【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第5節 ルドルフの軍事思想①~その内容

 ルドルフは連邦軍人として社会に登場、28歳で軍籍を退くまで、政治家との兼務ではあれども、軍人を職業としていた。連邦軍人だった父親を尊敬していた事もあり、軍人は栄誉ある仕事と考えていたようだが、任官当時の青年期を除いて、ルドルフにとり、軍務の遂行は義務でしかなく、戦闘行為に充実感や高揚感を覚える為人ではなかった、それどころか、戦闘に充実感や高揚感を覚える職業軍人を嫌悪さえしていた節がある。

 

 即位後のエピソードだが、軍務に精励する若手士官らを慰労、激励したいと、ルドルフが皇宮で祝宴を企画。自らも家族と共に出席して、士官らと親しく言葉を交わしていたが、ある士官が酔いの高揚も手伝ってか「陛下の御為に、精強なる帝国軍を率いて、逆賊どもを討伐する事こそ、我々帝国軍人の本懐であります。敵軍が強大であればあるほど、それを撃破する我が軍は、陛下の御稜威と帝国の威光を輝かせる事ができましょう。是非、敵国にも精強さを求めたいものです。簡単に降伏などされては興醒めと言えましょう」などと発言。

 

 一方、ルドルフは不機嫌そのものの口調で「そうか、余は強大な敵軍などとは出来る限り戦いたくないがな。強敵と戦うより、弱敵と戦う方が損害は少なくなる。子供でも分かる道理だ。卿らの責務は、我が軍を強大ならしめる事と共に、敵軍を弱体化させる方策を講じる事のはずだ。責務を放擲して、無用の損害を誇る愚者など帝国軍には不要だ!下がれ!」と一喝。

 

 翌朝、軍務尚書シュタウフェン上級大将と、統帥本部総長リスナー大将両名を召喚すると、昨夜の事を説明した上で「敵軍を恐れぬ意気は認める。だが、敵を侮り、無用の損害を誇るが如き驕兵を育てよと命じた覚えはない!遊戯や運動競技ならば、強敵と戦い、全力を出し切ったと充実感に浸るのも良いだろう。だが、国家の大事たる戦争を遊戯や運動と同一視するが如き愚者は救いようがない!驕兵と愚者は、悉く我が軍から放逐せよ!これは勅命である!卿ら両名は余の重臣であり、帝国の宿将であるが、この勅命に背くならば、相応の責任を問う故、覚悟せよ!」と、語気鋭く命じたと云う。

 

 本エピソードから、強敵と戦う事を本懐、名誉とする軍人特有のロマンチシズムをルドルフが嫌悪しており、そのような軍人は「驕兵」「愚者」だと断じ、帝国軍人として不適格だと考えていた事が分かる。

 

 また、帝国軍人の責務として「敵軍を弱体化させる方途を講じる事」を挙げているのは興味深い。即ち、ルドルフが求める軍人とは、戦場で敵軍と戦闘行為に入る前に、帝国軍の勝利を確定できる能力の持ち主、即ち、戦略や政略に長けた人物だったのではないかと想定される。

 事実、初代軍務尚書に任命したシュタウフェン上級大将は、軍官僚として抜群の才能の持主であると同時に、優れた政治家でもあった。統帥本部総長リスナー大将も、攻守連合のスー総統が一目置くほどの戦術指揮能力の持主だったが、その本質は戦略家で、また寄り合い所帯の帝国軍を精兵に鍛え上げ、優れた前線指揮官を何人も育成するなど、教育者としての能力も高かった。

 

 ルドルフの御前会議での発言や、家族や重臣らに宛てた書簡等の中には、その軍事思想を覗わせる文言が散見される。以下、順不同に書き出してみた。

 

「俗に、浪費家は戦争を好み、吝嗇家は平和を好むというが、その論法を以てするなら、余は吝嗇家だろうな。支配に必要な軍事力を惜しむ気は無いが、出来うる限り少なくしたいのが本音だ。何しろ軍隊とは金喰い虫だ。武人の矜持だの、軍人の本懐などと、訳の分からぬものの為に浪費されては堪らぬ」

 

「古代地球の軍事思想家が「百戦して百勝するよりも、戦わずして相手を屈服させる方が良い」と言ったらしいが、正に至言である。この人物が今、生きていたら、我が帝国軍に軍事顧問として迎えたいものだ」

 

「連邦軍人だった余の父は「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」との言葉を好んでいたが、余も全く同感だ。政治で処理できなくなったからこそ、戦争という手段に訴えるのであり、戦争を始めた政治権力者は、自身の政治的手腕の乏しさを恥じるべきなのだ」

 

「ポーカーというカードゲームがあるだろう。相手よりも強い役を揃えるのが基本だが、自分の役が弱くても、賭け金を吊り上げ、自分が強い役を完成させたかのように見せかけて、相手の動揺を誘い、勝負を降りるように仕向ける事も出来る。実際の軍事では無理だが、余が考える最上の戦略とはこれなのだ」

 

「統帥本部の若手参謀が作成した、シリウスや攻守連合、共同体を攻略するための戦略案だが、余の見解を追記したので、卿(統帥本部総長リスナー大将を指す)の都合で構わぬ故、執務室まで取りに来るように。悪くない内容だが、卿と直接、意見交換したい。しかし、我が軍の次代を担う若手士官らに、戦略的、政略的思考が定着している事、嬉しく思う。戦略の基本は、敵国以上の兵力を揃え、適切な訓練を施し、補給と装備を調え、情報を収集し、優れた司令官を配する事だが、理想は敵国が彼我の戦力差に絶望し、戦わずして降伏してくれる事だ。無論、我が帝国軍が張り子の虎では困るが、強大な軍事力を抱える理由は、畢竟、外交交渉を自国有利に進め、政治工作や謀略の成功確率を上げる事に尽きるのだ」

 

 上記の発言等からして、ルドルフの軍事思想、理想とする戦略とは、以下の3点に集約できるのではないかと考えられる。

 

 ① 軍事よりも政治を上位とする。政治で処理できない時のみ、軍事を用いる。

 ② 強大な軍事力を調える事は必須だが、戦わずして敵国を降伏させる事が望ましい。

 ③ 自軍の損害は出来る限り少なくする。

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