【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
基礎財以外の製品が基本的に受注生産されるようになった結果、連邦時代では1ヶ月程度で竣工できていた建物が半年、一年以上かかる事が常態化、納期は年単位が普通となり、メンテナンスの周期も長期化して、旧帝国の公共インフラは全体的に老朽化していった。
また、家電製品や地上車などの耐久消費財を始め、配給対象ではない生活用品は公共の需要が優先されたため、平民の購入は困難となった。平民が買う事自体は禁止されていなかったが、一部の嗜好品を除いて、小売店での販売が無くなったため、購入希望の場合は、居住する町の役場に購入依頼書を提出する必要があった。大消費地である帝都オーディンを主星とするヴァルハラ星系など、生産活動が盛んな場所であれば、比較的短時間で入手できたが、配給品の生産を主に行っている星系であれば、年単位で待つ事は普通だった。
そのため、平民の間では、払い下げられた官給品などを購入、使用する事が一般的となり、中古品市場が発達した。また、国民、領民などの一般的平民は、国営または公営企業に技術社員として勤務する者が多く、故障した家電製品を自分で修理できる技能を持つ者も少なくなかった。
その結果、買い換えるよりも修理する事が当然との風潮が生まれ、次第に、平民男性は機械修理や木工の技能を持つ事が常識となっていった。
工業製品をいつでも安価に購入できた同盟やフェザーン社会に馴れた者からすると、家電製品1つ手に入れるのに、平民は年単位で待たねばならない旧帝国社会のあり方は、そもそも日常生活を営む事が困難なのでは、との疑念を抱く向きも多いだろうが、実際はそうでもなかった。
勿論、その社会体制に適応していったとの側面は確かにあるが、従臣・国民・領民など、私有財産権を有する平民達も、主家や職場が建設した社宅、もしくは郡政庁が整備した公営住宅に住む者が大部分で、これらの住居には、あらかじめ最低限の家電製品や家具が備え付けられていた。
そして、住居と職場が隣接しているか、職場の敷地内に住居がある場合がほとんどだったため、通勤に地上車等を使う必要はなく、徒歩や自転車で十分だった。また、基礎的自治体たる町は、臣民の徒歩圏内に、生活に必要な施設等を集中させる事が法的に義務付けられており、バスや電車等の公共交通機関も整備されていたので、移動手段を持たない交通弱者でも、日常生活に支障を来す事はなかった。
よって、平民達が地上車を必要とする場合は殆ど無く、緊急時は町役場に連絡すれば、運転手付きの地上車を賃貸する事も出来た。
同盟やフェザーンの社会と比較するなら、旧帝国臣民の生活は単調で、物質面の充足度は低いと言わざるを得ないが、その反面、国家の定める生活様式に従うなら、最低限の衣食住は保障されており、父親と同じ職業に就く事を受け入れれば、生まれてから死ぬまで、同一の町に住み続ける事も可能だった。そして、それもまたルドルフが目指した社会の一側面であった。