【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

1 / 112
序文

 ゴールデンバウム朝銀河帝国(以下、旧帝国)の歴史研究は、ほぼ未開拓の状態にあると言わざるを得ない。旧帝国下では「銀河帝国皇帝は神聖にして不可侵である」とのテーゼ、それによる不敬罪の厚い壁に阻まれて、政治史の実証研究はほぼ不可能であった。監修者自身も、斬鬼の念を以て回顧するが、旧帝国の歴史学者とは、歴代の帝国皇帝が如何に偉大で、無謬の存在であるかを「証明」する事だけが存在意義であった。

 

 そして、意外な事に、これは旧帝国の敵国・自由惑星同盟においても、同様の状態であったという。ローエングラム朝(以下、新帝国)の開闢以来、開祖ラインハルト陛下、また摂政皇太后ヒルデガルド陛下の方針により、同盟、またフェザーン自治領で、歴史研究に従事していた人材が多数、我が学芸省に採用された。彼らの証言によると、同盟での旧帝国史研究は、ルドルフ大帝=絶対悪、銀河帝国=銀河連邦の簒奪者、というイデオロギー的史学が主流で、実証史学派は学会の非主流派、アカデミズムから放逐される事さえあったという。なお、フェザーンでは、その国体から旧帝国と同様の状態にあり、また経済都市国家という性格上、歴史学の如き文系基礎学に集まる人材は乏しかったという。

 

 しかし、新帝国の方針で、今まで不敬罪の厚い壁の中に封印されてきた、帝室及び各貴族家の一次史料が一般公開された。そして、同盟・フェザーンから齎された両国の文献史料、さらに、件数は少ないながらも、旧帝国の帝室及び同盟に伝わっていた銀河連邦末期の史料など、旧帝国史の研究において、まさにエポックメーキングとも言える時代となった。

 

 現在、我が学芸省では、開祖ラインハルト陛下のご遺志に基づいて、旧帝国史を総覧する「ゴールデンバウム王朝全史」の編纂作業に取り組んでいるが、その過程で、旧帝国の歴代諸帝の実態が明らかになってきた。監修者自身は、旧帝国下で歴史学者を名乗っていた事もあり、大多数の帝国臣民より、歴代諸帝に関する知識はあると自負していたが、新史料が語る諸帝の御姿は、時には偉大で、時には卑小で、また時には人間臭く、齢60歳を超えた監修者にとっても、諸帝の御霊に対して失礼ながら、新鮮な驚きと尽きせぬ興味を喚起してやまない。

 

 本シリーズは、旧帝国史を学ぶ学生、また旧帝国史に興味がある臣民を対象に、歴代諸帝に関する記述を中心とした旧帝国史の概説書である。本書を契機に、旧帝国史研究を志してくれる若者が現れてくれたならば、監修者及び筆者一同、これに勝る喜びはない。

 

 なお、本シリーズの体裁として、現在の帝国史学会で通説となっている時代区分論に基づき、約500年に亘る旧帝国史を分類、各時代名称を巻名として、当該時代に属する諸帝の記述を中心に纏めたが、読者諸氏の理解を助けるため、当時の政治・社会状況についても、現時点での定説を中心に記述した。さらに、定説には至っていないが、各執筆者の研究成果に基づく見解も「私見」として適宜、記載した。旧帝国史研究の最前線を感じて頂ければ幸いである。

 

 また、読者諸氏の興味を喚起するため、歴史書にはややそぐわないゴシップ的な内容も「コラム」として随所に掲載した。神聖不可侵と言われ続けてきた歴代諸帝の人間性や、現在まで続く貴族家の歴史など、読者諸氏には新鮮と感じられる話題を提供できたのではないかと自負している。

 

 最後に、第34代フリードリヒ4世~第36代カザリン・ケートヘン1世の御代については、監修者らにとって、直接見聞した時代である事、また関係者が多数、存命である事、歴史事実として確定しているとは言い難い事、これらの事情を鑑み、上記3代に関する記述は、基本的な事実以外は、全て監修者及び各筆者の私見である事を申し添えておく。読者諸氏の御理解と御寛恕を賜りたい。

 

 末筆ながら、本書の執筆を支援してくれた、学芸省の職員諸君と愛する家族たちに、本書を捧げたいと思う。

 

                    監修者

                    ローエングラム朝銀河帝国 学芸尚書

                    史学博士 レオポルト・フォン・ゼーフェルト

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。