【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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7-6: クリストフ・フォン・ベーネミュンデ

 これまで宇宙軍・地上軍で前線指揮官を務めた軍人達を主に描いてきたが、指揮官の活動を支えた参謀・軍政家・軍官僚らも数多存在する。むしろ、戦わずして勝つ事を至上としたルドルフにとり、本当に重用したいのは彼らだった。

 ここからは、参謀や軍政家として名声を得た軍人達を描いていきたい。なお、この分野で著名な軍人は極めて多いため、読者諸氏の興味を喚起するため、武勲や地位のみならず、その個人的なエピソードでも有名な人物を敢えて取り上げている。

 

 平定戦役で活躍した参謀の中では、宇宙軍中央艦隊参謀長を長く務め、同艦隊司令官リスナー上級大将の女房役と言われたクリストフ・フォン・ベーネミュンデを取り上げたい。

 

 連邦首都テオリア生まれだが、若い時は冒険心溢れる性格で、高等学校卒業後、民間軍事会社に就職、宇宙海賊のメインストリートと称されたペデルギウス方面で、民間船の護衛任務に就く。奇襲が常套手段だった海賊に対抗するため、索敵や諜報を主に担当、その分野で経験を重ねる。

 

 ペデルギウス星系の防衛艦隊司令官だったリスナーとは、この時代に知遇を得ている。帝国建国後、リスナーが統帥本部総長に抜擢されると、その力量を評価していたリスナーから特に招聘され、帝国軍人に転身、中央艦隊の情報主任参謀に着任している。

 

 民間軍事会社時代の経験を活かし、敵対勢力の情報収集を主任務とし、進撃路の予測や戦力の的確な分析は、余人の追随を許さなかった。敵国に対して、相対的に劣弱だった帝国宇宙軍が致命的な敗北を喫する事無く、帝国領の防衛を全うできたのは、古代地球の軍事思想家が唱えた「彼を知り己を知れば百戦殆からず」との言葉通り、敵情を詳細に分析できたベーネミュンデの功績でもあった。

 

 帝国暦9年のトラーバッハ星域会戦では、攻守連合軍の進路をいち早く特定して、リスナー大将による迎撃戦を勝利に導く要因を作った。

 この功績で、少将に昇進の上、中央艦隊参謀長に就任。また、年を重ねると、若い時の客気が影を潜め、人格円満な為人に変じてきた。これは、リヒテンシュタインを始めとする、癖が強く、個性的な人物が多かった中央艦隊司令部をまとめるため、後天的に培われた性格とも言われる。ただ、後述するように、芸術文化を愛好する人物でもあったので、或いはこの方が生来の為人だったのかもしれない。

 

 軍務の傍ら、絵を描く事が趣味で、同僚や部下達の肖像画や、星雲や星団をモチーフにした抽象画、あるいは船内を画題とした風景画と、着想の赴くままに描いていったが、その出来栄えはお世辞にも上手いとは言えず、同僚達に自作の絵画を披露しては、満面の笑顔で感想を求めたが、全員、言葉に詰まったという。

 

 唯一の例外がリヒテンシュタインで、歯に衣着せず酷評したが、ベーネミュンデは激高する事も無く、笑顔のまま頷いていたので、周囲の者がその理由を尋ねると、「真の芸術とは凡人には理解されないものだ」と真顔で言いきり、相手を絶句させたという。なお、その事を人づてに聞いたリヒテンシュタインは「それならば初めから感想など聞かねば良いだろうに」と、呆れて親友のノイエ・シュタウフェンに愚痴を零した、という。

 

 ただ、他者の優れた芸術を評価できる鑑識眼の持ち主でもあったので、敵国が保有する文化財や美術品が戦火で消失しないよう、地上軍総監ケッテラー大将に申し入れを行い、帝国地上軍が敵国の主要都市を制圧する際、現地の美術館や博物館の所蔵品は、全て帝室財産であると宣言、略奪防止のため封印を施す事を地上軍の軍規として定めた。

 

 この結果、地球時代に作られた美術品等が後世にも伝わり、それらの多くは現在、新無憂宮の一部を改装した国立美術館で鑑賞する事が出来る。その意味では、広く人類の文化・芸術史に影響を与えた人物だと言えるかもしれない。

 

 帝国暦26年、統帥本部総長リスナー上級大将が死去すると、その後任となる。前線司令官としては前任者に遠く及ばなかったが、戦略家としては前任者同様の力量を発揮、中央艦隊所属の諸提督を統御して、シリウスや攻守連合の艦隊を次々と撃破した。

 

 帝国暦31年、リヒテンシュタイン大将が攻守連合軍に大勝。同32年、ノイエ・シュタウフェン大将がシリウス・共同体の連合軍を撃破と、平定戦役の帰趨を帝国勝利に決定づける2つの勝利は、ベーネミュンデ総長の在任中に生じている事から、建国期の帝国宇宙軍の軍人で、最大の武勲を挙げたのはリスナーではなく、ベーネミュンデであると主張する軍事学者も存在する。

 

 帝国暦33年、軍務尚書に就任したノイエ・シュタウフェンは、軍政・軍令を一手に握るため、統帥本部総長を兼任。それに伴い、ベーネミュンデは上級大将に昇進の上、予備役に編入される。また、今までの軍功を評価されて、伯爵に封じられている。以降、死去するまで表舞台に立つ事はなく、晩年は好きな絵を描いて過ごしたという。

 

 これ以降、ベーネミュンデ伯爵家は武官貴族の名家として、優れた帝国軍人を多数輩出する。しかし、流血帝アウグスト2世が即位すると、当主テオドールの娘ヨゼフィーネが同帝に見初められ、半ば強制的に皇后に据えられた。そのため、爵位は侯爵に上ったが、直後、同帝は「外戚の災いを除く」という名目で、当主以下の一族全員を皇后ヨゼフィーネの眼前で飢えた有角犬の檻に投げ入れ、悉く虐殺している。その衝撃でヨゼフィーネは発狂、異常性癖の持ち主だった同帝は、発狂した皇后をその場で強姦し、妊娠させたと伝えられる。

 

 その時、軍務のために偶然、首都星オーディンを離れていた分家の当主エドガーのみが難を逃れ、一族の復仇のために、ベーネミュンデ家の私兵を糾合し、止血帝エーリッヒ2世の革命戦に参加。流血帝の艦隊を撃破したトラーバッハ星域会戦を勝利に導いた三提督の1人になっている。

 

 止血帝即位後、エドガーはベーネミュンデ侯爵家の新当主となり、家祖クリストフと同様に、統帥本部総長に就任している。この功績で、同家は帝国を暴君の魔手から救った忠良の貴族と認定され、武官貴族の中でも五指に入る名家となる。しかし、第二次ティアマト会戦の大敗北で、当主以下、一族の主立った人物が死亡、後継者不在のため絶家している。

 

 なお、旧帝国末期、亡国帝フリードリヒ4世が寵姫シュザンナにベーネミュンデ侯爵位を与えた事は有名だが、当時の宮廷内では、かつて皇后を輩出した名家の名跡を継承させる事で、事実上の皇后であると密かに宣言したのだ、それが陛下のお考えだとの噂が広がり、その噂を信じたブラウンシュヴァイク公オットーが嬰児殺しを決断した、というのが現在の定説になっている。

 

 余談ながら、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが開祖ラインハルト陛下及びグリューネワルト大公妃殿下の御命を奪うため、執拗に暗殺者を送り込んでいた事がラインハルト陛下の証言によって明らかとなっているが、それは亡国帝の寵愛を大公妃殿下に奪われた事への嫉妬だけではなく、ベーネミュンデ侯爵家・ローエングラム伯爵家・グリューネワルト伯爵家、この3家は全て建国期に立家した武官貴族の名家で、シュザンナが卑しいと軽蔑していた陛下と殿下が、家格の上で自身と同列に並んだ事への苛立ちと憎悪もあったと言われている。

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