【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第2節 帝国の「三権」~行政・司法・立法の関係

「我が帝国の統治は、官僚・軍人・貴族の三位一体を礎とする」。これは帝国暦25年、ルドルフが御前会議で発した言葉だと伝えられている。この三者のうち、貴族は旧帝国で創設された制度だが、官僚と軍人、この二者は、銀河連邦の制度を受け継ぎ、帝国で再編されたものである。連邦から受け継いだ統治機構に、帝国は何を加えて、何を除いたのか、それを明らかにする事で、皇帝ルドルフが銀河帝国という新国家を如何にデザインしようとしたのか、その意図を分析してみたい。本節では、統治機構の前提となる権力の所在、いわゆる「三権」について、銀河連邦と対比しつつ述べたい。

 

 1.銀河連邦の三権

 銀河連邦は、民主国家として、三権分立を採用していた。三権の形態は以下の通り。

 

 行政:長は連邦政府首相。首相以下、各省を主管する国務大臣と若干名の無任所大臣、内閣官房長官が内閣を構成する。

 

 立法:長は上下院議長(上院議長は国家元首を兼任)。選挙によって選出された上下院議員が上院議会と下院議会を構成する。

 

 司法:長は最高裁判所長官。最高裁判所―高等裁判所―下級裁判所の序列で、司法機関を構成する。なお、星系政府間の裁判は、上院議会に設置される特別裁判所が代行する。

 

 2.銀河帝国の「三権」

 対して、銀河帝国では、三権という概念が消滅した。全ての政治権力は帝国皇帝が管掌する所となり、行政・立法・司法の権能は、皇帝の支配と監督の下、各機関が代行する事となった。その内容は以下の通り。

 

 行政:各省の長(尚書)と、書記官長によって構成される尚書会議(内閣は通称)が代行。同会議の議長役は帝国宰相が務めるが、宰相不在の場合は国務尚書が代行する。このため、国務尚書は筆頭尚書とも称される。

 

 同会議で決定した事は、帝国宰相(不在時は国務尚書)が皇帝に上奏。皇帝の裁可を得た案件が法律化され、各省で執行される。なお、皇帝の詔書は尚書会議の決定よりも上位にあり、詔書と法律が相違した場合は、詔書に従うとされ、それ以降、詔書の内容が慣習法として尊重された。

 

 国政上の重要問題が同会議で討議される時は、皇帝が臨席する場合もある。皇帝臨席の尚書会議は、特に御前会議と称される。皇帝の要求があれば、軍高官など、尚書会議への出席権を持たない地位の人物も参加する事は出来るが、発言権のみで、議決権は持たない。

 

【注】帝国宰相の地位:帝国の行政組織中、官吏の最高位。常置の官職ではない。行政面での皇帝代理として、各省尚書を監督する。宰相府を設置し、独自の吏員を雇用できる。国政全般にわたる調査権を有し、独自の政策立案を行う事も出来る。枢密院(後述)に、皇帝代理として出席する資格がある。

 

 立法:その権能は行政機関に吸収され、立法機関は存在しない。ルドルフの治世前期(帝国暦元年~9年)は、連邦の上院を母体とする「総督会議」と、下院を母体とする「帝国議会」が存在したが、議案の提案権はなく、皇帝が行う政治が民意に適っているかどうかを検証する事のみが同会議・同議会の責務とされた。

 帝国暦9年、ルドルフによって帝国議会が永久解散されると、総督会議もその役割を終えたとして、国務省第一調整局(後述)に吸収された。

 

 なお余談ながら、領主貴族家によって構成される枢密院を旧帝国の立法機関だとする解説をしばしば目にするが、枢密院は各貴族家の利害調整、帝国直轄領と貴族領との政策調整の場であって、立法機関ではない事を明記しておく。

 

 司法:立法と同様、その権能は行政機関に吸収され、独立した司法機関は存在しない。臣民と爵位無しの下級貴族を対象とする裁判は、司法省所管の下級裁判所で審理。爵位持ち貴族は、枢密院設置の上級裁判所(大審院は通称)で審理された。

 なお、帝国の司法行政では、警察部局に強い権限が認められているために、逮捕された容疑者が裁判無しで処罰される事例が極めて多く、司法自体が形骸化している面があった。

 

 上記の通り、帝国では行政独尊とでも言うべき状態にあり、立法と司法は、その権能を行政に吸収されているのが現状だった。これは、全ての政治権力を皇帝が管掌する帝国の国是からして、当然の帰結でもあった。

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