【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第6節 ルドルフの軍事思想②~その影響

 筆者は、ルドルフが上記の軍事思想を有していたため、平定戦役がルドルフの代では終わらず、次代の強堅帝ジギスムント1世の即位直後、共和主義勢力による叛乱が勃発した要因の1つになったのではないか、と考えている。

 

 ルドルフが人類社会を軍事的に完全支配しなかった(出来なかった)理由について、旧帝国では不逞の輩が迷妄から覚め、正道に立ち返る機会を与えていた大帝陛下の慈悲に、同盟では当時の共和主義者たちの決死の抵抗にその原因を求めているが、前者は史料上の根拠が皆無、後者は帝国暦9年の劣悪遺伝子排除法の施行後、社会秩序維持局による共和主義者の逮捕件数が右肩上がりで増加、共和主義勢力が実効支配していた星系が次々と皇帝直轄領に編入されている事から考えて、やはりルドルフ=絶対悪とする同盟のイデオロギーに基づく見解だと断ぜざるを得ない。

 

 事実、公開された新史料等を調査しても、ルドルフがその在位中、敵対国家を軍事的に打倒できていない事に対して、軍高官を叱責、督促したとの事実は見いだせない。むしろ逆に、出兵を求める軍部に対し、時期尚早であるとして出兵案を拒否する事例は散見される。

 

 やはり、ルドルフは軍人として立身はしたが、その本質は政治家だったと言えるだろう。彼にとって、軍事的な勝利は決して至高の価値を有しなかった。銀河帝国が人類社会を正当に統治する唯一の政体だとの国是を掲げる以上、シリウスや攻守連合、経済共同体ら敵国との共存の道はあり得ず、いずれ帝国の支配下に置かざるを得ない事はルドルフも認識していたが、それは短兵急に軍事的征服を求める事を決して意味しなかったと思われる。

 

 政治家ルドルフは、帝国の行政・経済体制を整備して国力を充実、敵国以上の軍事力を調え、厳酷な手法で治安維持に努め、敵国・敵勢力が帝国の支配体制に干渉する隙を無くしていった。

 

 この結果、治世のある時点で、帝国と敵国との国力差が開く一方である事を確信できたのではないだろうか?であれば、両者の格差が極大化した時点で、政治交渉により降伏させれば良い、仮に戦端を開かざるを得ないとしても、そこまで待てば、自軍の損害は無視できるほど軽微で済む、と考えるだろう事は想像に難くない。

 事実、強堅帝ジギスムント1世の御代、後見人である帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムが主導した共和主義勢力による叛乱の鎮圧と、シリウスらの敵国を滅亡させた拡大戦役は、詳しくは強堅帝の巻で述べたいが、まさに鎧袖一触そのものだった。

 

 しかし、平定戦役がルドルフの御代で終了しなかった事について、筆者のようにルドルフの軍事思想に答えを求めるのではなく、ルドルフ崩御を見据えた陰謀だったとの仮説がある。

 

 帝国暦38年頃から、平定戦役は停滞、帝国軍の出兵は無くなり、社会秩序維持局による逮捕者数も減少傾向にあった。軍や同局に残された当時の内部資料によると、皇帝陛下不予につき、宸襟を悩ます事勿れとの理由で、出兵や治安回復活動の中止または延期がしばしば命じられている。命令書には皇帝代理として皇太孫ジギスムントが署名、その父親にして後見人たる、ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒム(当時は軍務尚書。帝国宰相への就任が内定)が副署しており、彼らの意思による命令だった事は明らかだ。

 

 当時、ルドルフは老人性鬱の兆候を示し、玉座と病床を往復するような生活をしており、余命幾許も無い事は誰の目にも明らかだった。そのため、次期皇帝たる皇太孫ジギスムントと、後見人たるノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムが、次第に政治の実権を握るのは自然な流れだっただろう。陰謀論じみた想像を逞しくすれば、弱体化した敵国や共和主義勢力は、ルドルフ崩御後、即位したジギスムント1世が討伐するための対象として、敢えて生かされていた、との仮説が成り立つ。

 

 遙か古代より、建国者の後を継いだ2代目が必ず直面する難問がある。それは、絶対的な権威を持つ先代に抗して、自己の権威を如何に確立するか、先代恩顧の臣下の忠誠をどうやって獲得するか、という事だ。

 

 ジギスムント1世とノイエ・シュタウフェン公が選んだ解決方法は、建国者ルドルフが討滅できなかった敵国や共和主義勢力を新帝ジギスムント1世が征伐する事で、全人類社会を武力で統一した史上初の皇帝となり、先帝に匹敵する権威を得る、だったのではないか?

 シリウスや攻守連合らの敵国や、ルドルフ崩御後の叛乱を目論む共和主義勢力は、冷徹な政治家だったノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの目から見れば、殺されるためだけに生かされている、哀れな「犠牲の羊」に過ぎなかったのかもしれない。

 

 この仮説は、ジギスムント即位後、シリウスや攻守連合等の支援を受けた共和主義勢力の叛乱が勃発するも、即座に鎮定されている史実を踏まえると、確かに相応の説得力は有するが、史料上の根拠が乏しいため、全面的に肯定する事は出来ない。敵国への出兵等を中止させた命令は、皇太孫ジギスムントとノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの意思である事は明らかだとしても、それがルドルフの意に反したものだったのか、史料上では確認できないからだ。

 

 筆者は、本来ならは討伐できる敵国や共和主義勢力が新帝ジギスムントの「箔付け」のために、敢えて見逃されていたとしても、それはルドルフの意思に基づくものだったのではないか、との見解を有する。

 これも史料的な裏付けはないが、ルドルフの軍事思想、そしてルドルフが最晩年、後継者たるジギスムントの治世が安定するよう、様々な手を打っていた事から考えて、ジギスムントやノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの陰謀とするよりも、妥当性を有するのではないかと考えている。

 

 なお余談ながら、ルドルフがこのような軍事思想を抱いた契機は、連邦軍人時代、ペデルギウス星系での宇宙海賊との激戦で、何度となく戦死しかけた事がトラウマになったから、と主張する者もいるが、当時のルドルフは、その高いカリスマ性と命を惜しまない敢闘精神のため、部下たちが挙って勇戦したと伝えられているので、やはり生来の資質と、連邦政界での長い政治家経験の故なのではないだろうか。

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