短編です。
「ヘイにぼっし~!園子だぜ~!」
玄関越しに飛んできたふわふわした声と共に、それは突然やってきた。
「園子?もう夕方だけど、なんか用事でもあった?」
玄関を開けると、長い金髪の私より少し背の高い少女が立っていた。
夕焼けの空に、その大きな瞳を輝かせながら。
「…なんでそんな楽しそうなのよ。」
「一緒にご飯を食べようと思ったから~」
「だったら連絡くらいよこしなさいよ。」
「急に会いたくなっちゃたんだから仕方ないんよ、お邪魔しま~す。」
そう言うながら彼女は食材が入った袋をぶら下げ、中身不明の大きめのバッグを持ちながら部屋に転がり込んでしまった。
「そのバッグは?」
「ひみつ~」
こうなると絶対に教えてくれないのでさっさと話題を変える。
「その袋は?というかあんた料理出来たっけ?」
「してみせるんよ~」
「その自信はどこからくるのかしらね。」
「にぼっしーがいるからね。2人なら大丈夫だって思ったんだ~」
「なっ…!?]
「あはは~顔赤いよ~」
「うっ、うっさい!」
そうこうしている間にキッチンに立たれ、いつのまにか料理の準備を整えられてしまった。そしてバッグは寝室に消えた。
並べられたのは焼きそば麺2玉、牛肉細切れ、キャベツ、ピーマン2つ、諸々の調味料、そして煮干し。
「焼きそばならちょっとぐらいは作れるんよ~」
そう言ってキッチンに立つと自前の紫のエプロンをかけ、長い髪を苦労しながらまとめ、少しもたつきながら道具を揃えていく。
「にぼっしーにも手伝ってほしいな~」
「焼きそばなんかつくったことないわよ。」
「じゃあ私が教えるから、ちゃんと見ててね~」
そう言われたので、とりあえず煮干しを齧りながら隣で観察してみる。
彼女はまずピーマンを縦に切ると、種を取り除いてまな板の脇へ置いた。
「こんな感じで、次はキャベツを切ってほしいんよ~」
「いやどんな感じよ。…まあ包丁なら私も多少はできるわ。」
そう言いつつ包丁を持ち、キャベツをざくざくと切っていく。
私にかかればこの程度の作業、造作もないこと。
「おお~、さすが~」
「じゃあじゃあ、フライパンに油を入れて~、火にかけて~、麺を入れるほうをやってくれる?」
「分かった、そのくらいのことなら私でも出来るわ」まんまと園子の掌の上で踊らされている気がする…。
フライパンを取り出し、火にかけ、油を引く。麺をフライパンに投入し、少し待ってから菜箸で麺をほぐす。
少し見上げて隣に目を向けると、なんだか遠くを見つめ満足気な顔をしながら、彼女はキャベツとピーマンを別のフライパンに投入していた。
「…それで?これからどうすればいいの?」
「んっとね~、野菜がしんなりしてきたら~、お肉を入れるんよ~」
「いや私のほうね。」
「えっ、あっ、そだね。えっとね、麺がほぐれてきたら、一旦お皿に移すんよ
それから、お肉が焼けてきたら麺を私の方に投入するんよ~」
「それで完成?」
「まだまだ~。そこからソースを混ぜて、塩コショウを入れて~、混ぜ合わせたら出来上がり!」
「なんだ、意外と簡単ね。」
「いやいや~、味にムラが出ないように~とか、味が濃すぎないように~とか、考えることはいっぱいあるんよ~」
彼女が野菜を炒めるのを見ながら、そんな会話をする。
そうしている内に麺がほぐれてきたので、一旦お皿に移し替える。同時に園子が肉をフライパンに入れる。
あとは肉が焼けるのを待つだけだ。この間にもう一度アレのことを聞いてみる。
「…ねぇ、園子。」
「なに~?」
「あのバッグの中身のことなんだけど、さ。」
「うん。」
「そろそろ何が入ってるか教えてくれても、いいんじゃない?」
「それはまだだめ~」
再チャレンジは失敗か…。バッグの他にもう一つ何かを隠していることは分かってるんだから。
「そろそろお肉もいい感じになってきたんじゃない?」
「そだね~、じゃあ麺を投入!」
フライパンの中がだいぶ焼きそばらしくなってくる。あとは色を付ければ完成か。
「ソース入れて~」
「これで合ってる?」
「それだよ~」
確認を取り、置いてあったソースをかけ、混ぜ合わせる。
「ん~!いい匂いだ~!」
「塩コショウは私がやるね~」
その役割分担は必要なのかしら…?
「だってにぼっしー微調整とか出来なさそうだし~」
「ソースだって上手く入れられたし出来るわよ!あと人の心を読むな!」
塩コショウを振っていくと、おいしそうな匂いにさらに増していく。
なかなか上手く出来たかな。
「完成~!お皿取ってきて~」
「もう用意してあるわよ。」
「さっすが~!」
彼女が器用にフライパンから2つの器に盛り付けていく。
「私の方が肉多くない?」
「気のせい気のせい~」
「食器とそれは私が持っていくわね。」
「おっけ~」
机にお皿とお箸、冷蔵庫に入っていた水を並べていると、いつのまにか席に座っていた彼女が急かしてくる。
「早く早く~」
「なんであんたが急かしてんのよ…」
「早く食べたいからね~、にっぼしーとの愛の結晶を!」
「絶対使い方違うでしょ…、ほら、召し上がれ。」
「いただきま~す。」
「いただきます。」
「そういえば味見したっけ?」
「サンチョがしてくれたから大丈夫なんよ~」
「いやサンチョどこにいたのよ。」
不安になってきたが、覚悟を決めて2人の愛の結晶(?)を口に運ぶ。
「……意外とおいしい…?」
「やったぜ~」
ソースが上手く麺にからみついてムラが無く味が広がってくる、塩味も舌に良い刺激になっている。
野菜は少しスジが残っているが、全体の邪魔はせずいい引き立て役になっている。
肉はスーパーのをほとんどそのまま入れたせいか少しバランスを崩している気がするけど、まあ気にするほどでもないわね。
「2人で作っただけのことはあるって感じかしらね。」
「にぼっしー野菜切るの上手だったもんね~」
「ってあんた一口も食べてないじゃないのよ。」
「もう少し2人の愛の結晶を見つめていようと思ってね~」
「さっきと言ってることが違うじゃないの、全く…ちゃんと食べなさいよ、せっかく作ったんだから」
なによ、何かを懐かしむみたいな顔をして、しかも寂しそうに。
さっきといい、そんな顔を見せられるこっちの気持ちも考えなさいよ。
「ごちそうさまでした。」しばらく後、私の方が先に食べ終わり、園子の焼きそばは残り5分の1くらいに減ったところ。
「先に片づけてるわね、あと、皿洗いは私がやっておくから。」
「は~い。」気の抜けた返事が返ってくる。
食器の片づけなんてあまりしたことはないけど、まあなんとかなるわ。
というか外はもうすっかり暗くなったっていうのに相変わらずバッグは謎だし、そもそも帰る気はあるのかしら?
なんてことを考えながらスポンジを手に取り洗剤をつけ、お皿を磨いていく。
お皿を白く染めていくのは中々気持ちいいわね。
といってもたった2枚なのだけれど。
1枚目のお皿を拭いて食器棚に戻し、テーブルの前に座りいまだ動かないでいる彼女に目を向ける。
「どうしたの?」キッチン越しに声をかけてみる。
「…いや~、リラックス出来るな~って。」
「早く食べ終わらないと、帰れなくなるわよ。」
「ふっふっふっ~、今日はなんと!にぼっしーの家にお泊りする予定なんよ!」長い髪を揺らしながら楽しそうに宿泊宣言をする。
…まあ、可能性は考えていたけれど。いざ言われると中々困るわね。
「あれ~、反応が薄い~?びっくりしなかったの?」
「してないわよ、予想はついてたもの。それで、寝間着はあのバッグの中?」結構冷静に対応できた、って何自然に宿泊を認めるようなことを言ってるのよ私は!何、泊まってほしかったの?そんな訳はない!
「そうだよ~。シャンプーとかは自分の持ってきてるから大丈夫だよ~」
「そ、そう。そうよ、それで、食べ終わったならさっさとお皿を出しなさい。」両手で差し出されたお皿を受け取り、洗剤をつけたスポンジで再び磨いていく。
「は~い、じゃあ私はお風呂洗ってくるね~、お世話になるんだから少しはお返ししないと。」
「洗面所は玄関横の扉の奥にあるからね。」
「わかった~」
水を流し、会話してる間についた泡を落とす。お箸に手を伸ばして洗い始めると、彼女がきちんと風呂掃除出来るのかという疑問がふと湧き上がる。
まあ、もうすぐ洗い終わるし、何かあった時に見に行けばいいか。
2枚目のお皿を食器棚に、4本のお箸を拭いて引き出しにしまう。
風呂場からはシャワーの音と、それに交じった鼻歌のような音が聞こえてくる。
今の所は何もなさそうだ。夕食から時間も経ったし、まだしていなかったトレーニングをしようと思い寝室に向かう。
運動用の服に着替え、靴を履いてルームランナーで走る。友達が来ている手前少し緩めのメニューだ。
タン、タンと靴底がベルトに当たる音だけが部屋に響く。
静かになって少し余裕ができたので彼女が来てから気になったことを思い起こしてみる。
園子はどうして私の部屋に遊びに来たのかしら?ほんとにただ来たくなっただけならあんな不自然な言動はしないはず。心ここにあらずとはまさにあのことね。いったい園子には何が見えてるのかしら。
言葉が続いたのはここまで。あとは無心で体を動かし続けていた。
だいぶ汗を流したところで機械を止める。
「園子、お風呂掃除は終わった?」部屋の向うにいるであろう彼女に向かって呼びかける。
「そりゃもうばっちり~」結局何も起こらなかったようだ。
「ありがと。それで、さっき言い忘れてたんだけど、先にお風呂入ってもいいかしら?」
「別に気にしないでいいんよ~」
「わかった、それじゃあ、先に入ってるわね。」
そう言って着替えを持って洗面所に向かった。服を脱ぎ体を洗い、湯船に浸る。浴室を見渡してみると、たしかに綺麗になっているのが分かった。自分でするより綺麗かもしれない。
あまり長湯はせずに浴槽から出てシャワーで軽く洗う。
「お風呂空いたわよー」
言い切るかどうかのうちに彼女は洗面所に入ってきた。
「ほほ~う、やっぱりいい体してるねぇ!触ってもいい!?」
「ダメに決まってるでしょ!ほら、狭いんだから一回出て!服着られないでしょ!」手を伸ばしてきた園子を体ごと押しのけ勢い良くドアを閉じて鍵を閉める。その間に急いで体を拭き用意していた服を着る。
「にぼっしーもう服着ちゃった~?」
「当然、あとは寝るだけよ。」
「え~、でもちょっと待っててくれない?」
「起きてたらいくらでも待っててあげるわよ。」
「やった~!じゃあ早速入らせてもらうね~」
そんなドア越しの会話をしてから鍵を開けた。洗面所で園子が脱ぐのを確認してから寝室に入る。それから少しストレッチをして、ベッドに潜った。
しばらく目を閉じて眠る努力をしていた。瞼の裏側に映る模様を見ながら眠ろうとした。やがて目に入るものは自分の部屋の天井に代わった。気が付けば、おそらく隣で寝ることになる人間を大人しく待っているのだった。
ベッドから静かに体を起こす。耳をすませば暗い部屋にゆっくりとシャワーの音がやってくる。その音を聞いている間に、また彼女の顔が頭に浮かんでしまう。あの顔は勇者部の部室では見たことのないものだった。風からも聞いたことがなかった。もしかして私たちの見てないところで?でも、それならなんで私の家で?私が何かしたのかしら?体を洗う音が止まり、洗面所のドアを開ける音がする。
考え出すと疑問は止まらない。そもそも理由はなにかしら?郷愁…?。まぁいいわ、頃合いを見計らって聞いてみましょう。ちょうど足音が止まった。
「にぼっし~、上がったよ~!」
「…ほら、どうせここ以外寝る場所無いんだから、早く入りなさい。」隣に入るように促す。彼女のとても嬉しそうな顔は見なかったことにしよう。
「お言葉に甘えて、お邪魔しま~す。」ベッドに入り込み、体をくっつけてくる。少し経つと体温が伝わってくるほどに。そして…服の生地、薄くないかしら?考えてみれば相当なお嬢様だし、こういうのも持ってて不思議はない…か。
視界の端で彼女の白い肌を見ていると、気付いたのか彼女がいつになく控えめな声で話しかけてきた。
「ねぇ、ちょっと…こっち向いてもらっても、いいかな。」
「いいけど、どうしたの?」左を向き、彼女の少し赤らんだ顔を見た。
「や、やっぱり~、目も閉じてくれる…?」顔はさらに赤くなって、声はさらに控えめになっていた。
「それも別にいいけど…」目を閉じて、彼女の次の言葉を待つ。口のあたりに柔らかい何かが触れた。
それと気付いた時にはすでに終わっていた。唇には少し温かい感触が残っていて、急いで目を開けると彼女の紅潮した、少し翳りのある顔が見えた。光沢のある鼠色の瞳が見える。見つめ合ったまま、凍ったような時間が過ぎていった。
先に動いたのは彼女の方だった。またやられた。温かい感触が戻ってくる。園子の体と壁に挟まれて、逃げ場はない。温かさと少しの甘さは、そのまま口の中にまで広がってきた。少しでも抵抗を示そうと右手で背中を叩いたが、効果は無いみたいだった。されるがままに舌が絡み、唾液が流し込まれる。赤らんだ頬が離れていくのが見えた。流石に苦しくなったようで、息は荒く、する前より顔が赤くなり、金髪に白い肌と良いコントラストを成していた。しかし彼女はまだ貪欲に、おそらく、私を求めるつもりのようだった。寝間着が掴まれる。反撃に出るなら今しかない。
「一回落ち着きなさい!今日のあんた、なんかおかしいわよ!」少し語気を強めて次の動きを牽制する。
彼女の体が凍ったように止まった。このまま押し切って、この訳の分からない状況を終わらせて、こんなことをした理由を聞きださなければ。きっと今までの彼女とも関係はあるはずだ。
「人の家に上がり込んだと思ったら、隙あらば懐かしそうな顔をして!何かあったならちゃんと相談しなさい!同じ勇者部員なんだから、どんなことでも相談に乗ってあげるから!」
また静かな時間が過ぎていった。今回も先に動いたのは彼女だった。ただしそれは私から遠ざかろうとする動きだった。
「本当に…いいの?」それは恐る恐る、一文字ずつ確かめて発された声だった。
「当然よ!悩んだら相談って五箇条にも書いてあるでしょ。それにこんなことしておいて、黙って逃げようなんて許さないんだからね。」
「話しても、嫌いにならない…?」
「なるならさっきのでとっくになってるわよ。」
「それは、ごめんなさい…。」
「さ、早くこんな状況になってる訳を聞かせてもらうわよ。」
「うん。出来る限り、頑張る…。」
それから聞き出せたのは、私にも関係がある、いなくなってしまった大事な、大事な友達の話。その子の得意料理だった焼きそばの話。一週間ほど前がその子の命日だった話。そして、なぜ私の部屋を訪ね、今に至るのかの話。
命日が終わってから、寂しさは募るばかりだった。普段はあの子に会えば寂しさは紛れる筈なのに。
気付けば強烈な寂寞感だけが残っていた、あとは知っての通り、という訳らしい。
つまり私はやはりというか、園子の企みに巻き込まれていた訳だ。
さてどうしようか、思っていたより事態ははるかに深刻なようだった。
「と、とりあえず、話してくれてありがとう、事情は良く分かったわ。それで、その…」
「あはは、ありがとう、無理に解決しようとしなくていいんだよ~」か細い声だったがほんの少し、私の知っている彼女が顔を出したようだった、ただ本心を隠す余裕が出来ただけかもしれないけど。
「とにかく!一度相談に乗った以上は最後まで付き合うわよ。同じ勇者部員だし。」
「そうだよね。同じ、勇者部員だもんね。」少しハッとしたような表情の後、彼女の瞳が暗い部屋の中で僅かに輝いた。私にはそれが、長い長いトンネルの先から漏れ出る光のように見えた。そしてその時の彼女の顔は、とても美しく見えた。
「にぼっしー。」
「なに?」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」お互い秘密を打ち明け合うような声だった。
窓の外の月が、静かに部屋に光を届けていた。
目を覚ますと、部屋は太陽の光で明るく染められていた。隣に彼女の姿は無く、代わりに扉の向こうから食器がぶつかる音が聞こえてきた。なんだか空気が湿気っている気がする。
「おはよう。意外と朝早いのね。」
「たくさんお昼寝できるからね~。」よく分からない理屈だ。
挨拶をした後、洗面所で顔を洗い、すでに着替えていた彼女の所に戻る。
キッチンのほうから湯気が出ている。
「私もやるわよ。」手伝いを申し出てみた。
「手伝わなくていいよ~。昨日は大変な目に遭っちゃったし、そこで座ってて~。」
「もう気にしてないわよ。それに、あんた焼きそばぐらいしか作れないんじゃないの?私ならうどんも作れるわよ。」
「それならもう作り終わるところだよ~。」
「しょ、食器運びなら出来るわ!」
「じゃあお願いしま~す。」少し笑ってから、彼女は手伝うことを許可してくれた。
そんなこんなで朝食をテーブルに並べ、2人は食べ始める。
少し会話をして食べ終わると、彼女はバッグを取りに行った。
そろそろ日常に戻る時が来たようだ。
扉が開き、白い雲と青い空が見える。彼女の金色の髪が風に揺れ始める。
「にぼっし~、昨日は本当にありがとう。また学校でね~。」
「こちらこそ、とんでもないことに付き合わされたわよ。また会いましょう。話すことはたくさんあるんだからね。」
再開の約束をした後、彼女は向こうを向き、部屋から出ていった。彼女の姿が小さくなるのをじっと見つめていた。コンクリートの廊下を歩いていく足音をじっと聞いていた。最初に姿が消え、次に足音がかすかになり、ついに聞こえなくなった。青い空だけが、そこには残っていた。
(小説は正真正銘の)初投稿です。pixivにも上げたやつです
まず初めに、私のような素人の書く素人感全開の展開並びに稚拙な文を読んで頂き、本当にありがとうございます。
重い園子と受けに徹するにぼっしーを書きたかっただけなんです。本当です!信じてください!
多分その内きっと何かの拍子に続きを投稿すると思います。