【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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9-1:軍務尚書シュタウフェン公爵

 優秀な人物ぞろいの尚書達の中でも、能吏という点では、軍務尚書シュタウフェンと財務尚書リヒテンラーデが双璧と言えるだろう。

 ルドルフの義父でもあるシュタウフェンは、連邦軍人時代から軍官僚として令名を馳せ、ルドルフが国防大臣として初入閣すると、同省次官に抜擢されている。ルドルフが終身執政官に就任すると、帝国の建国を見据えて、連邦軍の中核を掌握するため、軍官僚でありながら、連邦軍中央艦隊司令長官に着任。建国時に大きな混乱が生じなかったのは、大兵力を指揮下に置いていたシュタウフェンの存在が大きかった。

 

 帝国建国後は、連邦軍とルドルフ派の民間軍事会社の寄り合い所帯でしかない帝国軍の再編成という大事業に着手。卓越した行政処理能力を発揮し、僅か数年で辺境域の独立国家群とも互角に戦える軍隊を生み出した。その成果は、帝国暦9年、統帥本部総長リスナー大将が指揮する帝国軍中央艦隊が、当時最強の軍事力を誇っていたカストル・ポルックス攻守連合軍を破ったトラーバッハ星域会戦で表れている。

 

 旧帝国軍の「建軍の父」と言えるシュタウフェンだが、エリート特有の傲岸不遜な為人で、無能者を嫌悪する事にかけては、ルドルフ以上だった。その反面、相手の優れた能力は率直に認めて、評価できる度量を持ってもいた。その好例が初代の統帥本部総長リスナー大将で、軍政経験の無いリスナーに、新組織たる統帥本部の長が務まる訳は無いと就任前は見下していたが、就任後、その知性と能力、職務への精励、自身への礼儀正しさなどから評価を改め、後継者に擬していた孫のヨアヒムをその麾下に預けるほど信頼するようになった。

 

 義理の息子にして、主君たるルドルフには忠誠を誓っていたようだが、同時に皇后エリザベートの父、外戚として、自家の勢力拡大に余念が無い、強かな政治家でもあったシュタウフェンは、自身の部下を貴族に、または従臣に取り立て、軍務省や内務省、また帝国軍の要職に就けて、一大派閥を築いていった。

 

 寵姫マグダレーナの一件で示されたように、彼らシュタウフェン派は、皇孫ジギスムントの擁立を目指して結束。ルドルフ崩御後、帝国の混乱と崩壊を予想していた共和主義者らの予想に反して、強堅帝ジギスムント1世の治世が安定し、共和主義者の叛乱を撃砕できたのは、シュタウフェンの孫にして後継者、ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの指導力もさる事ながら、政府や軍を掌握していたシュタウフェン派の存在も大きかった。

 

 シュタウフェン自身も、曾孫ジギスムントの即位を心密かに熱望していたが、帝国暦24年、ジギスムントの立太子式が挙行されると、安堵のため緊張の糸が切れたのか、翌25年、老衰のため死去。その葬儀は、旧帝国史上初となる帝国軍葬の礼を以て執り行われ、かつ帝国軍人初の元帥号を追贈された。

 

 なお、シュタウフェン家は家祖エリアス死後、その孫にて大帝ルドルフの婿、強堅帝ジギスムント1世の父となったヨアヒム・フォン・ノイエ・シュタウフェンが継承。帝国軍を始めとして、軍務省・内務省等を掌握するシュタウフェン派の領袖、帝国最大の権門として権勢を振るったが、その栄耀栄華も長くは続かなかった。

 

 帝国暦100年代、喪心帝オトフリート1世の御代、同帝を傀儡化して、準皇帝陛下と称された権臣エックハルトとの権力闘争に敗れ、領主貴族に転身している。詳しくは喪心帝の巻で述べたいが、当時、帝国の支配が安定して、貴族達が豪奢な生活を希求し始めると、大手企業を経営する文官または領主貴族、彼らと癒着した経済官僚らの発言力が大きくなり、軍や社会秩序維持局などの武力組織を基盤とする、ノイエ・シュタウフェン家の如き武官貴族の影響力は相対的に低下。当時の貴族社会では軍人や警官を「野蛮人」と卑しむ風潮さえあったと云う。

 

 帝都での権力闘争に敗れて、後世、イゼルローン回廊と称される星域に近い、辺境域の領地を与えられた同家だが、この一帯は帝国建国時、最大の武力を誇った攻守連合の故地でもあり、反帝国の気風が強い場所だった。また、当時の領主貴族社会の中では、かつての敵国、経済共同体最後の総裁だったマクシミリアンを家祖とするカストロプ公爵家が盟主的存在で、領主としては後発のノイエ・シュタウフェン家が入り込む余地は乏しかった。 

 

 この後、帝国の公式記録の中に、同家に関する記述はほぼ皆無となる。同家の存在が再び取り上げられたのは滅亡時、健軍帝フリードリヒ1世の御代、ノイエ・シュタウフェン公爵家は、ルドルフ大帝以来の名門貴族にも関わらず、流血帝アウグスト2世の暴虐を看過し、止血帝エーリッヒ2世の革命戦にも参加しなかった、まさに帝室に異心ありとして、大逆罪により爵位没収、族滅とされた。私兵を率いて抵抗した同家だが、フリードリヒ1世が派遣した遠征軍に敗北、まさに炎と血の中に滅んだ。

 

 ただ、大逆罪の容疑はあくまで名目に過ぎず、ノイエ・シュタウフェン家が討伐された本当の理由は、同家がイゼルローン方面に向かって密かに深宇宙探査をしており、周辺星域にある中小の領主貴族、そして攻守連合の残党さえも巻き込み、半独立の一大勢力を築いていたから、との見解がある。

 

 前述の通り、筆者は自由惑星同盟を建国したのは、辺境域の領主貴族らが密かに派遣した、深宇宙探査を目的とする農奴・奴隷達だったのではないか、との見解を有しているが、ノイエ・シュタウフェン家が滅ぼされた真の理由が上述の通りだったならば、筆者の見解を補強する有力な傍証となるだろう。残念ながら同家に関する史料は乏しいのだが、新帝国の開闢に伴い、辺境域の領主貴族が保有していた文書等も公開と研究が進み始めた。帝国側史料から同盟建国時の実情を解明する事は、筆者の主要な研究テーマでもあるので、更なる研究を期したいと思っている。

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