ディストピア運営ゲーム  (圧倒的に有利な体制派が恵まれた人材と資材を使って罠で獲物を追い込む様を眺める仕様)   作:つけ麺アイス

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労働者「ブルーカラー労働者の給料上げろ」
経営者「今の低賃金でこれだけ募集が来るのなら、賃金上げなくても良いでしょ。それよりMBAとかのハイクラス人材が募集かけても集まらないから、そっちの給料高めにして様子見て見るわ」


レジスタンス処刑 (防衛側)

 私はこの世界を知っている。

 いや、知っていたつもりであったが、どうやら勘違いのようだ。

 トール・ネーブルが成功し続け、イヨーカ・ポンジュが革命軍に手足と純潔を奪われなければ、ネーブル社とポンジュ社が合併するイベントが起こるとは…。

 いや、イヨーカ・ポンジュが襲われるのはそもそもゲームが開始される前だ。

 イベント条件とは関係ない…?

 

「ね〜え、ア・ナ・タ?」

 

 私は何も聞いていない。

 考えるのはやめよう。

 豊かな胸と髪を押し付けて、色々とジューシーな匂いを私に纏わせる女はこの際無視する事にしよう。

 

「フフッ、いけずな君もクールだよ」

 

 気にするな。考えるな。スルーしろ。

 取り敢えずは、婚姻よりもネーブル・インダストリアルとポンジュ・コーポレーションが私の物となったことがどうやって警備に活かせるかを考えなければならない。

 父親が引退して私が大企業の経営者になっても、アーバシリの規則としては、警備室長補佐を辞める必要はない。

 寧ろ積極的に自社を使って良い代わりに、安くしろとか、アーバシリの要望に合わせた商品提供をしろというのが、ここの規則だ。

 民間で成功している者が、その成功を捨ててまで公務員になる可能性は低く、寧ろ行政としては民間での成功を携えたまま来てくれた方が、大きな力となるからだ。

 

 さて、生物兵器と機械兵器を組み合わせた機械化人工生物(ネオ・キメラ)の開発と実施実験の場をアーバシリ警備室長補佐の名で支援することにしよう。

 人体への殺傷能力は、情報を取り尽くした後、若しくは情報を吐かなかったレジスタンスを使って実験させよう。

 

 本来は人権剥奪処理済生存人体として登録した後に、有料で企業に売るのだが、新兵器をアーバシリに試験導入した上で、企業の視察の中で我々が実行すれば、余計な資金は掛からない。

 ネーブルとポンジュが二大防衛産業とはいえ、都市としては後進が育たないのは良くない。

 企業経営者として見れば、ライバルがいない独占状態は値段も吊り上げ放題であり、この為のこれまでの買収、この為の今回の合併という事ではある。

 警備室長補佐の立場ではない私が経営者であれば、迷わず卸しの値段を吊り上げた。

 だが、警備室長補佐である私が防衛産業を独占したとしても、アーバシリには良心的な価格で兵器を卸す。

 持たざる者からすれば、権力者が自社の商品を立場を利用して都市に購入させているようにも映るかもしれない。

 しかし都市としては、企業の有力者を高官として迎え入れる事には大きな意義があるのだ。

 

 

 さて、捕らえたレジスタンスで好きに実験する。

 これは一般に公開することにしよう。

 他の弱小防衛系企業にも、実験成果を与えてやろう。

 これがアーバシリにある防衛産業の競争力に繋がるのならば。

 無論、並外れた知見を持つN&P社から来た視察団と、弱小企業から来た視察団では、同じものを見ても持ち帰られるデータの質と量には大きな違いがある。

 労働者レベルでも、リーダーの動きを見ているだけでリーダー代理を務められる者と、リーダーの動きを見ていた筈なのに急に代行をしろと言われてもリーダーとしての行動をマニュアルにしたものを与えないと動けない者もいる。

 マニュアルを読んでもリーダーになれない者もいて、それらは最下級として生きてもらうか、アーバシリを去ってもらう他はない。

 それに、これだけの環境を欲しいがままにする我が社を知ることで、引き抜きを希望する優秀な者も出てくるであろうから。

 

 問題は、捕まった仲間を公開処刑するともなれば、街に潜んだレジスタンス達が救出に来た時に、備えなければならないことだ。

 果たして来るのかどうかは分からない。

 そんな状況では警備も張りが出ない。

 

 来なければ無駄に気を張って損、来たら大変。

 そう警備兵に思わせてはならない。

 寧ろ全都市へのアナウンスにより、処刑の時間と場所を公布すると共に、街にいるレジスタンスは仲間を助けに来なければ信念のない臆病者だとしっかり煽ってやる。

 

 そうすることで、主導権は逆転する。

 来なければ仲間を見捨てる臆病者。来たら大ピンチ。

 こちら側から選択肢を示して相手に選ばせるのだ。

 そのやり方を見せる事で、警備兵にはレジスタンスが来ないという事も、レジスタンスへのダメージだと認識させる。

 そうすることで現場の士気も否応なしに高まらざるをえない。

 

 更に言えば、レジスタンスが来なければ臆病者というアナウンスが無ければ、現場の処刑責任者や来賓を殺された時点で彼等の得点だが、このアナウンスがあることによって、レジスタンスは処刑責任者や来賓を殺しても仲間を救出出来なかった時点で失点となる。

 仲間の救出を最優先にせざるを得ず、それが処刑責任者や来賓の身を守る事にも繋がる。

 

 処刑の宣告は無能な悪の行動として描かれる事が多いが、実際には敵の行動を縛る役割がある。

 原作では公開処刑をしたものの、警備能力の低さと煽りが無かった事により、処刑対象は奪取されなかった代わりに処刑責任者と来賓が殺されて、アーバシリ防衛側の失策かの様な印象を付けられた。

 だが、仲間を救えなかった時点でアーバシリ攻略側の失敗と思われる環境を作ってやればそうはならない。

 

 

 処刑対象には、発信器と爆弾を埋め込んで口を縫い付けてある。

 仮に奪取されても、持ち帰った所でお仕舞いだ。

 来賓も殺されてもいいように、レジスタンスが殺すことで市民感情がレジスタンスに対して悪くなる様な人気者にしておこう。

 近所の神父とか、な。

 まあ、相手も人質に罠が仕掛けてあることは想定済だろう。

 それでも人質を奪取しに来る姿勢は見せねばなるまい。

 

 

 

 

 

 さてイベントの当日、処刑はアッサリと終わってしまった。

 レジスタンスは来たには来たのだが、残念ながら本腰を入れては来なかった。

 僅か三名の使い捨て要員が、やって来ただけだった。

 呆気なく捕まって、処刑対象が追加となって終わった。

 攻略側主人公(カトル・カティーク)の姿はそこにはなかった。

 既に死んでいる可能性は考えないでおこう。

 考えるべきは、奴が冷酷に仲間を使い捨てられる様に成長した可能性。

 

 では、どのようにすればよいか?

 答えは行くも地獄、行かぬも地獄という選択肢を押し付け続けることである。

 今回の件でもアーバシリに忍び込んだ人員を三名も消耗させた。

 それは痛手であったはずだ。

 

 単純に人員を消費させたという意味でも。

 レジスタンスは仲間を見捨てないアピールの為に、失敗すると分かって最小限を消耗させた(仲間を見捨てた)と仲間内で不信感が広がる事も。

 

 その為に私は、レジスタンスはまだ多くいるが、形だけの誠意を見せる為だけに末端構成員三名に死を押し付けた、とアナウンスさせた。

 こういった印象が浸透すれば、アーバシリポリタン市民でありながら、末端構成員としてレジスタンスに加わる者は減るだろう。

 

 都市全体に響くアナウンスを、原作のトールは滅多に使わなかったが、積極的に使うことで市民もレジスタンスも操作出来る。

 

 

 追い詰めて追い詰めて追い詰めて、逃げ道と分かる場所を用意する。

 それが罠だと理解しても、そこを通る以外の選択肢を無くしてやる。

 それこそが私の管理計画だ。

 

 

「ねえ呼び方は、ダーリンとアナタとトールのどれが良いかしら?

結婚式場は予約したから、それまでには決めておかないとね」

 

 隣で警備室全体に聞こえる様に言っている女が、私に選択肢を押し付けて来るのが、私が無視していて尚効果的な事に似ているのかもしれない。

 

「きっと君の横でなら、タキシードではなくドレスを見せられると思うんだ」

 

 何故タキシードを着たがるか、これを聞けば後戻りが出来無さそうではあるが、既に後戻りは出来そうにない。

 正直、見た目で言えばイヨーカは私の好みではある。

 だが、私には生き残れるかどうか分からない最も大切な時期(ゲーム開始後)な上に、原作でイヨーカはトールを破滅させた原因だ。

 私はイヨーカを最初に見た時から警戒心がざわついて消えない。

 忘れてはいけない過去を引き摺り出す。

 そんな感覚を強く受ける。

 思い出せないが、見当ならついている。

 恐らくはその過去とは、この世界の未来である原作知識なのだろう。

 イヨーカとカトルは、私の本能が受け容れられない相手なのかもしれないのだと思う。

 

 

 とはいえ、婚約者を無視し続けるというのは聞こえが悪過ぎる。

 イヨーカの手を取り、身体を引き寄せ、顎の下から指で持ち上げ、その瞳に映る己を視認しながら告げた。

 

「…では、君のことは今後なんと呼べばいい?

マイスイートハニーとでも呼べば良いのか?」

 

「…えっ、いや…真剣な顔で言われると…照れるというか」

 

 やはり選択肢は選ばせる側に回る方がアドバンテージを生む。

 

「そうか? 私は真剣に考えるべき議題と捉えているが、君のそれは冗談であったということか。

残念だ」

 

 あくまで甘える女とつれない男という構図は、女側による冗談であったとして流しておくのが良いだろう。

 

「アーバシリを守る事は君を守る事にも繋がる。

今は真剣に立ち向かうべき時だ。

君は安全な場所で私の帰りを待っていてくれ」

 

 結論は仕事を邪魔するな。

 ということだが、イヨーカの反応からすると問題なかった様だ。

 

「…うん、待ってる」

 

 冗談に飽きたのか、そこでからかいを止めてくれた。

 

 

 

 さて、私はそんなことよりも、レジスタンスを追い詰めてアーバシリに恒久の平穏を取り戻さなければならない。

 人は私をパーフェクトと呼ぶが、その実多くのものを取り零して来た人間だ。

 私の実の母親は、レジスタンスの手によって残虐に死んだ。

 そして今はアーバシリ防衛プログラムの一部に組み込まれている。

 幼い頃の私の友人も、背中を斬りつけられて倒れた。

 私自身が何度も命を狙われた事なんて、最早慣れた。

 私の妹は名家の妻となったが、結婚式で夫を殺されて精神を壊した。

 今は夫の後を継いで形だけのアーバシリポリタン警備室長として存在する。

 

 私がこの世界のシナリオを知っているのなら、止めなければならなかった。

 しかしゲームが開始されて以降しか知識がなく、対応出来ない事を言い訳にしてきた。

 だからこそ、ゲームが開始されてからは、完璧なゲームをしなくてはならない。

 

 私自身を含めた価値ある人間が生き残る為には、無価値な人間を滅ぼすのは当たり前なのだから。

 価値あるアーバシリポリタンの繁栄の為に、搾取され続けた他の都市が没落していった様に。




体制「弱者一人救った所で何の利益が出る?」(能力の低い個人が悪いから、意図して社会は救わない。人権費は人件費と同じ→社会は現状で正解→現状維持や定方向への推進は低コスト→現状を強く守る)

反体制「弱者一人救えない社会に何の価値がある」(人を救う能力が低い社会だから、人を救えていないだけ→社会を変えなきゃ→賛同者が少ないのも間違った社会に騙されているだけ→壊してでも変えなきゃ)

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