でもいつまでも見守れはしないもの。
それでも寄り添うくらいは出来るから。
とりあえず、なんとかなりますよ。多分。
さて、どういう事だろうかな。
新学期が始まって少し経ったある日の放課後、練習しているバド部を見ながら私は考える。
針生くんが可愛がっているバド部の一年生、猪股くん。まあイケメンではないけど可愛い系の男子で、その声には何処かで聞き覚えがあった。はてバド部には針生以外の知り合いはいないんだけどなぁ……と頭を捻ってみた所、思い当たる件が一つ。
千夏の誕生日にビデオ通話した時、接続をOFFる寸前に聞こえた小さな声。あれにあまりにも、似ているのだ。家の人と泊まりで出掛けてた千夏の側に、あの子がいたとでも言うんだろうか。……それはちょっと考えにくい、でも明らかに若い声だったからおじさんとかではないだろうな。そうなると、どうなるのか。
家の人と、が嘘だったとか? 実は誕生日に彼氏さんとラブラブお泊まりだった、とかリア充生活をしていたんだろうか。スッキリした顔してたのも、まさか
恋愛なんかまだ興味ない、って顔だったのに。一緒に住みでもしない限り、そういう気持ちにならないと思ってたのに。いやまさか、「誕生日にお泊まり」の方が嘘だったとか。実は親戚の家じゃなくて彼氏の家に住んでて、あの日は気分を変えたいとかそんなんで浴衣を着てみただけだとか。いやーん、なんてオトナなんでしょ。
「いやまさか、なあ……」
あのド天然にそんな甲斐性があるわけ無い、か。
それにあの日聞いたのだって、驚いて咄嗟に出した声みたいだったし。おじさんだってうっかり高い声が出る事くらいあるだろうし、結び付ける程のもんでもないのかな。いやそれもそれで不自然だし、辻褄も合わないか。
まあ、良いんだけどね。千夏は幸せになるべき人だから。誰よりも頑張って、誰よりも真面目で、そして誰よりも傷ついてきたんだ。それでも幸せになれないなんて、そんなのは世界の方が間違っている。
「大喜、お疲れー」
「んぁ、おう雛もお疲れ」
私たちも練習を終えて帰路に着いた頃、猪股くんは新体操部の子と仲良さそうに喋っていた。……あ、思い出した。あの子、夏休みにも見たな。二人で花火大会に来てたんだ。あの様子からすると友達って言うか、ホント付き合ってるみたいな距離感だな。あれ、そうなると……そうなると……色々不味い気もする。
まさか二股かけてるのか、猪股くん。もしそうだとしたら、ちょっと痛い目に遭わせないといけないかも。千夏を泣かせるような真似したら、私らが黙ってないからね。女の友情は強いんだ、フクロにしてやらう。いやなんで旧仮名遣いになるんだ私は。
とは言え、だ。千夏との関係がはっきりしない以上、どうしていいものやら。
そう言えばあの日も千夏は私らと一緒だったし、「仲良いね」とか「カップルかな」みたいに言った気もする。……休憩が終わって戻ってきた千夏、寂しそうにしてたな。あれはどういう意味だったのだろうか。
千夏は表情が少ないけど、私らの前ではちゃんと気持ちを伝えてくれている。と、思っていたのに。ひょっとしたら私らも、千夏の気持ちを理解できていないのかもしれない。
心を開いてくれ、なんて傲慢な事を言う気はない。そんなのは、もっと大切な人の前だけで良い。
私たちは、千夏を大切に思っている。笑顔でいてほしい、と願っている。
だからこそ、引っ掛かるんだけど。
「猪股くん、かあ……」
悪い子ではなさそうな顔だけど、千夏を任せるには何処か頼りないんだよね。何処かっていうか、全部かもしれないけど。同い年でも男子ってガキだし、年下って言うと更にコドモっぽく思えちゃって。一つ違うだけでも全然だし、そもそも千夏がやたらオトナっぽく見えるしなあ。
でも千夏も千夏で、オトナっぽいだけで大人ではないけど。自分を犠牲にしてまで意地を通したり、理屈よりも勢いで動いちゃったり。
ああいう千夏だから、歳上がいいと思うんだけど。でもまあ、本人の気持ち次第かな。
相談の一つもしてくれれば良いのにな、と思わなくもないけどさ。
まあ、良いんだけどね。千夏に寄り添える、千夏が気を許せる誰かがいてくれるなら、それは私たちにとっても良いことだ。
さて、どうしようかな。
ここから追求しても良いんだけど、静かに見守るのも手かもしれない。
何にせよ、千夏の為になる方へと進めていきたいな。
私の大事な友達が、幸せになれるように。