【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節 終身執政官から銀河帝国皇帝へ

 宇宙暦308年から同310年まで、ルドルフの終身執政官時代は、銀河連邦が銀河帝国へと移行するための準備期間だったと推測されるが、具体的にルドルフが何をしていたのか、現時点では、ほぼ不明だと言わざる得ない。問題の性質上、公務として取り組めない事柄であるために、公式文書には形跡が見られない事はもとより、外聞を憚る内容であるためか、制度原案や草稿の類も遺されていない。文書自体を作成していないか、または建国後、不要な文書として廃棄された可能性が高い。

 

 この時期の歴史研究では、ルドルフと腹心達の往復書簡が一次史料とされているが、内容が帝国建国に関する事柄に及ぶと、当人同士にしか分からない符丁や略語、指示代名詞を多用、一部暗号的になっている書簡もあり、研究は進んでいないのが現状。例えば、ルドルフが新国家の名称を「銀河帝国」、主権者たる自らの称号を「帝国皇帝」と、中世的印象を与える呼称を何故採用したのか、往復書簡の中には「我が国」「新国家」「新しい地位」等の語句が散見されるのみである。

 

 史料上、銀河帝国と帝国皇帝の初出は、宇宙暦310年、銀河連邦の国号を「銀河帝国」に変更、政府首相と国家元首の地位を廃止し、帝国の主権者は「神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝」とした連邦議会上下院の決議文である。

 ちなみに、ルドルフが皇帝を称した理由について、旧帝国では、ルドルフの人種的ルーツ、ゲルマン民族が古代地球・ヨーロッパ地方に建国した「神聖ローマ帝国」の主権者が皇帝と称したので、それを範とした、とするのが定説。同盟では、旧帝国の説を採用しつつ、ルドルフの懐古趣味が動機だ、とするのが主流だった。ルドルフ本人は晩年に作成した回想録に「群臣の勧めに従った」とのみ記している。

 

 この2年間、ルドルフと腹心の政治家、官僚、財界人らとの往復書簡の件数が、それ以前と比較して急増している事、帝国建国後、政府組織や軍組織が急速に改編されている事からして、ルドルフ達は入念な打ち合わせと事前準備をしていたと想像されるが、その具体的な動きを描き出すには至っていない。未整理の史料、特に帝室所有の文書や、帝国建国期に創設された貴族家に遺された文書などは、未だ膨大な量があるため、これら史料の分析と考察を通じて、更なる研究の進展が望まれる。本節では、現時点で判明している歴史的事実に基づいて、非民主的権力者を志向するルドルフの姿を描くと共に、即位前夜の状況を概説したい。

 

 宇宙暦308年の冬、40歳の誕生日を迎えたルドルフは、唐突に結婚した事を発表した。これまで愛人の存在は仄めかされていたが、法的に認められた配偶者はいなかった。むしろ、ルドルフは結婚に対し、否定的でさえあった。

 

 首相時代に受けたインタビューで、自身の結婚観を問われたルドルフは「勿論、愛し合う男女が結ばれ、子を成す事は、人生最大の幸福の一つだろう。だが、私は政治家という公人だ。公人にプライベートは無い。私の人生は全て、市民のために使われるべきなのだ。結婚して妻子を持てば、私にはプライベートが生じる。今は、それを避けたいと思っている。また、私の妻子というだけで、テロや犯罪の対象になる恐れがある。愛する者を危険に晒す事は本意ではない。私が結婚するとしたら、政治家を引退した時ではないかな。私も人並みに寂しいと思っているのだけれど、こればかりはね、自分の政治信念に関わる事なので、やむを得ないと思っているよ」と語っている。

 

 やや冗談に紛らわせているが、権力の座にいる間は、結婚すべきではないとの見解を示しており、その主張通り、40歳まで独身を貫いていた。それが一転した理由について、ルドルフは記者会見の席上「連邦の公敵を打倒する戦いはまだ続く。市民諸君との交流を通じて、家庭が持つ癒やしや温もりが戦いへの活力を生む事を実感した。この度、公職にある私の責務を理解して、支えてくれる伴侶と巡り会った。卑劣なるテロリストや犯罪者の標的になる可能性は確かにある。しかし、妻はそれに屈しない強さと勇気を持つ女性だと確信している。今は、妻との間に、私の血を引く子供を儲けたいとの思いで一杯だ」と述べている。

 

 結婚しないと宣言していたルドルフが突然、出産育児にまで言及した事は、反ルドルフ派から「自分の権力を子供に受け継がせる気だ」と非難されているが、この件については、案外、正鵠を射ているようだ。事実、終身執政官時代のルドルフは世襲、親から子への事業継承を度々賞賛している。

 

 一例を挙げると、銀河連邦創設時から経営している老舗企業を視察した際、現経営者の人格と手腕を賞賛した上で「祖先たる創業者の想いを受け継いでいるからこそ、家業に誇りを持ち、祖先に恥じない人物になろうと、人格の陶冶と能力の研鑽に努めておられる事がよく分かった。世に職業は数多あれども、家業こそ最も尊い職業だと、私は思う」と、同行した記者団に語っている。

 

 また、宇宙暦309年初頭、財界人との経済懇談会の席上、退職した社員を補充するため、新規採用を計画した時は、退職者の子弟を優先的に採用して欲しい、との申し入れを行った。ルドルフは「父親の仕事ぶりを間近で見ていた子供こそ、その仕事を最も良く理解できる若者だろう。人材の有効活用の観点から、是非実施して欲しい」と発言。なお、帝国建国後、退職者の子弟の優先採用は法律で義務化されており、社会のあらゆる階層で、職業の世襲化傾向をもたらした。

 

 以上のように、終身執政官時代のルドルフは、近代社会では否定的に語られる世襲を度々称揚しており、これは世襲国家である銀河帝国と、血統によって権力を継承する帝国皇帝を人民が許容しやすくする、精神的地均しではないか、と指摘されている。

 

 なお余談ながら、ルドルフの妻は、連邦軍中央艦隊司令長官エリアス・シュタウフェン連邦軍中将の長女エリザベート。政略的な色彩が濃い結婚ではあったが、負けん気が強く、男勝りな性格のエリザベートと剛毅なルドルフの相性は決して悪くなく、ルドルフ即位後は皇后に冊立され、4人の娘を儲ける事になる。

 

 ちなみに、エリザベートの兄の子が、後年、ルドルフの長女カタリナの婿に迎えられたヨアヒム。皇后の実家と同じ家名を名乗るのは恐れ多いと、ヨアヒムは成人を期に、新しい家を興したとの意味で、姓をノイエ・シュタウフェンと改めた。

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