捏造と原作改変等があります。ごめんなさい。
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ここは地球上の何処かに存在している山脈地帯。緑あふれるこの山々には、少数の人間と野生動物がお互いの距離を保ちながら共存していた。
そして、その山脈地帯の1つの山にひっそりと立てられている小さな小屋。その中では、2人の男女が並ぶようにベッドで眠っていた。
「んん……朝か……」
外の明るさに目を覚ましたのか、眠っていた黒髪の少女は上半身を起こし、眠い目を擦る。へそ見せタイプのタンクトップからはほんのりと膨らんだ胸がちらりと覗かせていた。
「……おい、朝だぞ。起きろ」
少女は寝ぼけ顔で隣で眠る男の体を揺らす。すると男は唸りながら上半身を起こし、眠い目を擦った。
「んー……マドカ、おはよっ」
「私より遅く起きるやつがあるか。ほら、さっさと起きろ」
「押すなよ……」
マドカは叩き起こすように彼の背中を押して、台所に歩いて行った。
彼女の名はマドカ、世界最強の兵器『IS』が蔓延るこの世界から存在を消した少女であり、そして今は、彼の家でパンを作る1人の少女である。
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「うん、美味い」
食事の準備を終えた彼とマドカは対面する形でテーブルに座り、焼きたてほやほやのデニッシュを頬張っていた。
彼とマドカはここでパンを作り、山を降りて町中で売り回り、その資金で生計を立てている。このパンは朝食であると同時に、売り物として出せる物かを確認するための作業でもあるのだ。
「マドカ、前よりも上手くなったんじゃないか」
「何度も捏ね回しているんだ。当たり前だ」
「焦がしてた癖によく言うよ」
「……そのことは言うな」
マドカはムッと眉をひそめながら、デニッシュの硬い皮に齧り付く。
ここに初めに来たばかりの頃、居候として彼の手伝いをしようとしたマドカは生まれて初めてパン作りというものに挑んだ。しかしベテランの職人でも修行を積む必要があるパン作りを、戦いに身を置いてきたマドカが初めからできるはずもなく、真っ黒に焦がしたデニッシュを大量に生産していた。
あの頃に比べれば、今のマドカは幾分もマシなものを作れているのだ。
「ほら、成長期なんだから牛乳ももっと飲め」
「むぐっ、私は子どもではない」
「何言ってるんだ、日本ならまだ子どもだろ」
「お前は……私の保護者か」
実際、マドカは日本で言う高等学校に進学している年齢なので、どちらにしろ子どもであることは間違いない。そして彼との年の差もなかなかなもので、保護者とまでは行かなくても年の離れた兄妹と思われてもおかしくはない。
「はむっ……」モグモグッ
「(まだまだ子どもじゃないか)」
子供のようにデニッシュを頬張るマドカの姿に微笑むと、彼は今朝届いた新聞を広げた。
開いた一面には、インフィニット・ストラトス、通称『IS』が遂に宇宙進出に用いられると大々的に載せられていた。その被験者として、IS学園を卒業した元生徒数人が挙げられており、中にはあの世界で1人の男性操縦者の名前も載っていた。
「へー、ISもとうとう宇宙に飛ぶのか」
「……元々はそのために造られたものだからな」
「そうなのか?」
「知らん、あいつに聞け」
あいつ……が誰なのか、マドカの口から色々と聞いていた彼は何となく察し、それ以上は聞こうとしなかった。
「……にしても、世界も平和になったもんだ」
数年前を懐かしむように、彼は呟いた。
ISがまだ兵器として頂点として立っていた頃、この世界はなんとも言えない暗雲に包まれていた。ISによって女尊男卑という風潮が定着したのは言うまでもないが、それ以上に人間の闇が世界を包んでいた。
それが今では、少しずつではあるが改善に向かっていた。
「お前は山に籠ってパンを捏ねてただけだろ」
「こう見えて社会経験はしてるんだぞ? まあ、あの時からここにいたけど」
そんな中、彼はマドカと出会う前(ISが登場する少し前)から、この小屋に籠ってパンを作っていた。社会というものからいち早く逃げ出して長年呑気にパン作り生活を送っていた彼からすれば、ISのことはあの時から少々遠い世界のように感じていた。だからこそ、勝手に家に侵入したマドカと遭遇した際も、呑気に慌てずにコッペパンを差し出したのだ。
「全く、おかしな奴だ……けど、そういうところが……」
「ん? なんか言ったか?」
「……いや」
都合のいい時ばかり耳が遠くなる彼に呆れを混じらせた微笑みを浮かべながら、マドカはホットミルクを1口飲んだ。
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「……はぁ、食った食った」
しばらくして、朝食を終えた2人はソファに座り、ほんの少しだけ味わえる食後の休息を取っていた。なんせこの後、2人は山を降りてパンを売らなければならないため、休む暇などあまりない。だから今のうちにとっておこうというのだ。
「……はぁ」
「なんだよマドカ」
「ここの生活に慣れたせいか、あの頃の感覚が鈍った気がするだけだ」
マドカがここに来てから約数年、すっかり彼と同じ生活習慣が身についてしまったためか、ISを使って暴れていた頃の感覚が殆どなくなっていた。
しかし今の世の中、寧ろそんなものは無い方が良いのかもしれない。
「いいじゃないか、平和ボケできる今が1番だ」
「…………」
「マドカにだってそれを謳歌する権利はある。俺が保障する」
平和ボケという単語に顔を曇らせたマドカを励ますように、彼は少しカッコつけた言葉を吐く。が、彼女は無反応だった。
「…………」
「どうした?」
「いや、実はな……話したいことがある」
「あ、うん」
突然、姿勢を改めたマドカは彼の顔を真剣に見つめ、それに彼も思わず気を引き締めた。
「昨日連絡があって……来月、姉さんが結婚するらしい」
「姉さん……姉さんって、織斑千冬?」
「ああ、それで一夏から良かったら結婚式に来ないかって誘われた」
「織斑一夏?」
「そうだ」
マドカの話では、来月に姉にあたる織斑千冬が結婚をすると、兄にあたる一夏から連絡を受けたのだ。
織斑千冬と言えば、世界中で知らない者はいないと言わしめた、あのブリュンヒルデと呼ばれた世界最強のIS操縦者である。そしてマドカは彼女のクローン……妹にあたる存在で、昔はそのことで織斑姉弟と殺りあったという。
しかし『例の騒動』を経て平和になった今、マドカは過去の自分を捨て、こうして彼と共に日常を謳歌している。そして来月には、あの織斑千冬が相手を見つけて結婚をするという。それだけでも世界は大騒ぎだ。
「めでたいじゃないか。行けばいいのに」
「そうしたいが……」
「……行きたくないのか?」
「行きたくないわけじゃない、私だって姉さんの晴れ姿を見たい…………ただ姉さんは、多分、私のことを許してくれていない」
あの時、自分が一夏に対して犯した罪をマドカは未だに覚えていた。いや、忘れることなどできるはずもない。束が関わっていたとはいえ、復讐心から自分が彼にした大罪は明らかで、それで千冬から憎しみを超えた殺意を向けられたのだ。
そんな一連の騒動があったにも関わらず、一夏はこうしてマドカに連絡をとってくれていた。一夏だけでない、一悶着起こした他の者達とも、あの騒動が落ち着いた今では何かと連絡を取り合うような仲に発展していた。
ただ1人、一切連絡を取りあっていない織斑千冬を除いて。
「…………私は、自分のために人を殺してきた。一夏にも手を出した……だから、私のような失敗作がこうして日常を送っているなど、あの人が知ったら「ほら、そういうこと言うなよ」むぐっ……」
ネガティブな発言をするマドカに対して、彼は彼女の口にパンの欠片を突っ込んだ。
「モグモグッ……ゴクンッ……いきなり何をするんだ」
「……マドカ、俺達が出会った時のこと、覚えてるか?」
「……ああ、覚えている」
彼とマドカの出会い。
一夏達と命をかけた死闘を繰り広げた後、ナノマシンを取り除かれ、亡国機業を辞めたマドカは自分の罪を償うために、束から譲り受けたISで世界中を回っていた。自分達が生まれた故郷とも言うべきあの場所や、自分が殺人を犯した場所などを回り、自分がしてきたこと、そして自分が何者なのかを今一度見直してきた。
そして一通り終えたあの日、偶然にもこの家に不時着したマドカは彼と出会った。それは偶然の出会い、運命の出会いに近いものであった。
「あの時のマドカったらさ、物欲しそうに俺が焼いたパンをじーっと見つめてただろ? それ見たら、ああこいつ、多分悪い人じゃないって、ピーンと来たんだよ」
「……阿呆だ」
「阿呆で十分、俺にとっては褒め言葉だ」
自信満々に答える彼は、「それに……」と言葉を続けた。
「俺は昔のマドカを知らない。俺の知ってるマドカは、自分のした事をちゃんと後悔できる優しい女の子だ」
あの夜、ここを立ち去ろうとしたマドカは彼に全てを打ち明けた。勿論、彼がその全てを理解出来た訳ではない。しかし、あの時のマドカの言葉は本心であることぐらい彼には分かった。そして、彼女が過去と向き合い、自らの罪を懺悔する姿に、彼は彼女がどんな人間なのかを受け止めた。
「……優しくなんか、ない。勝手に一夏を恨んで、世界を憎んで、姉さんを……私は、報いを受けるべきだ」
「……なら、その報いとして」
突然立ち上がり、真剣な声色に変わった彼は、マドカの目をじっと見つめながら言い放った。
「……お前の……マドカの残りの人生を俺と過ごして欲しい」
「…………?」
「どうだ? 俺と死ぬまで一緒にいるんだぞ?
毎日粉にまみれてパン捏ねて筋肉痛になって、売れない日は少ない金で極貧生活を送る。
時々不味いと理不尽にパンを投げられるわ、目の前でわざと踏み潰されるわ、たまーに変なおばさんにISが女がどーのこーのってよく分からない話を聞かされる、酷い時なんかうさ耳付けた変な奴に見下された挙句ぶつかってパンがダメになる。
こんな毎日を、学生時代の成績がいつもDで下から数えた方が早かった俺みたいな平和ボケした阿呆と死ぬまで送るんだぞ? これ以上の苦痛と報いがあるか?」
めちゃくちゃな彼の言葉に、マドカはキョトンとした表情で彼を見た。しかし、彼の本気混じりな眼差しは彼女を見ていた。
「まあ、あれだ。どうせ死ぬならここで俺と一緒にパンを作ってくれってことだ」
「…………告白、か?」
「……JAPANだと犯罪になるんだろうが、ここは違うからな。レッツ! ワークライフ! ウィズミー! マドカ!」
元気よくマドカに告白する彼だが、その顔は真っ赤だった。
「…………ゥゥ……」
「お、おい? どうした? なんで泣いてるんだ? 滑ったか?」
「お前は……自分からしておいてなんで……鈍感すぎるんだ……この……」
突然声を抑えながら泣き始めるマドカに、彼はアワアワと慌てる。しかし、マドカの顔は泣きながらも、何処か嬉しそうに笑っていた。
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『マドカ、これ落としたぞ?』
『ん? ああ、すまない』
『しっかしこのペンダントの写真、随分と大勢で写ってんなぁ。家族か?』
『……家族、ではないな。私の友人達だ。旅に出る前に1枚撮ってくれたものだ』
『友人なぁ……にしてはこの銀髪のちっこい子はなんか不機嫌じゃねえか?』
『……そいつとは色々とあったからな。今はもう大丈夫だ』
『へぇー……にしても、女ばっかだな。もしかして全員真ん中のこいつの女とか?』
『…………』
『あれ、当たり?』
『……元、だな。今はもうあいつには……いや、まさかああなるとは。流石に皆には同情したな……姉さんも寝込んで……』
『え? なんだ? 何かあったのか?』
『……秘密だ』
『んだよ、ケチだな。ははっ』
『どうだ? 美味いか?』
『ああ、美味い』
『だろ? こう見えて長い間捏ねてんだよ』
『……私にも、作れるだろうか』
『やればいいさ、最初はあれでもやってたらそのうち美味いもんが作れるようになるぜ』
『へー、じゃあマドカって実家とかないのか?』
『ああ…………私には、帰る場所なんてない』
『これからどうするんだ?』
『どうだろうな……このまま何処か遠くでひっそり生きていくのもいいかもしれないな』
『……だったら』
『?』
『しばらくここに居ろよ。どーせ行くところないんだろ』
たとえ世界に愛されてなくても、
たとえ誰にも愛されてなくても、
たとえ終わりのない憎しみしかなかったとしても、
たとえ約束された未来などなくても、
たとえ希望などない、絶望しかなかったとしても、
……私は、ここでこいつと……この人と……一緒に……
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「全く、いきなり泣き始めるから驚いたぞ」
「……知らん」
「子どもだな、そういうところ」
「うるさい」
数分後、ようやく泣き終えたマドカは腫れた目を誤魔化すようにそっぽを向き、彼に辛辣な返事をしていた。そんな姿が子供っぽくて、彼も彼で笑っていた。
「マドカ」
「?」
「こっそりでもいいから、行かないか? マドカの姉さんの結婚式。旅費ぐらいなら貯金で何とかなるかもしれないしよ」
「……しかし、もし顔合わせなんてしたら」
「案外、向こうは許してくれてるかも知れねえだろ? それに俺も一緒にいるから安心しろ。もし何かあったら、俺がマドカを連れて逃げるからよ」
「……そこは守れ、馬鹿者」
そう言うと、マドカは彼に抱きつく。それは数秒、数分にも続いた。
「……よし、そんじゃあご祝儀分を稼ぎに今日も売りに行こうぜ」
「ああ、ておい。離せ」
「姫様抱っこぐらいいいだろ。今のうちに慣れとこうぜ」
「……阿呆」
彼はマドカを抱いたまま、売り物のパンを売るための準備を始めた。
彼女の名はマドカ、この小屋で毎日彼と共にパンを作る1人の女性である。
何となく、最終巻で織斑マドカには死んでほしくないです。