【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」 作:旧王朝史編纂所教授
宇宙軍に続いて、地上軍で活躍した将帥について述べたい。しかし、宇宙軍と比較すると、地上軍には高い戦術指揮能力を持ち、華々しい武勲を挙げた将帥はほぼ皆無だと言って良い。これは、地上軍の将帥が無能だったからではなく、当時の地上軍が有していた構造に起因する。
そもそも、人類が宇宙空間を戦場とするようになってから、宇宙軍に比して、地上軍の存在価値は、相対的に低下していった。
衛星軌道上からの精密爆撃が可能になると、宇宙空間に到達する巨大ミサイル群など、例外的な対宙戦力を有していない限り、地上から宇宙への反撃はおよそ不可能となった結果、宇宙軍の圧倒的な優位が確立された。
無論、制宙権を掌握した後、惑星表面の敵基地などを制圧するため、地上部隊の降下は必要だったが、大気圏外からの強力な支援火力が存在する以上、鈍重な大部隊よりも、機動力の高い小集団群の方が費用対効果の面でも望ましかった。よって、万単位の軍団が大規模に展開して、地上または海上で覇を争う、西暦時代の如き地上戦はその姿を消すに至った。
また、人間が地球のみで生活していた時代と異なり、複数の惑星に住む事が出来るようになった結果、各惑星内の人口密度は総体的に低下。行政また経済効率の観点から、一惑星上に都市が数ヶ所、または帝国のように一惑星一都市という形が常態化した。
これは同時に、戦略目標の減少と孤立を意味しており、制宙権掌握後の都市制圧戦は、当該都市の周囲に、防衛部隊以上の戦力を降下させ、全方向からの同時攻撃がセオリーとなった。さらに、遠隔操作できる装甲車輌や自走砲、無人戦闘機の著しい発達は、地形や天候、そして士気といった、地上戦の用兵術では重要だったファクターの価値を低下させた。
上記の傾向は、銀河連邦成立後、さらに加速した。人類社会が単一政体で統治されるようになった結果、国家間の大規模戦争は後を絶ち、連邦軍の主敵は宇宙海賊となった。地上軍による制圧作戦を必要とする大規模海賊など、連邦の長い歴史の中でも数えるほどしか存在せず、地上軍は戦闘行為よりも、治安維持や災害復旧などを主たる任務とする様になった。
代わって、敵の戦闘艦や基地に侵入して制圧する、宇宙軍所属の特殊部隊が脚光を浴びるようになり、彼らが帝国の装甲擲弾兵部隊、同盟では薔薇の騎士連隊に代表される白兵戦部隊の源流となっている。この後、連邦政府の財政状況が悪化するにつれて、地上軍は部隊の統廃合が進められ、人員削減の対象ともなり、宇宙軍所属の特殊部隊や白兵戦要員が地上軍の役割を代替するようになってきた。
連邦末期に至り、連邦政府の統制を離れた各星系政府や軍閥化した地方部隊、また民間軍事会社との形で武力を手に入れた他星系企業などが対立、抗争を開始すると、敵勢力の完全制圧のため、地上軍が必要とされるようになったが、すでに弱体化した地上軍を復活させるのは容易ではなく、前述の特殊部隊を中核に、遠隔操作式の各種兵器を帯同させた疑似地上軍を編成する事が主流となった。シリウスや攻守連合、経済共同体などの諸国も、その国力の乏しさから、中長期的な地上軍再建に取り組む余裕は少なく、やはり特殊部隊による疑似地上軍を用いざるを得なかった。
対して、建国時の旧帝国は、敵対勢力と比して、質量共に充実した地上軍を保有していた。その理由は、連邦首相時代のルドルフが推進した諸政策にある。当時、治安回復と雇用確保を政策の二本柱に据えたルドルフは、軍隊と警察関係の予算を大幅に増額。軍需産業から各種兵器を大量に購入し、軍隊の装備を拡充、警察にも軍隊並みの装備を持たせた。
そして、雇用確保策として、連邦軍兵士や警察官を大量に採用。さらに、ルドルフ派の民間軍事会社(傭兵集団)に働きかけて、新規雇用を半ば強制した。この時に採用された兵士達は、学歴が低く、特殊な技能も持たない低所得者層が大部分で、知識や技能をそれほど必要としない地上軍が主たる配属先だった。この結果、最末期の連邦地上軍は連邦史上最大の兵員と装備を有する事となり、それがほぼ全て、帝国地上軍に移行している。
さらに、建国後の事ではあるが、ハイゼンベルク尚書率いる科学省技術陣は、ゼッフル粒子発生装置の小型化に成功。装置自体を敵陣や敵部隊に向かって射出、敵軍がビーム兵器を使用すると、広範囲に爆発が発生、防衛設備や兵力に大打撃を与える事が出来た。また、敵軍が粒子発生装置を打ち込まれた事を察知し、ビーム兵器の使用を控えたとしても、こちらからビームを撃ち込めば、容易く同様の結果が得られた。
以上のように、彼我の兵力と装備に大きな格差があったため、こと地上戦においては、指揮官個人の指揮能力はあまり重要視されなかった。一定水準の軍事的知識と指揮官経験があれば、占領後の統治を考えて、軍政家や参謀、軍官僚が地上軍指揮官を務める事も多く、生粋の地上軍指揮官、所謂「将軍」という存在は少なかった。
よって、高位の地上軍指揮官に求められた資質は、広く戦局全体を見渡し、重要な戦線に必要な部隊を送り込み、補給路を維持し、軍全体の戦闘力を維持できる能力、そして、敵勢力撃滅後、治安回復を見据えて、治安戦や対テロ戦に理解があり、社会秩序維持局や警察局など、治安維持を所管する他部署と折衝して、適切な役割分担が出来る能力だった。端的に言えば、政治的手腕を持つ戦略家、もしくは戦略的見識を持つ政治家が求められた。初代の地上軍総監に就任したハンス・ゲオルグ・フォン・ケッテラー大将は、まさにこの通りの人物だった。