【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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7-3:【補記】アルベルト・フォン・リスナー

 建国期の帝国宇宙軍には、彼ら両名を筆頭に、戦術指揮能力に優れた提督達が参集していた。彼らを育成したのが、これまで繰り返し言及してきたように、ルドルフが抜擢した初代統帥本部総長リスナー上級大将である。前線指揮官をあまり重用しなかったルドルフだが、リスナーだけは例外で、彼が軍務に精励するあまり、病床に伏した際は、その私邸まで行幸し、親しく言葉をかけて、懇切丁寧に見舞っている。

 

 帝国暦17年、内務尚書ファルストロングがテロ組織・自由戦士旅団が仕掛けた爆弾テロにより死去すると、ルドルフの勅命で、帝国地上軍は同旅団を壊滅させるため、アルフヘイム星系に進撃。旅団への援軍として来襲したシリウス軍を迎撃するため、リスナー上級大将が率いる帝国中央艦隊も出撃。シリウス軍を撃退する武勲を挙げるが、この戦い以降、リスナーは病床に伏す事が多くなり、以後、死去するまで、自ら艦隊指揮を取る事は無かった。

 

 同26年、前年に逝去した軍務尚書シュタウフェン上級大将の後を追うように、リスナーも死去。直接の死因はインフルエンザ感染による急性肺炎だったが、長年の軍務による疲労の蓄積が遠因になっている事は間違いないだろう。ルドルフは帝国の宿将の死を悼み、シュタウフェン上級大将と同様、帝国軍葬の礼にて葬儀を執り行い、元帥号の追贈、さらに伯爵位への陞爵を以て報いた。

 

 臣下として望み得る最大限の礼遇を得たリスナーだったが、その死後、リスナー家はある事件を契機に没落してしまう。

 

 ペデルギウス時代から、リスナーは軍務に精励し過ぎるあまり、家庭を顧みる事が少ない人物だった。それでも、軍務に理解ある妻エミーリアが存命中は、滅多に帰宅もしない夫と子供達の間を取り持っていたが、エミーリアは帝国の建国と前後して死去。長子フーゴは、母親が早死にしたのは父親が家庭を顧みず、母に苦労ばかりさせていたからだと、父親を嫌悪するようになった。ただ、リスナーが残した手記には、妻子への愛情が綴られており、態度で示せない無骨な為人が息子に誤解された、というのが真相のようだ。

 

 父親の意向で、軍人となったフーゴだったが、父が艦隊指揮官として名声を高める程、その業績を否定したい一心で、軍官僚、軍政家を志望した。

 前線指揮官など無能で構わない、軍隊組織さえ強力に構築できれば、敵軍に勝利する事が出来るのだと、頑なに主張し続けた。それはルドルフの軍事思想の一部を奇形的に抽出したものではあったが、あまりにも極論に過ぎ、軍内で賛同を得る事は無かった。そして、フーゴにとっての不幸は、直属の上司となった人物が統帥本部総長リスナー上級大将の下で、事務担当次長を務めたローエングラム大将だった事だ。

 

 ローエングラムは強堅帝ジギスムント1世即位後、第4代の統帥本部総長に就任。帝国宰相ノイエ・シュタウフェンの信頼厚い練達の軍官僚だったが、故リスナー上級大将に心酔しており、フーゴを直属の部下としたのも、その遺児を厚く遇したいという好意の表れだった。

 しかし、父親を嫌悪、否定するフーゴは、父親を称揚してやまないローエングラムも嫌悪。ローエングラムもまた、尊敬するリスナーを悪し様に罵るフーゴの態度に我慢ならず、再々叱責している。もともと、軍内で孤立していたフーゴは居場所を無くし、極度のストレスのため、精神のバランスをも欠くようになり、帝国暦44年、統帥本部内で発作的にローエングラムを射殺してしまう。旧帝国軍史上、軍高官が被害者となった最初の殺人事件と言われている。

 

 フーゴは殺人罪で死刑。被害者のローエングラムも伯爵だった事から、リスナー伯爵家は絶家に相当とされたが、帝国宰相ノイエ・シュタウフェンは父親の巨大な功績を鑑みて、罪一等を減じ、リスナー家は爵位を二階級下げて男爵家とするが、フーゴの弟による家督継承は認めるとした。

 

 これ以降、リスナー家は犯罪者の家系と蔑まれ、本来ならば武官貴族の名門中の名門になれるはずだったが、帝国軍内にも居場所を無くし、当主でさえも内務省や総督府で中堅の官僚になるのが精々といった有様だった。

 

 転機となったのは耽美帝カスパーの末年、家祖アルベルトの玄孫ブルーノが権臣エックハルトを射殺した事。当時、ブルーノは内務省警察局から皇宮警察に派遣されていた警察官僚で、それまで政治的な動きなど一切していなかった彼がエックハルト誅殺という大事を起こしたのは、公式には、エックハルトが皇帝陛下を蔑ろにし、帝国を私物化している事に義憤を感じたから、となっているが、その実、家名に染み付いた犯罪者の汚名を返上して、武官貴族の名族たる栄誉を取り戻したかったから、というのが本当の動機と言われている。

 

 なお、その背後にはブルーノの劣等感を巧みに操り、エックハルト誅殺の実行犯に仕立て上げた、寛仁公フランツ・オットー大公の策謀と、経済的利権を巡りエックハルトと競合関係にあった、当時の枢密院議長カストロプ公クレメンスの存在、さらに枢密院議員の総意があった、というのが定説となっている。

 

 エックハルト誅殺の功で、リスナー家は子爵位を賜り、当主ブルーノも帝国軍人として立身したいとの志望を容れられ、帝国軍准将の階級と、軍務省政治局で課長級のポストが与えられた。

 

 しかし、軍人経験が無い上に、ブルーノは家祖の名声を鼻にかけるだけの無能者であった事から、軍務省内で孤立。本人も自身の無能を棚に上げて、自分の才能は軍政ではなく軍令にこそある、大公殿下も存外、人を見る目がない、などと誹謗中傷を繰り返し、挙げ句の果てには軍務省内で傷害事件を起こしてしまった。

 

 結果、当人は終身の蟄居、爵位は再び男爵に戻された。その後、リスナー男爵家は、痴愚帝ジギスムント2世の御代、最後の当主アロイスが軍務尚書ナウガルト子爵に取り入って、共に私腹を肥やしたが、再建帝オトフリート2世が父帝を軟禁して即位すると、奸臣の一味としてナウガルトらと共に処刑され、リスナー家は後継者不在のために絶家している。

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