【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第5節 「ルドルフ信者」の出現

 だが、ルドルフの在世中に限って言えば、必ずしも意図した通りに進まなかった。帝国暦30年代に入り、帝国がシリウスや攻守連合に対し、決定的な勝利を収め、人類社会を統治する唯一の超大国になる事がほぼ確定すると、特に軍隊の中で、ルドルフを大神オーディンの化身、現人神と見なす者達が現れてきた。

 

 その始まりは明確ではないが、憲兵隊を中心にして、ルドルフを信仰の対象とする結社的組織が生まれていたようだ。推測するに、ルドルフを神君、現人神を見なしていた初代憲兵総監ブレンターノの影響が強いと考えられる。彼らはまさに「ルドルフ信者」と言うべき存在だった。

 

 彼らはオーディンが現世に顕現した姿こそルドルフだとし、ルドルフが統治する帝国を神の国として、帝国の支配に逆らう者、異を唱える者、疑問を抱く者は、須らく神意に叛く邪悪な存在としていた。彼らの矛先が帝国内外の共和主義勢力にのみ向けられていれば良かったが、彼らの視線は軍隊や政府、そして臣民にも向けられ、彼らの基準で「邪悪」とされた存在を迫害、逮捕、ひいては殺害する事例も起こった。それは、強敵を喪失した軍隊が自らの力、暴力の捌け口を求める衝動でもあったのだろう。

 

 対して、ルドルフへの敬意は当然だが、オーディンと同一視する事は陛下の御意思に逆らうとして、ルドルフを現人神とする集団を批判、帝国皇帝は大神オーディンの庇護の下、人類社会を統治するのだと主張する者達も現れた。実際は、彼らこそがルドルフの意図を正しく認識していたのだが、ルドルフを現人神と考える集団にとり、彼らもまた「邪悪」だった。

 

 ここに、ルドルフは神なのかどうか、オーディンはルドルフと同一視されるべきなのか、という議論が巻き起こった。それは、即位前のルドルフが時間と労力の無駄、国家分裂の危険性を高めるものでしかないと否定していた神学的論争そのものだった。

 

 当時、既に齢70歳を超え、自身の死後を考えねばならなくなっていたルドルフにとり、この事態は馬鹿馬鹿しくも深刻を極めた。自分が生きている間はまだ良い、だが彼らルドルフ信者を放置しておけば、自身の死後、新皇帝が彼らの意に沿わない言動を取った場合、必ず「神君ルドルフの御遺志」を大義名分として、皇帝批判に走る事は容易に想像できるからだ。それは帝国の支配体制に罅を入れる、鏨の一撃となる恐れもあった。

 

 先に、残暴帝ウィルヘルム1世の御代、憲兵総監を務めたバルトルト・フォン・ハーゼを紹介したが、ルドルフ大帝の遺志を掲げて、現皇帝(寧辺帝コルネリアス2世)への批判を繰り返した、彼のような人物が生まれた事を考えると、ルドルフの懸念は決して杞憂ではなかった。

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