【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
第1節 生い立ち~連邦軍人として活躍
銀河連邦の首都星テオリアに生まれる。父セバスティアンは、銀河連邦軍の軍人で、主に教育関係のポストを歴任した軍官僚。特に、連邦軍士官学校では、テロ対策や治安維持に関する講義の担当教官として、高い評価を受けていた。ルドルフは幼少時代より、父親から直接、軍人教育を受けており、自身が軍人を志したのも、父親を尊敬するからであると、後年に著した自叙伝で語っている。
なお、セバスティアンは、政治家や資本家と結託し、猟官運動や蓄財にのみ精を出す当時の連邦軍上層部に対して批判的であり、後年、教え子の一人が連邦政府へのクーデター未遂事件に加担した際、上層部から疎んじられていたセバスティアンも、クーデターへの関与を疑われ、軍法会議で不名誉除隊処分を受けている。その事を恥としたセバスティアンは、除隊処分の翌日、自室で拳銃自殺を遂げたと伝えられる。
当時のルドルフは新任の法務将校として、リゲル航路警備部隊に着任していたが、父の死後、今まで以上に軍隊内の非行を弾劾するようになり、結果として、宇宙海賊のメインストリートと称されたペデルギウス方面への転任を余儀なくされている。
青年ルドルフの行動原理として、腐敗した軍上層部の意向で、無念の死を強いられた父への想いがあった事は想像に難くない。また後年、ルドルフは銀河連邦の実権を握った後、父の裁判をやり直させ、父が冤罪であった事を表明。改めて当時の連邦政府と連邦軍の癒着と腐敗を弾劾したが、父親への哀惜の念が銀河連邦への憎悪に転化し、さらには、連邦という国家それ自体の滅亡を志向したのでは、との見方をする史家もいる。
少尉から中尉に昇進の上、ペデルギウス方面に転任させられたルドルフは、宇宙暦290年、同方面警備部隊の第13警備中隊長に着任。当時ルドルフは22歳、実戦部隊の長を務めるのは初めてであったが、法務将校時代の経験を活かし、中隊内の非行、特に上官から部下へのハラスメント、暴力は厳罰を以て取り締まり、綱紀粛正を図った。部下達の信頼を得たルドルフは、宇宙海賊との戦闘では先陣を切って突撃し、他の部隊とは一線を画す勝率を誇った。
この点を評して、旧帝国ではルドルフの軍事的才能を称揚するのが一般的だったが、当時の戦闘報告書によると、前線指揮官としてのルドルフは、それほど巧みな戦術を駆使した訳ではなかったが、その高いカリスマ性と命を惜しまない敢闘精神のため、部下たちが挙って勇戦し、結果として連戦連勝し続けた、というのが真相のようだ。後世、扇動政治家として非難されるルドルフだが、軍人としては率先垂範するタイプであり、決して無能でも臆病者でもなかったと言える。
宇宙暦292年、ルドルフは少佐に昇進、同警備部隊司令部の作戦主任参謀に着任すると、ペデルギウス方面全体の宇宙海賊討伐戦を管掌する事になった。この頃から、ルドルフは、宇宙海賊という存在の背後には、中央で富を独占する大企業、資本家がいる事を認識するようになった。
当時、首都星テオリアに本社を置く多星系企業は、軍事会社という傭兵集団を抱え、ライバル企業へのテロ行為も辞さなかったが、自社の軍事会社社員に宇宙海賊を装わせて、ライバル企業が船主の輸送船を襲撃し、積み荷を奪うという略奪行為さえ行っていた。結果、主要航路の治安は悪化し、警備料が上乗せされた結果、首都星から離れた星系の物価は高騰し、地方星系に住む住民たちの生活苦に拍車をかけていた。
ルドルフはこの現実に深く憤り、宇宙海賊を装った軍事会社の宇宙船を自ら拿捕すると、大企業への警告として、裁判なしの即時撃沈も辞さなかった。海賊の横行に苦しめられていた住民は拍手喝采したが、これは連邦軍へも強い影響力を有する大企業の尾を踏みつける行為でもあった。
宇宙暦293年、ルドルフは命令不服従の罪で憲兵隊に逮捕され、軍法会議への出頭を命じられる。逮捕の背景には、軍上層部に働きかけた大手輸送会社の存在があったとも言われるが、詳細は不明。階級剥奪と軍刑務所への収監は避けられないと見られていたが、ペデルギウス星系を中心に、ルドルフの釈放を求める市民デモが繰り返され、最終的には、同星系政府が連邦軍に対して、正式にルドルフ釈放を求める事態にまで発展した。世論の高まりを無視できなくなった連邦軍は、ルドルフは上官の命令に不服従ではあったが、その行為は現場指揮官の裁量の範囲内だったとして、本人の予備役編入を以て、事態の収束を図った。
なお、ルドルフ釈放に至る一連のデモ行為を主導して、ペデルギウス星系政府を動かしたのは、同星系で星間輸送会社を経営する若き財界人で、中央の大手輸送会社と競合関係にあった、アルブレヒト・クロプシュトックだった。この事が縁となり、クロプシュトックはルドルフが銀河帝国皇帝に即位すると、建国の功臣として、内閣書記官長・財務尚書・内務尚書を歴任する事になる。