【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節 帝国の軍隊組織~統帥本部の組織を中心に

 リスナー少将は、ルドルフがペデルギウス星系政府の治安維持部隊司令官に就任した時、その麾下にいた軍人。下士官からの叩き上げで、兵士達の人望は厚かったが、反面、寡黙かつ非社交的な性格で、士官の中では浮いた存在だった。だが、卓越した戦術指揮能力の持ち主で、当時の階級は中佐、宇宙軍の分艦隊司令官を務めていた。

 

 エル・サイド政府首相の懇請で、司令官に就任したルドルフに対し、古参の士官たちは概して批判的だったが、リスナー少将のみ、ルドルフのカリスマ性とリーダーシップは希有な才能だと評価。ルドルフの苛烈な指揮を戦術面でサポートして、宇宙海賊との戦闘では、しばしばルドルフの危機を救った。ルドルフもまた、リスナー少将は、寡黙ながら信頼できる人材だとして、副司令官に抜擢している。

 

 ルドルフが中央政界に進出すると、後継指名されて、少将に昇進の上、司令官職に就任。宇宙海賊、そして反ルドルフ派勢力との激戦を戦い抜いて、終身執政官時代のルドルフからは「ペデルギウスの盾と称すべき武人」と讃えられている。その評価通り、攻勢より守勢を得意とする用兵家で、当時、最強の武力を誇った攻守連合の攻撃にも、自ら殿軍を務めて、自軍の被害を最小限に食い止めるなど、華々しい活躍こそないが、堅実な成果を挙げ続けた。

 

「傲岸不遜が服を着て歩いている」と評された、カストル軍政府のスー総統さえも「中央の惰弱な軍人どもなど、束になってかかってこようが、全く問題にもならんが、あのリスナーめを倒すとなると、この俺もいささか骨を折るだろうな」と、その強さを認める発言をしている。

 

 しかし、卓越した戦術指揮能力を持ちながらも、リスナー少将本人の資質は戦略家で、ルドルフ麾下の軍人の中では、シリウスや攻守連合が取り入れた、新しいドクトリン「艦隊運用」の危険性を最も早く見抜き、即位前のルドルフに対して、戦艦主体の艦隊編成の必要性を上申している。

 

 その見識と能力、実績は、建国期の帝国軍の中では、随一と言える軍人だったが、軍大学どころか士官学校も卒業しておらず、軍中央での勤務経験もないリスナー少将が初代の統帥本部総長に抜擢された事は、周囲の軍人達はおろか、当人自身にも予想外だったようで、経験不足を理由に一旦は辞退している。

 

 だが、ルドルフは譲らず、当人には「卿はかつて、戦場で余の生命を救ってくれた。今度は、強敵の脅威に晒されている、我が帝国の生命を救って欲しいのだ」と説得。書記官長クロプシュトックや内務尚書ファルストロングら、ペデルギウス政府時代からの同志にも強く説得された結果、ルドルフへの忠誠心厚いリスナー少将は、統帥本部総長への就任を承諾した。

 

 なおこの時、彼らペデルギウス派とも呼べる存在に対し、懸念と不快感を刺激された軍務尚書シュタウフェン上級大将は、軍政経験の無いリスナー少将に、新設の統帥本部で長が務まるとは思えないと、ルドルフに苦言を呈しているが、ルドルフは「義父上の申す通り、リスナーに軍政経験はありません。帝国軍を戦える軍隊にするだけなら、義父上の御力だけで十分でしょう。しかし、私が求めているのは、帝国軍を戦って勝てる軍隊にする事です。勝つためには、リスナーの力が絶対に必要なのです。まず10年間だけ、見守っていて頂けませんか」と逆に説得した。

 

 その熱意に押されて、シュタウフェン上級大将はリスナーの就任をやむを得ず認めたが、就任後、リスナーの忠誠と精勤ぶり、現実を正しく認識して、適切な対処が取れる知性、シリウスや攻守連合との戦闘で示された戦術指揮能力、また上位者たる自分を常に立ててくれる礼儀正しさなどから、シュタウフェン上級大将はリスナーを高く評価するようになり、遂には、自らの後継者に擬していた、孫のヨアヒムを「帝国軍人として鍛えてやってくれ」と、リスナーの麾下に預けるほどになった。

 

 リスナーも、エリート特有の傲慢さはあれども、卓越した行政処理能力を持ち、寄り合い所帯の帝国軍を急速に再編していくシュタウフェン上級大将の力量には素直に感嘆、部下として誠実に仕えた。当時、弱体の帝国軍が周囲の強国と互角に戦えたのは、軍令と軍政の長同士が互いを信頼し、双方の溝が狭かった事も指摘できる。

 

 かくして、統帥本部総長に就任したリスナー少将は、2階級特進し、帝国軍大将に叙された。まず、軍務省・内務省と連携、敵対勢力の侵攻に対処するため、新しい防衛体制の構築に着手。平行して、新しいドクトリン・艦隊運用に対応した、戦艦主体の艦隊編成と、指揮官の育成を急務として取り組んだ。10年を目途に、シリウスや攻守連合とも、互角以上に戦える戦力を構築せよと、主君ルドルフから命令されたリスナー大将は、文字通りの不眠不休、帝都に与えられた官舎に帰るのは年に数回、ベッドで眠る事さえ稀で、その精勤ぶりは人間業ではないと言われたほどだった。

 

 一方、新設の統帥本部を組織として確立する作業は、上官たるシュタウフェン上級大将の助言を入れて、連邦軍の統合幕僚本部で総務部長等を歴任した軍官僚、ヘルムート・ローエングラムを事務担当の次長に迎え、その手腕に委ねた。建国期の帝国軍統帥本部の組織概要は以下の通り。

 

 統帥本部の組織

 

 連邦軍の統合幕僚本部を母体とする。帝国軍の軍令を主管し、全軍を指揮下に置く。

 連邦軍は、作戦ごとに必要な戦力と機能を持つ部隊を集め、特定の作戦遂行能力に特化した軍団を編成する、所謂「任務部隊(タスクフォース)」制を用いていたが、軍管区制を採用した帝国軍は、各管区に駐屯した地方部隊が敵襲に備えて、常時、独立した作戦行動が取れる体制を作る必要があった。

 そのため、各司令部が必要な部隊とスタッフを抱える常備軍制を採用した結果、管区司令部の規模が大きくなり、建国期の統帥本部は比較的、小規模な組織にとどまった。

 

 また、後世では軍務尚書・統帥本部総長・宇宙艦隊司令長官を帝国軍三長官と称しているが、建国期に三長官という呼称は無かった。

 

 当時は軍務尚書が筆頭武官とされ、帝国軍最高司令官たる皇帝の代理として、最高司令官代理の称号を帯びていた。統帥本部総長は軍令の長ではあったが、軍隊内の序列は軍務尚書の下に位置づけられ、宇宙艦隊司令長官に至っては、まだ地位自体が存在していなかった。建国期、宇宙艦隊と呼べるものは、帝都星に駐屯する中央艦隊だったが、各分艦隊を指揮する司令官はいても、彼らを束ねる司令長官は存在せず、中央艦隊は統帥本部総長が直率する、とされた。これは、初代の軍務尚書シュタウフェン上級大将と統帥本部総長リスナー大将の力関係を反映している、との見方もあるが、あくまで実戦部隊の長たる姿勢を崩さなかった、リスナー大将の意向だった可能性もある。

 

 なお、統帥本部総長の権威が高まり、宇宙艦隊司令長官の地位が設けられたのは、帝国暦331年のダゴン星域会戦後、対同盟戦争が激化して、帝国軍の主体が宇宙艦隊にシフトした後の事だとされる。

 

 【各局】

 

 第一戦略局:宇宙戦の戦略立案等を担当。

 

 第二戦略局:地上戦(惑星・人工天体内の海戦・空戦を含む)の戦略立案等を担当。なお、第一・第二戦略局を統括するのが幕僚総監で、軍務担当の統帥本部次長を兼任する。

 

 編制局:各部隊の編制を担当。また演習計画の策定と実施も所管した。

 

 通信局:統帥本部と各軍管区、及び各部隊間の通信連絡網の維持管理を担当。

 

 情報局:敵勢力の情報収集と分析、また諜報や謀略活動等も担当。軍務省調査局とは、その担当業務が重複する面があるので、必要に応じて調整した。

 

 ※この他、本部内の事務一般を取り扱う、総長官房が設けられた。

 

 【各軍】

 

 中央艦隊:帝都星に駐屯する艦隊。統帥本部総長が直率する。規模は約2万5000隻程度。平時は、帝都星と周辺宙域の航路と要衝の防衛、また索敵活動を主任務とする。敵勢力の来襲時、必要に応じて、各軍管区への援軍として派遣される。また、建国期の後期に至ると、敵勢力への遠征部隊の主力となった。

 

 地方艦隊:各軍管区に駐屯する艦隊。各軍管区の艦隊司令官が指揮する。各管区の規模は5000~6000隻。平時は、管区内の航路と要衝の防衛と索敵を主任務として、敵勢力の来襲時は、通商破壊戦など敵補給戦の寸断、一撃離脱戦法で敵艦隊の漸減、惑星軌道上での防衛戦などを担当した。

 

 地上中央軍:首都星に駐屯する地上軍。地上軍総監が直率する。規模は1500万人程度。平時は、帝都星と周辺惑星の防衛を主任務とする。敵勢力の来襲時、必要に応じ、各軍管区への援軍として派遣される。なお、地上軍総監は、統帥本部総長を補佐し、帝国の全地上軍を統括する役職。統帥本部内での地位は、本部次長と同格。

 

 地上方面軍:各軍管区に駐屯する地上軍。各軍管区の地上軍司令官が指揮する。各管区の規模は1000万人程度。平時は、管区内にある惑星等の防衛を主任務とする。敵勢力の来襲時は、惑星等に居住する臣民と各施設の防衛戦を担当した。

 

 統帥本部の組織が確立するのと同時に、シリウスや攻守連合の艦隊に匹敵する、戦艦主体の艦隊編成も進んできたが、新編成の艦隊を指揮できる司令官の育成は容易ではなかった。リスナー大将は、シリウスや攻守連合と戦った経験を持つ士官を集め、自ら教官となり、実戦さながらの演習を繰り返した。

 その苛烈さは、1回の演習で、数百人規模の死傷者が出る事も珍しくなかった。脱落する士官たちも多かったが、厳しいながらも、将兵を慈しみ、誰よりも軍務に精励するリスナー大将の姿に心酔する者も少なくなく、彼らの中から、ルドルフの治世後期、また次代の強堅帝ジギスムント1世の御代に、帝国軍の活躍を支えた名将達が誕生している。

 

 しかし、優秀な若手司令官が育ってきたと言っても、経験の差は大きく、個々の戦闘ではシリウス、特に攻守連合の艦隊を撃破する事は依然として困難だった。リスナー大将は、短期間で帝国全軍の強化を図るため、帝国滅亡まで、軍編成の伝統となる手法を案出した。それが、各部隊・艦隊の独自化、である。

 

 当時の帝国軍が採用した常備軍制は、各部隊が戦闘集団として必要な機能を常時備えるため、平均的な編成になりがちだが、リスナー大将は、この基礎的な編成に加えて、司令官の能力・性格と合致した編成を目指した。

 

 一例を挙げると、勇猛な指揮官ならば攻撃力重視、慎重な指揮官ならば防御力重視、果断な指揮官ならば機動力重視と、司令官の裁量権を拡大し、独自の部隊編成を認めた。また、司令官人事を固定化し、ひとたび部隊・艦隊の長に就任したら、昇進して転属、退役、降格、戦死するまで、同一部隊・艦隊の長を継続して務めるとした。

 さらに、各艦隊の特色を明確にするため、西暦時代、中世・近世ヨーロッパ地方で用いられた騎兵の名称を採用。そこに、司令官の個人名や駐屯地の地名、または艦隊を象徴する色の名前などを任意に付け、艦隊名を登録する事を許可した。

 

 この結果、上は司令官から、下は一般兵まで、自分達の軍団という意識が醸成され、戦闘集団としての一体感を強化する事に繋がった。また、各隊の特色が明確になった事で、戦闘時の選択肢が増えて、多様な戦闘を展開できるようになった事は戦術の洗練をもたらし、特に宇宙戦では、後世の手本となる代表的な戦術が多数、生み出された。

 

 しかし、司令官人事を固定化し、各隊の個性を容認する部隊編成は、司令官と部下とが個人的な関係を育み、中央の統制を受け付けない、司令官個人の「私兵」化する危険性を孕んでいた。また、各隊の能力に敢えて差をつけたため、各隊を統御する上位司令官には、高い能力が求められる事にもなった。能力に乏しい司令官が上に立つと、各部隊がバラバラに戦う事になりがちで、いわゆる烏合の衆と化し、大敗の要因となった。

 

 逆に、上位司令官が各隊の特色を把握し、それに応じた戦術を展開できれば、通常以上の攻撃力を出せた。統一的な戦力を調える事を主眼にする近代的な部隊編成からすれば邪道、諸刃の剣とも言える手法ではあったが、少なくとも、建国期に限れば、リスナー大将という優れた用兵家を上位司令官に戴いた帝国軍にとって、シリウスや攻守連合を打倒するための原動力となっていった。

 

 その成果が表れたのは、帝国暦9年、リスナー大将率いる帝国軍中央艦隊と、攻守連合のスー総統が指揮するカストル軍艦隊が戦ったトラ―バッハ星域会戦。帝国軍約1万8000隻、カストル軍約2万隻と、艦艇数はほぼ互角だったが、積極的に攻撃してくるカストル軍に対し、帝国軍は重騎兵艦隊を基幹とした凹形陣を形成。敵艦隊の鋭鋒を受け止めつつ、機動力に優れる軽騎兵艦隊による迂回攻撃で、敵の補給部隊を壊滅させると、予備兵力の槍騎兵艦隊を投入、敵左翼艦隊を突き崩し、反包囲態勢に持ち込もうとした。補給線が限界に達する前にカストル軍が撤退を決断したため、完全勝利には至らなかったが、この戦いは、当時最強の武力を誇っていたカストル軍艦隊の攻撃に対し、帝国軍艦隊が耐えきれるだけの力を付けた事、各艦隊の特性を活かせば勝利する可能性すらある事、この事実を人類社会に知らしめるものだった。

 

 勝利の報を受けたルドルフは、リスナー大将こそ、帝国軍随一の名将、ゴールデンバウムの盾であると激賞。上級大将への昇進を決定すると共に、武功卓抜の帝国軍人に賜る「双頭鷲武勲章」を制定し、その第一号として、自ら勲章をその胸に付けるという栄誉を授けた。

 

 そして、この勝利は、ルドルフにある決断を齎した。もはや、シリウスや攻守連合を憚り、帝国領内の共和主義者や独立を求める勢力などに、融和的な姿勢を取る必要は無いと。これが同年、劣悪遺伝子排除法が帝国議会に上程された理由とするのが筆者の見解である。次章では、同法制定の理由と意味、さらに同盟の学界では定説となっていた貴族制度との関係について、論じてみたい。

 

 なお余談ながら、指揮下の艦隊に中世的な騎兵名をつける制度は、伝統を重んじる貴族の性向に合致していたためか、長らく帝国軍の慣習として受け継がれた。

 しかし、帝国暦436年、第2次ティアマト会戦で貴族出身の司令官が大量に戦死、下級貴族や平民出身の司令官が増えてくると、軍隊を私物化する貴族の悪習だとして、忌避される傾向が生じ、平民出身の司令官の中には、命名権を行使しない者が増えてきた。また貴族の中でも、開明派と称される者達は、大時代的な風習だと敬遠するようになった。

 その結果、帝国末期に至ると、伝統的な騎兵名を冠した艦隊の方が少なくなっていたが、敢えて艦隊の特色を誇示して、隊員の精神的な結束を図ろうとする司令官は、騎兵名を冠する事もあった。その代表的な艦隊は、獅子の泉の七元帥の1人、ビッテンフェルト元帥が司令官を務める「黒色槍騎兵艦隊」である。なお、騎兵名が表す艦隊の特色は以下の通り。

 

 槍騎兵:大型戦艦を主体として、突撃力・突破力に優れる。その反面、守勢に弱く、転進が難しい。

 弓騎兵:ミサイル艦を主体として、遠距離攻撃に優れる。敵艦隊への奇襲や攪乱を得手とする。

 竜騎兵:駆逐艦を主体として、火力に優れ、近接戦闘が得意。蹂躙戦で活躍するが、防御力に乏しい。

 軽騎兵:巡航艦を主体として、機動力に優れる。攻撃力は低いが、威力偵察や迂回攻撃を得手とする。

 重騎兵:標準型戦艦を主体として、攻守ともに優れる。新ドクトリン「艦隊運用」の根幹を成す艦隊。

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