【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

41 / 112
第7節 貴族の義務

 これまでは、主として制度面から見た貴族を解説してきたが、次は貴族が持つ権利と義務から、個人としての貴族は何を望まれていたのか、その点を述べてみたい。まず、貴族の義務について解説する。

 

 1.自家を維持する義務

 後継者を儲けて、子々孫々に至るまで、家を維持する。

 

 2.自身を錬磨する義務

 帝室の藩屏となり、皇帝と帝国を守護できる存在となるため、日々、自己の能力を錬磨し、人格・識見を陶冶して、心身ともに強健となって、臣民の範となる。

 

 3.子弟を教育する義務

 後継者を含む子弟に対し、貴族に相応しい教養と能力を身に付けさせるため、必要な教育を施す。

 

 4.支配者階級たる義務

 人類社会を正当に統治する帝国の支配者階級として、課せられた責務を全うする。政府や軍への出仕、また領地経営など、各人の立場で、平素より帝国の維持・発展に尽力する。

 

 5.従臣らを保護する義務

 従臣や領民など、自身の保護監督下にある者たちの生命と財産を守り、生計が成り立つように配慮する。

 

 以上のように、帝国の支配者階級としての責務を自覚して、常に努力する事が求められている。後世、貴族は平民から搾取して、労働もせず、遊んで暮らしていたというイメージが蔓延しているが、そのような貴族はむしろ例外で、貴族たるの体面を維持するためにも、平民以上の努力を強いられる場合がほとんどだった。

 

 公職にある者なら、課せられた業務を全うする事は当然、業務内容を向上させるための勉学も日々行っていた。また、病休は恥ずべき事だったので、心身ともに健康を維持するため、必要な運動を行い、節度と規律ある生活習慣が求められた。

 

 領主貴族はさらに過酷で、日々の勉学や健康維持に加えて、雇用している従臣や領民の生活にも配慮しなければならなかった。これは貴族女性も例外ではない。男性と異なり、公職に就く事、領地経営に責任を負う事は、自身が貴族家の当主でない限り、まず無かったが、貴族家同士の交際は女性が中心だったので、礼儀作法を始め、貴族に相応しい知識や教養、各種技能は男性以上の水準で習得しなければならなかった。

 

 怠惰に流れる、交際を怠る貴族も存在しない訳ではなかったが、貴族社会から排斥され、居場所を失うのみならず、皇帝もしくは枢密院議長が厳格な性格であれば、最悪、貴族身分の剥奪を宣告されかねなかった。

 

 この厳しさは、後継者を含む子弟への教育にも当然、反映された。特に、爵位持ち貴族は、自邸に家庭教師を招聘して、子弟に教育を施す事が常識だったが、学校現場のように、大勢の子供達と比較されて評価が決まるのではなく、ただ当主の求める水準に達するか否か、それだけが評価基準だった。そのため、非常なスパルタ教育になりがちで、教育内容について行けない者の中には、失踪や精神異常、不幸にも自殺した例さえあった。

 

 換言すれば、これほど苛烈な教育環境で育った者達は、人格はともかく、極めて高い能力の持ち主であって、彼らが集まった政府や軍当局など、公的機関の生産性は非常に高い水準にあった、人口規模と比較して、支配者階級たる貴族家の数が極端に少ないにも関わらず、強権的ではあるが、スムーズな統治が行われていた原因は、中堅の職員・軍人の人材供給源だった家士・従士らの存在に加えて、貴族達の能力の高さも、その要因だった。

 

 そして、高い能力を持つ子弟の中から、後継者に最も相応しい人物を選び、次代の当主とする。そして、その者も同様に、子弟を教育し、自身の後継者を選定する…その繰り返しで、家を子々孫々に至るまで、永遠に維持していく、これが貴族たる者の最大の責務とされた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。