【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
【はじめに】で「ルドルフという権力者は、銀河帝国を如何なる国家としてデザインしたのか」との問題提起を行ったが、ここまでの記述で、ある程度はその問いに答えられたのではと考える。
大帝遺訓に象徴されるルドルフ的価値観の下、皇帝以下の全臣民が身分に応じた責務を果たす事で、その存在を認められる反面、帝国の支配を肯んじない、即ちルドルフ的価値観を否定する者達は、帝国の安寧を乱す「逆賊」であり、その権利と生存を保障する事は出来ない。よって、臣民の生存と安寧を守護する責務を負う皇帝の名の下に、厳酷な処罰も是認されるとした。劣悪遺伝子排除法と社会秩序維持局は、その象徴的存在でもあった。
さらに、連邦末期の経済的格差と絶対的貧困への反省から、自由よりも平等を志向、経済発展よりも生命維持を第一義として、自由経済を否定、衣食住の確保を目的とする統制経済に移行した。
また、金を「忌まわしき怪物」と評し、過度の利潤追求が人間疎外を齎す事を嫌ったルドルフは、経済活動を自身が優れた存在だと認定した貴族だけに許された特権として、彼らの道徳性、倫理性によって、連邦末期の如き資本の暴走を抑制する事を目指した。その結果、帝国経済は発展を希求しない、デフレ状態を理想とする静態的状況を呈するに至った。
そして、人間の能力と性向には、遺伝子による格差が生じるほか、社会的状況による格差も不可避的に生じるとの人間観に基づき、格差を前提とした社会的秩序の構築こそが、安定的かつ永続的な秩序維持を可能にするとして、貴族制度を創設、貴族身分の導入による身分制秩序の創造に踏み切った。
本巻にて縷々述べてきた内容を概括するならば、上記のような内容になるだろうか。後世、激しく批判、否定された暴君ルドルフ像と乖離し過ぎていると思われる向きもあるだろうが、現在語られている暴君像は、帝国暦400年代、ルドルフ原理主義を鼓吹した残暴帝ウィルヘルム1世らの影響で、軍国主義化した帝国社会の中で、それに反発する共和主義者達が自らの抵抗活動を正当化、鼓舞するため、ある意味では捏造した「ルドルフ像」だったのではないかと思われる。
それが日々の生活に苦しむ平民や下級貴族、公益増進を貴族の責務とする開明派貴族、さらには同盟社会にまで伝播した結果、現在語られているような、過度の権力亡者で、自己神格化さえ辞さない暗君、恐怖政治を強行して、人民を虐殺した暴君、これらのイメージが常識化していったのではないかと推測しているが、史料上の根拠に乏しいので、さらなる研究の深化を期したい。
新史料から見えてきたルドルフ像は、独断的ではあるが、連邦社会への批判を通じて、明確な政治哲学と統治方針を持ち、それを具体化できる能力と、自己を支えてくれる有為な人材を統率できるカリスマ性を持つ、極めて有能な統治者だった。私的な感想ではあるが、初代学芸尚書ランケが評したように、500年近くも続いた国家を作り上げた人物が常人であるはずはない、と思うのだ。
さて、ルドルフが目指し、実現させた銀河帝国という存在は、建国当初から現在に至るまで、数限りない毀誉褒貶に晒されてきた。では、建国者たるルドルフ自身は、銀河帝国を如何に評価していたのだろうか。常識的に考えれば、全肯定以外にあり得ないだろう、またそうでなければ、国家建設などという大事業を完遂できるはずもないのだが、事実は小説よりも奇なりと言うべきか、必ずしもそうではなかった事が、実に意外な事情で判明したのだ。次節では、その事情を紹介した上で、これまで誰一人として想像する事さえなかった、私人ルドルフの真情を紹介したい。