【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第6節 連邦首相から終身執政官へ

 自身への高支持率を背景にして、ルドルフが自身の権力を永続化させる事を考え始めたのは、宇宙暦306~307年頃、首相任期3期目に入った時期だと考えられている。当時の連邦議会の議事録によると、国家革新同盟所属の議員から、3期目以降の去就を問われたルドルフは、市民が認めてくれるなら、人類社会の統治という、この崇高な責務から逃れる意思は無いと答弁している。すでにクロプシュトックら腹心達は、首相任期終了後もルドルフが権力の座に留まる事が出来るよう、必要な法改正を行うべく、密かに関係機関に検討させていた。

 

 宇宙暦307年、国家革新同盟所属の全議員からの発議で、憲法改正に関する国民投票法案が上下院に上程され、各院の3分の2以上の賛成で成立。改正内容は、首相と国家元首を兼任する「終身執政官」職の創設。その理由として、8年間に亘るルドルフ政権の尽力により、連邦体制を脅かす公敵は減少したが、依然として連邦の統治に服さず、今や公然と連邦体制に反旗を翻す星系政府や軍閥、企業群が存在し、彼らの活動がより過激になっている事、連邦市民の生存と安寧のために、彼らの存在を放置する事は決して許されないが、彼らを撲滅するためには、長期間にわたる闘争が必要である事、その期間は首相任期の3期9年では到底足りない事、即ち、永続的に統治権を行使できるポストが必要だ、とした。

 憲法改正を発議した議員の中には、古代地球、紀元前の共和制ローマを引き合いに出し、たとえ民主共和国家であっても、戦争など国家の非常時には、全ての権限を掌握する独裁官を設置した前例があるではないかと、終身執政官の設置を正当化した。

 

 この憲法改正が市民の前に示されると、良識派、自由主義者らは「民主共和制の死だ」「独裁者ルドルフを誕生させるな」と、強硬に反対したが、大多数の市民は歓迎、もしくは無関心で、終身執政官設置への賛成投票は、有効投票数の3分の2を超えた。

 

 宇宙暦308年、首相を3期務めたルドルフは国民投票の結果、終身執政官に就任した。同盟の歴史学界では、当時の市民の政治意識の低さ、無責任さを批判する歴史家が主流だったが、この時、反ルドルフの論陣を張った野党政治家や、良識派と自称する言論人が存在しなかった訳ではない。ただ、彼らの多くは、自身の支持者たちに向かってのみルドルフ批判を繰り返して、ルドルフを支持する市民を低能、無知と嘲笑した。彼らが提示した、ルドルフの施策への対案と称するアイデアは、財源の裏付けさえない、空疎なスローガンに過ぎなかった。彼らにとって、ルドルフ批判は自身への票と支持を集めるための「商売道具」でしかなかった。

 

 当時の連邦市民は、彼らが所詮、口舌の徒でしかないと看破していたのではないか。政治意識が高く、責任感があったからこそ、紛争と犯罪の撲滅、雇用確保による生活不安の払拭、との実績を上げたルドルフを支持したとも考えられる。同盟の歴史家達にとって、自国の国是で絶対悪とされているルドルフを支持した当時の連邦市民は、確かに政治意識の低い、無知無能で、無責任な有権者だったのかもしれないが、それは現在的視点で過去を断罪する愚行だとも言えるのではないだろうか?

 

 閑話休題。宇宙暦308年、終身執政官に就任したルドルフは、自ら退任しない限り、最高権力者の座にとどまる事は出来るようになったが、主権在民を掲げる銀河連邦の制度である以上、有権者の発議によるリコールの対象に成らざるを得なかった。憲法改正時、ルドルフは終身執政官をリコール対象外とするよう求めたが、独裁者色が強い終身執政官という名称に対する拒否反応は根強く、与党・国家革新同盟所属の議員からも反対・慎重論が出されるに至った。やむを得ず、リコール対象とする事で改正法案が通過したという事情もあり、ルドルフ自身、現行の終身執政官制度には、決して満足はしていなかったと思われる。

 

 公開された新史料によると、終身執政官就任後のルドルフは、就任前よりも、有権者や選挙制度に関する不満を漏らす事が多くなっている。

 

 例えば、腹心の議員に宛てた書簡の一節に「…有権者とは、火事場見物の野次馬のようではないか。より大きな火事が起これば、こぞってそちらに行ってしまう」。

 

 また、各星系政府首相・同議員選挙で、国家革新同盟の公認候補者が落選している事を受けて、党選挙対策本部の非公開会議の席上、ルドルフは選挙対策を抜本的に見直す必要があると、出席者へ檄を飛ばす一方で「我が党は、野党などよりも遙かに優れた人材を多数擁している。有能と無能の区別さえもつかない有権者の投票結果に従わねばならないとは、以前から思っている事ではあるが、選挙とは全く不合理、いや理不尽なものだな」と発言している。

 

 史料上の明確な根拠は存在しないが、これらの発言から、ルドルフが選挙という審判を受けない、非民主的権力者への就任を模索し始めたのは、この終身執政官時代だった、とするのが現時点の通説となっている。

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