【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
市中の需要よりも低く抑えられていた通貨発行量は、年金や投資との形で現金収入を得られた貴族層の経済力を強化する方向に働いたが、平民層に対しては、如何なる作用を齎したのだろうか。結論から述べれば、前述の通り、連邦時代の水準よりも、絶対的に低い給与収入しか現金を得る手段が無かった平民層は、乏しい購買力しか持てず、政府が行う配給制度に、生計の大部分を依存せざるを得なかった。
また、平民層には、帝国領内での生存を保障するための経費として「安全保障税」が課せられたほか、生存に必要ではない奢侈品や贅沢品を平民が購入する場合は、その種類に応じて「付加価値税」や「物品税」を負担する必要があった。これらの税制度によって、平民層の保有する通貨は政府へ徴収されて、その経済力は極めて低い水準に止められた。
さらに、皇帝直轄領に暮らす国民は、帝国銀行(ライヒスバンク)に口座を開設する事が義務付けられて、給与は全て口座振込されたため、その収入額は常に政府が把握していた。この口座は身分証明書の機能も果たし、警察局や社会秩序維持局の職務質問に対して、口座カードを提示できない国民は、不審人物として拘束対象にもなった。
これは貴族領でもほぼ同様で、領主貴族は例外なく、帝国銀行または自家が経営する銀行(公営企業)での口座開設を領民に義務付け、政府と同様の手法で、領民の管理を行っていた。
しかし、時代が下ると、貴族の従臣となって、その経済活動を代行、実質的には自ら事業家となるような平民も誕生した。さらに、国力回復のため、平民層の育成を図った晴眼帝マクシミリアン・ヨーゼフ2世の治世以降、いわゆる「富裕平民」と称される者達が旧帝国社会の中で一定の存在感を発揮するようになった。
彼らは自らの財力を用いて、子弟に高等教育を受けさせた。その目的は、自らの事業を継承できる人材に育成する事、または身分制社会の中での地位向上を目論み、政府官僚や軍士官に就職させる事など、各人の事情に応じて様々だったが、特に帝国軍においては、「軍務省にとって涙すべき40分間」と称された第二次ティアマト会戦で、貴族将官が大量戦死したため、帝国騎士などの下級貴族と並んで、彼ら富裕平民の子弟が佐官、将官へと昇進する事例が増えてきた。既に指摘されている事だが、彼ら富裕平民出身の軍士官が台頭していなければ、開祖ラインハルト陛下の急激な勃興は不可能だっただろうと言われている。