【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

59 / 112
第6章 帝国の経済体制 Ⅱ~生存を保障する機構
第1節 配給制度①~需要側の体制


 旧帝国の経済システムにおいて、その出発点となるのは、政府が立案する各種物資の生産・流通計画である。西暦時代より、社会主義または共産主義を国是とした国家が最も苦慮した事が、この生産計画の立案であった。統治下にある人民を養うに足る食品等の品目と数量を算出する事は、膨大な計算を必要とする上に、対象となる人口を正確に把握する事も、その数に基づいた基準を設ける事も困難であった。よって、ある品目は必要以上に供給されるが、別の品目は全く供給されないなどの不均衡が日常茶飯事だったと云う。

 

 旧帝国の経済官僚達は、如何なる手段を用いて、この難問を処理したのか。ルドルフが支配者の責務とした「臣民が生存に必要とする物資等を与え」る配給制度の実態を明らかにする事で、その答えとしたい。

 

 まず、需要側の体制から述べよう。毎月15日頃、各世帯のコンピュータ端末(官給品)に「食料品等の支給に関する基礎調査票」が送信される。そこには、小麦粉・牛肉・ジャガイモ等を始め、標準的な食品と、衣類等の生活必需品について、送信先の世帯に必要な量が記載されている。

 

 その世帯に属する家族数と世代設定に変更が無ければ、世帯主が承認して返送。家族数等に変更があれば、変更の発生日時と事由、変更後の世帯数と世代設定を申告する。その内容に基づき、次月の配給量が決定される。未提出はどんな理由でも、次月の配給は無しとなる。

 なお、虚偽記載は犯罪であり、発覚すれば世帯全員が農奴に転落、不正取得した数量に相当する金額を得るまで、労働刑に処される。

 

 調査票に記載された品目と数量の決定方法は、以下の通り。まず、各世代が生命維持に必要な平均カロリー量と必須栄養素に基づき、国務省医療局が世代ごとに「帝国臣民の標準的食生活」モデルを設定。それを用いて、各世帯が必要とする品目と数量を算定する。衣類等の生活必需品は、同じく財務省配給局が定める「帝国臣民の標準的生活」モデルを用いて、品目と数量が算定された。なお、生鮮食品などの日持ちしない品目は、冷凍状態で支給するか、配給券を渡して、必要とする都度、町指定の配給所で受け取るなど、各地の直轄領や貴族領で、若干の違いがあった。

 

 ただ、配給品だけで生活の全てを賄う必要は必ずしも無く、何らかの事情で足りない場合、国営企業等が運営する商店や量販店で追加購入できた。配給対象品は公定価格が設定されていたので、常に低廉な価格で買えた。

 しかし、高価な食材や衣類などは、生存には不要な奢侈品として配給の対象外だったので、購入する事は出来たが、付加価値税が付与されるため、平均的な所得の平民層からすれば、比較的高価だった。

 なお、家電製品や自家用車などの耐久消費材、通信機器やコンピュータ端末、装身具等は、付加価値税に加えて、物品税も付与されるため、極めて高価。平均的所得の平民層では購入困難で、基本的には富裕平民か貴族身分保持者が購買層だった。

 

 配給の対象となるのは、貴族身分以外の全臣民(農奴・奴隷は除く)。ただ、皇帝直轄領に住む国民は、上記の通り、国務省と財務省が定める標準モデルを用いて、配給品目と数量が決定されたが、貴族領に住む領民はこの限りでは無かった。

 直轄領の水準を下回る事は法的に認められなかったが、それ以上の支給は、各領主の裁量権の範囲とされたので、民生重視の統治を行う領主や、自領開発のために良質な労働力を必要とする領主は、直轄領よりも手厚い配給を行う事が多かった。結果、直轄領から貴族領への転出を望む国民も多く、直轄領の人口減と税収減を懸念した為政者、例えば寛仁公フランツ・オットー大公や晴眼帝マクシミリアン・ヨーゼフ2世などは、直轄領での配給量引き上げと品目増を実施している。

 

 配給される食料は、主にカロリーベースで計算されるため、数量は十分以上だったが、品目は少なくなる傾向にあった。そのため、帝国臣民の食生活は、小麦粉や鶏卵、牛乳に砂糖など、高カロリーで様々な料理に使える食材を主とする料理がメインとなり、結果、フリカッセのような煮込み料理や、シュトレンなどの菓子が食卓に上るようになった。帝国では成人男性でも甘党が多いのは、配給制度の影響と見られる。

 

 この配給制度は、制度史的に見れば、人民の生存権の保障として、西暦年代から諸国家で採用されてきた生活保護や基礎的所得保障の一変種ではあるが、平民よりも手厚い経済的支援を受けられた貴族身分の者は対象外となっていた事から、形を変えた福祉制度とも見なせる。

 尤も、時代が下るに従い、貴族身分の者でも平民か、それ以下の生活を余儀なくされる者も現れて、貴族身分であっても特に申告すれば、配給対象となるよう、制度改正がしばしば行われている。

 

 制度開始直後は、やはり各世帯の把握が上手くいかず、実態と配給数量のズレが目立ったが、コンピュータ網の整備が進むと、世帯の現状と変更がリアルタイムで把握できるようになり、スムーズな配給が実施できるようになってきた。現金支給ではないため、生存に不要な奢侈品や嗜好品などに浪費されないと、特に家計を預かる主婦層から好評だったと云う。

 

 ただ、官給品のコンピュータ端末を備え付けられる世帯単位の支給が基本だったため、住居を持たない住所不定者は把握できないという欠陥はあったが、惑星政庁が設置する簡易宿泊施設や、皇族や貴族等が私費で運営する救貧院に申し出れば、その場を一時的な住居と見なし、基礎調査票の提出を代行してもらえた。

 

 なお余談ながら、旧帝国の住宅事情について一言したい。全宇宙は銀河帝国の支配下にあるとの建前から、直轄領は全て国有地、貴族領は皇帝が領主貴族に下賜したとの体で、領主の経営権は認められたが、最終的な所有権は帝国皇帝が保持。そして、貴族身分ではない者が土地を所有する事は認められなかった。

 そのため、平民層は政府または領主が建てた賃貸住宅を借りるのが一般的だった。だが、家計に余裕がある富裕平民は、政府や領主から土地を借りて、持ち家を建てる者もいたが、居住権などは認められず、土地の所有者の意向で即時の立ち退きを迫られる事もあったので、特定の貴族家に仕える従臣か、専属として雇用されている専門家や職人などに限られた。

 また、賃貸住宅の家賃は等しく安価だった反面、住居の管理と維持は居住者の責任とされたので、家屋の修理や補修、改築は所有者に申告の上、住人が自費で行った。しかし、災害や戦災等の特殊事情がある場合は、税金の滞納や犯罪歴等が無い順良な臣民に限り、一定の補助制度が受けられた。

 

 配給制度は、ルドルフが志向した「国家と臣民が必要とする物資等を調達する」経済活動の具現化であり、基礎でもあった。生存に必要な最低限の食料等を配給する代わりに、臣民の多様性を否定、生活様式を国家が定めるものに画一化し、生存競争から解放された事で生じた余裕を勉学や子弟の教育、身体鍛錬など、望ましい臣民となるための営為に用いるべしとした。

 

 とは言え、怠惰を嫌ったルドルフらしく、配給品だけで生活して労働を拒否する事は許されなかった。生存に必要な物資を与えられた臣民は「各々の能力と才覚に応じた生業」に励まねばならなかった。それは、失業を劣悪遺伝子排除法に違反、臣民の義務履行を怠った罪とした事と軌を一にする。そして、労働の報酬として得た金銭で、自身の生活水準を向上させる奢侈品等を購入する事は、身分制秩序を乱さない範囲ならば認めるとした。この点を認めたのは、国家派のルドルフや、統制派の初代財務尚書リヒテンラーデではなくて、臣民派の主張を是とした第2代尚書クロプシュトックの意向だったのではないか、との指摘がある。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。