【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第1巻「建国期~ルドルフ大帝」   作:旧王朝史編纂所教授

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第11章 ルドルフ大帝の死
第1節 ルドルフ大帝回想録(自叙伝)の成立


 帝国暦42年2月16日10時23分、ゴールデンバウム朝銀河帝国の建国者、大帝ルドルフ1世は崩御した。旧帝国末期に生きた者には馴染み深いが、大帝崩御の日は全臣民が喪に服すべき神聖な日とされて、皇帝以下、皇族や帝都在住の貴族らは、新無憂宮で執り行われる葬礼への出席が義務付けられ、平民も半旗を掲げて弔意を示すべしとされた。

 また、公的機関は閉鎖、生活必需品を商う国営量販店など一部の例外を除けば、企業も休業する事が当然と見なされた。さらに、各世帯に最低1冊は所蔵を義務付けられていた、大帝陛下の回想録(自叙伝)を読み、その偉業に再び感謝と尊敬の念を捧げるのが、身分を問わず、あるべき臣民の姿とされた。

 

 なお余談ながら、帝国人なら必ず一度は目を通した事がある、ルドルフ大帝の自叙伝について述べたい。帝国暦34年、帝国がシリウス・攻守連合・経済共同体などの敵国に大勝した事を受けて、所謂ルドルフ信者が皇帝陛下の自叙伝を作成し、遍く臣民に陛下の偉業と恩寵を知らしめるべきですと言上。

 当時、ルドルフは75歳、自身の死を意識するようになっていた事で、自らの人生を振り返る良い機会だと考えたのか、ルドルフはこれを許可。ただし、自身で執筆する余裕は無いとして、学芸省に原文の作成を命じると、添削のみ行っている。完成した自叙伝は、貴族及び公職にある者全員に配布されたほか、町役場併設の図書館にも所蔵が義務付けられた。

 

 ただ、旧帝国史学会での密かな共通見解として、現存する自叙伝は幾度となく改訂された結果、初版の内容はほとんど留めていないとされていた。これは、例えば痴愚帝ジギスムント2世など、ルドルフの「遺志」を自身の施策の根拠とせざるを得ない皇帝が即位すると、自身の権威を高めるためにも、ルドルフの偉大性と超人性を称揚する事が必要となるので、時代を経るごとに、ルドルフを過度に神格化する方向に変わっていったから、と言われている。

 

 しかし幸いな事に、公開された新史料の中に、初版と明記された自叙伝が発見されている。現行の内容と比較すると、我々史学者の推測通り、相当の異同がある事が分かった。

 

 一例を挙げると、ルドルフ即位に関する事情がそれだ。現行の自叙伝では、ルドルフの超人性と絶対的なカリスマが強調され、その力量と為人に平伏した人民の推戴によって即位した、などと書かれているが、初版では、連邦末期の混乱と腐敗について、より紙幅が割かれ、ルドルフは軍人、そして政治家として、連邦社会の実情を深く知るにつれ、民主主義による自浄作用はもう期待できない、今を生きる人民の生存と生活を守るためには、絶対的な権力者になるしかないと決断、その卓越した力量によって、銀河帝国皇帝になった、との論旨が展開されている。

 即ち、皇帝になったのは超人的な存在だったからではなくて、当時の連邦社会を抜本的に改革するために必要だったから、としている。

 

 無論、初版の記述がルドルフ即位の真実かどうかは、史料批判を経た上でなければ決定できないが、筆者個人の見解では、かなり真実に近いのではないかと考えている。

 

 まず、初版本における連邦社会の記述は、同盟由来の史料、当時の公文書や政府刊行物、書籍や報道記録などと一致する内容が多く、その記述の正確性を窺わせる事、また帝国暦34年という発行年を考えると、当時はまだ連邦末期の混乱を記憶する臣民も多かったと推測され、ただルドルフの超人性とカリスマ性を強調するよりも、連邦社会を改革したいと念願し、帝国建国との形で実現させた偉人ルドルフの軌跡を称揚する方が、臣民へのプロパガンダとしても、より具体的で有効だと思われる事、これらの理由から、筆者は初版本を連邦最末期から帝国建国期の政治・社会状況を研究する上での第一級史料だと提唱したい。

 

 なお同盟では、ルドルフは青年期、いや幼少期からすでに、独裁者になって人民を支配する事を望んでいた、などの主張もなされていたが、初版本はそれへの有力な反証になると考えている。

 

 最後に、自叙伝の内容が時の皇帝の意向で改訂されている事は、公然の秘密ではあったが、それを公の場で口にする、もしくは研究対象にする事は、不敬罪の名の下に、一切禁止されていた。

 しかし、初版から現行の版まで、その内容の変遷を分析する事は、旧帝国の政治史研究に、新たな知見を生み出す可能性を秘めている。これから歴史学を志す若者には、是非、挑戦して頂きたいと思っている。

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