【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

15 / 112
1-1:シリウス民主共和国

【はじめに】で述べたように、銀河連邦末期、統制能力を喪失した連邦政府を尻目に、各勢力は独自路線への転換を図っていた。その傾向は中心部から遠く離れるほど強く、辺境域に独自の経済圏を築いた勢力も存在する。

 

 彼らの出自は多種多様で、辺境域の星系政府が自立した、駐屯する連邦軍が現地司令官の下、軍閥化した、巨大な経済力を有する多星系企業が民間軍事会社(傭兵集団)との形で軍事力を手に入れ、政治の支配を脱した、宇宙海賊やマフィアが未開拓惑星を占拠して、根拠地化したなど、出自も目標もバラバラな彼らは、互いに角逐し、当時の辺境域は地球・シリウス戦役後の銀河系を彷彿とさせる、戦国時代の様相を呈していた。

 

 彼らにとり転機となったのは、連邦政界でのルドルフの台頭。連邦体制から逸脱していた彼らに、ルドルフは連邦軍による攻撃を断行。非戦闘員の死傷も構わず、殲滅戦を仕掛けてきた連邦軍によって、彼らの多くは敗北、降伏、逃亡を余儀なくされた。

 

 危機感を強めた彼らは、反ルドルフを軸に、勢力の統合を模索していく。それに拍車をかけたのが、中央部から逃亡してきた反ルドルフ派の政治家、官僚、軍人、企業家らの存在。終身執政官から帝国皇帝を目指すルドルフによる粛清を逃れてきた彼らは、その見識と経験、人脈を買われて、各独立勢力で要職に就く。彼らの指導で、帝国打倒と連邦復活を国是とする独立国家群が生まれていく事になる。

 

 1.シリウス民主共和国

 ルドルフ即位当時、辺境域の独立国家群は、おおよそ3つに分けられた。まずは、シリウス星系政府を母体とする「シリウス民主共和国」を盟主とするグループ。地球統一政府を打倒して、一時的にだが人類社会の盟主になった歴史を持つシリウスだが、ラグラン・グループの崩壊後、国自体が内戦に突入して、一時は無政府状態に陥ったが、その後約100年かけて、秩序と国力を回復。銀河連邦創設時の主要国になっている。

 

 銀河連邦の正当な後継者を名乗り、共和主義者達の輿望を集め、その政治力と巧みな外交手腕によって、周辺諸国を糾合、一大勢力を築き上げた。連邦体制の復活と民主共和制の護持を国是とし、皇帝ルドルフからの帰順勧告にも、当時の共和国大統領ジャン・ピエール・モンテイユは「我々共和主義者は、対等の友人に差し伸べる手は持っているが、独裁者に垂れる頭は持っておりません」と拒絶している。

 

 連邦の後継国家を自任する帝国にとっては、思想上からも打倒しなければならない存在だった。しかし、後述する両国に比べると、卓越した名政治家や名将がいた訳でもなく、圧倒的な経済力を有していた訳でもない同国が半世紀以上、帝国の攻撃に耐えて、存続できた事は、民主共和主義という思想が積み重ねてきた歴史を感じさせる。事実、同国で活躍した人材は、帝国首脳部のそれと比較すると、能力的には明らかに劣っていたが、民主共和制を守ろうとする情熱だけは比類なかった。独裁者ルドルフの出現が共和主義者たちの覚醒を促したと言えるが、しかしその情熱さえも、生活という惰性の中では、摩耗せざる得ない運命だったのは、人間という存在の限界なのかもしれない。

 

 帝国暦42年、ルドルフが死去、強堅帝ジギスムント1世が即位すると、共和主義者の叛乱事件が勃発するが、帝国政府はシリウスこそ事件の黒幕だと断定。その真偽は今に至るも明らかになっていないが、逮捕された首謀者の1人は「我々が立ち上がれば、シリウスも出兵するとの約定があった」と証言している事から、あながち、帝国によるフレームアップではなかった可能性もある。

 

 帝国暦46年、帝国はシリウスと傘下諸国に遠征軍を派遣。帝国軍の攻勢の前に、傘下諸国は次々と降伏した。シリウス本国も、帝国暦51年、ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムを総司令官とする帝国軍に攻撃され、首都星ロンドリーナが陥落、民主共和主義の最後の砦は潰えた。

 

 最後の共和国大統領ジョルジュ・ラヴァルは、徹底抗戦を叫ぶ強硬派を置き去りに、率先して帝国軍に降伏。総司令官ノイエ・シュタウフェン公に土下座して、情けなく命乞いする姿は、帝国軍将兵の軽侮と嘲笑を買ったが、ジギスムント1世は、共和主義者に対して皇帝の恩寵を示すと言い、ラヴァルを改姓させ、ペクニッツ公爵に封じた。一説には、シリウスの大統領は貴族に封じ、厚く遇するように、というルドルフ大帝の遺言があったためとも言われるが、現時点では証明されていない。

 

 なお、同公爵家は、旧敵国の血筋のため、家格こそ高いが、貴族社会から軽侮される存在だった。それに対する反発なのか、後世、痴愚帝や流血帝など、暗君や暴君として名高い皇帝に進んで仕え、その威を借りて、反対派の貴族達を虐殺するような人物も現れた。結果、暴君が打倒されると、懲罰的に爵位を下げられ、帝国末期には子爵家にまで没落したが、そのペクニッツ子爵家(カザリン・ケートヘン1世即位後は公爵家)から、ゴールデンバウム朝最後の皇帝が誕生したのは、歴史の皮肉だと言うべきかもしれない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。