【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
宇宙暦294年、26歳のルドルフは、ペデルギウス星系政府首相、イブン・エル・サイドの招請を受け、同星系政府の治安維持部隊司令官に就任、星系政府軍准将となった。エル・サイド首相の目論見は、市民に人気が高いルドルフの政治的スポンサーとなり、星系政界における自身の立場を強化する事だったが、若きルドルフにとり、政治家の思惑など関係なく、ただ憎むべき海賊どもを討伐できる事に、深い満足感を覚えていた。後年、強かで老練な政治家となるルドルフだが、まだこの時は、理想と正義感に燃える若き一軍人に過ぎなかった。
だが、ルドルフとエル・サイド首相の蜜月関係は、すぐに破綻した。ルドルフは、宇宙海賊を装った大企業の私兵集団(軍事会社社員)も、抵抗・逃亡すれば即時撃滅するなど、呵責の無い措置を断行し続けたが、中央の大企業と決定的に対立する事を避けたいエル・サイド首相は、ルドルフの武断的な措置を危惧し、しばしば制止、叱責するようになった。ルドルフもまた、エル・サイド首相の態度に不満と不信を高めていった。
この状況を逆に好機としたのが、ルドルフ釈放の市民デモを主導したと見られる財界人・クロプシュトックである。ルドルフの高い人気と海賊討伐の実績を以て、まず星系議会議員選挙に立候補させ、ゆくゆくは星系政府首相に擁立できれば、長年の夢だった連邦からの独立も可能だと、密かにルドルフと交渉。エル・サイド首相の優柔不断さに我慢できなくなっていたルドルフも、クロプシュトックの提案を受け入れ、自ら政治家となる決心を固めた。
しかし、治安維持部隊の指揮権を手放す事を危惧するルドルフに対し、クロプシュトックは、政府基本法(憲法に相当)に、公務員の兼職禁止規定が明文化されていない事が利用できるとアドバイス。司令官在職のまま、星系議会議員選挙に立候補。見事、議席を獲得する。
この事態に驚倒したのがエル・サイド首相である。番犬的存在と見なしていたルドルフが自身の統制から外れる事を危惧し、例え明文化されておらずとも、権力の分立と相互監視の観点から、公職の兼任は不適切だと議員辞職を勧告するが、有権者はむしろルドルフを擁護し、逆にエル・サイド首相が市民からリコールを受ける事態に陥った。この勢いに乗るべきと、クロプシュトックは周囲の経営者と語らい、エル・サイド首相へのリコールを扇動、ルドルフの擁立に動く。結果、宇宙暦295年、リコール後の議会内選挙の結果、ルドルフはペデルギウス星系政府首相に就任する。
なお、リコールの結果、首相辞任を余儀なくされたエル・サイドは、首相在任中、中央の大企業からリベートを受け取っていた事を暴露され、星系議会議員も辞職、政界引退を表明した。引退後は首都星テオリアに移住し、政治家時代の縁故を頼り、細々と生活していたと伝えられるが、詳細は不明。息子のハッサン・エル・サイドは後年、テオリアの地方自治体議員から立身して、連邦議会下院議員にまで上り詰めるが、ルドルフが銀河連邦の政界で台頭してくると、激烈な反ルドルフ活動を展開する事になる。