【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
このように、上は大公から下は帝国騎士まで、貴族は爵位に基づくピラミッド型の秩序を形成していた。一方、この縦方向の秩序とは別に、各貴族の職能や社会的立場による横方向の秩序もあった。それが文官・武官・領主の区分に基づく秩序である。まず、各区分の意味について述べたい。
1.文官貴族
帝国政府の官僚、また国営企業の幹部など、主に官界・経済界で活動する貴族。即位前のルドルフの側近だった官僚や政治家、企業家を起源とする。彼らの多くは帝都オーディンに住み、基本的には帝国から支給される俸禄と貴族年金で生計を立てる。政治・行政能力に優れた人材が多く、政府の主導権を握っていた。
2.武官貴族
帝国軍の高級士官など、主に軍隊で活動する貴族。即位前のルドルフに従った連邦軍人や、民間軍事会社の関係者を起源とする。文官貴族と同様、帝都オーディンに住む者が多く、基本的には帝国から支給される俸禄と貴族年金で生計を立てる。軍事能力に優れた人材が多く、帝国軍を実質的に支配していた。
3.領主貴族
皇帝から下賜された領地に住み、自領の経営を行う貴族。連邦末期の星系政府首相や議会議員がその星系(選挙区)を領地として与えられた例が多い。未開拓惑星の開発や公営企業(国ではなく、貴族家が所有する企業)の経営を行い、帝国の生産・経済活動の主体となった。同盟の成立までは外国が存在しなかった銀河帝国にとり、ある意味、貿易相手国であり、仮想敵でもあった。また、枢密院議員(後述)ともなり、帝国政界に有形無形の影響を及ぼした。
旧帝国の貴族はほぼ例外なく、上記の区分のどれかに属した。尤も、その区分は永続的なものではなく、時代の変遷と共に変化していった。
例えば、文官・武官貴族は領地を与えられても、その統治は政府に委任し、自らは税収だけを得る事がほとんどだったが、中央での職を辞し、領主貴族に転身する例もあった。逆に、領主貴族の一族が分家して、政府や軍で職を得て、独立した文官・武官貴族になる事もあった。
また、有力な領主貴族が家士や従臣を政府や軍の要職に送り込み、中央への影響力を確保しようとする事もよくあり、甚だしきは当主が形式的に隠居して、中央政府で官職に就き、任期が終了して領地に帰ると、再び当主に復帰する、という例さえあった。
彼ら貴族達は、爵位と職能(社会的立場)、そして血縁と、多方面で濃密な結びつきを持ち、複雑な秩序を形成していった。また、有力諸侯は分家以外の中小の貴族家をも傘下に置き、帝国内部に巨大な勢力を築き上げた。
一例を挙げると、有力な領主貴族だったカストロプ公爵家は、マリーンドルフ伯爵家、キュンメル男爵家など、血縁や職能で結ばれた各家を影響下に置き、自らが党首となった。これを主家―従家関係と言い、この関係を結ぶ貴族家の連合を「一門」と称した。
彼ら領主貴族の如き大勢力にはならなかったが、文官・武官貴族でも一門を築く家はあった。旧帝国末期で言えば、文官貴族では、リヒテンラーデ侯爵家とゲルラッハ子爵家・ワイツ帝国騎士家、武官貴族ではメルカッツ男爵家とシュナイダー帝国騎士家が一門の関係にあった。これら一門が互いに離合集散して、政府や軍、後述する枢密院での派閥となっていった。