【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
最後に、これまで述べてきた皇帝直轄領と対比させる形で、平定戦役における貴族領のあり方を概説したい。ただ、結論から述べると、平定戦役で貴族領が果たした役割は、ほぼ皆無だった。
そもそも貴族領とは、功績を挙げた貴族へ与えられた恩賞、または帝国に従順な現地勢力を円滑に支配体制へと組み込むための手段であり、帝国の支配を受け入れない星系を貴族領とする事自体がまず不可能だった。新規に帝国領となった星系は、まず皇帝直轄領に編入され、総督府を設立。その後、治安が回復したら、必要に応じて貴族に下賜、貴族領へと転化していった。
これは、直轄領―貴族領の原則であり、例えば後世、叛乱を起こした領主貴族が帝国政府に討伐された後、その領地は没収されて、一度、皇帝直轄領となり、政府の責任において、領内の治安回復が図られた。その上で、他の貴族に下賜されて貴族領となるか、直轄領のまま留め置かれるか、当時の政治状況によって判断された。
ただ、平定戦役時、そして強堅帝ジギスムント1世が遂行した拡大戦役時のみの例外として、敵国との最前線に位置し、激戦が繰り返された星系では、治安回復の前に、次の戦いが起こる事がしばしばあり、帝国軍による軍政が常態化する場合があった。
その結果、平時の統治機関たる総督府の設立が出来ず、軍政の責任者を務めた軍人に対し、既成事実の追認、そして恩賞として、当該星系を領地として下賜する例があった。これを活用して自家及び一門の勢力を拡大したのが強堅帝の父親たるノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムだったが、これによる利点と弊害については、強堅帝ジギスムント1世の巻にて述べたい。
以上のように、開祖ラインハルト陛下、そして獅子の泉の七元帥に代表される、新帝国軍の名将達が遂行したリップシュタット戦役や同盟征服戦争に比べると、ルドルフが行った平定戦役は極めて地味、日常業務の延長といった風情で、華々しい英雄譚など数えるほどしか無かった。
これは、新帝国軍の敵手が貴族連合軍や同盟軍など、同等の戦力を有した強敵だった事に比べて、旧帝国軍の敵手は、シリウスや攻守連合など敵対国の支援を受けていたとは言え、格下の武装勢力やテロ集団だったという理由もあるが、皇帝ルドルフの軍事思想にも起因してもいる。次節以降では、ルドルフの戦争観、軍事思想を概説すると共に、平定戦役で活躍した将帥達、ルドルフの宿将とも言える軍人達を描写してみたい。