【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第3節 ルドルフの「遺伝子」観

 本書が提示した劣悪遺伝子排除法の姿は、特に同盟で生まれ育った者であれば、今までの常識とあまりにも違いすぎると、容易には受け入れられないかもしれない。彼ら同盟人らが抱く姿、即ち劣悪遺伝子排除法が優生思想を前面に押し出した内容に「改悪」されたのは、新史料を分析した結果、痴愚帝ジギスムント2世の手によるものだと思われる。同帝の改悪に関しては後段に譲るが、ここでは、ルドルフが遺伝子に対し、如何なる見解を有していたのか、それをまず述べたい。

 

 まず、ルドルフが遺伝子を盲信していたという同盟の定説自体、史料上からは確認できない。学芸尚書ランケとの往復書簡によると、人間には生来の能力格差があり、それは遺伝子に由来するという考えは有していたようだが、例えば、障害者は遺伝子的な異常者だから殺害されなければならない、などと発言している記録は無い。

 

 また仮に、ルドルフが遺伝子を盲信していたならば、外孫ジギスムントの即位を認めたとは思えないのだ。遺伝学的に言えば、男性性を規定するY染色体は男親からしか受け継がれず、ジギスムントのY染色体は父親ヨアヒムから受け継がれたもの。遺伝子的に言えば、既にルドルフの遺伝子、Y染色体は断絶している。これを認めたという一事だけで、少なくともルドルフが遺伝子を盲信はしていなかった事の証左になるのではないかと、筆者は考えている。それは、劣悪遺伝子排除法において、遺伝子は名目でしかなかったという筆者の見解を補強するものだと言えないだろうか。

 

 また筆者は、劣悪遺伝子排除法が優生思想に基づく法ではなく、治安維持を目的としていた事の傍証として、ルドルフが同法を議会に上程した帝国暦9年という時期に注目したい。同年、帝国軍がカストル軍に勝利、辺境域の敵対勢力と互角以上に戦える戦力を備えた事を証明した。

 これまで、ルドルフは帝国領内での共和主義者らの跋扈に苛立っていたが、彼らは敵対勢力の支援を受けており、帝国軍は敵対勢力の軍隊よりも相対的に弱体だった。その現実を踏まえ、彼ら共和主義者らに対して融和的な政策を取っていた事は既述の通りである。

 

 帝国暦9年に至り、帝国の軍事力が確立した事を受けて、ルドルフは共和主義者らの弾圧、支配体制の確立に着手する事を決断。劣悪遺伝子排除法の制定は、その決意表明なのではないか、というのが筆者の見解だ。

 

 同法違反の容疑で、多くの共和主義者らが逮捕、殺害されているが、社会秩序維持局に残された記録によると、彼らの居住地は辺境域に近い星系、また帝国からの分離独立を企図していた星系が大半を占めている。対して、帝都オーディンでの逮捕者数は、ルドルフ崩御に至る約30年間で、全体の0.001%でしかない。この点も、同法の立法意図が反帝国勢力の撲滅、排除だった事の証左になるのではないだろうか。

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