まだ4月だというのに雨の日が続いていた
「このところ雨多いですねぇ〜」
と俺の隣にいる木村龍が話しかける
「そうだな、さしずめ季節外れの梅雨と言ったところか」
「母さんがなかなか洗濯物が干せない〜って嘆いてましたよ」
「はは、それは大変そうだな」
他人事の様に言っているが、俺も洗濯物が溜まる一方でうんざりしている
「そういえば、今日は車じゃないんですね」
「ん?あぁ、メンテナンスに出していてな。数日は電車での通勤になりそうだ」
「なんだか大変そうですね......」
と言って彼は心配そうな顔をした。
「さてと、そろそろ事務所締めるぞ」
「はい!」
そう言って事務所に鍵をかけ、俺たち2人は事務所を後にした。
ーーー
事務所の階段を降りる途中で
「あの、プロデューサーさん」
「どうした?」
彼が何かを言いたそうにこちらへ視線を向ける
「あの、プロデューサーさんさえ良ければ......」
「良ければ、なんだ?」
彼にしては珍しく歯切れが悪い
「い、一緒に帰りませんか......?」
「なにかと思えばそんなことか、別にいいぞ」
「やった、ありがとうございます!」
なにかとんでもない発言が飛んでくるのかと一瞬身構えたが、なんてことのない事で安心している。
「本当に雨が凄いなぁ〜、えーっと折りたたみ傘は......」
無い、鞄のどこを探してもどこにも無い、通勤時には持っていたはずの折りたたみ傘がどこを探してもないのだ。
傘がないことに焦っていると彼が不安そうに話しかけてきた
「プロデューサーさん、どうかしたんですか?」
「えっ、あぁいや、朝はあったはずの折りたたみ傘がなくて......」
「え〜!?そうなんですか!?」
このままでは帰れない、せっかく一緒に帰ろうと誘ってくれたのに残念だ。
彼には申し訳ないが、また別の機会にして今夜は事務所に泊まろうかなどと考えていると
「あの〜.......もしよかったら自分の傘に入ります?」
彼から嬉しい提案をしてくれた
「えっ、いいのか?」
「駅までプロデューサーさんを送ったらら、駅のコンビニで傘買えるとおもいますので」
「これは本当にかたじけない」
「いえいえそんな、どうってことないですよ」
そういうことで俺と彼との2人で同じ傘に入ることになったのだが、いくら彼が持っているのが大きめの傘とはいえ大の大人が2人も入るとさすがに収まりきらない......
のだが、不思議と自分の肩は濡れていなかった。
もしかしてと思い、彼の方を見てみると案の定肩がずぶ濡れだ。
わざわざそこまでしなくともと思ったが、そこも彼の優しさなのだろう。
とは言え、彼は大切なアイドルだ。万が一、風邪でも引かれたら大変だ。
俺は彼の肩を抱き寄せた。
「ちょっ!プ、プロデューサーさん!?」
「こうすればお互い濡れないだろう?」
彼は少し恥ずかしそうにしていたが、それも駅までの辛抱だ。
「少し恥ずかしいと思うが、俺も大切なアイドルに風邪を引かせる訳にはいかないんでね。少しだけ我慢して欲しい」「……はい」
それからしばらく無言のまま歩き続けた。
「あっ、あの、プロデューサーさん」
「ん?なんだ?」
「その……手を握ってもいいですか?」
「別に構わないぞ」
すると彼は嬉しそうに俺の手を握った。握った手のひらからは温もりを感じることができた。
こうして手を繋いで歩いているとまるで恋人同士みたいだが、実際はただのプロデューサーと担当アイドルの関係だ。もちろん、この関係が崩れてしまうような真似はしないつもりだし、するつもりもない
「なぁ龍」
「なんでしょう?」
「お前は今のままで満足なのか?」
ふとした疑問だった
「うーん……そうですね、やっぱりみんなと同じ立ち位置っていうのはちょっと寂しいかなぁ……」
「そうか……」
「だから……いつか僕だけの特別な存在になって欲しいなって思ってます」
「そっか……」