわのやべー男。
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