【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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7-5:ロベルト・フォン・カイザーリング

 さて、敵対勢力に比して、質量ともに圧倒的な帝国地上軍は、抵抗らしい抵抗もなく、平定戦役を勝ち進んでいったが、重要な生産施設や希少金属の採掘場に隣接しているなどの理由で、軌道爆撃やゼッフル粒子による大規模破壊が出来ない戦略拠点も稀に存在した。

 その場合、敵拠点の破壊よりも制圧を目的とした地上戦を展開する必要が生じ、西暦時代から培われた用兵術が有効になる事もあった。帝国地上軍の中には、用兵の妙を競う舞台として、敢えて難戦の戦場を好む将帥もわずかに存在した。彼らの中でも、特にその勇名を轟かせたのが、ロベルト・フォン・カイザーリングだった。

 

 連邦軍人出身の人物が多い帝国軍人の中で、カイザーリングは、その生い立ちからして異色だった。元々の姓はフョードロフ。父親ヴィクトルは、攻守連合の盟主国・ポルックス人民共和国と契約する民間軍事会社(傭兵集団)の社長兼司令官。地上戦のプロとして勇名を馳せ、帝国地上軍とも度々交戦、幼いロベルトも父に従い、各地を転戦していたという。

 

 後年、ロベルトは己の幼少期を評して「産着は迷彩服、離乳食はレーション(戦闘糧食)、揺籠は装甲車、そして玩具はブラスター」と吹聴していたが、後述の通り、帝国に降伏後、弟テオドールと共に帝国軍士官学校に入学しているので、一定以上の学力を身につけられる環境にいた事は確かなようだ。

 

 帝国暦14年、帝国軍の攻勢により、ヴァナヘイム軍管区の共和主義勢力が壊滅、シリウスと攻守連合の連絡線が遮断される事態が発生。ポルックス人民共和国のロブコフ主席は、敗戦の責任を取らせる者が必要と考え、ヴィクトルが帝国に内通したとの濡れ衣を着せ、処刑する事で国内の動揺を抑えようとした。

 だが、冷徹な性格のロブコフを信用していなかったヴィクトルは、政府や軍上層部に潜ませていた内通者からその情報を得ると、本当に帝国軍に内通、同国の重要軍事拠点を内部から制圧し、それを手土産に帝国地上軍に降伏した。

 

 ヴィクトルはその功績を認められ、帝国軍大佐の地位を与えられた上、自身の傭兵集団は、地上軍所属の独立連隊となった。しかし、連邦軍人出身者が多数を占める帝国軍内で、自分のように腕一本でのし上がった傭兵は異端者でしかない空気を察知。強力な敵国がいる間はともかく、敵がいなくなれば、自分の如き存在は無用だとして追放されると考えたヴィクトルは、息子2人を正式に帝国軍人として出世させれば、逆に自分の地位も安泰になると考え、長子ローベルト(後に改名してロベルト)と次子ヒョードル(同じく改名してテオドール)を士官学校に入学させる。

 

 父親の粗暴さを嫌っていたテオドールは、軍官僚を志望して、卒業後は軍務省に入省。後に軍務尚書ノイエ・シュタウフェンに見出され、その腹心となり、強堅帝ジギスムント1世の御代、軍務省で各局長を歴任する。

 

 対して、ロベルトは父親以上に粗暴な性格で、在学中から問題行動が多く、卒業後は厄介払い同然に、父親の部隊に配属された。しかし、当人はむしろ望むところだったようで、前述した難戦の戦場を志願し、勇猛というより凶猛、戦闘狂とも言える戦いぶりで知られるようになる。

 

 しかし、決して愚昧ではなく、こと戦闘においては、敵軍の意表を突く戦術を独創して、連戦連勝、常勝不敗を誇った。少数で多数を破る事に美学を見出し、正統的な用兵家とは見なされなかったが、その果断速攻の用兵と剛性の破壊力から、「雷光」との異名を得る。なお、点を攻略して、線につなげ、面的制圧に至る戦術は、彼の発案と伝えられており、この戦術は、帝国・同盟共に、地上戦の標準的な戦術として長らく採用されている。

 

 だが、多数を以て少数を制圧する事を理想とするルドルフの軍事思想に合致しないだけではなく、その粗暴で傲岸不遜な為人を地上軍総監ケッテラー大将に嫌われ、数多くの武勲を挙げながらも、軍中央に栄転する事は無く、一前線司令官として、各地の最前線を転戦させられた。

 

 とは言え、当人はむしろ、堅苦しい軍中央など敬遠していたようで、前線司令官たる事に満足していた。武勲により、男爵位とカイザーリングの姓を授けられた時も、貴族としての責務を果たす気などなく、受爵の翌日に隠居を申し出て、弟テオドールに爵位を譲り、再び前線に戻っている。

 

 地上軍の指揮官として高い能力を有するだけではなく、白兵戦技や射撃の手腕も超一流で、特に白兵戦技は旧帝国軍史上、五指に入る腕前だったと言われる。体格は細身ながらも、鎧と見まがうほどの筋肉で覆われ、一欠片の贅肉もなく、映画俳優を思わせる男性的な美貌の持ち主でもあった。そのため、女性人気は凄まじく、数多くの女性と浮名を流した。ロベルト自身も非常な好色漢で、戦場ごとに女を変えると言われたプレイボーイでもあった。

 

 士官学校卒業後、最前線を往来する事、三十有余年の間、一切の戦傷を負わなかった事が自慢で、当人は「俺があまりに良い男なものだから、誰が俺を迎えに行くか、ヴァルキューレたちが喧嘩しているんだろう。だから、最前線に出ても戦死するどころか、怪我さえ出来ない有様だ」と嘯いていた。

 

 その実、いつの日か戦場で死ぬ事を本懐としていたようで、ルドルフ崩御後も現役に留まり、強堅帝ジギスムント1世の御代、ノイエ・シュタウフェン公爵が総司令官となったシリウス遠征にも従軍、同国首都ロンドリーナに突入、制圧するという武勲を上げる。その功績によって少将に昇進するが、地上軍の前線司令官が武勲のみで将官になったのは極めて異例。戦後、ほどなくして病没している。戦場での勇名を謳われた猛将の死とは思えぬほど、静かな最期だったという。

 

 生涯、正式に妻を持つ事は無かったが、その死を看取ったアントーニア・フォン・バーゼルなる女性が事実上の妻だったと言われている。なお、ロベルトとアントーニアとの間に生まれた男子はバーゼル家を継ぎ、カイザーリング男爵家の一門となり、後世、帝国騎士位を与えられている。このため、バーゼル家は血筋を考えると、家祖ロベルトの正嫡であるとして、しばしばカイザーリング家の御家騒動の原因となっている。

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