祐はカモから視線を移して美琴と黒子を見る。あの二人の反応を見る限りカモと以前関りがあったのだろう。どうにも黒子からの視線は友好的ではなさそうだが今は置いておいてもらうしかない。祐は歩き出してからネギ達を手招きする。一度顔を見合わせたネギと明日菜も後に続き、祐を追うように美琴達へ近づいていった。すると美琴も歩いてくる祐に目を向ける。黒子はより視線を鋭くさせてカモを見た。ネギの肩でカモは冷や汗が止まらない状態である。
「お二人さん、こんな状況だけど手短に済ますからちょっと紹介させて。まずこちらネギ・スプリングフィールド先生。麻帆良学園で教師をしてる」
「えっと、初めまして」
「あ、うん。初めまして」
「…どうも」
祐はネギの背中を優しく押して二人の前に出す。状況が掴めないままだが取り敢えずとネギはお辞儀をした。戸惑いながら美琴が挨拶を返せば、カモに最大限の注意を払いつつ黒子も会釈をする。
「んでもってこちらが神楽坂明日菜。俺の幼馴染で通称麻帆良のバイオレンスゴリラと呼ばれうっし!」
紹介の途中で飛んできたビンタにより祐の頭部が勢いよく揺れた。残像を生んだ光景からその威力が窺い知れる。
「何故叩かれたんだ…」
「理由ははっきりしてると思いますの」
手形がついた頬を摩りつつ祐が明日菜に抗議すると、黒子が呆れながら呟く。この僅かなやり取りで美琴は明日菜に同情していた。
「今時暴力系ヒロインは流行らないと思うよ」
「アンタはちょっと黙ってなさい!」
意味不明なことを言っている祐に釘を刺してから、空気を変える為に明日菜は咳払いをする。
「え〜っと…状況はよく分かんないけど、多分こいつが迷惑かけたわよね…?」
「「はい」」
取り繕うことなく二人は頷いた。実際迷惑をかけたので祐は何も言わなかったが、まるで他人事と言わんばかりにとぼけた表情で視線を遠くへ飛ばしている。そんな時新たな影の気配を感じた。もう少し親睦を深めたいところだがそこまで悠長にしてはいられない。祐は強引に切り出す。
「時間ないから次いくぞ!この子はミサカミコトちゃんだ!こちらは…ごめん、お嬢さんお名前は?」
「…白井黒子と申します」
「シライクロコさんね!オセロさんって呼ぶから!」
「はっ倒しますわよ」
名乗ってはくれたがこの呼び方はお気に召さなかったらしい。暴力的なことを言われたものの、反応の速さやその他諸々により祐の黒子に対する好感度は右肩上がりだ。黒子としては微塵も嬉しくないだろう。
「じゃあ自己紹介も済んだし、これから俺とネギで影を引きつけるから。んで明日菜とミサカちゃん達で刈り取る感じで。行くぞネギ!」
「は、はい!」
ネギの肩を軽く叩き、周りの反応を待たず祐は走り出す。一瞬固まったものの、ネギもすぐにその背中を追った。
「こら!お待ちなさい!わたくしはまだ貴方がここにいるのを認めてませんわよ!」
進み続ける祐とネギを追って黒子も走り出す。その場に残される形になった美琴と明日菜は自然とお互いに視線を向けた。
「えっと…」
「…先に謝っとく、ごめんね。祐ってその、お馬鹿だから…」
「学力は明日菜の方が下だけどな!」
「うるさい!」
遠くから聞こえる祐の声に明日菜が顔を赤くして返す。こちらに向けられている美琴の視線に気付きながら、明日菜は彼女から目を逸らし続けていた。
一方その頃、超を先頭にして一年A組をはじめとした生徒達が人の気配がないパーティー会場を進んでいく。超曰く、観察するのにとっておきの場所があるとのことだ。既に盛り上がっているA組は元より、避難中に合流した純一達も同行してる。下手に別れるよりこの団体と行動を共にした方が良さそうと判断したようだ。実際ここには戦闘力の高い人物が集まっているので、その考えは間違いではない。
「ねぇちゃおちゃお、そろそろどこ行くのか教えてよ」
「ふふ、焦るでない。ほら、あれが目的地ヨ」
風香に答えた超が指さす先に全員の視線が向かう。そこは無数のパイプ椅子が並べられ、正面には大きな舞台が設置されていた。
「あれ、ここってビンゴ大会の場所じゃん」
「その通り。さて、早速機材を拝借しようカナ。ハカセ、茶々丸」
「了解です」
「はい」
超と聡美、そして茶々丸は会場の中間に設置されていた機材の操作を始める。舞台上には巨大なモニターも設置されており、あそこに映像を映してイベントを行う予定だったのだろう。
「私ここにしよっと」
「あんまり前すぎると首痛くなりそうだもんね」
超達が機材を操作している中、美砂とまき絵は早々にパイプ椅子に座った。それに倣ってクラスメイトも続々と着席していく。一旦脅威が去ったとはいえ、あまりにも普段通りのA組に他クラスの面々はなんとも言えない表情をしていた。
「…能天気すぎんか?」
「まぁ、そうかもな…」
一成の問いに士郎は当たり障りのない返しをする。肝が据わっているといえばいいのだろうか、パニックに陥られるよりはいいのかもしれないが緊張感がないのは間違いなかった。
「衛宮サン、ちょっといいカナ?」
「えっ?あ、ああ」
突然呼ばれた士郎は若干驚きながら超の元へと向かう。ノートパソコンのモニターから視線を外した彼女がこちらを見た。
「今から舞台にあるモニターの方を調整するネ。お手伝いをお願いしてもいいカナ?」
「俺で役に立つのか?」
「謙遜しなくてヨロシ。貴方の手先の器用さはよく知ってるネ」
いったいそれを誰に聞いたのか気になる。というかそもそも彼女がどこまで自分のことを知っているのかも分からない士郎としては少々気が気ではない。超が祐の協力者という点、そして士郎の元々の性格からあまり彼女を疑いたくはないのだがどうにも怪しさを感じてしまう。本日初対面なことを置いておいても底が知れなさすぎるのだ。しかしここで止まっていても仕方がない。依然として警戒心は薄れないが今は素直に従うことにした。
「…分かった、何すればいいんだ?」
「素晴らしい、それでこそ麻帆良のブラウニーネ」
「手伝いはするけどその呼び方はやめてくれ」
先程のように芝生を駆け回る祐と彼に並走するネギ。後ろには影の集団が二人を捕まえようと向かっており、更にその影を追いかける明日菜、離れた場所から電撃を放つ美琴といった珍妙な光景が麻帆良ヶ丘公園に広がっていた。
「う〜ん、やっぱり大元を断たないと効果ないか」
「大元って…この影を操ってる人のことですか?」
「ああ、多分麻帆良にいる。まだ詳しい場所は掴めてないけど」
息切れをすることもなく平常時のように会話をする祐とネギだが、二人の走る速度は並大抵のものではない。現に影は祐達を捕まえられず、後ろから追い上げてくる明日菜と美琴の遠距離攻撃に被害を受け続けている状態だ。しかし減った数を埋めるように影は増え続けており、状況にこれといった変化はない。祐は現状を打破するために足を止めた。
現在影は一方からだけではなく、様々な方向から集まり始めている。このまま今の場所に留まれば周囲を囲まれる事になるだろう。
「しゃあない、ちょっと派手にやるか」
「派手に、ですか?」
「攻撃開始だ、ここからは俺達も影を迎え撃つ。そんでネギ!」
「は、はい!」
同じように立ち止まったネギは突然名前を呼ばれた事に驚きながら返事をする。ネギに対して祐は背中を向けると、追いかけてくる影を迎え撃つように構えた。視線は敵を見据えたまま声を掛ける。
「背中任せた」
その瞬間、祐の後ろ姿を見つめていたネギの目が大きく開かれた。短い祐の一言に感情を大きく揺さぶられたからだ。
鼓動が高鳴っているのが分かる。鳥肌さえ立っていた。理由は気温が低いからでも、現状に恐怖を感じているからでもない。こんな時に不謹慎かもしれないが、ネギの心は歓喜に満ち溢れていた。祐が発した一言、その短いたった一言はネギを高揚させるのに充分すぎたのだ。
いつか聞きたい。いや、言ってもらえるような存在になりたいという願いが唐突に叶ったような気がした。まだまだ彼の足元にも及ばない、自分が未熟なことは重々承知している。それでも、彼の口から聞きたいと思っていた言葉が聞けた。
僅かに放心状態だった気持ちを切り替えるように頭を振る。その後浮かべた表情は、迷いなど一切ないような澄んだものだった。肩に乗っているカモが微笑んでネギの頬を軽く押した。ネギはカモに頷いてから拳を強く握る。
「任せてください‼︎」
背中合わせになって二人は構える。迫り来る影を前に焦りはない。自分は目の前に集中すればいい、背後なら信じる相手が守ってくれている。
準備を終えた祐達に少し遅れる形で黒子が瞬間移動してきた。少し疲れて見えるのは、何度か二人を捕まえようとした結果全て避けられてしまったからだ。祐は視線を黒子に向ける。
「シライさん」
「…なんでしょう」
「フォローしてね!」
言い終わると同時に祐は走り出す。合図なしで進んだにも関わらず、ネギもまったく同じタイミングで飛び出した。離れていく二人の背中を交互に見てから黒子は叫ぶ。
「この方勝手すぎますわ‼︎」
黒子の声は麻帆良ヶ丘公園全体に響き渡る。しかしそんな声も意に返さず、祐は足を止めることなく一瞬で影との距離を詰めた。右の拳を真っ直ぐに突き出す。拳を受けた影は元より、近くにいた影達も祐の拳から生まれた風圧に吹き飛ばされていった。しかし影は尚も雪崩れ込んでくる。それでも祐は逃げることなく、その全てを消滅させていった。
彼の背後では同じようにネギも戦っている。以前見た時よりネギの動きは洗練られているように感じた。祐は人知れず笑みを浮かべる。それを隙と捉えた影が彼に飛びかかろうとした。だがいつの間にか空中より接近していた黒子の両足がその影を踏み潰す。
「いいぞシライさん!そんな感じでよろしく!」
「貴方!これが終わったら覚悟しておいてくださいまし!」
黒子に指をさされながら恐ろしいことを言われた気がするが、今は気にしないでおこう。そうしてる間にも祐の視界には影を吹き飛ばす明日菜と美琴の姿が映る。自然と5人は集まり、背中合わせに円を作った。
「ネギ!俺達はガンガン突っ込むぞ!フォローは御三方がやってくれる!」
「分かりました!」
「ちょっと!何を勝手な」
黒子が待ったをかけるがここも強引にいかせてもらう。いざ動いてしまえば黒子も流れに身を任せる他ないはずだ。後で黒子に折檻されるのは本当に恐ろしいがそこは仕方ない。
「明日菜はネギ担当!ミサカちゃんは俺担当だ!そしてシライさんは両方やってくれ!」
「雑な上に人使いが荒い⁉︎」
「レッツゴー!」
言いたいことだけ言って祐はまた影に向かっていく。ネギも同じように走り出したところで、黒子に同情していた美琴の肩に明日菜が手を置いた。
「ホントごめん…それと、アイツをよろしく!」
そう告げて明日菜は黒子の肩にも手を置いた後にネギを追う。美琴は暫し固まっていたが、軽く頭を掻いてから視線を移動させる。その瞳には離れていく祐の背中が映った。
「はぁ…」
軽くため息をつくと黒子と目が合う。美琴が肩をすくめると、今度は黒子がため息をついた。美琴は視線を祐に戻して走り出す。黒子はテレポートでその場から消えた。
「ちょっと!一人で遠く行くんじゃないわよ!」
「分かりました!」
「返事だけはいいわね!」
祐に迫る影を電撃で撃ち払う。後衛として動く自分に違和感を覚えながらも、その動きからは当初あったぎこちなさが少しずつ薄れているように見える。
当然だが美琴が祐の補助に就いた時間はまだ短い。しかし彼女は自分がどのように動けば祐が戦いやすくなるかをこの短時間で徐々に理解し始めていた。美琴は誰かと肩を並べて戦闘した経験が乏しい。それでも少しずつ息のあった動きを取りつつあるのは、彼女が持つ天性の勘によるものだろう。そして好き勝手動いているようでいて、その実美琴を信頼して行動する祐。この要素が相まって二人は即席のコンビとは思えない働きを見せていた。
体験したことのない奇妙な感覚に思考が割かれそうになる。自分でも若干戸惑っているのだ。こんな状況にどこか、言うなれば居心地の良さのようなものを感じていることに。気付かぬうちに疲れが溜まっていたのかもしれない。この一件が片付いたらしっかり休息を取ろうと美琴は一人心に決めた。
「ねぇ逢襍佗!何か考えがあったりすんの!」
騒がしい周囲の音にかき消されないよう、美琴は大きな声で聞いた。祐は自分の真後ろから殴りかかってきた影を目視もせずに蹴り飛ばしてから答える。後ろに目でも付いているのかと思えるような正確な動きだ。
「一応ね!作戦て呼べるような大層なもんじゃないけど!」
美琴は耳を傾けながら周囲に落雷を発生させた。近くにいた影を一掃したその攻撃に祐が拍手を贈る。そんなのはいいから早く教えろと近づいた美琴は何も言わずに祐の肩を軽くはたいた。
「こうやって派手に暴れていれば首謀者は俺達を無視できなくなる。ここにそいつを引き摺り出す予定」
美琴の言わんとしてることを察して、はたかれた肩を摩りながら祐は話す。二人の視線の先には新たな影の軍団が押し寄せていた。
「首謀者ね…それはいいけど、そいつが本当にいて、尚且つ近くにいるって確証でもあるわけ?」
どこか疑う視線を美琴は向けた。それも当然だと祐に特段気にした様子はない。ただふざけた態度は見せず、しっかりと美琴と目を合わせる。
「確証はないけど確信は。それと、そいつはあと少しで顔を出す。きっとね」
「…一応聞いとくけど、それアンタの勘とか言わないわよね?」
「勘で正解だよミサカちゃん。でも、もう少しだけ付き合って」
祐から人の良さそうな笑みが消え、彼の視線が美琴から影達に移行する。いや、見ているのは影ではない。その裏に潜んでいる存在だ。祐は標的を捉えつつある。微かに感じ始めたのだ、魔の気配を。
「そうすれば、すぐに分かるから」
そう言って祐はゆっくりと歩き出した。遠くから接近する影に正面から向かっていく。美琴はその姿を見つめた。この短時間だけで何度も見た祐の後ろ姿だ。
今彼女は少し困惑している。理由は様々だが、1番の理由は祐の見せた表情だ。口調こそ普段と変わらなかった。しかし先程の祐の顔は冗談など微塵も感じさせないものだったように思う。正直言って、そんな顔をする人物だとは思っていなかった。
「…なによ、急に真面目な顔しちゃって」
調子を崩されたと美琴は一人呟く。それはそうと祐のサポートに動こうとした時、影の更に後ろから走ってくる人影を発見した。また何か来たと美琴は眉を潜める。それに反して祐はやってきた人物を見て笑みを浮かべた。
「ですからねお嬢さん!俺達はあの…なんつったっけ?」
「すごいもてる、やろ」
「そう!そいつだ!そいつと友達だから、集合場所に行かなきゃならなくてですね!」
「名前すら覚えていないではありませんか!大人しく安全な場所に引き返してください!」
走ってきたのは四人。当麻・元春・青髪ピアス、そして刹那だ。当麻達と刹那は向かっている場所が同じだった為、こうして鉢合わせることになった。しかしお互いのことを知らないのもあってか、何やら言い合いをしている。
「いやいや、そういうわけにはいかないにゃ〜。漢同士の友情に懸けて、約束は破れないぜよ」
「それに女性を一人で危険な場所に向かわせるなんて、ボクにはできん!」
「余計なお世話です!」
恐らくずっとこの調子でここまできたのだろう。側から見ていると面白いが、状況が状況なので祐は声を出した。
「桜咲さん!その三人は大丈夫だから!放っておいてこっちにいらっしゃい!」
「⁉︎逢襍佗さん!」
声に反応し祐を見つけた刹那は、一層走る速度を上げると前にいた影を夕凪で斬り裂き一瞬で彼の元へと辿り着く。
「何奴⁉︎」
「ん⁉︎なんか男がいるぞ!」
「こいつらもやっちまえ!」
仲間が突然消されたことで影が後方にいた当麻達三人に気が付き、半分がそちらに流れていく。元春と青髪ピアスが当麻の肩に手を置いた。
「来たでカミやん!」
「行け!カミやんミサイル!」
「お前らも戦え!」
おかしなやり取りをしながらも三人は影を対処していく。元春はどう見ても素人ではない動きで肉弾戦をこなし、青髪ピアスは自分から攻撃こそしていないが、影からの攻撃は全て躱していた。なんとも優秀な囮である。余談だがその際の青髪ピアスの動きはクネクネしており、正直言って気色悪かった。
しかしその中でも不思議なのは当麻だ。彼も慣れた動作で影を殴っているが、その右手に触れた影が一瞬で跡形もなく消えていく。確かに強い衝撃を与えれば影は消えるのだが、右手を軽く振り払っただけでも接触した影は消滅させられているのだ。見た目は至って普通の殴打に思えるが真実はそうではない。正確には彼の『右手』が普通でないのだ。
祐と刹那は頷きあって当麻達の元へ向かう。進む途中で振り返った祐が美琴に手を振った。それを合図だと理解した美琴も動き出す。その後は時折飛来する電撃に当麻達が怯えながらも、辺り一帯の影を消し去ることに成功した。周囲を警戒しつつ、刹那が一旦夕凪を鞘に収めて祐の元に来る。
「すみません、遅くなりました」
「全然待ってないよ、俺も今来たとこ」
「嘘つけ!てか何よそのやりとり!デートか!」
「なっ⁉︎きゅ、急になんですか貴女は!私は決してデートに来たわけではありません!」
「んなこと分かってるわよ!」
祐の背後にいた美琴が思わずツッコミを入れてしまう。特に深く考えずに言ったことだったが、刹那は妙に反応してきた。仲裁の為にすかさず祐が二人の間に入る。
「落ち着いて二人とも。俺を取り合って喧嘩しないでくれ」
「誰もアンタなんか取り合ってないわ!」
「自分で言ってて恥ずかしくないんですか!」
「急に波状攻撃しかけてくるじゃん」
この場に似つかわしくない雰囲気で騒がしくなる祐達。そんな光景を見て元春と青髪ピアスが肩を組んだ。
「よく分からんが、なんか気に食わないからどさくさに紛れてアマやんも殺るか」
「奇遇やね、ボクも同じこと考えとったよ」
「お前ら何しに来たんだよ…おい祐」
当麻が二人に呆れつつ祐に近づく。祐は手を振って当麻を迎えた。
「遅いぞ当麻、何ちんたらやってんだ」
「なあ二人とも、俺も仲間に入れてくれ」
あっさりと祐を見限った当麻が振り返ると、元春と青髪ピアスは両手で丸を作って見せた。祐にとって敵が増えた瞬間である。自業自得だ。
「きぃ〜〜〜!次から次へと!なんなんですかこの方達は‼︎」
こちらはこちらで影の対処を終えた黒子とネギ・明日菜の組み合わせ。新たに増えた問題児達のせいで黒子が頭を乱暴に両手で掻いている。そんな彼女をネギは少し怯えた表情で見ていた。そんな時、元春達の背中越しにまたも迫る影を目視した当麻が声を上げる。
「うおっ!もう次のが来てるぞ!」
その声に祐は歩き出し、当麻達の肩を一人ずつ叩いていった。
「よし、来たからにはまだまだしっかり働いてもらうぞ。あとシライさん!こいつらのこともよろしく!」
「キィーーー‼︎」
「し、シライさん大丈夫でしょうか…?」
「私も頑張ってフォローするわ…」
これが終わったら祐も連れてしっかり謝ろうと決め、迫る影に向かっていく明日菜。ネギも黒子を気にかけつつ、明日菜の後に続いた。
「そう、なるべく人気のないところを通って避難していたのね」
「はい。危険とも思いましだが、どうやらあの影は男性のみを狙っていたように見えたのでワンチャンイケるかなと」
「わんちゃんいけるって…」
偶然出会ったザジと千雨の二人から話を聞いている麻耶。普段はまったく喋らないザジがしっかり説明してくれること、またその口調に驚いている様子だった。隣では疲れた様子の千雨を小萌が労っている。
「長谷川ちゃんも大変でしたね」
「ええ、まぁ…それなりに」
小萌が自分よりも年上且つ教師であることは千雨も重々承知している。しかしどこからどう見ても幼い子供にしか見えない小萌に背中を摩ってもらっている状態に複雑そうな表情をしていた。
「でももう大丈夫ですよ!先生達がしっかり安全な場所に連れていきますからね!」
「ありがとうございます…」
「こんばんは、お姉さん達」
小萌が自信満々に胸を叩いた時、足音と共に少女の声が聞こえた。全員がそちらの方向を向くと、視線の先には青白い髪の少女が笑顔を浮かべて近づいてきていた。先程まで気配すらしなかったことに全員が違和感を覚える。
(こいつ、いつから居たんだ?)
「貴女、初等部の子?」
千雨はなんとなく少女から後ずさる。そんな中、麻耶が優しい声で聞きながら少女に歩み寄った。しかしザジが彼女の手を握って引き止める。振り返った麻耶は困惑した表情でザジを見た。
「えっと…ザジさん?」
「近付くのはお勧めしません。危険ですので」
そう口にしながらザジの瞳は真っ直ぐに件の少女、マレフィに向けられていた。ザジと目を合わせたマレフィは口角を上げて歯を見せる。それは幼い少女が浮べるには余りに不釣り合いな笑みであった。嫌な予感がしたのか、小萌は小さい身体を盾にするように近くにいた千雨を自分の背中に匿う。
「そんな冷たくしないでよお姉さん」
見つめ合う二人。ザジの表情に変化はなく、それでもマレフィは笑みを深くする。異様な空気は濃くなっていく一方であった。
「生まれた